101番目の哿物語
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二部 『普通』を求めていた、人間ではなくなった少女と人間になりたかったロア
原作二巻。不思議な夢
プロローグ。 不思議な夢
前書き
新章開始です!
原作2巻の内容に突入ー!
ついに、あの、巨乳キャラが……来たー!(笑)
では、どうぞ。
よお、久しぶりだな。
ん、なんだか浮かない顔をしているが、どうしたんだ?
こないだ話したハーレム男子の物語が気に入らなかったのか?
なるほどなるほど、イケメン爆発しろよ! そう思ったわけだな。
モテる男子が羨ましい、と。
まあ、その気持ちは俺には全くわからないんだが、そんなにハーレムが羨ましいのか?
そんなに羨ましいのなら奴に関する別のエピソードとかはどうだ?
あれ? あんまり興味はない?
どうせまたイケメンが上手いこと言って美少女を誑かす話だろう? と思ったのなら……ああ、全くその通りだな。
だが、誑かされたからといって双方が無事っていうわけではないんだぜ?
ちゃんと、そこには痛みのようなものが存在しているんだ。
つまるところ、『傷つきたくなかったら何も行動しなければいい』というのが結論なわけだ。
しかし、その『行動できるか否か』こそが、モテと非モテの境界だと知り合いが言っていたがな。
お、なんだかやる気が出てきたみたいだな。
ん? まずは何をすればいいのかだと?
うーん、わからん。
女性がどういった基準で男を選ぶのかなんて、俺には全く興味ない分野だし、興味を持たないように今までしてきたからな。
体質的に……。
おっと、俺の話しはいいんだ。
それより、『痛みがあるとわかっていながら行動する』とどうなるか、という話だが、これは前に話した『伝説になった男』が体験した話だ。
『百物語の主人公』はハーレム系主人公だが、よくよく考えてみると奴は自分自身も都市伝説なんていう普通じゃない、おっかない話になってしまったんだ。
『伝説』の『主人公』なんて、正直なってしまったらロクな目に遭わないわけで、そういう、人間からちょっとした物語の登場人物的な存在になってしまった人達を『ハーフロア』と呼ぶわけだ。
これについては前に話したよな?
うん、覚えていないのならまた読み直してくれ。
さてはて、今回はそんな『ロア』になってしまうっていう事がどんだけ大変でおっかない話なのかって事をレクチャーしたいと思ったわけだ。
まあ、と言っても『化け物になっちゃっても美少女に囲まれて暮らせるならそれでいいじゃん』と思うかもしれないけどな。
いや、ある意味ではその思考を持っている人こそ、主人公の素質があるという事なのかもしれないがな。
本気でそれを楽しめるのというのであれば。
一度なってみないか? 『ロア』に?
俺と変わってくれよ……是非。
まあ、冗談はここまでにして……ええと、そうそう『ロア』になってしまうのがどんだけ大変かという話だったな。
ロアになって危険な日常を送るとか、ノーセンキューだよな、普通。
誰だって大変な危険な目に遭うよりか、普通の生活を送る方がいいよな。
今回、俺が語るのは、そんな、『普通』を求めていた、人間ではなくなった少女と。
人間になりたかった『ロア』のお話。
では、不可能を可能にする百物語のエピソード2を語るとしよう。
2010年??時??分。 夢の中で。
不意に目を覚ました場所は、物静かな和室だった。
畳の匂いが仄かに鼻をくすぐり、外の光が障子越しに薄く眩しく差し込む。
目に優しい配色の板張りで作られた、落ち着きのある部屋。
ぬくぬくとした布団の中はお日様の下で日向ぼっこしているかのようにとても心地良く、起き上がりたいという気持ちを削っていく。
ああ、二度寝したい。
その衝動を抑えることなんて出来なかった。
だから。
ここがどこなのか、とか。
今がいつなのか、とか。
______自分は誰なのか、とか。
そんな些細な問題は気にならなくなっていた。
唯一、気になるとすれば……。
「お目覚めですか?」
着物姿で枕元に佇む、この少女の事だけだ。
見覚えのあるような、ないような、曖昧な記憶。
そもそも、自分の名前すら思い出せない自分が、彼女を覚えているはずはない……はずなんだが、よく知っているような気もするし、やっぱり何も知らないような気もする。
そんな不思議な感覚を持ってしまう。
______よく知っている人が、いつもと違う服を着て笑っていると、違和感と同時にドキドキするような、あんな感覚だ。
見覚えのあるような、ないような、どちらともとれる彼女についてだが、唯一わかっている事がある。
それは______
自分は彼女の事をとても気に入っているという事。
