遊戯王デュエルモンスターズ ~風神竜の輝き~
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第2章 風神竜と謎の男
第9話 風神竜の帰還
翌日、遊雅はいつもと変わらないように登校した。
クラスメート達といつも通りの挨拶を交わし、自分の席につく。
そこで、遊雅に挨拶をしようと彼の顔を見た亜璃沙は、ある異変に気付いた。
「おはよう、遊雅。……あれっ?どうしたの?それ」
「ん?あぁ、これか。まぁ、昨日ちょっと色々あってな」
「ふーん……そう。気をつけなさいね」
彼女が気付いたのは、遊雅の頬の絆創膏。
昨夜、あの謎の男の襲撃の時に地面にこすって出来た傷をかばうための物だ。
「遊雅、怪我したの?大丈夫?」
後ろから遊雅の顔を覗き込むようにして話しかけて来たのは秋弥だった。
「おう。大した事ないぜ。ただの擦り傷だからな」
「そっか。気をつけてね、遊雅」
「ああ、ありがとよ」
間もなく、授業が開始する。
それに集中しつつも遊雅は、時々あの男の事を考えていた。
◇◆◇◆◇◆◇
放課後、遊雅と亜璃沙は楠田の元を訪れていた。
理由は勿論、《フレスヴェルク・ドラゴン》の事を聞くためだ。
「それで、先生。フレスヴェルクはどうでしたか?」
「ああ。昨日言った知り合いに見てもらったんだが……やはり、見覚えはないそうだ」
「そうですか……」
2人の落胆した様子を見た楠田は、続いてこのように告げた。
「しかし、まだ可能性はある。この後、デュエル・モンスターズ協会にあのカードを持って行く予定だ。協会が用意したデュエル・ディスクで、《フレスヴェルク・ドラゴン》の動作試験をするためにな」
「本当ですか?」
「ああ。それをパスすれば、晴れて公式大会での使用も可能との事だ。君のディスクで読み込んだならば、協会が用意した物でも大丈夫だろう」
「よかった……あっ、じゃあすみませんが、この2枚もお願いしてもいいですか?」
そして遊雅は、自分のデッキケースから《風神竜の復活》と《風神竜の弔い》を取り出して、楠田に手渡した。
「なるほど、《フレスヴェルク・ドラゴン》のサポートカードか。確かにこの2枚も試験を受けておいた方がいいだろうな。受け取っておこう」
「ありがとうございます。それじゃあ、よろしくお願いします」
楠田に深々と頭を下げてから、遊雅と亜璃沙は学校を後にした。
今日は楠田がデュエル・モンスターズ協会に赴くため、部活は休みとなっている。
竜兵と海堂はおろか、秋弥も用事があるとの事で先に下校していた。
まだ桜が咲き誇る通学路を、2人で並んで歩く。
そんな時に亜璃沙は、朝からずっと抱いていた疑問を、遊雅にぶつけた。
「ねぇ、遊雅。その傷の事だけど」
「傷?……あぁ、これか。どうした?」
「それ、さ……どうして、ついたの?」
「どうしてって……転んだだけだよ。それがどうかしたか?」
「転んで頬だけに傷がつくはずないじゃない。どんな転び方したのよ」
「いや、それは……」
確かにそう言われれば、もっともな話だった。
転んで頬が傷つくには、顔が地面にこすれなければならない。
自分で躓いて転んだとすればまず先に地面に手が突くのは必然で、顔に傷がつく可能性は限りなく低い。
亜璃沙が指摘するのはそう言う事だろう。
「誰かに、何かされたの?」
遊雅は何も答えられなかった。
そして同時に、彼女の目はどう足掻いても誤魔化せないと再認識した。
幼い頃からずっと一緒だった彼女が、彼の変化を見逃すはずがなかったのだ。
外見の変化も、そして、心境の変化も。
「できれば、心配かけたくなかったんだけどな」
前置きとしてそう述べてから、遊雅は昨夜の一幕の全貌を、亜璃沙に話して聞かせた。
「昨日、お前と別れた後にさ、妙な男に襲われたんだ」
「襲われたって……!?」
「落ち着け。暴力をふるわれたわけじゃない。ただそいつは、俺の《フレスヴェルク・ドラゴン》の事を知っていて、あのカードを渡せ、ってデュエルを挑んで来たんだ」
「デュエルを……それに、《フレスヴェルク・ドラゴン》の事を知っていたって……あのカードの事を知っている人は限られているはずじゃ……」
