とある六位の火竜<サラマンダー>
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レベルアッパー
前書き
なるべくはやく更新するといいながらこのペース。
書きだめもあまりないしこんなペースならいっそ更新やめたほうがいいのかな……
時刻は午前2時。深夜のこの時間のビルの間の路地。人がふだんはいるはずのないこの場所で蓮はとある男と向き合って取引を行っていた。
「じゃあこれですね。このことは一切他言無用でお願いしますよ。」
「おう、わかってる。これがレベルアッパー……」
蓮はにやにやとして音楽データの入ったUSBを見ているその男を気にせずに、炎のブースターで飛び上がった。以前取引の際にお金を払うのを渋って襲い掛かってきた男がいたので面倒事になる前に逃げることにしているのだ。驚く男の顔も一瞬で見えなくなり、蓮はビルの屋上に着地。そこでつけていた仮面を外した。
「この仮面あっついなあ、もう……。さて、今日の取引はこれで終わりだったかな……」
蓮はそう呟き、座り込んで携帯を開いて確認する。先ほどまで蓮がつけていた仮面、これは木山が蓮に渡したものであり、こんなものの取引をしている以上は顔を見られてはよくないという配慮で顔を隠すためのものであり、ボイスチェンジャーまでついている優れものである。
「よしっ、今日の仕事はこれで終わりっと。疲れた……」
確認を終え、蓮はつかれた体を無理やり動かして炎を使ってビルを飛び移って移動を開始する。向かうは我が家。蓮だって学生であり、授業があることを考えれば早く寝たいところなのだ。
「ふわぁぁぁぁ……ってあぶね……!?」
眠気によってふらふらしているために足を滑らせながらも蓮はいそいで帰って行った。
蓮が木山の手伝いとしてレベルアッパーの取引を始めてから数日たった。最初は複雑な気持ちだった蓮も副作用もなく、特に使用者にデメリットはないという木山の言葉を信じて今では慣れてきたこともあり、淡々と取引を行っていた。だが、基本的には取引は夕方から夜中。となると当然、
「すぅ……すぅ……」
「神谷!神谷!!……ったく……ここまで呼んで起きないか、ふつう……」
こうなる。授業中に爆睡している蓮に声をかけ、軽く頭を叩いた先生もあきれてあきらめる。そんな蓮を苦笑いでクラスメイトが見つめる中、佐天も蓮の方をみてから視線を前の席に向ける。そこにいつも座っているはずの頭にたくさんの花をつけた少女は今日はいない。
「もうきにしないで続けるぞ……。パーソナルリアリティ、自分だけの現実は能力を……」
授業の続きに入った先生の言葉を聞き流し、佐天は先ほどの電話の内容を思い出す。風邪だと言っていた初春の声はそこまで辛そうではなかったがいつもの元気はなかったように思える。
(ん~やっぱ心配だなあ……)
「……天……」
(よし。授業終わったら神谷と松野を誘ってお見舞いに……)
「佐て……佐天!佐天涙子!!」
「え、あ、は、はい!!」
考え事をしていた佐天は呼ばれていたことに気づき、慌てて立ち上がる。考え事は一時中断。
「ずいぶんと余裕だな。ちょっとここんとこ説明してみろ。」
「へ?え、えーっと……」
余裕なんて一切ないと心で文句を言いつつ自分が悪いのは事実なので教科書を必死に見て答えらしき文を探す。松野が心配そうに見ているが席が遠いので頼るわけにもいかない。焦る佐天だったがちょうどそこで授業終了のチャイムが鳴った。
「あーもういい。」
「ふぅ……」
「次の授業までにパーソナルリアリティについて調べておくように。」
「へ……?」
帰り際に言われた先生の言葉に一瞬ほっとしていた佐天は呆然とする。その後、隣の席で寝ている蓮を不機嫌そうに睨みながらいつもより乱暴に起こす。
「神谷ー授業終わったよー」
「っつ……なんか今日叩き起こされた感がいつもより強いんだけど……?」
「気のせい気のせい。そんなことより初春のお見舞い行こうよ。」
「気のせいって……まあいいか。」
寝起きで頭が働いていない様子の蓮を急かし、佐天は自分の帰り支度も始める。まあ、教科書くらいしか鞄に入れるものなんてほとんどないのだが。そうして帰り支度の整った佐天が顔を上げるとちょうど松野が教室から出ていくところだった。
「あ、松野ー。一緒に初春のお見舞い行かない?」
「あー……今日は遠慮しとく。初春によろしく言っといて。佐天は課題も頑張ってね。」
「そっか、わかった。じゃあね。」
「うん。じゃあね。」
佐天の誘いを断り、松野は教室から出ていく。その後ろ姿を見ながら蓮と佐天は心配そうな顔をする。
