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とある六位の火竜<サラマンダー>

作者:aqua
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連続虚空爆破(グラビトン)事件

 
前書き
ちょっと間が空いてしまいました分、今回は長めです。 

 
蓮の周りは真っ暗だった。右も左もどこを見てもまったく見通せない暗闇。自分がどのような体勢なのかも判然としない。その状態の中、蓮の視界に見覚えのある人影が浮かび上がった。

「……陸?」

そこには今最も会いたい、話したい人物の姿。その人物は蓮に向かって悲しげな表情を見せる。いつの間にかその周りには同い年ほどの少年、少女が悲しげな表情で立っていた。

「みんな……?なんで……あ、待って!!」

蓮の声には答えず、彼らは反対方向を向き、遠ざかって行ってしまう。蓮は必死に手を伸ばす。そちらに行こう、引き留めようとするも体がうまく動かせずに距離はどんどん開いていく。

「待ってよ……!ねえ!!いかないで!!陸!!みんな!!!!」

顔を苦悶の表情に歪め、大声を出しながら蓮は届くはずのない右手を必死に伸ばす。蓮のそんな気持ちもむなしく、彼らは1度も振り向くことなく離れて行ってしまう。蓮はそれでもあきらめずに手を伸ばし続ける。諦めるわけにはいかない。

「行かないで……行くな!!みんな!!!!」





「……さん!…丈夫ですか!?神谷さん!!」
「っつ!!!!!っはぁ……はぁ……夢……?」

隣から聞こえてきた声に目が覚めると、蓮は右手を天井に伸ばした状態でベッドに寝ていた。気持ちの悪い汗をかきながら見る天井は見覚えがなく、ベッドも自宅のものとは違うようだ。状況がつかめず、横を向くとそこに人がいるのが目に入った。

「……初春……?」
「神谷さん……目が覚めたんですね……よかった……!!うなされてるから何かあったのかと……」

初春がほっとしたように言っている言葉の意味を把握できずに、蓮は周りの確認をしようと体を起こす。その時、身体中に痛みが走った。

「痛っ……!!!!」
「だ、ダメですよ、神谷さん!まだ傷がふさがりきってないんですから!」
(ああ……そっか。俺、爆発止めようとして……)

体の痛みと初春の言葉でようやく状況を把握。意識してみると、体のいたるところに包帯が巻かれているようだった。特に脇腹の傷が深いらしく、蓮に焼けるような痛みをもたらしている。

「神谷さん、ほんとに大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。ちょっと寝起きで頭働かなかっただけだよ。それより、なんか心配かけたみたいでごめんな?」
「大丈夫ならいいんですけど……そんなことよりほんとですよ!!」
「うわっ!え、えーっと……う、初春……?」

心配ないというように笑顔を見せる蓮に唐突に初春が叫ぶ。突然のことに蓮がきょとんとしながら、なんとか初春の名前を呼ぶが初春は厳しい表情で蓮につめ寄る。

「ほんっっとうに心配したんですよ!!神谷さんが爆発に巻き込まれて大けがしたって……無茶しないで下さいよ!佐天さんも私も御坂さんも白井さんも松野さんもみんなほんとに……ほんとに心配したんですから……」
「初春……」

勢い良くまくしたてていた初春の言葉が小さくなっていく。顔をうつむけ、蓮の寝るベッドのシーツをぎゅっと握りしめる初春の手に一滴の涙がこぼれた。声を大きくしたのは涙をこらえるためであり、蓮が目覚めたことで心配していた気持ちから安堵や喜びや無茶した蓮への憤慨など多くの感情をどうすればいいのか分からなくなったのだろう。

「丸2日です……。丸2日も目を覚まさなかったんですよ?神谷さんに何かあったら……。神谷さんがいなくなっちゃったら私、どうすればいいんですか……」

絞り出すような声はすでに泣いていることを隠せなくなっている。表情は見えないが、初春の涙が握りしめた手の甲をつたいシーツを濡らした。その様子を見て、蓮は自らのしてしまったことの重大さを知る。大切に思う人がいなくなる恐怖は耐え難いものがある。蓮自身が嫌というほどわかっているそのつらさを周りの人々に味あわせてしまった。自分を大切だと思ってくれている人たちに。

「……ごめん。初春、心配かけた……。ほんとにごめん……。俺は絶対いなくならないから。」

そういいながら蓮は初春の頭にポンと手を置く。泣いてることには気づいているがあくまでも見ないように顔をそらしながら。心配させ、言いようのない不安を与えてしまったせめてものお詫びとして、できるだけ優しく初春の頭を安心させるように撫でてやる。

「……もう絶対にこんな無茶しないでくださいね?私たちの前からいなくなったりしないでくださいね?」
「うん、約束する。絶対に初春達のそばにいるから。もう心配かけないから。だからもう泣くな。病人にいきなり泣き顔みせんな。」
「な、泣いてないですよ!!」

うつむいたままそんな風に言ってくる初春と約束し、蓮が茶化すように言ってやると初春はばっと顔を上げて反論する。その眼は真っ赤で涙の跡が光っていたが、涙は止まっていた。