「そう。だから俺も不思議だったんだ。奴は何者で、どうしてフレスヴェルクの事を知っているのか」
「それで……その傷は?」
「あいつとのデュエルで、モンスターの直接攻撃を食らった時に、後ろに吹き飛ばされたんだ。その時についた」
亜璃沙は手で口元を押さえながら驚く。
「攻撃で傷ついたって……ソリッドビジョンじゃないの?」
「落ち着けって。何もモンスターの攻撃でついたわけじゃない。攻撃の衝撃で吹き飛ばされた時に、地面にこすれてついたんだよ」
「それにしたっておかしいじゃない!ソリッドビジョンシステムの適用化では、現実の地面や壁にぶつかった衝撃もある程度緩和されるはずでしょ?」
やはり鋭いな、と内心彼女を賞賛しながら、遊雅は続けた。
「確かにおかしい。あいつの攻撃を受けて、俺はどう言うわけか体に重々しさを感じた。まるで本当に、生身の存在から突き飛ばされたように、確かな痛みを感じた」
「そんな……大丈夫なの?」
「ああ。一晩寝れば大分楽になった。心配はいらねーよ」
「心配するに決まってるじゃない!そんな危険な目に遭ったんなら、尚更……!」
必死に言葉を並べる亜璃沙の肩に優しく手を置いて、遊雅はそれを宥めた。
「心配すんなって。危ないと思ったら真っ先に逃げるから」
「けど……遊雅にもしもの事があったら……」
「大丈夫だ。俺はそんな簡単に大怪我したりしない。小さい頃から一緒にいるんだから、俺が丈夫な事ぐらい知ってるだろ?」
亜璃沙はしばし無言で遊雅の目を見つめる。
まっすぐに自分の目を見つめ返す遊雅の様子に安心したのか、亜璃沙は妥協点を提示した。
「……分かったわ。それじゃあ、最後に1つだけ。何かあった時、私に隠す事はやめて」
「ああ、悪かったよ。今度からは何かあっても隠したりしない。ただ、心配はかけたくないから、お前に何か聞かれた時だけ答える事にする。それでいいか?」
「……うん。分かった」
頷いた亜璃沙と共に、遊雅はまた歩き出した。
◇◆◇◆◇◆◇
翌日の放課後。
遊雅、亜璃沙、秋弥はデュエル部の部室を訪れた。
楠田の用事も済んだ為、今日からは普通に部活が再開されるのだ。
そして遊雅としては、その用事について真っ先に聞きたい所だった。
3人の後に部室を訪れた楠田に、遊雅はすぐさま声をかけた。
「お疲れ様です、先生。それで、その……」
「やぁ、3人とも。ああ、分かっているさ。《フレスヴェルク・ドラゴン》の結果だが……」
楠田は少しの間を空けてから、満を持してこう宣言した。
「問題なしだ!これで晴れて、《フレスヴェルク・ドラゴン》と2枚の魔法カードは、公式大会でも使用する事ができるぞ!」
「本当ですか!?おっしゃあ!やったぜ!」
「よかったわね、遊雅」
「やったね、遊雅!」
「嬉しすぎるぜ!おい秋弥、先輩達来るまでデュエルしようぜ!早速フレスヴェルクと一緒に戦いたいんだ!」
「うん、いいよ!」
「よし、それじゃあこいつを返しておこう」
遊雅は、楠田に預けておいた3枚のカードを受けとった。
「お帰り、相棒。またよろしく頼むぜ」
そしてそのように言葉をかけてから、自分のデッキに3枚のカードを加え、デュエル・ディスクにセットする。
それから遊雅と秋弥は、デュエルスペースに移動した。
「それじゃあ始めるぜ、秋弥!」
「うん、いつでもいいよ!」
2人はそれぞれのデュエル・ディスクを起動する。
お互いに5枚の手札をドローした所で――
「「デュエル!!」」
――2人のデュエリストは同時に宣戦布告する。
「んじゃ、先攻はもらうぜ!俺は手札から《こけコッコ》を特殊召喚!お互いのフィールドにモンスターがいない場合、レベルは3になる!」
ボールのように丸く、愛らしい姿の鶏のようなモンスターが現れる。
「更に、《バード・マスター》を召喚!効果により、デッキから《クラスターズ・ファルコン》を手札に加えるぜ!」
鋭い目つきで、背中に黒い翼が生えた鳥人は、現れると同時に手に持った角笛を吹き始める。
「まだまだ行くぜ!レベル4の《バード・マスター》に、レベル3の《こけコッコ》をチューニングだ!」
《こけコッコ》は甲高い鳴き声と同時に、光の輪に変化する。
