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ジョジョは奇妙な英雄

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『悪霊使い』の少年その⑤

  アーシアと回る駒王町は千城の目にいつも以上に美しく映った。出会った教会があった場所は街から離れた村であったことと、周囲は舗装されていなかったので二人で街を回るのは初めてかもしれない。千城の感情は推し量れないが、こうして異性と歩いているのはアーシアとしては気恥ずかしさがある。昔と変わらぬ幼馴染みは背丈が伸びたことから、見上げなければならないが服から伝わる体温は相変わらず暖かい。
  離れ離れになっている間、互いに何があったのかを話した。閉鎖された環境で生活していたらしいアーシアは千城の言う『ガッコウセイカツ』というものに目を輝かせた。小腹が空いたので訪れたファーストフードショップ。ハンバーガーセットを頼み、座席に座るとアーシアは食べ方がわからなかったようで千城を見上げている。千城は見本としてハンバーガーの包装紙を解き、掴んで食べて見せた。すると、アーシアがそれに続いてぱくついた。しばらく咀嚼すると、「美味しいです」とアーシアは笑顔になった。それからハンバーガーショップを出た後、二人の視線はゲームセンターを捉えた。

「うわあ、かわいいです」

  アーシアがUFOキャッチャーのぬいぐるみに目を奪われたようだ。ショーケースのような筐体に手を当てて、そして千城を見上げた。ふと、UFOキャッチャーを見て思い出したことがある。
ーーいいか、JOJO!UFOキャッチャーを極めし男はモテる!と相場で決まっているんだ。じいさんもジョセフさんもUFOキャッチャーが上手い!つまりはそういうことだ!
  きっかけとしては、十分だった。
  『悪霊使い』と称される千城ならば、もしも自分に『悪霊』を使役する資格があるならば。『そいつ』は確かに自分の味方で力であるはずなのだ。

「俺に任せろ」

  数分後、『悪霊』とともにUFOキャッチャーに励む千城の姿がそこにあった。

☆☆☆

「………うん?」
「センジョー、惜しいです!」
「俺は、必ず取る」

  チェザーレがゲームセンターに訪れた時、腐れ縁の少年は見知らぬ金髪少女の為に筐体にコインを連ねていた。操作は確かに昔、チェザーレが教えた通りに筋は良かったが、いかんせん千城は不器用なところがあるようだった。少女の欲しがっているであろう縫いぐるみはとあるアニメに登場する電気ねずみだ。ここで手助けをすれば簡単に取れるだろうが、それでは千城の為にはなるまい。いい男たるもの弟分の成長を促してこそである。

「………波紋のビートでオーバードライヴ!」

  わずかに波紋エネルギーを持つ千城に対し、小型の鉄球を千城の手にぶつけると僅かに苦悶の声が聞こえるが、前よりも千城のアームの動かし方は上がっている。波紋エネルギーをわずかながらに持つからこそ、出来るブーストの方法だ。『悪霊』の精密動作性をも併せて細かい動作にも対応できるようになっていて、電気ねずみのぬいぐるみを取ることができた。「うわああ………!取れてますよ、センジョー!」喜ぶアーシアの声がして取り出し口から電気ねずみのぬいぐるみを取り、大切そうに抱きしめている。ボタンから感じ取った『太陽のような』暖かさ。それでいて、まだまだ刺々しいような『若さ』がある。ふと見えた後ろ姿は親指を立てて、千城の成功を祝っている。

『ありがとうございます、センジョー!………お知り合いですか?』
『ああ、頼もしい奴だよ』

  腐れ縁の陰ながらのサポートに気づいたことと、そして彼に感謝の意を示した。チェザーレがどこかで見てそうな気がするが、あの腐れ縁はクールな男のはずである。空気は読める男だろう、とチェザーレについての話題を出しながら電気ねずみのぬいぐるみを抱くアーシアとともにゲームセンターを後にした。一息つくために日が沈みそうな日差しを受け、アーシアの金髪が照らされてとても美しい。笑顔を向けられるたびに心臓の鼓動は早くなり、アーシアが電気ねずみのぬいぐるみを抱きながら、身を寄せてくる。
   あの日に言えなかった言葉を言おうとしてーー。

「アーシア、帰るぞ」
「カラワーナ、様………?」

   アーシアに話しかけた声の主がボディコン調のスーツ、女性にしては長身であるのはまだ良い。問題なのはその翼と眉間に見える『芽』である。『肉の芽』とこの『芽』について称しておくとして、目は座っておらずアーシアの様子が変化したことから察することができる。
  アーシアが怖がっている。
  ただそれだけで動くには十分だった。自分の中に秘められた力の正体が何かわからぬまま振るうのは得策ではないだろうが、アーシアの表情が怖がっているならば怖いと感じる暇はない。幼少期に感じた気配に似たものを感じさせ、漂うそれは吐き気を催すほどだ。

「アーシア」
「セン、ジョー………?」
「こいつは?」
「こいつ、だと?昨日の軽い奴のように気にくわないな、人間の癖に」

  軽い奴と聞いて脳裏に浮かぶのはチェザーレだった。千城の感情に応えるようにぬらりと現れる『ソイツ』。逞しさに力強さ、圧倒的なまでの威圧感を纏う人型の名は無い。だが強いて名付けるとするならば、千城はこう名付けよう。
  DECIDE、と。

「こいつの元にアーシアは帰りたいのか?」
「カラワーナ様には拾ってもらいましたし、食事もいただきました。でも………」
「嫌なら、俺と来ればいい。じじいとSPW財団の力に頼らなければならないが、全力でお前を守ってみせる」
「ハッ!人間風情が何を言うのか!」

  幸い、カラワーナにはDECIDEが見えていないらしい。アーシアにもふいに現れたDECIDEが見えていないようなので大丈夫そうだが、カラワーナと呼ばれた女が光の槍を構えたことでDECIDEが雄叫びをあげる。
   心配そうに見守るアーシアを傍らに千城はDECIDEを伴い、光の槍を握るカラワーナが振り上げたのと同時にDECIDEの拳を震わせたーー。

***

  どこか遠くの場所。
  上半身全裸、なおかつ色白でがっしりとしまった肉体に金髪。妖しいまでの色気を纏う男は肘掛け椅子に座り、その星型の痣に指を這わせる。自らの傍らに侍らせている男にそっくりな酸素ボンベを背中に背負う三角形のマスクを被る者。

「………!目覚めたか、ついに。張り合う者かはわからぬが、いずれは因縁に蹴りをつけねばならないだろう。あの男に似て負けず嫌いなところがあるからな、あの一族は」

  夜の闇に包まれた空間の中、男はくつくつと笑っていた。
 
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