エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三十九話 だから何だ
/Alvin
窓枠に適当に腰かけて、見飽きたシャン・ドゥの街並みを見下ろす。
今日も天気は晴れ。乾いた風が窓から部屋に吹き込んでくる。
「それ、さっきヴィクトルから来た手紙な。明日行くとさ。ニ・アケリア霊山から。本物のマクスウェルに会いに。あんた、どうする?」
ベッドの住人は母さんじゃない。ほんっと我がことながら笑えるぜ。
ちょっと前まで母さんが寝てたベッドを占領してんのは、ジランドなんだから。
「……リーゼ・マクシアとエレンピオスの戦争は、エレンピオスのマナ不足が根本原因だ。断界殻を開けば断界殻に回したマナがエレンピオスにも広がって、数年は黒匣を使っても大丈夫になる。逆に断界殻を閉ざせば、戦争自体は終わって平和は戻る。代わりにエレンピオスは滅びの坂を転がり落ちる。――ったく、どこでこんな知識を仕入れたんだか、あの黒ずくめ」
ベッドに起き上がってたジランドを顧みる。アルクノアの戦闘用ジャケットを羽織った下、胸板には包帯がぐるぐる巻き。俺が付けてやった傷だ。
ジランドは読んでいた手紙を放り出した。
ベッド横に落ちるぺらっぺらの紙。そこに世界の行く末を左右する内容が書かれてるなんて、どれだけの人間が思うだろう。
「どっちにせよ断界殻をどうにかしなきゃならねえのは確かだ。断界殻となると、やっぱ頼みはマクスウェル。あの小娘どもじゃねえ、本物のな。それで、お前はどうすんだ、アルフレド」
先に聞いたの俺なんだけどなあ。ま、いっか。
「今日中にここを発ってニ・アケリアに行くけど?」
決行が明日なら、今日から強行軍で行かないと間に合わねえ。旅装は整えてある。後は身一つでニ・アケリアにまっすぐゴーだぜ。
「俺も行く」
「はぁ? あんた、怪我人のくせに何言ってんだ」
「怪我人にしてくれたのはどこのどいつだ」
それについては返す言葉もねえけどさ。
「傷はあのイスラとかいう医者のおかげでほとんど塞がった。動いても支障はねえ。この通り」
ジランドはサイドテーブル上の源霊匣のスイッチを入れた。
展開する球形立体陣。中に顕現するのは、氷の大精霊セルシウス。
「白いほうの小娘が何したかは知らねえが、こいつを使役する負担も消えた。俺はてめえと違ってオトナだからな。引き時ってのは弁えてる。お前みてえに闇雲に突っ込むガキとは違うんだよ」
その「ガキ」にこてんぱんにやられたのはいつでしたカネ? 叔・父・さ・ん。
ジランドはベッドを降りて、羽織ってただけだったジャケットに袖を通した。いくつかの服と武装を身に着ければ、あっというまにアルクノアの首領が出来上がりってわけ。
こうしてまっすぐ立ってるジランド見てると、本当に怪我も過労もなかったんじゃ、なんて錯覚しそうになる。
「そんじゃ20年ぶりに、家族仲良く遠足と洒落込もうぜ。――セルシウスは」
『できればこのまま実体化していたい。マスターは完全に復調してはいないから』
「だとよ」
「マナの無駄遣いはすんじゃねえぞ」
『承知しました、マスター』
そんじゃ。我が叔父もそのしもべもヤル気満々と来たら、ここはありがちなホームドラマみてえに、てってけニ・アケリアに向かうしかないっしょ。
んで。ヴィクトル指定の日時と待ち合わせのニ・アケリア参道に、どうにか俺ら3人は間に合った。
「よう、ダンナ。と、ちびっこ2名」
「「チビじゃない!!」」
参道に続く村の門前。待っててくれたのは、ヴィクトル、エリーゼ、イバル。
「久しいな、アルヴィン。それに、ジランド」
握手に応える。頼りにされるってのは気分がいい。
ヴィクトルはジランドにも手を差し出したけど、ジランドは答えなかった。横からセルシウスがジランドを諭すように呼んだが、これにも我関せず。やれやれ。
「シャールの若様とじーさんは呼ばなかったのか」
「じきにラ・シュガル新王とその右腕になる人物を連れ歩いて、万が一のことがあれば一大事だろう?」
そりゃそうか。てっきりフェイのことが言いづらくて呼ばなかったのかと思ったけど、こんな台詞が聞けるってことは、あんた、大分調子戻ってきたろ。
「ミラは?」
そこで3人の様子、特にイバルのが深刻な感じを漂わせた。……やーな話の予感。
ヴィクトルが事情を説明した。
ミュゼの襲来によって、彼らはミラと分断され、ミラは今もって行方不明。……うん。正直聞きたくなかったわ、その情報。
「そういうわけだが、いいのか? 本当に」
「何が」