空中に舞い上がった3つの光の輪を、漆黒の翼を翻し飛び立った《バード・マスター》が潜り抜ける。
最後の1つを潜り抜けた所で、《バード・マスター》の姿は激しい旋風に包まれ消えてしまった。
「勇敢なる戦士よ、大いなる風の意思を感じ、己が力とせよ!」
風を纏いし騎士を呼び出しながら、遊雅はカードをデュエル・ディスクにセットする。
「シンクロ召喚!現れろ、《風纏う騎士 デルフォイア》!!」
《バード・マスター》を包み込んでいた旋風が、凄まじい風圧を伴いながら飛散する。
そしてその場に現れたのは、純白の鎧に身を包み、凛々しい顔立ちで立ちはだかる者を見据える、勇敢な騎士の姿だった。
その長い髪は、常に風に吹かれているかのように、微かに揺らめいている。
「すごい……これが遊雅の、新しいモンスター……!」
「そして俺は、リバースカードを1枚セットしてターンエンドだ!」
「僕のターン、ドロー!僕は《ジュラック・ヴェロー》を召喚!」
フィールド上に、青い手足、黄緑色の胴体、赤い頭、なんともカラフルな色合いの二足歩行の恐竜が姿を現した。
《ジュラック・ヴェロー》
☆☆☆☆ 炎属性
ATK/1700 DEF/1000
【恐竜族・効果】
自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1700以下の『ジュラック』と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。
「そして、リバースカードを1枚セットして、ターンエンド!」
「俺のターン、ドロー!」
遊雅はドローカードを確認する。
「よし、俺は《クラスターズ・ファルコン》を召喚!効果により、更にもう1体の《クラスターズ・ファルコン》も召喚だ!」
《風纏う騎士 デルフォイア》の両隣に、エメラルドグリーンの羽毛が美しい巨大な鳥のモンスターが、1体ずつ現れた。
「バトルだ!《風纏う騎士 デルフォイア》で、《ジュラック・ヴェロー》を攻撃!オラージュ・スラスト!!」
《風纏う騎士 デルフォイア》が、右手の剣に自らの左手をかざし、鍔から剣先にかけて徐々になぞっていく。
剣先までなぞり終えた瞬間に、剣は激しい旋風を帯びた。
それを下段に構えた状態で、デルフォイアは《ジュラック・ヴェロー》に向かって疾駆する。
一瞬の内に標的との距離を詰めたデルフォイアは、そのまま得物を標的に向けて素早く突き出す。
《ジュラック・ヴェロー》は、竜巻にも引けをとらない風圧で回転しながら吹き飛ばされてしまった。
天藤 秋弥
LP/4000→LP/3100
「更に、デルフォイアの効果を発動!戦闘でモンスターを破壊した時、そのモンスター以下のレベルを持つ風属性モンスターを、手札か墓地から特殊召喚できる!この効果で、墓地から《バード・マスター》を特殊召喚!」
《風纏う騎士 デルフォイア》が、自分の剣を地面に突き刺し、それに両手をかざして何かを唱え始める。
すると、剣を中心に光が広がり、その光の中から、《バード・マスター》が姿を現した。
「更に、《バード・マスター》の効果で、デッキから《霞の谷の戦士》を手札に加える!」
「あっという間に、遊雅のフィールドに4体のモンスターが……!」
「それじゃあ、僕もモンスター効果を発動させてもらうよ。《ジュラック・ヴェロー》は戦闘破壊された時、デッキから攻撃力1700以下の新たなジュラックを特殊召喚できる!来い!《ジュラック・プロトプス》!!」
赤と青の対照的な色合いの恐竜モンスターが現れる。
《ジュラック・プロトプス》
☆☆☆☆ 炎属性
ATK/1700 DEF/1200
【恐竜族・効果】
このカードの攻撃力は相手フィールド上のモンスターの数×100ポイントアップする。
「《ジュラック・プロトプス》は、相手フィールド上のモンスター1体につき、100ポイント攻撃力をアップするよ!」
《ジュラック・プロトプス》
ATK/1700→ATK/2100
「攻撃力2100か……デルフォイア以外のモンスターじゃ太刀打ちできないな。ターンエンドだ」
「僕のターン、ドロー!」
ドローカードを確認した秋弥は、不適な、しかしどこか愛らしさがある、そんな笑みを浮かべた。
