白無垢
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第一章
白無垢
これ以上はないまで憧れていた。
薄絹の重ね着をした白い小袖に白帯、やはり白の内掛。
絹紋織りの白で襦袢の赤を際立たせていて。
やはり白地の幸菱の地紋に銀の箔押しと縫箔である。小物入れまであり扇の末広に守り刀、帯び締に抱え帯まである。
頭には文金高島田に結った髪の上に真綿の綿帽子、どれを取っても完璧なまでの美しさがそこにある。その白無垢にだ。
佐古下優香里はこれ以上にないまでにだ、幼い頃から憧れていた。それでいつも祖母や母にこう言っていた。
「私大きくなったら」
「その時はだね」
「優香里ちゃんがお嫁さんになった時は」
「あの白い着物着るの」
こう言っていた。
「絶対に着るから」
「そうだね、結婚する時はね」
「やっぱりあれよね」
祖母も母も言うのだった。
「白無垢だね」
「日本ならね」
「うん、ウェディングドレスよりも」
それこそと言う優香里だった、やはりいつも。
「白無垢がいいから」
「それじゃあね」
「その時は出してあげるわね」
「うちの白無垢」
「あの服を」
「うちにあるのよね」
いつも聞いているがだ、優香里は常にこのことを確認していた。そうせずにはいられなかったからである。
「あの白い着物」
「あるよ、お祖母ちゃんもお母さんもね」
「あの服着て結婚したのよ」
「お祖父ちゃんとね」
「お父さんとね」
こう言うのだった。
「だから優香里ちゃんもね」
「結婚して式をする時は」
「ちゃんとね」
「あれを着るのよ」
「うん、私絶対に着るから」
優香里も目を輝かせて祖母にも母にも答えるのだった。
「用意しておいてね」
「そうだね、虫にやられない様にして」
「いつも奇麗にしておいて」
「優香里ちゃんが結婚した時は」
「その時に着るのよ」
「私絶対に着るから」
強い決意と共の言葉だった、そして。
そのうえでだ、優香里はいつも白無垢に憧れていた。優香里の家はその地域で代々続いている旧家でありかつては庄屋、地主だった。
そして今も多くの土地を持っている、家も大きく資産がある。造り酒屋でもあり今も結構な実入りがある家だ。
優香里はその家の長女で歳の離れた兄がいる、その兄に十二歳の時にこう言われた。
「御前の許嫁が決まった」
「許嫁?」
「そうだ、今度その許嫁に会わせてやる」
こう兄が言って来たのだ。
「わかったな」
「うん、それじゃあ」
こうしてその許嫁に会った、大人しく中性的な顔立ちの男の子だった。話していると和やかな雰囲気になれた。
兄がだ、彼と会った後の優香里に問うてきた。家に帰る途中の車の中で。
「どう思う?」
「あの子のこと?」
「将来御前の旦那様になる人だがな」
「いい子よね」
思ったことをだ、優香里はそのまま言った。
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