「ほんとかー?」
「ほんとですよ!!もう!皆さんに連絡してくるのでちょっと出てきます!……約束守ってくださいね。」
「……うん、絶対守るからな」

にやにやとしながら聞く蓮に初春は頬を膨らませながら言うと、電話を手に部屋から出ていく。蓮はそれを笑顔で見送ると小さくつぶやく。そして、起こしていた体をベッドに倒れこませた。

「いってえ……!!!さすがにきっつい……!!!」
「無茶をするねえ。心配をかけたくないのはわかるけどそのケガじゃ体起こすだけでもきついだろう?」
「誰ですか、あんた……」

そんな様子の蓮に声をかけたのはカエルのような顔で白衣を着た男。蓮は力なく、初春と入れ違いに部屋に入ってきたその男に問いかける。男の言うとおり、身体中の激痛に正直初春が戻ってくる間くらいは体を休めておかなくては、みんながいる間平然を装う自信がなかった。身体中に嫌な汗が流れ、痛みに顔が苦痛に歪む。

「君の担当医だよ。長い間寝ていたために最初はあまり感じなかっただろうけど、今は黙って耐えるのも辛いんじゃないかい?」
「じゃあ、治療してくれたんですよね。ありがとうございます。……正直ぎりぎりです。気を抜くと平静装うどころかしゃべるのもきつくなりそうです。」
「いいんだよ。僕は医者だからね。どうする?少し時間はかかるが痛み止め持ってこようか?」
「時間的にみんなが来る方が早いですよね?だったら、とりあえず耐えることにしますよ。みんなが帰ってからお願いします。」

蓮がそういい終わると初春が病室に戻ってきたのが視界の端にうつった。蓮は体を起こし、先ほどと同じ体勢に。カエル顔の医者が病室の外で準備してるから頑張りなさい。と蓮に小声で言ってから、初春に何事もないと伝えて出ていくのを、蓮は頭を下げて見送った。





「神谷くん、目覚ましたんだって?」
「お見舞いの品、お持ちしましたわよー。」
「御坂さん、それに白井もご心配おかけしました。」

蓮と初春が談笑しながら、他の人を待っていると御坂と白井が病室を訪ねてきた。やはり心配だったのだろう。2人も蓮の元気な様子を見て安心したようだ。

「全くですわ。いきなり大けがしたと聞いたときには心臓が止まるかと思いましたの。」
「ほんとに無茶しないでよね。みんな、心配したんだから。」
「ほんとにすみませんでした……。」

2人の言葉に蓮は頭を下げて謝罪する。この2人にも精神的に迷惑をかけたことは確かなので蓮としては頭が上がらない。

「まあでも、無事でよかったよ。ところで佐天さんと松野くんは?」
「あ、2人は補修がさっき終わったので今から急いで向かうってさっき連絡が来ましたよ。」
「こんな時に補修だなんてなにをしてるのやら……」
「あはは……まあ2人らしいっちゃあらしいじゃん。」

初春の言葉に白井があきれたように言い、蓮は苦笑い。その後、御坂たちが買ってきてくれたお見舞いのフルーツを食べていると、廊下からばたばたと大きな足音と声が聞こえてきた。

「松野!早く早くー!!」
「ちょ!佐天ちょっと待って!」
「こら!病院の廊下で騒がない!!」
「あ、すみません……って佐天!待てってもう!!」

室内にいても聞こえてくる声と足音に4人は顔を見合わせて同時にあきれたように苦笑する。

「なんていうか……わかりやすいよねえ……」
「まあ、2人とも神谷さんのこと心配してましたからね。」
「神谷!?」
「佐天、ちょっとは落ち着いて……。神谷ー大丈夫かー?」

御坂と初春がそんなことを言っているうちに2人が到着。ここまで本当に走ってきたのだろう。肩で息をしている。そして、無事そうな蓮を見つけて松野は片手を上げ、佐天は駆け寄ってくる。

「2人とも、心配かけた。大丈夫だから……」
「神谷ー!!!」
「って佐天!?うわっ!!」

そんな2人を安心させようと声をかけようとしたとき、急に佐天が蓮に抱き付く。突然のことに驚きつつも痛みに顔をしかめ、何とか耐えて蓮は佐天を受け止めるが、そこで佐天の力いっぱいの拳が蓮の胸を打った。大した力はこもっていないものの、けがの状況もあり突然の激痛にむせる蓮。

「げほっ……!佐天てめ、けが人になんてこと……!!」
「心配させないでよ、バカ!!!!神谷が死んじゃったらどうしようって……あたし……あたし……!!」

涙目になっている佐天はそのまま拳でなんどもなんども蓮の胸を軽く力なくたたき続ける。蓮にはその拳を、力ない拳を受け止め続けることしかできない。その力ない拳が止まり、蓮の胸に顔を埋めて佐天が泣き出してしまっても蓮は動けない。佐天がどれだけ自分のことを考えて心配してくれていたか分かったから。

