ソードアートオンライン VIRUS
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ノイズと謎
一層攻略完了から、数ヶ月が経った。俺は、単独で狩りをするソロプレイヤーになっていた。その理由は、幾つかあるが主な理由は、自分の戦闘スタイルにある。両手剣を片手で振るほどの筋力値一極に振られた筋力値に剣撃の間に体術を織り交ぜて戦うスタイル。このスタイルのため、集団よりも単独のほうがよいと考えたからだ。
そして、現在は最前線のダンジョンでレベル上げ+素材集めを行っている。今居るダンジョンは《戦士たちの墓地》、敵の数が多く、経験地も少ない。そのため多くのプレイヤーが嫌っている不人気ダンジョンだ。効率が悪い場所だが、俺はこのダンジョンのアイテムに気に入っている。戦士たちの墓場は、名前どうり戦士らしいアンデッドモンスターが出る。そのモンスターからは、色々な強化アイテムや武器などが大量に出てくるからだ。
「やっぱ、ココのダンジョンはアイテムの量がいいな。素材は強化に使えるし、武器もたくさん取れる」
そんなことを口にしながらダンジョンをどんどん攻略して行く。何度かモンスターハウスなどの罠にはまってしまったが、なんとかうまく切り抜けることができ、最小限のアイテム使用で済んだ。
「ふう……さっきのは結構危なかったな。でも、モンスターの行動パターンが読めてきたし大丈夫か……」
そして奥に進もうとすると、急にダンジョン全体にノイズが発生する。
「……なんかヤバイ気がする……」
そう呟いた瞬間、自分のところから約三十メートルぐらいの距離の足場が全て消えて、底が見えないくらいの大きな穴になった。そしてそこにいた俺は重力に逆らえずに底の見えない大穴に落ちていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目が覚めた。寝ていた身体を起こして身体に異常が無いことを調べる。そして特に部位破壊などのバッドステータスにもかかってないことも確認する。
「よし、特に異常は無いな」
しかし、落ちた衝撃で気を失ったようで今が落ちて何分、何秒経ったがわからなくなった。
「さっきのなんだったんだよ?いきなり足場が消えるなんて、システムの故障かよ。ふざけんなよ、茅場晶彦……」
そう愚痴りながら、落ちたことによって食らったダメージを回復させることにする。腰についているポーチからポーションの類の回復道具を使い、回復を行う。回復には結晶アイテムとは違い、時間がかかるのでどれくらい気絶していたのか確かめるため、メニューウインドウを開き、時間を見る。
落ちたと思われる時間から三十分ほどしか経っていないが、メニューウィンドウに一つだけ今までとは大きく異なる部分があった。
「なんだ、これ?」
今までダンジョンが表示されていたところが真っ黒に塗りつぶされていた。気絶する前には確かに《戦士たちの墓場》と表記されていたのだが、今はどこにいるのかすら分からない。
「何だこれ?もしかして、茅場晶彦の野郎が俺のナーヴギアに何かしたのか?」
ナーヴギア自体の故障、バグの発生、茅場晶彦が特定のプレイヤーに向けて行ったシステムの改竄。もしくは自分のナーヴギアに向けてやられたハッキング。色々な考えが浮かびあがるが、どれが当たってるのかは自分には見当もつかない。考えても仕方ないか、と思ったので、とりあえず転移結晶を使い、村に戻ることにした。
「転移《コーヴァス》」
《コーヴァス》とは今いる最前線の大きな村である。しばらくしたら転移結晶が割れて、体に青いベールが包むはずなのだが、その気配がまるで無い。おかしいと思い、もう一度使うが今度も何も起こらなかった。
「まさか……結晶が無効化される空間か、ここ?」
結晶無効化空間が浮かぶがまだわからない。試し今度は回復結晶を使ってみることにした。もったいないかも知れないが、今所持している結晶は、転移結晶と回復結晶しかないため、確かめるにはこれを使うしかないのだ。回復結晶を取り出すと発動条件である言葉を叫ぶ。
「ヒール!!」
唱えて数秒たったが、何も起こらなかった。どうやらこのダンジョンは、結晶無効化空間と呼ばれる特別な空間らしい。なぜこんなところにいるかは後で考え、とにかくここからの脱出を試みることにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
移動していると普通のダンジョンとはいくつか異なるところがあった。まず、壁が所々なくてノイズがかかっている。そして、ノイズのかかってるところ意外は、何拠もかしこも血の様に真っ赤なのだ。こんなところに長くいたら、さすがに気がおかしくなりそうになる。なので早歩きですすんでいると、モンスターとエンカウントした。
「何だよ、このモンスター……」