この気持ちだけあれば、他の事なんて忘れていてもいいんじゃないだろうか。
そんな風に思ってしまう。
「まだ眠そうですね」
クスクスと玉を転がすように笑う彼女の仕草がとても上品だった。
口元に添えた手。その小指の白さすらも色っぽく見えてしまう。
______ドク、ン。
心臓が高まり、血流が身体の芯に向かって早めに流れる。
この子とずっとここにいられたら、どんなに素敵だろう。
______ドクンドクン。
この子となら、ずっとここにいられる気がする。
______ドクンドクンドクドクドク。
この子となら______。
「大丈夫ですよ」
丁寧な口調で「大丈夫」と言われると、何故だか解らないがなんとなく大丈夫なんだな、という気持ちになっていた。
まるで誘導されているかのような気分になりながらも、不思議な事に逆にそれが心地良い。
最近、ちょっと怖い目に遭っていた気がするからか、こういう安らぎみたいなものが本当に嬉しく思える。
やっぱり、女の子っていうのはいいものだね。
特に彼女のような和服が似合う美少女が側にいたら1日中愛でたくなってくるね。
それも彼女が誰かに似ているからかな。
とても安心できる。
昔からよく知っている人のような。
彼女を改めて観察してみると______
腰まで伸ばした長い漆黒の髪、何処かで見たことのある顔、それに……身体の一部が弩級戦艦並みのボリュームをしている。
弩級戦艦並みの大きさで純情、黒髪の美少女なんて、ははっ!
なんだか前世の幼なじみを思い出すね。
ん? 前世?
なんだろう。何かを忘れているような。
誰かを忘れているような……駄目だ、思い出せない。
そこまで考えた時、俺の頭の中には他の女の子の面影が不意に浮かんできた。
じわり、と背中が熱くなる。
「また、いらして下さいね」
その言葉に促されるかのように、強い眠気に襲われて。
「次は……しましょうね」
彼女が何を言ったのかは解らない。
だけど……。
______その誘惑は、とても甘美に……心に残った。
2010年6月1日。夜坂学園。2年A組。
「夢?」
「ああ、凄い美少女が出てくる気がしたんだが……覚えていないんだ」
朝のホームルーム前の会話。
俺は日課となりつつある、クラスメイトの仁藤キリカとのトークをしていた。
女嫌いな俺だが、不思議な事にアレ以来、キリカとはまあまあ普通に会話出来るようになっていた。
「へえ、モンジ君が見る美少女の夢かあ……」
「モンジって言うなよ」
「ふふ? じゃあ、一文字君、って呼ぶ?」
「それはそれで他人行儀で嫌だなぁ」
「じゃあ……気持ちをタップリ込めて、『疾風』って呼ぶとか」
『疾風』とキリカに呼ばれた瞬間、身体の芯に、血流が集まる感覚がした。
うっ、ヤバい。なっちまう。
「うっ、ドキドキするから、モンジでいいや、うん」
「あはっ、じゃあモンジ君、だねっ」
なんとか血流を落ち着かせようとしたが、キリカは俺の机の上という特等席に座って、パタパタと足を振り始めた。
その太ももがチラチラ、と動いてスカートの中が見えそうになる度に俺の中で血流が激しく高まった。
その体勢、今すぐ止めろ!
こんな所でヒスったら、大変な目に遭うのはキリカなんだぞ!
慌てて視線を逸らしたが遅かった。
若干、かかりが甘いがまた、なってしまった。
あの、モードに。
「ふっ、全く困った子猫ちゃんだ」
「ふふっ、子猫は甘えたがり屋……なんだよ?」
「いいよ。君が望むなら好きなだけ甘えさせてあげるよ」
「あはっ、ありがとう。
で、美少女の夢ってことは、エッチな夢だったんでしょ?」
「いや、それだったら君には話さないな」
「あれ、そうなんだ? ……もしかして誰かのエッチな夢を見たことあるとか?」
「あー……ノーコメントで」
追求するように顔を近づけてくるキリカの視線を避けるように廊下の方を向いた。
前世だと俺がそんな夢を見るなんて考えられない事だったが、最近、よく美少女の夢を見るようになった。
内容はあまり覚えてないが……朝起きると軽い倦怠感を感じる感じ事もあるからもしかしたら夢の中でヒスっているのかもしれない。
それとエッチな夢は、一文字の記憶の中にたくさんあった。
ほとんどが先輩だが、中には……。
「ふむ。先輩の夢は当然としてー」
「うぐっ、ま、まあ、ね」
「もしかして、わ・た・し、のも?」
さらに顔を近づけてはニヤニヤーと笑うキリカ。
ああ、クソ。
バレバレじゃねえか‼︎
「わっ、赤くなった! モンジ君って解り易いよねっ!」
「し、仕方ないんだ、魅力的な女友達がいると仕方ないんだよ!」
「へええ。男の子って罪な生き物だねぇ。好きな子じゃなくてもいいんだぁ」
ニマニマ笑っているキリカ。
『そういう対象』として見られている事自体は気にしていないのか?