「佐天……」
「……約束して。」
「約束?」
「もう自分を犠牲にしてまで人を助けようとしないって。約束して……!!」

泣き顔ながらも顔を上げた佐天の目は真剣。そんな佐天を見て蓮は笑顔になる。純粋に嬉しかったのだ。佐天が、初春が、みんながここまで自分のことを心配してくれたことが。だからこそこれ以上みんなに不安も心配もかけたくなかった。優しい笑顔を佐天に向けた蓮はうなづく。

「うん、約束するよ。絶対にもう佐天の心配に思うようなことはしないから。だから大丈夫。」
「約束だからね。絶対だよ。」
「うん、絶対。」
「よかった……!!……ごめん、もうちょっとこのまま……うわああああん!!」

蓮の言葉に安心したのか、また泣きそうな顔をした佐天は蓮の胸に顔を埋めて泣き出す。

「ったく……2人していきなり泣き顔みせてきやがって……」

佐天を安心させてやるように頭をなでてやっていた蓮がそう呟いて初春の方を見ると、初春は視線をそらす。その頬は少し赤くなっていた。その後、泣き止んでから周りの4人に生暖かいめで見られていたことに気づいた佐天が顔を赤くして蓮から離れるまで蓮は佐天を安心させ続けた。




「それでだ。俺の遭った事件は例のグラビトン事件ってことでいいんだよな、初春?」
「はい。グラビトン事件は最初の犠牲者を皮切りにその威力、範囲を拡大し続けています。いまだ犯人のめどはたっていませんけど……」
「そっか……」

佐天が離れ、ようやく落ち着いたところでの蓮の質問に初春がそう答える。グラビトン事件はいまだに拡大中。その一連の事件には関連性が全くなく、手掛かりは一向に掴めないままだった。

「あれ?そういえば神谷くんってなんで能力で爆発を防がなかったの?それくらいは何とかなったんじゃない?」
「そ、それはえーっと……」
「なんとか生きていた遠めの監視カメラの映像から見て、何も考えずに飛び込んだら演算が間に合わなかったというような様子でしたが?」
「え、っと……はい、その通りです……」

御坂の問いに言葉を濁す蓮だったが白井の言葉にうなだれるしかない。そんな蓮の様子に佐天と初春、松野は苦笑している。

「なんだか神谷さんらしいですね。」
「どうせ最初はなんにもしないでコンビニから出ようとしたのに危ない人見てほっとけなくなったんでしょ?」
「なんだかんだでおせっかい焼きで優しいもんな、神谷。」

3人の言葉に図星である蓮は照れ臭くなりそっぽを向く。なんにも考えずに体が勝手に動いただけであり、優しいとか言われてもピンと来ないのだ。顔を振って赤くなっている顔を切り替え、蓮は白井に向き直る。

「白井」
「どうしましたの?」
「俺をグラビトン事件の捜査に協力させてくれ。」
「……どうしてですの?」

急な蓮の申し出に白井は少し驚きつつ理由を問う。蓮は少し考えてからくちを開く。

「被害者的にはやられっぱなしってのも癪だしさ。」
「ですが、一般生徒を捜査に巻き込むわけには……」
「協力してもらいましょうよ、白井さん」
「初春……?」

理由を聞いて蓮の捜査の参加を渋る白井に初春がそう言う。意外そうな顔で初春を見る蓮に初春は笑顔を向ける。

「どうせこのまま協力をさせなくても神谷さん、勝手に動いちゃうじゃないですか。だったら一緒に動いた方が情報の点で安全ですし……。それに神谷さん、責任感じてるみたいですし。」
「「責任?」」

初春の言葉に御坂と松野が首をかしげる。佐天は気づいていたようで蓮をじっと見つめている。

「最初の被害者を皮切りに……。神谷さんは自分がもっとうまく対処していれば犯人を調子に乗らせることもなかったと思っているんですよ。ですよね、神谷さん?」
「なんでわかるかなあ、初春といい佐天といい……」
「いつも一緒にいるんだからこんくらいのことはわかるって。あたしたちと神谷の仲じゃん!」

初春の説明と佐天の言葉に蓮は降参だとでもいうように両手を上げる。この2人には隠し事はできないなと思うと同時に自分の怪我の容体がばれていないか心配になるがなんとかごまかせているようだ。

「仕方ないですわね。神谷さん、後でグラビトン事件の概要とデータを送りますわ。目を通しておいてくださいまし。」
「ありがと、白井。よろしく頼む」

こうして白井から許可をとった蓮は捜査に参加することとなった。それから、御坂が蓮はなんでよくて自分は捜査に協力できないのかと愚痴ったり、松野が佐天と初春と蓮の仲の良さに若干の嫉妬を見せるなど終始わいわいとしてから5人は帰って行った。





その後、無理して平静を装っていた代償として激痛に見舞われた蓮は、カエル医者の処置と痛み止めの薬が効くまで苦痛に悶えることとなった。






それから一週間後。動くのも困難だったほどの痛みが薬なしで和らぎ始めたのが3日前。残りの3日で何とか日常生活には痛みなく動けるようにまで回復した。寝ていて気づかなかったがふっとばされた時に捻っていたらしい足首も完治し、ついに退院許可が下りた蓮はカエル医者にお礼を言い、お昼ころには病院を後にしていた。

