ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~
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最後の戦い
「リン!」
ステルベンを倒し、崩れ落ちた俺にシノンは駆け寄ってきた
「よう、シノン。よかった、無事だったな……」
泣き出しそうになるが、我慢する。今泣けば、全国の晒し者だ
「よかった……本当に……」
シノンが俺の腕の中で泣きじゃくる
俺は優しく抱きしめながら頭を撫でた
最後の最後。シノンのあの二つの弾丸が無ければ俺は負けていただろう
シノンとペイルライダーが勇気を示してくれたから俺は戦えたし、勝利も得た
……だが、まだ完全勝利とは言えない。現実世界に潜む死銃を刑務所にぶちこむまではシノンの安全は保証できない
「シノン、よく聞いてくれ」
ずっと抱き合っていたいのは山々だが、早くしなければ様々な危険が詩乃に襲い掛かるだろう
「なに?」
「俺が推理した通りなら、死銃はステルベンを動かしていたやつ、そして実際に殺人を犯した実行犯が二人いる」
なにかを聞きたそうなシノンを目で抑える
とにかく、時間が惜しい
「シノン。この試合が終わったら、俺は真っ直ぐ詩乃の家に行く。俺が来るまでの十数分間。絶対に誰も中に入れるな。死銃はなんらかの方法で詩乃の部屋に侵入する術を持っているはずだ。だから、現実世界で目を覚ましたら部屋の中に誰もいないことを確認してバリケードを作ってくれ」
「う、うん」
いろいろと言いたいことはあっただろうが、素直にうなずいてくれた
……さてと
「どうやって決着をつけるか……」
光剣で自分を斬ってもいいし、FNで自分を撃ち抜いてもいい
……自殺しているみたいで気分は良くないが、シノンを斬るよりは、な
そう考えて、光剣の刃を伸ばした
「あ、ちょっと待って」
光剣の刃を伸ばしたのをみて俺の意を察したのが俺の手を掴んで止めてくる
「なに?」
言い忘れたことあったっけ?
「レアケースだけど過去のBoBでは優勝者が二人出たことがあるの」
「……え?」
いきなり、何を言い始めたんだ?
今の場には必要のない情報なんだが……
「優勝するはずだった人が最後に油断しておみやげグレネードっていうものにひっかかってね。それで二人同時優勝。だからね」
それがどうかした?そう言いかけて俺は硬直してしまった
俺の腕の中にいるシノンが持つピンの抜かれたプラズマグレネードを見て
「……剛毅な」
「ちょっと否定できないかも」
クスクスと笑うシノンと苦笑いの俺
二人でプラズマグレネードの爆発に巻き込まれ、辺りを白い光が満たした
最後、シノンの口はこう動いていた。ありがとう、と
試合時間、二時間四十分五秒
第三回バレット・オブ・バレッツ本大会バトルロイヤル、終了
リザルトーSinon及びRin同時優勝
結果が決まり、例の白い待機場所へ飛ばされる
以前は戦いへのモラトリアム(猶予期間)と次のフィールドの名称だけを表示していただけだったが、今は先ほどまで戦っていたバレットオブバレッツ本戦の最終ランキングが出ている
一位に俺とシノン。二位とび三位にステルベン。四位にペイルライダーで五位がレオン。六位に闇風と続く。そして一番下に回線切断者ギャレットの名前
死銃の犠牲者であろうその名前に軽く黙祷を捧げる
やがて、ログアウトへのモラトリアムを終え俺の意識は現実世界へと帰っていく
目が覚めるとすぐに見えたのはキリトの顔のドアップ。キリト顔面に反射的にたたき込んだ正拳突きで悶絶するキリトを一瞥し、なぜか側にいたアスナに声をかける
「アスナ、警察に連絡を。安岐さんは菊岡さんに連絡をお願いします」
「警察って……どこに呼べばいいの?」
「シノン……本名朝田詩乃の家だ。場所は菊岡さんに調べてもらえ。俺は今から詩乃の家に直接向かう」
詩乃の家の住所なんて記憶していない。この情報化が進んだ世界で、自分の家以外の住所を知っていることは稀だ
菊岡さんは腐っても役人なのだから、役にたってもらう
「お、俺も……」
顔を押さえていたキリトがふらふらと立ち上がる
「ダメだ。現実での強さなら俺の方が強いし、なによりこれは俺がけりをつけなければいけない問題なんだ」
これは俺のケジメ。いつも脇役でしかなかった俺が、初めて前に出て身に余ることをやった……それでもこの手で助けたかった少女を守り切るために
「そうか……」
「ほら、リン君」
「ありがとうございます」