なら、ちょっと意地悪してみよう。
「そんな事はないよ。
ただ、俺はキリカみたいな可愛い子も大好きだからねっ!」
パチンっとウインクしてちょっと小声気味にそう言うと、キリカは驚いた顔をして、ぼんっと顔を真っ赤に染めてしまった。
近くにいた女生徒が不思議そうに首を傾げている。
やり過ぎたかな?
そう思ったがキリカはすぐ様表情を戻し______
「ま、まあ……夢の中ならいっか」
あっけらかんとそう言った。
だが、ヒステリアモードの聴力で聞こえたが微かに声が震えていたぞ。
まあ、言わないけどね。
「なんだ、いいのか。
じゃあ今度キリカの夢を見たら、ちゃんとしよう」
「ちゃ、ちゃんと⁉︎
ナニをちゃんとするの?」
俺の発言によほど驚いたのか、キリカが大声を上げた。
「しっ! 声が大きい!
嘘だよ。ただの冗談だ……だから安心していい」
周りのクラスメイト達に愛想笑いをしてキリカに向い合い宥めにかかった。
「うー、モンジ君の意地悪っ……」
ほっぺを膨らしたキリカも可愛かった。
「ごめんごめん。
今度キリカの頼み何でも聞くから」
「もう、仕方ないなぁ。
それならまあ、いいや。
それはそれとして。モンジ君の夢はちょっと気になるね?」
「そうなのか?」
「夢っていうのは記憶の整理って言うけど、実際オカルト的に使われる事も多いでしょ。
予知夢とか、明晰夢とか。色々と逸話も多いし」
「うん。確かにそうだね。なんかおっかない都市伝説とかあるのかな?」
「猿の夢っていうのならあるかな?」
「猿? あの、ウッキーの?」
「そ。ウッキーの。お猿さんの夢」
キリカの話では猿の夢という都市伝説はいわゆる続き物と呼ばれるもので、夢の中で電車に乗っていると車内アナウンスが流れ始めて、いきなりおっかない事をいい始める、というものらしい。
『次は〜、活け造り〜活け造り〜』という感じでな。
この活け造りは魚の活け造りではなく、人を活け造りにしてしまうものだという。
夢を見ている人が後ろを見ると、電車の一番後ろに座っていた人が、大勢の小人に刃物でズタズタにされて、魚の活け造りにされてしまった、というのが始まりらしい。
しばらくすると今度は『次は、抉り出し〜抉り出し〜』という車内アナウンスが流れてたくさん出てきた小人達が後ろの席に座っていた人の目玉を抉り出した……そして次は、いよいよ自分の番。
早く逃げないと……と思っても、体は動かない。
そうこうしているうちに、流れるアナウンスからは『次は、挽き肉〜挽き肉〜』とアナウンス音が流れて。
挽き肉になりたくないから大慌てで『夢から覚めよう』と願ってもすぐ近くから『ウイーン』っていう機械の音が響いてきて……。
そして……。
そこで辛うじて目が覚める。
ここで終わればただの怖い夢だ。
しかし、この都市伝説が続き物と呼ばれるのには勿論理由がある。
それから何年か経った頃、そんな夢を見た事をすっかり忘れていた時に、再び同じ夢を見る。
で、今度は目を覚ます直前に『また逃げるのですか〜?次に来た時は最期ですよー』と言われた、っていう話だ。
夢を見たその人は『もし次に同じ夢を見たら私は死んでしまうかも』と他の人に語っていた。
現実世界の死因は心臓麻痺かもしれないけど、夢の中では挽き肉ですってな。
そして、この話を聞いた人が、自分も『猿の夢』を見た! って言い始めた事から、『聞いたら同じ目に遭ってしまう話』として語られるようになった、というのが猿の夢の都市伝説だ。
キリカからその猿の夢の都市伝説を聞いた俺は少し考え込んでからキリカに告げた。
「まあ、俺が見た夢はそんなに怖い夢じゃなかったはずだよ」
「そうなんだ?」
「起きた時、ちょっと残念だったくらいだからね」
そう、目が覚めた時、寂しさみたいなものを感じたんだ。
それに何処かで会っているような不思議な感覚も……。
そんな感覚を思い出していると______
「おーい、モンジいるー?」
教室のドアの方から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「およ?」
キリカの視線もドアの方に向かい、俺もそちらの方を見ると、薄い茶色の髪をいわゆるツインテールにした、快活そうな女の子が立っていた。
まるで前世のパートナー、アリアを思わせる強気な瞳をした少女が。
瞬間、教室中からざわめきの声が上がる。
「モンジって呼ばないでほしいんだけどね、音央。
君が来るなんて珍しいね?」
「いいじゃない、呼び易いし」
別のクラスであろうと気にせずズカズカ入ってくる少女。
それだけで男子達は目で彼女を追った。
無理もない。雑誌の読者モデルを何度もやっていて、アイドル事務所からスカウトされているほどの美少女が、俺の方に歩いて来たのだからな。
前世のパートナー、アリアそっくりだよ。そういう所は。
ただ、似ていない点もある。
特にスタイルの良さ、バストの大きさではこの少女の完勝だ。
本来なら大きいと太って見えるのだが、彼女の場合は身長がやや高めなおかげもあって、均整のとれた大変悩ましい体つきをしている。
彼女を見ていたらヒステリアモードが思わず強化しちまったぜ。くそ!