「俺の怪我ってでかいガラスが刺さった脇腹の怪我は失血死してもおかしくないレベルだったんだよな……。あの医者、すごいなあ……」

看護師の人には、この怪我でこんなに早く治るなんてあの先生魔法でも使ったんじゃないかとまで言われていた。一応激しい動きをしたり、なにかがぶつかったりすれば傷が開いてしまうので注意しろとは言われたが。

「さて、どうしますかね……」

一応今日は授業日であり、今から学校に向かえば午後の授業には間に合うのだが学校に行こうなどという考えは蓮にはない。そこで蓮は病院で携帯を切っていたために連絡を一切確認していないことに気が付き、あの事件に遭っても生き残っていた携帯を開く。

「みんな、心配してくれてんなあ……。それ以外は佐天と白井からか。」

クラスメイトからの心配のメールには後で返すことにして、蓮は白井と佐天のメールを確認する。入院中交代でみんながお見舞いに来てくれていたが、話すタイミングを逃していたらしく白井のメールにはジャッジメント177支部にグラビトン事件の詳細なデータがあること。佐天のメールには昨日メールの時点での明日、つまり今日の放課後にセブンスミストに買い物に行こうと書かれていた。

「協力するって言ったし、今日のところは177支部に行くかな。」

蓮はそう決め、その内容を佐天と白井にメールするとクラスメイトに返信しながら歩き出した。松野が蓮の家から持ってきてくれたためにスケボーも一応持っているが無理に能力使って急ぐまでもないだろう。





「おじゃましまーす」
「ん?神谷君?」
「あ、固法先輩、お疲れさまです。学校じゃないんですか?」
「今日は休みもらってるの。事件を少しでも調べなきゃいけないし……。他の子たちには休んじゃダメって言ってあるから私1人だけどね。」

蓮が支部に到着し、部屋に入るとそこでは固法美緯がパソコンに向かってなにやら作業を行っていた。蓮は佐天や松野とともにたまにここに出入りしているために固法とは知り合いである。机の上には人形の残骸。おそらく爆弾の残骸だろう。

「そうなんですか。俺も病院に行っていて今から学校に行くよりはとここに寄ったんです。その事件の件で捜査協力することになっていて、白井からここでデータを見せてもらえると聞いたんですけど見ていいですか?」
「ああ、その件なら聞いているわ。いいわよ。そこのパソコンにまとめたデータが入ってるはずだから確認してみて。」
「はい、ありがとうございます。」

蓮が固法に事情を説明すると、話は白井から聞いていたらしい。すんなりとデータを見せてくれた。蓮はパソコンに向かってデータに目を通し始めると、その作業と同時に固法に捜査の状況を尋ねる。

「どうですか?なにか新しいことはわかりましたか?」
「ううん。神谷君の事件が起きてから事件は増加の傾向にあるけど手掛かりは何も。そういえばもう体は大丈夫なの?」
「もう大丈夫ですよ。じゃあこのデータも散々確認されてますよね。」
「そうね。もっともそれしか手掛かりにつながるものもないから、確認を続けるしかないんだけどね……」
「ですよね……。まあ、俺は初めて見るものですしなにか見つかるかもですし、とりあえず確認しますね。」

疲れが多少見える固法の言葉に蓮はそう答えつつ、膨大なデータの確認作業に集中していく。それを見て、固法も疲れた体に鞭を打ち、手掛かりさがしに再度取り掛かり始めた。





「ダメだ……。全然手掛かりなんか見つかんない……」

それから2時間後。ぶっ続けで何度も何度もデータを見直していた蓮だがついに限界。机に突っ伏してしまう。そんな蓮の前に温かい紅茶の入ったマグカップがおかれる。

「まあ、私たちが散々捜したのにいきなり見つけられてもこっちの立場がないですわよ。病み上がりなのですから少し休憩しなさいな。」
「白井?来てたんだ?」
「集中してたみたいでしたし、気づかないのも無理ないですわね。1時間くらい前に来て、先ほどまで私も手掛かりを探して調べていたのですが……」

白井はそう言いながら固法の方を向くが固法は首を横に振って何も見つからなかったことを伝える。全員がなにも見つけられないこの状況に3人はため息をつく。

「もしかして手口がおなじなだけで同一犯じゃない……とか!!」
「そんなまさか……」
「そうよね。言ってみただけ。あまりにも犯行に関連性が見当たらなくて……」
「急ぎませんと……次の被害者が出てしまうかもしれませんし……」
「被害者……。そういえば……!」

固法と白井がそんな会話をしている中、蓮は1つ気になることを感じてデータを見直しだす。そして気が付いた。この犯行の狙い。犯人の狙いに。

「神谷くん?どうしたの?」
「犯人の狙いがわかった気がします。」
「本当ですの!?」
「うん、これまでの事件の被害者は9人。そのうち俺を除いた8人はジャッジメントです。……いくらなんでも多すぎませんか?」
「まさか……!!」

そこまで言ったところで1台のパソコンが警報音を鳴らして重力子の急激な加速の確認を知らせた。蓮は地図をのぞき込み、場所を確認。白井達が止める間もなくスケボーを片手に支部を飛び出した。なぜなら