エンカウントしたのは何層かは忘れたが森のダンジョンで獣人系のモンスター《ジャック・ビースト》だったような気がする。だがその《ジャック・ビースト》は普通のダンジョンに出てくるのとかなり異なる。壁と同じように所々、ノイズが入り、真っ赤なのだ。おまけに、名前には%やら‐やら混じっている。
しかし、どこかおかしくてもモンスターはモンスター倒せないわけではないと思い戦いを挑む。ゲツガはほとんどを筋力値に振り分けているため、足が速くない。しかし、壁さえあればそれを蹴ってジャンプし、弾丸が壁を跳ねるような進み方、跳弾のように移動することができる。それを使い、一気に距離を詰めて横一線に両手剣を振るう。
「ふっ!!」
だがその横一線を《ジャック・ビースト》は手に持っている所々さびが出ている片手直剣を使い、防がれた。
「嘘だろ!?」
防がれたことに驚く。確かに、三十二層まで来てモンスターそのもののレベルもアップしている。しかし、未だに自分の攻撃はボスモンスター以外に一度も防がれたことが無かったのだ。
今度は《ジャック・ビースト》が片手剣を首筋目掛けて、スキル《スラスト》で攻撃してくる。しかし、その攻撃スピードが異常だった。普通のモンスターとなら攻撃を受けるのではなく、ギリギリまでひきつけてからカウンターのように攻撃するのだが、この攻撃は今まで見たモンスターの攻撃の中で一番速い。
「ッチィ!!」
舌打ちをして、スウェーバックで避けようとするがそれでも足りないため、両手剣を持ってない片手で剣の腹を拳で殴り軌道を何とか逸らすことが出来た。そしてそのまま両手剣二連撃スキル《クルセイダ》で十字に斬りつけ、人と同じくウィークポイントである頭部と首筋を刈り取るように切裂いた。その攻撃を食らった《ジャック・ビースト》のHPを余すことなく食らいつくして、ポリゴン片へと変えた。
「何だよあの攻撃スピードはよ……今までとはぜんぜん違うじゃねえか……。こりゃ、相当気を引き締めなきゃ死んじまうな……」
そう呟くと、一度目を閉じてから息を大きく吸い込んでゆっくりと吐く。そして、今まで以上に気を引き締めて出口を探すために歩みを再開した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
三時間は歩いただろう。マップもなく、自分の勘を頼りにして進み、今まで以上に危うい戦闘を何度も行った。三時間も同じような場所を歩き、戦闘をし、気を今まで以上に引き締めた結果、精神的にも相当きていた。しかも、真っ赤な壁だけの風景、普通ならもうとっくに精神がおかしくなってもおかしくない。
「あー……きつい……。あー……もう、ここの出口は何処なんだよ……。これ以上こんなところにいたらおかしくなっちまうぜ……」
さすがに弱音の一つや二つも言いたくなる。しかし、ようやく今までの努力が報われたかのように次の道の角を曲がると両開きの扉が見えた。
「よっしゃ!あった!これで外に出られる!」
あまりの嬉しさに扉までかけていく。しかし、それがいけなかった。出口が見つかりようやく出られると思ったことにより緊張の糸が切れたため、後ろから猛スピードで迫ってくるものに気付けなかった。
そして、いきなり後ろからものすごい衝撃が襲い掛かってくる。
「ッツ!?」
いきなりのことに何が起こったかわからなかったが自分が宙に待っていることに一瞬で理解すると身体を捻って受身をとり、地面に転がるように着地する。その時にHPを確認するが四分の三も持って行かれていた。
「クソッ!!何なんだよいったい!?」
そう毒づき、衝撃が起こった方向を向き自分を飛ばした相手の正体を確認する。先ほど自分がいた場所には、竜のような頭に腕には刀刃のように長い鋭い爪、普通のリザードマンよりも二周りほど大きく膨らんだ筋骨隆々の体躯の真っ赤なモンスター、《ブラッド・インヘルスモンスター》。訳すと血を吸う化け物って意味だ。
このモンスターは名前はちゃんとしているが、体の所々にノイズが走っている。素早くポーションを取り出し、口に流し込む。
「やっぱ、そう簡単には脱出できないのかよ……なら、テメェを倒してこんな場所から出てやるよ!!」
そう叫ぶと同時に、両手剣を抜き、壁を蹴って弾丸のようにインヘルスに接近した。そして、そのままスキルを使わず、斬りつける。それを長く鋭利な爪でガードされるが今度は蹴り上げる。しかしそれも防がれる攻撃の手を緩めない。途中で攻撃の間に反撃が来るが殴ったり剣で弾いて、防いだ。
攻防を続けるが、相手のHPはあまり減ってない。さすがに自分の攻撃に荒さが出始める頃だと思い、いったん距離をとり、呼吸を整えるのとポーションを取り出して一気に飲み干す。
「畜生……このままじゃジリ貧じゃねえか。どうすりゃいいんだよ……」
そう呟く。しかしモンスターが回復に専念できるようにしてくれるわけはなく突撃して来る。俺はは、大きく息を吸って、再びインハレスとの戦闘を再開した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