彼女の名前は、六実 音央。
そのスタイルがここまで良くなる前……つまり、中学時代からの一文字疾風の友人だ。
「モンジはモンジ、それでいいでしょ?」
「親しい仲にも礼儀があるんだよ、音央」
「親しい仲にあだ名で呼ばれるのは普通でしょ?」
「親しくない奴がすっかり真似してるじゃないか」
「いいんじゃない? それだけ親しみ易い男って事だもの」
ああ言えばこう言う、典型的な強気娘だ。
ヒステリアモードの俺の話術でも音央には勝てる気がしない。
そんな事を思っていると、キリカも俺達の会話に交ざってきた。
「そうだよ、いいんじゃない? モンジ君」
「ほら、キリカちゃんも言ってるわよ?」
腰に手を当てる仕草や、勝ち気そうな目と口調はとことん自信に満ち溢れている。
ああ、くそ。可愛いなぁ。
仕草とかがアリアみたいだ。懐かしい。
音央は生徒会の副会長もやっていて、常に自信を崩さない。
だからこそ、こうして別のクラスに姿を見せるだけでもザワザワと人の視線を集めるんだ。
しかし、いつもなら美少女の登場と同時にやって来るアランが来ないな。
そういや、あいつ、音央に苦手意識を持っていたなあ。
後で理由を聞いてみるか。
「ところでどうしたんだい?
こんな朝っぱらから」
「会長に聞いて来たのよ」
「詩穂先輩に?」
「別に会長からメッセージがあるわけではないわよ。
ちょっとモンジ達が詳しいだろうから、相談してみてって頼まれただけ」
「俺、達?」
なんだろう。
なんだが嫌な予感がするなあ。
「そ。モンジと、キリカちゃんと、転入生の一之江瑞江さん?」
キョロキョロと辺りを見回す音央。
そういえば親しげに『キリカちゃん』とキリカを呼んでいるが友達関係なのか。
もしくは、そういう記憶があるように『魔術』か何かで仕向けてあるのか。
キリカならどっちでもやってそうだな。
「一之江ならまだ来てないよ。病気がちで有名なんだ」
「そうなの?」
病気という理由で一之江はよく休んだり遅れて来たりする。
本当に病気がちなのか、面倒くさいから学校をサボっているだけなのかはわからないが……。
まあ、一之江ならおそらく後者だろうな。
背中が微妙に熱くなった気がしたが……気のせいだよな。うん。
しかし、やたらとピンポイントな人選だな。
「あんた達、都市伝説に詳しいんでしょ?」
ああ、やっぱりそっち系の話か。
そう思い、キリカにアイコンタクトをすると、目の端にアランが『キリカたんとアイコンタクトしやがって』とでも言いたげに中指を立てているのが見えた。
こら。そんな仕草を良い子が真似したらどうするんだ。
お前は一昔前の弱そうな不良か。
外見は金髪碧眼のイケメンなのになあ、残念過ぎるぞ。アラン。
まあ、そんなアホな友人より今は音央達の用件だ。
「また先輩はおっかない話でも聞いてしまったのかな?」
「と、いうよりちょっと噂になっているみたいなのよ」
「噂?」
もう一度キリカにアイコンタクトしてみると、キリカは小さく首を振った。
「そ。とりあえず、放課後に生徒会室まで来てくれる?」
「それは構わないけど……一体何の噂なんだい?」
俺が尋ねると、音央はちょっとだけ思案してから。
______その噂の名前を口にした。
「神隠し、よ」
ページ上へ戻る