安岐さんが差し出してくれた俺の上着をありがたく着る
「じゃあ、ちょっと行ってきます」
「頑張ってその少女を助けてきなよ?」
「はい、当然です」
安岐さんに言われるまでもなく、それは規定事項だ。成功率とかは関係なく、必ず助ける
「いいわね。青春って」
そう安岐さんが呟いたときには俺は駆け出していた
病院を出てすぐにタクシーを拾い、詩乃の家の最寄りの駅に下ろしてもらう
そして、再び走りだした
焦る気持ちを抑え、いつもの自身のペースを取り戻す。無理に加速して、戦えないなんてことになったら意味はない
地面を踏み込む度、加速したくなる足を抑えつつ、アスファルトの道を駆ける
やがて、詩乃の住むアパートが見えてきた。かなり、ボロボロの小さなアパート
俺はギシギシと音を立てるこれまた壊れそうな外階段を登る
そして、登った先にいた一人の少年。詩乃のいる部屋の扉を狂ったように拳で殴るその少年には見覚えがある。以前会ったことがあるその少年の名は確か、新川恭二だったか
どちらにせよ、やることは変わりがない。幸いこちらに気付いてはいないわけだし、凶器を出す前に決める
二階の外の渡りを走る
ボロいためかギシギシと立った音に気付いた少年がこちらを見るが、もう遅い
そのままの勢いを込めた足でその少年の体幹部を蹴り跳ばした
「くそっ……」
外した。一応当たったは当たったのだが、意識を落とすレベルにはなかったと思われる。踏みこんだとき、足が沈み込まなかったら落とせた
少々たわんでいた足場に運がなかったと思いながらも意識を切り替える。悪態をついていても状況が変わるとも思えないし、ゆらりと起き上がった少年に対する牽制の意味もある
「な、何をする!」
ヒットした脇腹あたりを押さえながら、怒気と殺気の混ざった声を出してくる
「お前が死銃の片割れか?」
罵詈雑言を喚いていた少年がその一言でピタリと止まる。その一言で少年の瞳に光っていた感情が入れ替わる。怒気、殺気から狂気へと
「どうして……」
わかった?と続けようとして少年は俺の顔を見て再び止まる
そして、その瞳の狂気の色が深くなった
「そうか……お前かぁぁぁぁ!!僕の朝田さんに手を出したのわぁぁぁぁ!!」
絶叫。多量の唾と共に吐き出された言葉はまさに呪咀
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す、お前なんか、お前さえいなければぁぁぁぁ!!」
興奮してくれればむしろ好都合。こちらとしては攻撃が直線的になり、対処が簡単になる。そう考えていた
「……リン……?」
ミユこと水崎優衣が買い物袋を下げて、向こうにあった階段から上ってくるまでは
「ミユ、逃げろ!」
「はははは、これはラッキーだなぁ!」
とっさにそう叫んだが間に合うはずもなく、あっさりと捕まってしまう。そして、どこから取り出したのか携帯用の注射器をミユの首筋に押しあてる
「こいつの命とお前の命、どっちがいいんだぁ?」
先ほどの興奮は収まり、粘っこいニヤニヤ笑いにとって変わる
「下衆が……」
恨み言を吐いても状況は好転しない
完全に俺のミスだ。一撃で仕留められなかったがために周りを危険にさらしてしまう
つくづく俺は主人公ではないということを思いしらされる
「……リン!……私のことは……いいから……」
久しぶりに聞いたミユのたどたどしい言葉遣い
「うるさい! 黙っていろ!」
「……くぅ……」
腹を殴られた端正なミユの顔が歪む。歯を食い縛って耐える様を見て、俺の怒りのボルテージがMAXまで跳ね上がる
だが、迂闊に近寄ればミユの命はない
どうする……
「……ほら。これで自殺しなよ」
新川が渡してきたのは今、ミユが突き付けられているものと同じ注射器。中には多量の薬品で満たされている
「首筋に打てばこの子は解放してあげるよ」
ニタァとサディスト地味た笑みを浮かべる新川。俺は死ねない。だが、ミユも失いたくない
「……私のことは……いいから……!」
「だから、うるさいって言ってるだろぉぉ!」
「っ……!」
今度はミユの頬を張る新川。その様子を見て、歯を食い縛りながら、手の中の注射器を見る
全体は二十センチほどある、光沢を放つクリーム色のおそらくはプラスチック製
先には銀色に鈍く光る金属パーツがあり、尖っている。ここから致死量の毒薬を打ち込むことは容易に想像できる。円筒部分には緑色のスイッチがあり、そこを押せば死刑が執行されるといったところか
「早くしろよ!」
俺がすぐには動かなかったのを見て、苛立たしげにミユの首筋を注射器の先で突く