「遊雅、お待ちかねのもう1体のシンクロジュラックを見せてあげるよ!僕は《ジュラック・デイノ》を召喚!」
現れたのは、オレンジ色と黄色の体で、腹に何やら顔のような模様がある小型の恐竜だった。
《ジュラック・デイノ》
☆☆☆ 炎属性
ATK/1700 DEF/800
【恐竜族・チューナー】
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時に1度だけ、自分フィールド上の『ジュラック』と名のついたモンスター1体をリリースして発動できる。
デッキからカードを2枚ドローする。
「そして、レベル4の《ジュラック・プロトプス》に、レベル3の《ジュラック・デイノ》をチューニング!」
《ジュラック・デイノ》が、3つの光の輪に変化する。
その3つの輪の中を、《ジュラック・プロトプス》は4本の足で地を鳴らしながら力強く駆け抜けると、足元から吹き上がった巨大な火柱に包み込まれてしまった。
「轟炎纏いし太古の支配者よ、今その本能に則り、立ちふさがる者を喰らい尽くせ!シンクロ召喚!レベル7、《ジュラック・ギガノト》!!」
火柱が収まった時にそこに立っていたのは、先程の四足歩行の恐竜ではなく、強靭な下半身と鋭い鉤爪を持つ、真っ青な体で二足歩行の恐竜だった。
《ジュラック・ギガノト》
☆☆☆☆☆☆☆ 炎属性
ATK/2100 DEF/1800
【恐竜族・シンクロ/効果】
チューナー+チューナー以外の恐竜族モンスター1体以上
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上の『ジュラック』と名のついたモンスターの攻撃力は、自分の墓地の『ジュラック』と名のついたモンスターの数×200ポイントアップする。
「すっげぇ……これがもう1体のシンクロモンスターか!」
「驚くのはまだ早いよ!《ジュラック・ギガノト》は、自分の墓地のジュラック1体につき、自分のジュラックの攻撃力を200ポイントアップさせる!僕の墓地のジュラックは3体、よって、ギガノトの攻撃力は600ポイントアップだ!」
《ジュラック・ギガノト》
ATK/2100→ATK/2700
「なっ、攻撃力2700……!?」
「バトル!《ジュラック・ギガノト》で、《風纏う騎士 デルフォイア》を攻撃!ダッシュ・インパクト・チャージ!!」
《ジュラック・ギガノト》が、その強靭な足腰を活かした素晴らしいスプリントで、《風纏う騎士 デルフォイア》に迫る。
「そうは行かない!リバースカード《大旋風》発動!鳥獣族が2体以上いる時、攻撃を無効にするぜ!」
「悪いけどそれは読んでるよ!カウンター罠発動!《魔宮の賄賂》!」
《魔宮の賄賂》
カウンター罠カード
相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。
相手はデッキからカードを1枚ドローする。
「なにっ!?」
「《大旋風》の発動を無効にして破壊!そして、《ジュラック・ギガノト》の攻撃は止まらないよ!」
《ジュラック・ギガノト》の全力の突進が、《風纏う騎士 デルフォイア》に襲い掛かる。
重い鎧で身を固めているはずの騎士が、その体を宙に舞わせて、そのまま消滅してしまう。
「デルフォイア!?」
南雲 遊雅
LP/4000→LP/3900
「《魔宮の賄賂》の効果で、遊雅はカードを1枚ドローしていいよ」
効果に従って、遊雅はデッキからカードを1枚ドローする。
「僕はリバースカードを1枚セットして、ターンエンド!」
「へっ、やるな秋弥!まさか1ターンでデルフォイアがやられるとは思わなかったぜ!俺のターン、ドロー!」
お互いに1歩も譲らない攻防戦。
果たしてこの激しい戦いを制し、勝利を掴むのはどちらのデュエリストなのだろうか。
後書き
すみません、ちょっと色々やらなきゃいけない事が重なってしまっているので、次の話の投稿は少し先になってしまいます。
2、3週間を目処にお待ちください。申し訳ありません。
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