「くそっ!!次の狙いはあいつか!!」

地図の示す場所は今日佐天に誘われた場所。初春も一緒にいるであろうセブンスミストだったのだから。





「松野くん、ごめんね?荷物持ちなんかさせちゃって。」
「大丈夫ですよ。そんなに量もありませんし。まさか神谷が来ないなんて聞いてなかったんで多少のアウェー感はありますけど……」
「なに言ってんの。今更アウェーもなにもないでしょー」

そのころ初春たち4人は買い物の真っ最中。荷物持ちに抜擢された松野もなんだかんだで楽しみながら放課後の息抜きを楽しんでいた。その時、初春の携帯に着信。

「初春、携帯鳴ってない?」
「あ、ほんとだ……。もしもし?」
『初春!!』

佐天に言われ、電話に出た初春の耳に響いたのは白井の大声。それに多少驚きながらも離してしまった電話をもう1度耳に当てる。

『グラビトン事件の続報ですの!!』
「え……?」
『たった今、学園都市の監視衛星が重力子の爆発的加速を観測しましたの!』
「か、観測地点は……」
『今付近のアンチスキルを向かわせていますの。初春はすぐにこちらに……』
「ですから観測地点は!!」
『第7学区のセブンスミストですの!!!』
「セブンスミスト……」

その白井の言葉を聞いた途端、初春の思考は一瞬停止する。自分がいる場所に爆弾が仕掛けられていると聞いたら誰でもこうなるだろう。しかし、初春もジャッジメント。すぐに思考を切り替え、自らのすべきことを考え出す。

「……ちょうどいいです。私、いまそこにいます。すぐに避難誘導を開始します!!」
『なんですって!初春!ちょっとまちなさ』

そこで白井の言葉を最後まで聞けなかったのは思考の切り替えはできても気持ちの面では焦りがあったからだろうか。初春はそこで通話を切り、他の3人に向き直る。

「落ち着いて聞いてください。犯人の次の狙いがわかりました。この店です。」
「なんですって!?」
「こんなとこで爆発なんて起きたら……」

初春の言葉に驚き、御坂と松野がそう言う。2人の言葉を聞いて本当だということをうなづいて示し、初春は3人に指示を出していく。

「避難誘導を行うので、すみませんが御坂さんと松野さんは手伝ってください。」
「「わかった」」
「佐天さんは避難を。」
「……うん。初春も気を付けてね。」

初春の指示に御坂と松野はすぐに了承。佐天は少しためらうが初春の指示にうなづく。そして4人は動き出した。





(くっそ!もっと早く気付いてれば……!!)

蓮は舌打ちをしながら最高速でスケボーを全力でとばしていく。周りの人が驚くのも気にせずに目の前の人、車をギリギリでかわす。その時、蓮の携帯が鳴った。

「もしもし!」
『神谷さん!今どこですの!?』

スピードは落とさずに電話に出ると聞こえたのは白井の声。

「今観測地点に向かってる!セブンスミストであってるか!?」
『ええ!それと、そこに初春がいますの!私も今から急いで向かいますが……』
「任せとけ!絶対間に合わせる!!」

白井との通話を切った蓮はもう1段階速度を上げる。セブンスミストまではもう少し。

(間に合え……!!)





「みんな大丈夫かな……」

店の外に出た佐天は心配そうな表情でつぶやく。先ほど避難誘導が終わり、御坂が出てきたがなにか男の人と会話して2人でまた店内に戻って行ってしまった。初春に指示されたとき、本当なら自分も手伝いたかった。しかし、自分では何もできない。初春はジャッジメントで御坂はレベル5で松野はレベル2だが実力的にはレベル4の能力者。対して自分はレベル0の一般人だ。何もできない。その差が佐天に言いようもない感情にさせる。

(あたし、なにやってんだろ……)

先日の昼に御坂と話したこと。初春や神谷、みんなとの差に対する感情。何もできない悔しさやみんなに対する憧れなどで胸が苦しくなる。顔をうつむかせてそんな感情を抱えていると、後ろからいつも聞いている声が聞こえてきた。

「佐天!!!」
「……神谷?なんでここに……ってそんなことより初春達がまだ中に……!!」
「なにやってんだよ……!!御坂さんたちも中だな?」

後ろからスケボーで人ごみをかき分けて近づいてきた蓮はそういって、店内に走っていこうとする。佐天はその後ろ姿を見ているだけになるはずだった。なにもできない自分をみじめに思いながら。しかし

「佐天。これから爆発が起ころうが起こるまいが、この野次馬の中で妙な動きをする奴が必ずいるはずだ。爆発直後に動き出して路地に入って行ったりみたいに。そいつを見つけて尾行してくれ。できる?」
「え……?」

蓮の言葉に一瞬呆ける佐天。しかし、次の瞬間には自分にもできることがあるとわかり力強くうなづいた。そして蓮に感謝する。蓮は自分の様子に、気持ちに気づいて役割を与えてくれた。ならばその気遣い、優しさに答えなければいけない。