なにか……なにかないか。一瞬でもいいから新川の意識をこちらから外せるなにかが
「リン!」
俺を呼ぶ声が響いたのは新川とミユの向こう側
部屋の中にいるはずの詩乃の声
「なっ!?」
神経がささくれだっているときに後ろから、いきなり声をかけられれば誰だって振り返る
例にも漏れず新川を振り返った
「ふっ!」
千載一遇のチャンスを見逃す手はない。新川の意識が詩乃へと向いた瞬間、俺は手の中にあった注射器を捨てて駆け出した
一歩、二歩、新川の元へ駆け寄り、拳の攻撃範囲に入ると同時に短く息を吐きながらミユの首筋に当てられていた注射器を弾く
続いてミユの足を払い、ミユの足と首を手で抱え上げて、いわゆるお姫様だっこをして新川から離れた
「朝田さん!」
新川の顔が晴れやかな表情へと変化する
暗闇の中で一筋の光を見たような、砂漠の中でオアシスを見たような、そんな表情だ
新川は地面に転がった薬品の入った注射器を拾いもせずに詩乃へと近づいていく
「新川君。私弱いから……弱かったから新川君をそこまで歪ませたのかもしれない」
「朝田……さん?」
「ごめんなさい。でも……だからこそ私が新川君を止める。これ以上、私の背負ったような人殺しの罪を背負わせるわけにはいかないから」
決意に満ちた目をしているのはここからでもわかる。ただ、手に持っている武器。五キロはありそうな巨大な黒い鉄の塊はダメだと思う
歪みを直すはずの一撃が、それを通り越してそのまま昇天しそうなんだが……
詩乃のその様子に唖然として動きを止めた新川の脇腹に詩乃の持った鉄塊が横殴りに直撃した
新川は為す術もなくこちらに一直線。というかこっちに飛ばすなよ……
「あー……どうするか」
完全に弛緩してしまった場のシリアス度だが、このままだとミユごと新川に潰されてしまうので、受け止めないといけない。どうせなら微妙に残っている詩乃とミユの件に対する怒りをぶつけるか
「……よっこいしょ」
右足を引いて腰を落とす。手を大きく振りながら骨盤の動きを意識しつつ、左足を軸に右足を新川にたたき込む
地面にべちゃっと落ちて停止した新川に駆け寄ると脈を診る
……うん、問題ない。呼吸も正常だし内臓が破裂した、なんてこともなさそうだ
「詩乃、それはやりすぎだと思うんだが……」
「外にある粗大ゴミ置き場にあった私が使えそうな武器がこれしかなかったの」
ミユが自分の家からいつの間にか持ってきていた縄で新川を縛りながら詩乃を見る
詩乃もやりすきだと思っていたのか苦笑いを浮かべている
「まあ、それは置いておいて助かった。あの時は完全に手詰まりだったからな」
「リンこそ、宣言する時間をくれてありがとう。決められたんでしょ?」
「まあ、な」
注射器を払ったあと、顎に拳を打ち込めばおそらく意識を奪うこともたやすかっただろう
最初に蹴りを打ち込んだ時とは違い、距離が短かったからな
「リン……ありがとう。私を助けてくれて」
「……ああ……」
改めてお礼を言われると照れる。遠くから響いてくるパトカーのサイレンを聞きながらそう思った
「ところで、ミユ。この縄……」
「……私の趣味……」
「やっぱりか……」
後書き
蕾姫「はい。朝田詩乃の隣には水崎優衣ことミユが住んでいる、という伏線回収!」
リン「分かりにくい+どうでもいいって」
蕾姫「……」
リン「そういえば詩乃。あの時は無粋すぎて聞けなかったが、どうして部屋の中にいたはずの詩乃が階段から上がってきたんだ?」
シノン「ロープを使って窓から脱出したの」
リン「最近の女子は部屋にロープを確保しておくのが流行りなのか!?」
ミユ「呼んだ?」
シノン「あのロープ、優衣が私にプレゼントしてくれたやつなんだけど……」
リン「プレゼントのチョイスがおかしくないか……?」
蕾姫「そういうキャラだから」
ミユ「……汚されちゃった……」
蕾姫「酷くない!?」
はい、作者の蕾姫です。上の蕾姫(笑)はなにかって?
もはや、あいつは別人格ですw
まあ、それは置いておいて作品の裏話でも
この話を書くにあたって一番考えたのはサクシニルコリンのことですね
処置をしなければ(・・・)死にいたると聞いたので裏付けを取ろうとしたんですが、これが載ってない
詩乃の人工呼吸+看病+ユウキとの出会いフラグの計画が台無しです(笑)
そして新川恭二が原作より下衆い……
感想その他お待ちしております
ではでは
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