「最近松野って元気なくない?」
「そうだな。遊びに誘っても最近来ないし、教室でも静かだし。」
「なんかあったのかな……」
「まあ、なんかあったらあっちから話すだろ。てか佐天、課題って?」
「神谷だって隣で寝てたのに私だけ怒られたの!」
佐天の文句を聞き流しながら蓮は教室から出ていく。2人とも軽い口調でいつもどうり話しているが、これまでも何も話してこなかったし聞いて来なかった以上、松野に2人は何も言うことができなかったのが頭の片隅に引っかかっていた。
「ってことで、お見舞いにきったよー!!」
「病人いる家で大声だすなよ、佐天。」
「「おじゃましまーす」」
それから、来る途中であった御坂と白井も一緒に初春の家に到着した蓮たちはそう声をかけて部屋の中に入る。整理整頓がきちんとなされた部屋の中で初春はベッドに横たわっていたが、思いのほか元気なようで蓮たちのことを見ると体をおこす。
「すみません、わざわざ……」
「気にすんなって。ちょっとじっとしててね……。まあ、微熱だけど今日はゆっくり寝てること。もうお腹出して寝たりしちゃだめだよー?」
「佐天さんが私のスカートめくってばかりいるから冷えたんですよ。」
「そりゃあ、親友としてあたしには毎日初春がちゃんとパンツはいてるか確認する義務がねえ?」
「ないですよ!!毎日ちゃんとはいてます!!」
なんだかんだで面倒見のいい佐天が初春の熱を計ってやり、そんな言い合いをしているのを見て蓮たち3人は苦笑い。
「まあまあ。初春さんは病人なんだからほら寝て寝て。」
「佐天も病人をからかい過ぎんなよ。」
「むぅ……」
「はーい」
御坂の言葉に初春はむくれながらも横になり、蓮の言葉に佐天は全く反省の色の見えない笑顔でタオルを濡らしにキッチンの方へ向かう。
「そういえば白井さん。グラビトン事件の方、何か進展ありましたか?」
「あるといえばある。ないといえばないですの。」
初春の言葉に白井がため息をつきながら言う。ここのところ事件について調べ続けているのに結果が芳しくなく、疲れもたまってきているのだろう。
「わかったのは犯人の能力とレベル2だということだけですの。」
「でもあの能力はレベル4クラスはあった。レベル2相当の能力ならとっさにだとしても俺は防げますよ。」
「つまりはわからないことが増えただけってことですか……」
がっくりとうなだれる3人を見つつ、御坂は苦笑い。何かないと考えていたのだろう。佐天に話をふる。
「そういえば佐天さん、前にレベルアッパーがどうとか話してたよね?」
「え、ええ、まあ……」
「レベルアッパー?」
白井が聞き覚えのない単語に聞き返し、蓮が少し反応する。蓮の動きは小さくて誰の目にもとまらなかったようなので蓮はほっとしつつ不自然に思われないように会話に混ざることにする。
「能力のレベルを使うだけで上げるっていう道具のことだろ?」
「うん、そういうものらしいよ。」
「能力のレベルを上げる?」
「い、いやあ、ただの噂ですよ。噂の中身もバラバラだし……」
「そっかぁ。さすがにないか……」
御坂もただの思いつきだったようでそう言ってまた可能性を考えようとし始めたとき、白井が考え込むような声を上げた。
「白井?」
「実はここ最近、バンクのレベルと被害状況に差がある事件が多発してますの。」
「え……?」
蓮の呼びかけに応えた白井の言葉に驚きの声が上がる。誰もがそれはないと考えていた可能性なのだからそれも仕方ないだろう。
「神谷さんと最初にお会いした際の銀行強盗に例の常盤台狩りの眉毛女。それにグラビトン事件も。皆さんが知っているだけですでに3件」
「ということは……」
「レベルアッパーは本当にあるってことですかね。」
「レベルアッパーってマジだったんだ……」
驚きの表情を浮かべている御坂と佐天を横目で見て、なんともない表情を装う蓮だが内心では気が気ではなかった。このことはできればジャッジメントには知られたくはないことであり、目の前ではジャッジメントである白井が核心に迫ろうとしている。
「佐天さん!なにか他に知ってることないの?」
「え、えーっと……」
(って言っても御坂さんまでこの話に興味持ち始めてるんじゃ止めらんないか……)
止めようかとも考えた蓮だが御坂の様子を見て考えを改める。今自分が止めに入る方が不自然であり違和感があるだろう。まだ深くまでは知られていないし、怪しまれてばれるほうが危険だ。
「ほんとかわかんないですけど使用者が書き込んでる掲示板があるって……」
「それどこの掲示板?」
「えっと……」
「ここじゃないですか?」
