美しき異形達
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第三十六話 古都においてその三
「松平健さんや北島三郎さんが撮影してたのよ」
「まさにその場所で」
「それであそこがね」
向日葵は少し離れた場所を指差して裕香にこうも言った。
「必殺の場所よ」
「中村主水の」
「そうそう、あそこでも撮影してたから」
「藤田まことさんがおられたのね」
「そうなのよ、ここを色々な人達が歩いていたのよ」
様々な役者達がだ。
「スタッフの人達と一緒にね」
「歴史ある場所なのね」
「映画やドラマのね」
「そうした場所なのね」
「そう思うと凄いわよね」
「うん、何か」
裕香は感慨と共に言った。
「私も時代劇の世界に入ったみたい」
「そう思えるでしょ」
「うん、ここにいたらね」
「それがいいのよ」
「映画村にいたら」
「江戸時代の中にいた気分にもなれるから」
それで、というのだ。
「ここはいい場所なのよ」
「何か普通にね」
「普通に?」
「私町娘になりたくなったわ」
江戸時代の、というのだ。
「そうも思えてきたわ」
「じゃあ町娘になってみる?」
向日葵は裕香の今の言葉に笑顔でこう提案した。
「実際に」
「あっ、そうした格好になって」
「そう、どうなの?」
「お金かかるわよ」
「それはね」
当然としてだ、向日葵は裕香の質問に答えた。
「やっぱりね」
「そうよね、じゃあ」
「止めるの?」
「他にもお金使うことあるし」
「この旅行の間で」
「ええ、何か結構お金がかかりそうな気がするから」
裕香はこのことを本能的に直感したのだ、この辺りの直感は彼女も持っているのだ。
「それでね」
「止めておくのね」
「今回はね」
「じゃあ今度ここに来た時に」
「考えてみるわ」
こう向日葵に答えるのだった。
「またね」
「そうなのね」
「そう、それとね」
「それと?」
「お白州あるわよね」
裕香は微笑んでだ、向日葵にこう問うた。
「映画村に」
「大岡越前や遠山の金さんで使われる」
「あそこね、勿論よ」
あるとだ、向日葵は裕香の問いに微笑んで答えた。
「あるわよ」
「そうよね」
「実際に撮影で使われてきたね」
その大岡越前や遠山の金さんにだ。
「あるわよ」
「それじゃあね」
「あそこにも行くのね」
「行こう、今から」
裕香は目を輝かせてだ、向日葵だけでなく他に皆にも言った。
「実際に観たいわ、お白州」
「何か裕香ちゃんって時代劇好きなのかね」
薊ははしゃぐ裕香の言葉を聞いてふと思った。
「さっきからえらくハイテンションだけれど」
「時代劇とか特撮とかね」
「東映の作品はか」
「好きなのよ」
「だから今そんなにはしゃいでるんだな」
「そうなのよ」
「そうか、そういえば関東だとな」
薊は裕香の笑顔での言葉を聞いてこうしたことを言った。
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