白無垢
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第二章
「とても」
「そうか、いい子か」
「うん、優しくて穏やかで」
「あの子は呉服屋の跡取りだ」
「あの子がお店の旦那様になるの」
「そうだ、御前はあの子と結婚してだ」
そして、とだ。自分で車を運転しながら歳の離れている妹に話すのだった。
「呉服屋の人になるんだ」
「そうなの」
「わかったな」
有無を言わせない口調だった。
「御前はそうなるんだ」
「うん、それじゃあ」
「しっかりした奥さんになるんだ」
こうも言った兄だった。
「わかったわ」
「結婚式の時はあの白い着物着るのよね」
兄にもだ、優香里はこのことを問うた。
「そうよね」
「そうだ、楽しみにしていろ」
兄は妹に口元を綻ばさせて答えた。
「その時をな、あれはお祖母ちゃん、お母さんに続いてな」
「私が着るのね」
「そして御前のものになる」
「あの着物が私のものになるのね」
「だからだ。大切にしろよ」
「うん、私あの着物大切にする」
優香里も兄に確かな声で答えた。
「それでお嫁さんになるから」
「お祖父ちゃんもお父さんも楽しみにしている」
優香里が結婚するその時をというのだ。
「そしてあの白無垢は御前からな」
「私から?」
「御前に女の子が産まれたら」
その時は、というのだった。まだ子供の優香里に。
「その娘にあげるんだぞ」
「あの白い着物を」
「そうしろ、いいな」
「うん」
優香里はこの時はおぼろげにわかりながら頷いただけだった、そして地元の大学を卒業した時にだった。
早速だ、祖母と母がこう彼女に言った。
「それじゃあ大学も出たし」
「いい頃だから」
「敏嗣さんもね、準備が出来たし」
「あちらのお家も」
その許嫁と呉服屋のことも頭に入れて話すのだった。
「それならね」
「あちらとお話を進めて」
「式を挙げて」
「幸せになってもらうわ」
「じゃあ私遂に」
優香里は祖母と母の言葉に目を輝かせて問い返した。
「あの服、白無垢着るのね」
「そうだよ」
「やっとなのよ」
「いいかい、あの着物は優香里ちゃんのものになるから」
「大切にするのよ」
二人で優香里に言うのだった。
「結婚式で着て」
「それからも持っているのよ」
「そしてね」
「優香里ちゃんに若し女の子が出来たら」
その時はとだ、兄と同じことを言うのだった。
「白無垢をね」913
「その娘にあげるのよ」
「次はその娘が着るから」
「優香里ちゃんは見送ってあげてね」
「私が着てそして娘にあげて」
優香里は祖母と母の優しい言葉を受けて言った。
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