佐天の話に食いついた御坂に佐天が困っていると上から初春の声。その手にはどこかの掲示板サイトがうつったパソコン。
「そう!そこそこ!」
「お手柄ですわ!」
「ってか病人は寝てろ」
「うぎゅ……!痛いですよ、神谷さん……」
みんなが口々に初春を褒める中、蓮は初春からパソコンを奪って頭を押さえつけて布団にもぐらせる。初春が不満気に蓮を見るが無視。
「あはは……。まあ、あとはそいつらの素性か居場所が特定できれば……」
「場所ならわかりますよ。」
「え?」
「ここのファミレスによく集まってるみたいです。」
初春と蓮の様子に苦笑いしながら言った御坂に蓮は画面の書き込みを見せる。そこにはとあるファミレスの名前が記されていた。
「ここね……よし、3人ともありがとね!行ってみる!あ、初春さんお大事にね!」
「ちょっとお姉さま!それは私の仕事ですわよ!お姉さま!!」
その画面を確認してすぐに出ていってしまう御坂と白井。あまりの速さにあっけにとられて見送った蓮たち3人は顔を見合わせる。
「大丈夫でしょうか……」
「大丈夫でしょ。なんてったって学園都市が誇るレベル5と4の2人だもん。あたしたちが行ってもね……」
「佐天……」
ちょっと悲しげにいう佐天を蓮と初春は不安げに見つめる。そんな2人を安心させるように佐天は小さく笑顔を見せると蓮に問いかける。
「神谷はいかないの?学園都市の誇るレベル5さん?」
「行かないよ。2人で十分だろうしわざわざ俺が走ってまで行く必要もないだろ。」
「たしかに。……ねえ、2人とも。」
蓮のその返事に小さく笑った佐天は再び真剣な表情に戻る。その表情はいつもの佐天からは見れない表情。
「あたしたちもレベルアッパーを使えば能力が強くなるのかな……」
その悲しげな、さみしげな表情から読み取れるのは強い憧れ。佐天の普段は見せない、でも確かに存在する能力のコンプレックス。この時、蓮は思ってしまった。レベルアッパーは能力のレベルが上がるとはいえ事件の火種にもなり、ジャッジメントから危険視されている物。できれば佐天や初春は巻き込むわけにはいかない。でも、もしかするとレベルアッパーを渡して使わせれば多少佐天の気持ちを軽くできるのではないかと考えてしまった。
「佐天は使ってみたいの?」
だからこそ聞いてしまった。巻きこむわけにもいかないのに。レベルアッパーにこの2人を近づけるわけにはいかないのに。
「んー……興味はあるけど……ほんとに効果あるのかな?」
「さあ……あ、でもズルして能力を上げるなんてダメですよ?」
「わ、わかってるって!大丈夫、使ったりしないって……あ、そういえば!」
慌てたように話題を変える佐天。その様子を蓮は複雑な気持ちで見守る。レベルアッパーの詳細を知っている身としてはどうするべきか考えながら。
「そう、そのパーソナルリアリティっての勉強しておけって言われたんだけどよくわかんないんだよね……」
「んーなんでしょうね……」
「自分だけの現実。知識としてはあるんだけど言葉にしろって言われると難しいな。」
トントンっと一定のリズムで包丁が動く音を聞きながら、3人は考える。課題を初春に手伝ってもらうお礼に佐天がおかゆをつくっているのだ。ちなみに蓮も手伝っているがお礼はなし。まあ、授業中似たような状況で不平等に課題を出された佐天の気持ちを考えれば仕方ないといえば仕方ない。
「あたしだけの……初春だけの……神谷だけの現実……そんなのあるのかな。妄想とか!?」
「あ、近いかも」
「え?」
妄想という案は適当に言ったのだろう。初春に肯定されて驚いている佐天に苦笑しつつ初春にかわって蓮が説明する。
「そうだな。近いかもしれないよ。妄想ってのはあれだけど思い込みとか信じる力とか。そういうものじゃないかな。」
「ふうん……」
「レベル1の私だけならあれですけど神谷さんもこう言ってますから近いと思いませんか?」
「ううん。レベルとか関係なく2人に聞いてよかったよ。ありがと、2人とも。自分だけの現実って言われても正直ちんぷんかんぷんだったけどなんとなくわかった気がする。」
初春の言葉に笑って言った佐天は煮込んでいたおかゆを味見してから言葉を続ける。
「あたしも信じていればレベル上がるのかな……?」
「大丈夫ですよ。佐天さんは思い込み激しいですから。」
「そのせいで勘違いも多くしてそうだしな。」
少し言葉に影が差した佐天にそう軽口で返す初春と蓮。そんな2人に佐天は小さく微笑む。
「結構ひどいこと言うね。君たちは。」
そんな佐天に蓮と初春はいたずらっぽい笑みを向けた。
「初春はさ……高レベルの能力者になりたいって思わない?神谷とか御坂さんとか白井さんみたいな。」
「え?」