「わかった!任せて!!」
「無茶するなよ。じゃあ行ってくる!」

そういって今度こそ蓮は店内に駆け込んでいった。





(これでよし……)

見通しのいい通路の真ん中に立ち、前後左右の通路に誰もいないことを確認した初春は避難誘導の官僚報告に白井に連絡を入れる。

「白井さん?避難誘導完了しました。」
『初春!今すぐそこをはなれなさい!!』
「え?」
『これまでの犯行での人的被害は神谷さん以外全員ジャッジメントですの!犯人の狙いは現場付近のジャッジメント!!今回は初春!あなたですのよ!!!』

テレポートを断続的に使ってこちらに急行しているのだろう。とぎれとぎれになっている白井の言葉に初春の思考は今度こそ停止した。さすがに自分が爆弾に狙われるという状況には頭の整理が追いつかなかった。

「お姉ちゃーーん!」

そこに小さな女の子が笑顔で駆け寄ってくる。その少女は以前鞄をなくして捜していた時、他のジャッジメントがその子の鞄が見つけるまで初春が支部で一緒にいた子であり顔見知りである。その手には少女が抱きかかえて持つサイズのカエルのぬいぐるみ。場所が場所ではあるが、それを抜きにすれば微笑ましい光景に思考が止まっていた初春の頬も緩む。犯人の手口は頭から抜け落ちていた。

「眼鏡をかけたお兄ちゃんがお姉ちゃんに渡してって!はい!」
「そっかあ。ありがとうね。」

お使いをこなしたような感覚なのだろう。満面の笑みでカエルの人形を手渡してくる少女から初春が人形を受け取ろうとしたとき、カエルの人形が中心に向かって引き込まれるように歪んだ。

「っつ…………!!!」

まぎれもなく情報として聞いていたグラビトン事件の爆弾の爆発直前の状態。とっさに人形を少女の手から取り上げ、なるべく遠くに投げる。その間に見えた御坂と松野、そしてもう1人の知らない男の人に叫ぶ。

「逃げてください!!あれが爆弾です!!!」

この距離からの爆発ではあまり意味はないかもしれないが、せめてもの抵抗で少女に覆いかぶさるようにして少女をかばい、きつく目を閉じた。





御坂がその場面に遭遇できたのは、上条という青年が連れていた少女が外にいないことをしり、彼と一緒に探しに来ていたからだった。途中で松野にも事情を説明して一緒に探し、ようやくその少女を見つけて声をかけようとしたのは、少女と一緒にいた初春が人形を投げて叫ぶ時だった。

「逃げてください!!あれが爆弾です!!!」

その時には御坂は人形と2人の間に入り込んでいた。遠目にも人形が歪むのが確認できたために急いで間に割り込んだのだ。

(超電磁で人形ごと……!!)

そこまでは完璧だった。後はコインを撃ち出すだけだった。そこに来て御坂は致命的なミスを犯す。

「しまっ……!!!」

ポケットから取り出したコインが手からこぼれ落ちる。拾っていては間に合わない。ポケットからもう1枚コインを取り出す時間もない。松野は爆弾は御坂に任せて初春をかばおうと初春に前にいるために能力を使うことは頭になく、今からでは間に合わない。御坂があきらめかけた時、目の前に人影が入り込んだ。





「見つけた!!!」

通路を全力で駆け抜け、みんなを蓮が見つけたのは人形と初春たちの間に御坂が入ろうとしているときだった。御坂が行くなら大丈夫。安心した蓮は少しペースを落とす。しかしその時、御坂がコインを取り落すのが目に入った。

「ちぃ……!!!!!!」

御坂の対処が間に合わないと判断した蓮はただ走るのをやめ、炎のブースターを全開にして、ぎりぎりで御坂と爆弾の間へ。急なダッシュとブレーキに耐え切れず脇腹の傷に痛みが走るが無視。その時にはもう爆弾は爆発寸前であり、人形は原型をとどめないほどにくしゃくしゃ収縮して歪んでいた。そのタイミングで思い出される佐天と初春との約束。

『……もう絶対にこんな無茶しないでくださいね?私たちの前からいなくなったりしないでくださいね?』
『……約束して。もう自分を犠牲にしてまで人を助けようとしないって。約束して……!!』
(ようは俺も含め全員無事に帰ればいいんだろ!!!)

蓮が覚悟を決めた瞬間に爆弾が轟音とともに爆発した。それとともに蓮は演算を開始。前と同じ方法で炎をそらし、体を固定する。

「っつうおおおおおおお!!!」
「神谷くん!!!」
「神谷さん!!!!」

後ろで御坂と初春が叫んでいるが返事をしている余裕はない。炎をそらし、炎の一部を爆発に向かって噴射するような流れの炎として操って壁にして飛んでくる瓦礫を防ぐという方法を今回はとった。一瞬はそれで持ちこたえられたがしかし、いくらなんでも割り込むのがギリギリすぎた。

「つっ……!!!!」

壁の炎の勢いが足りずに大きな瓦礫が防ぎきれなくなり、細かく砕くところまでしかできずに蓮にぶつかる。そのうちの1つが蓮の脇腹に直撃。あまりの痛みに一瞬思考が止まる。