「この先にいる本物のマクスウェルは、今まで戦った魔物とも人間とも違う。会ったが最後、死闘になる。あえて危険な橋を渡る必要はないんだぞ。君たちだって――」
そこでヴィクトルは言葉を切った。
多分、ユースティアのことを言いたいんだろう。あるいは母さんかもしれない。
母さんは死んだ。ユースティアも行方知れずのまま。そこまで失ってまで戦場に戻らなくてもいいんだと、この男は本気で俺たちを気遣って言ってる。
でも、だから何だ。
「決めたんだ。家族を連れてエレンピオスへ帰るって。あんたらに任せてのうのうとしてられるか」
ヴィクトルはふっと笑んだ。初めて会った時から考えると、この男もずいぶん優しい顔をするようになった。
「ありがとう、アルヴィン」
よせやい。そう素直だとちょっと気味悪いぞ。
ぬかるんだ山道を登り始めた。
途中、何度かエリーゼが転びかけたが、そこは横に並んで歩いてたイバルがナイスキャッチ。
ちなみにそのイバルがずっこけたら、俺が腕を掴んで止めてやった。
先頭では雨を物ともせずにヴィクトルとジランドが話し合ってる。耳をそばだてて聞くに、ジランドは元いた故郷の話、ヴィクトルは……くそ、聞き取れねえや。
「アルヴィン、どうしたんですか?」『心配顔~』
お子ちゃまは鋭いねえ。
「何でもねえよ、お姫様」
エリーゼの頭を適当に撫でてやる。あんま優しくしなかったからか、エリーゼはむくれてティポも怒り顔。はいはい、悪うございました。
「ところでさ、何でエリーゼはヴィクトルに付いてくんだ? イバルはミラのことがあるから分かるとして」
「何で、ですか」
エリーゼは考え込むみたいに俯いてから、俺を見上げた。
「ミラ、今日までたくさん、エレンピオスの人――アルヴィンと同じ国の人、殺して、来ました。『それが使命だから』って。その使命を言いつけしたのは、マクスウェルなんですよね」
「状況的にな」
「わたしも、精霊を殺す黒匣はよくないと思います。でも、エレンピオスの人たちは、黒匣を使わないと生活できないんですよね?」
「ああ」
「それを知っててマクスウェルがミラに『使命』を与えたんなら……わたし、言ってやりたいんです。どうしてミラにそんなひどいことさせるの、って」
それってつまり、ミラのためと一緒に、俺たちのために――?
はあ~。ったくよお。どいつもこいつも、勝手に大人になっていきやがって。エレンピオス人の命を悼んで、ミラの身の上まで気遣って。俺なんて、エレンピオスのことしか考えてなかったのに。
お、もう山頂か。――って、何だ、ありゃ?
黒いボール……いや、もや?
「ここがマクスウェルのいる世精ノ途への入口だ」
これが? 堂々としすぎだろ。こんなんじゃ霊山に登った人間なら自由に行き来できるじゃねえか。
『なんだろー、ここ。びんびん感じるー』「精霊の力を感じます……こわいくらい」
「奇跡的な霊勢だ。少しでも大気に変化があれば、すぐ消えてしまいかねない。ここから入ったら、二度と出て来られん可能性もあるぞ」
イバルがヴィクトルに向けて言った。
「ああ。だから、行くことを強制はしない。私は、進む」
ヴィクトルは一番に、丸くて暗いもやに入り込んだ。
もやに変化は、ない。
「ちっ。仕切りやがって。――行くぞ。何かあったらお前が守れ」
『はい、マスター』
ジランドとセルシウスもまた、暗いもやに、平坦な足取りで入って行った。
ったく、大人ってのはこういう時に平気な顔するから好かねえんだよ。
「エリーゼ。イバル。こっち来いよ」
二人とも訝しげな顔をしたが、大人しく俺の前まで来た。よーし、いい子だ。
俺はもやの穴をふり返ってから、二人の間に入って手を繋いだ。こうしてると仲良し兄妹みたいだろ。
なんか昔、バランと、もう一人……誰だっけか、とにかく両側から兄貴分二人が俺の手を繋いでて、一緒に歩いてた思い出がある。
「これで怖くねえだろ?」
「誰が怖がっているものか!」
「コドモ扱いしないでください!」
はいはい。文句は後でな。どうせ覚悟は決まってんだろう?
俺はイバルとエリーゼを引っ張って、3人でもやの中に飛び込んだ。
後書き
アルヴィンの「兄貴分」二人の片割れは、我が家では言うまでもなくユリウスです。
アルヴィンの成長物語はvsジランドんとこで終わってるんで、アルヴィンがイバルやエリーゼを気遣って手を伸べるシーンは自然と書けました。
ある意味、拙作ではアルヴィンにも「使命」があると言えます。
そして皆様お待たせしました。
ジラセル、正式にPTインしました。
彼らの活躍はもう少しお待ちくださいませ(*^^)v
ページ上へ戻る