「佐天……?」
後ろから聞こえる水の音と2人の声に蓮は反応する。今、佐天が初春の背中をタオルで拭いてやっている最中なはずだ。そんななか蓮の視界は真っ暗。後ろを向くだけで十分だと思うのだが佐天に言われて目隠しまでされているためだ。信頼ってなんだろうと考えなくもない。
「神谷とか見てるとたまに考えるんだよね。高レベルの能力者になりたいって……。初春はどう?」
「うーんそりゃあレベルは高いにこしたことはないですし、就職とか進学もそのほうが断然有利ではありますけど……」
「やっぱり普通の学園生活なら外の世界でもできるわけだし、超能力にあこがれてこの都市に来た人って多いと思うんだよね。あたしもここの来る前の日は、あたしの能力ってなんだろうってわくわくして眠れなかったよ。」
こういう話をしているとき、蓮は決まって黙り込む。高レベルの能力者の自分がどんな言葉を2人にかけていいかわからなくなるから。そのことは佐天も初春もわかっているが、蓮が何も言わずにいてくれることもわかっている。そこまで考えて今は話したいのだろう。佐天は言葉を続ける。
「でもさ、ここにきて最初のスキャンであなたには全く才能がありません。レベル0です。だもん。あ~あって感じ……。正直へこんだし……」
「その気持ちわかります……。私も能力のレベルは大したことありませんから……」
佐天の言葉に初春がそう言う。2人の声は沈んでいて、どれだけこの能力が重視される都市でこれまで悩んだかが垣間見えるようで蓮はとてもつらい気持ちになる。この時はレベル5といわれ、もてはやされる自分がいやになる。レベル5だからなんだというのだろう。過去のレベルが低かったころにはできたはずのことすら、2人の気持ちを少しでも軽くしてやることすら今の自分にはできない。
「でも……」
蓮がそんなことを考えている時、初春の声色が少し変わる。
「白井さんと仕事したり、佐天さんや神谷さん、松野さんと遊んだり毎日楽しいですよ。だってここに来なければみなさんと会うこともなかったわけですから。それだけでもこの学園都市に来た意味はあると思うんです。」
「初春……」
初春が心からそう思っていることが声だけでも伝わってくる。蓮としては多少は彼女たちの気持ちを軽くできていたのかなと考えることができ、佐天もなにか想うことがあったのだろう。かわいいこと言っちゃってなどといいながら初春にちょっかいを出す声が聞こえる。そんないつもどうりに戻った2人の声を聴きながら、蓮はほっとして佐天にやりすぎるなよと声をかけようとしたとき悲鳴が上がった。
「なんだ?初春、佐天!どうした!?」
「あ、ごめんなさい、神谷さん。停電してびっくりしただけですから大丈夫ですよ。」
「神谷ー灯り点けてー?」
「なんだ、そういうことか……はいよ。」
蓮は目隠しをされていたため視界に変化がなく気付かなかったがどうやら停電らしい、佐天に言われて小さな灯りをともしてやる。
(それにしても天気悪いわけでもないし、そもそもこんだけ科学が発展してる学園都市で停電ね……。今頃不良に接触してるであろう御坂さんなにもしてないよな……)
後ろから聞こえる慌てた2人の声を聴きながら、蓮はそんなことを考え、早く目隠しとりたいなあとため息をついた。
蓮としては初春の言葉で多少心が楽にはなった。だが、初春の言っていたことは自分が積極的に行動して行ったものではない。むしろ、彼女ら2人の近くにいることで自分が助けられているのだ。このままでは自分は彼女たちの心を、特に能力者へのあこがれが強い佐天の力になってあげることはできない。そう思った。そう思ったからこそ、蓮はその日の初春の家からの帰り道。
「なあ佐天。さっきは言わなかったけど、うわさで聞いたんだ。レベルアッパーってのは音楽でそのデータはどっかのサイトの隠しリンクとして存在するらしいよ。」
佐天にヒントを与えた。ヒントくらいなら自分が怪しまれることもないと考えた。巻き込みたくはないがそれよりも佐天の力になりたい、すこしでも佐天の心の重しを軽くしてやりたい。その気持ちが強かった。
「ま、ただの噂だけど……」
言い訳のようにつぶやく蓮はそうなんだーと言っている佐天の顔を複雑な表情で見る。ここまで教えて佐天がレベルアッパーを見つけるか、使うかは佐天しだいであり、そこまでは関与しない。それならいいだろう。自分のそんな考えがただのごまかし、なにかあった時の責任回避でただの逃げだと薄々自覚しながら。
後書き
できれば感想よろしくです。
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