約一時間にも及ぶ戦闘。しかし、まだ決着は着いていなかった。俺ののHPはすでにイエロー。ポーションも底を尽いた。それに武器の耐久値もなくなってきて、刃こぼれが目立つようになっている。それに対して、インへルスはまだ力があり余っているのか雄叫びのように咆哮を上げている。HPも俺とちがってまだ四分の三も残っている。
「クソッが!俺は……俺はこの世界で……こんなとこで死ぬわけにはいかねぇんだよ!」
そう叫びを上げると同時に両手剣をアッパースイングのように地面すれすれを切りながらインヘルスに向けて切り上げた。しかし、その攻撃が鋭利な爪に防がれたと同時に、両手剣の刀身がばらばらに砕け散り、ポリゴン片へと変わった。
「なっ!こんなところで!!」
驚いて一瞬、硬直してしまう。しかし、この硬直を見逃すほどモンスターのAIはプログラムされておらず、インヘルスは、その瞬間に鋭利な爪をを横に振るう。爪のは俺の身体を引き裂きながら横に弾き飛ばした。
そして、その攻撃を食らったゲツガのHPはものすごい勢いで減っていく。その減りは止まることを知らず、赤になり、一ドットも残さずにHPを食らい尽くした。
「ち……くしょ……う……俺……は……こんな……ところで……」
こんなとこで死ぬわけには行かない、そう言おうとしたが目の前が真っ暗になる。死ぬのか、あの日、あの人と約束したのに守れずに死ぬ。
そんなの嫌だ。
しかし、現実はあまりにも残酷だ。どう思ったって結果は変わらない。それはどの世界でも変わらないことだ。
「ごめんな、お袋。勝手に先に死んじまってよ。一人になって寂しい思いするかも知れねえけど生きていてくれ……。ごめんな……親父、約束守れなくて」
あの人……親父との約束を守れなかった。謝りながら真っ暗な視界で呟いた。すると自分の体の所々の感覚が無くなり、ポリゴン片へと変わり行くのを感じる。そして、突然脳が焼ききられるほどの鋭い痛みをもった頭痛に襲われる。
「ッ痛!」
ナーヴギアによって脳を破壊されてるのかと思ったが違った。いきなり目の前にシステムエラーという表示が出たと思うと、体に感覚が戻り、ザアザアと身体にノイズが走るのを感じる。そして、消えかかった体の部分が再び構成されていく。
「なんだよ、これ?」
何が起こったのか分からないが体が動かせるようになり、視界もはっきりし始めた。倒れていた体を素早く起こす。そして死ななかったことをうれしく思ったが、今は目の前のモンスター、インヘルスを殺すことに専念する。
さきほど倒したと思われる相手が起きたことに気付いたインヘルスは雄叫びを上げる。
「ウォォオオオ!!」
再び殺すために接近しようとするが、目に映るインヘルスのそのスピードはさっきまでのものよりもかなり遅く感じた。自分の目の前に到達した瞬間に爪を振り下ろしてくるがそれを簡単に避けてフックを顔面に決める。すると、今まで攻撃してもあまり減らなかったHPが目に見えて減りだす。
もしかしたらと思いもう一度、今度は腕に蹴りを決めると腕は簡単に浮き上がる。ダメージもまたも目に見えて減っている。これならいけると思い、一気にかたをつけるために、そのまま連続で攻撃する。そして一時間かかって倒せなかったのに、五分もかからずに倒すことができた。
「ようやく、倒せた……」
そう呟いた瞬間、今まで頑張って千切れなかった意識を繋ぐ糸のようなものがプツンと切れる感覚を感じた瞬間、目の前がブラックアウトした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
しばらくして、ようやく意識が覚醒し、目が覚めた。瞬間、自分が無事かを確認するために身体を見る。特に異常は見当たらない。辺りも見渡すがモンスターもいなかった。自分はどのくらいの時間眠っていたかを確認すると十分ぐらいしか経っていかった。
なんか、気絶する時間が短いなと思うが、そんなに長く気絶していると死ぬ可能性もあるのでよしとする。とりあえず、こんなところにずっと居るのもいやなので、扉に向かう。扉を開けると光が目に前を真っ白に染める。あまりの眩しさに目を瞑る。しばらくして眼を開けると《戦士たちの墓場》の入り口に出ていた。
「うっし!ようやく外に出れた!」
あのダンジョンから出ると、数日振りに出たような感じがした。それもそのはず。あんな
密度の濃い時間と物事が起きたのだからしかたないだろう。しかし、外に出て今まで自分に起こった一つの疑問が浮かび上がる。
なぜ、死んだはずなのに生きているのか。確かにあの時、HPが空になったはずだった。しかし、ノイズ発生後、自分のHPが少しだけ回復していて力も上がっていた。
だが、今は考えるよりも生きていたことのほうが自分の中では大きかった。今はあのことを考えるのをやめて、転移結晶を使って街に帰った。
後書き
指摘などお願いします。
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