(しまった、演算がとまって……!!)
「下がれ!!!」

蓮の能力が止まり、爆発が蓮たちに到達する直前、大声とともに蓮の前に御坂といた男の人が入り込み、右手を爆発に向かって突き出した。すると炎は男の手に当たった瞬間に打ち消され、後ろの蓮たちには当たることなく過ぎ去っていく。そしてそのまま男は右手一本で爆発を防ぎきってしまった。

「危なかった~~……!!」
「お、おい!大丈夫か!?」

爆発が収まり、痛みに顔をしかめながら床に倒れこんだ蓮に男が声をかける。

「まあ、なんとか大丈夫ですよ……。そんなことよりはやく行かないとまた御坂さんに絡まれるんじゃないですか?」
「それはそうだけど……ほんとに大丈夫か?」
「どうせアンチスキルの治療班が治療してくれますし、約束があるんでまだ死ねないですよ。」
「なら、いいんだけど……。げ、こっち来る。じゃあもう行くな」
「はい。ほんとに助かりました。ありがとうございました。」

男は片手を上げて蓮の言葉に答えながら去っていく。それを見送る前に初春たちの様子を見に行っていた御坂が初春たちを連れて駆け寄ってくる。

「神谷くん!大丈夫!?」
「神谷さん!!!」
「大丈夫ですから落ち着いてくださいよ……」

心配そうに声をかけてくる御坂と初春を落ち着かせて蓮は無理やり笑顔を作る。

「助かったよ、神谷。もうだめかと思った。」
「いや、俺だけの……」
「お兄ちゃん!かっこよかったよ!!!」
「……そっか、ありがとな。御坂さん、佐天に犯人かもっていう怪しい人を探して尾行してもらってます。お願いしていいですか?」
「わかったわ。初春さん、松野くん。神谷くんのことよろしくね。」

どうやら蓮以外の人の介入に気づいていない様子の松野や少女の言葉にもはや訂正する元気もない蓮は御坂に佐天のことを任せる。そして、御坂がその場を後にした直後にアンチスキルが到着し、蓮は治療と事情聴取のためにアンチスキルの、治療もできる構造の護送車に運ばれた。





「ふう……なんとかなった……」

アンチスキルの治療によって傷は包帯で巻かれ、痛み止めや薬によって止血されてなんとか動けるようになった蓮は護送車から降りて軽く伸びをし、体の痛みに顔をしかめる。開きかけた傷は止血されているので一応日常生活には支障はないはずなのだが。とそこで佐天が遠くから駆け寄ってくるのを蓮は見つける。

「神谷ーー!!」
「おう、佐天。どうだった?」
「犯人捕まえたよ!御坂さんと白井さんが来てくれて!」
「そっか。ありがとな、佐天。これで事件解決……っと電話だ。」

佐天は駆け寄ってくると蓮に向かって笑顔でVサイン。自分も初春たちと同じく役に立てたのが嬉しいのだろう。蓮はその様子を見てほっとし、お礼を言う。照れたように佐天がはにかみ、蓮がそんな佐天を笑顔で見ていると蓮の携帯が着信を知らせた。画面に表示されたのは『木山先生』の文字。

「もしもし、先生ですか?」
『神谷か?ちょっと今から話があるんだが。』
「今からですか?いまちょっと死にかけた直後なんですけど……」
『グラビトン事件の犯人。彼はレベル2とバンクには記載されている。』
「は……?」

木山の話を断ろうとした蓮だが、木山のその言葉に間抜けな声を出してしまう。

「ありえない……。だってあの威力、レベル4並でしたよ……?」
『それにお前の周りにもいるだろう?明らかに不自然な急成長をした能力者が』
「……なにか知ってるんですか?」
『知りたかったらこっちに来てくれ。こちらで話す。』
「はぁ……わかりましたよ。今行きます。」

ため息をつき、木山のもとへ行くことを了承した蓮は佐天に先に帰ると告げて、そのことを爆発現場にいる白井のもとに向かった初春達にも伝えてもらえるように頼んでから木山の研究所に向かう。これまでずっと感じていたレベルと能力の矛盾を知れることを期待して。





「失礼します。」
「ずいぶんひどくやられたようだね。」
「だから帰りたかったんですよ……。で、さっきの電話、どういうことですか?」
「まあそういうな。とりあえずそれを見てくれ。」

間もなく木山の研究所に到着した蓮は顔を不機嫌そうにゆがめながらソファに座り、デスクのパソコンに向かっている木山に聞く。それに直接は答えずに木山はパソコンから目をそらし、テーブルの上を指さした。

「んっと……音楽プレイヤー……ですか?」
「中身の音楽は聞かない方がいい。高レベルの能力者が聞くとどうなるか分かったものではないからね。」

そこに置いてあったのは音楽プレイヤー。イヤホンで中の音楽を確認しようとした蓮にくぎを刺し、木山は蓮の向かいのソファに座る。

「レベルアッパー。聞いたことくらいはあるんじゃないか?」
「……まさかこれがそうだと?」

蓮の言葉に木山はうなづいて肯定の意を示す。

「そんなもの、なんで先生が持ってるんですか。」

蓮の声色が固いのは信じたくないからだろう。レベルを苦労してあげた蓮としては正直あってほしくはないものである。その蓮の気持ちに気づいている木山はため息をつき、蓮に説明を始める。

「この音楽を聴くことによって使用者の能力が向上するのは単なる副作用だ。音による共感覚性を利用し、使用者の脳をつないでいる。」
「……つまり、他の同系統の能力の人の能力の使い方を無意識に感じれるから能力が向上すると。でもなんでそんなこと……?」
「つないだ脳の集約点は私の頭なんだよ。この脳のネットワークを広げていけば、ツリーダイヤグラムを超える演算処理が行える。」

理屈を把握した蓮は納得したようにうなづく。詳しい研究内容はわからないが蓮でも納得できる内容だった。それに、この方法を使えば蓮のやりたいこと。願いがかなう。

「この方法を使えばみんなを助けるためのシミュレーションが行える……!!」
「そうだ。そこで神谷。君にはこのレベルアッパーを広めるのを手伝ってほしい。」

木山の言葉に一瞬複雑そうな表情を見せた蓮だがすぐにうなづく。願いを、目的を果たすためならば自分の感情など些細なことに思わなくてはいけない。

「……いいのか?神谷の苦労を、これまでを完全に否定するものだということはわかっているし無理はしなくてもいいが……」
「問題ないです。それにあいつらがいない時点で俺の過去なんて意味のないものですから。」

蓮はそう言って音楽プレイヤーを握りしめる。その様子を見て木山は少し顔を苦しげに歪めると話を続ける。

「ほかに副作用の類も一切ない。これから手伝ってくれるな?」
「……はい。」
「神谷にはレベルアッパーの取引の場に行ってもらう。レベルアッパーをほしがる人は私がさがしてくるからそのつもりでいてくれ。それから、このことはなるべく周りの人には話さないようにな。ジャッジメントにばれると厄介なことになる。」
「わかりました。誰にも言わないですよ。」

蓮の表情は硬いが、はっきりと返事をする。その後とりあえず今日はこれで帰って明日以降から手伝ってもらうということを木山が告げる。こうして蓮は木山の手伝いと称してレベルアッパーの仲介人として動くこととなる。蓮が出ていくのを木山は感情の見えない無表情で見送った。





「げっ……待ち伏せ……」

次の日、蓮は自販機の陰からとある男の前に姿を現していた。隣には御坂。向かいから鼻歌を歌いながら歩いてきたのは上条当麻。セブンスミストでみんなを救った人物であり、御坂と河川敷で喧嘩していた人物でもある。名前は蓮は先ほど御坂から聞いていた。苦々しい表情でつぶやく上条に蓮は頭を下げる。

「今回は本当に助かりました。ありがとうございます、上条当麻さん。」
「なんで俺の名前しって……ってビリビリから聞いたのか。いや、お前が時間稼いでくれたからだよ。助かった。えーっと……」
「神谷です。神谷蓮。」
「そっか。ありがとな、神谷。」

気さくにいう上条に蓮はもう1ど深々と頭を下げてから顔を上げる。蓮としてはお礼が言いたかっただけなのでこれでいいのだが御坂が来た理由がまだ果たせていない。御坂はビリビリ呼ばわりされたのに文句を言いたいのを何とかこらえ話に入る。

「……名乗り出ないの?」
「は?」
「みんなを助けたのは俺ってことになってるんです。」
「そういうこと。名乗り出ればあんたヒーローよ?」

御坂の言葉にきょとんとした上条に蓮が補足を入れる。それで納得いったのか上条は口を開く。

「何言ってんだ?」
「「え?」」

今度は蓮と御坂がきょとんとする番だった。そんなに変なことを言ったつもりもないのでそう返されるとは予想していなかった。そんな2人を見て上条はあきれたように続ける。

「誰が助けたかなんてどうでもいいだろ。みんな無事ならそれでいいじゃねーか。」

心からそう思っているのだろう表情でそういうと、上条は蓮にじゃーなと言ってから鼻歌を再開して歩いていく。その後ろ姿を2人はただただ見ていることしかできない。

「なんていうかすごいな……。あんなこと心から思える人なんてなかなかいない……って御坂さん?なんで足を上げてるんですか?」
「……すかしてんじゃねええええええ!!!」
「あぶなっ……!?み、御坂さん?」

蓮が感心したように上条についてそう言っていると御坂が突然叫び、きれいな回し蹴りを自動販売機に炸裂させた。前髪をかすった蹴りに戦慄しつつ蓮は御坂に呼びかけるが効果なし。

「思いっきりかっこつけて……!!!しかも私にだけだあ!?む!か!つ!く!!!」
「御坂さん!落ち着いて!!警備ロボ来てるから!つかまっちゃうから!!」

イラつきのままに自販機を蹴る御坂を止めて逃げ出しつつ蓮は上条について思う。いつかあの人にかかわる日が来る。そんな予感がしていた。


 
 

 
後書き
今回あまりうまく書けませんでした
こんな文章ですが感想よろしくお願いします 
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