美しき異形達
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第三十四話 湖のほとりでその十二
「今からね」
「ああ、そうする」
「言われなくてもな」
これが彼等の返事だった。
「今から出る」
「そして貴様等を倒す」
「ああ、出て来なよ」
薊はあえて挑発的な声で応えた。
「倒してやるよ」
「威勢がいいな」
「随分好戦的だな」
「あたしは特に戦いが好きじゃないんだよ」
薊はそれは否定した、自分が好戦的と言われると。
「ただ、降りかかる火の粉はな」
「払うんだな」
「そうした考えなんだな」
「そうだよ、喧嘩は売らない主義なんだよ」
そうだというのだ、実際に薊はそうである。
「ただ、売られた喧嘩はな」
「買うっていうんだな」
「それは」
「何でも売られたら買うよ」
喧嘩に限らず、というのだ。
「だからだよ」
「そうか、それじゃあな」
「喧嘩じゃないがな」
「戦いを売ってやる」
「そして買ってもらうか」
こう言ってだ、そのうえでだった。
怪人達が湖から出て来た、その怪人達はというと。
右の怪人は鮫だった、そして左側の怪人は鰐だった。薊は左右に並んでいるその怪人達を見てそのうえでこう言った。
「どっちも。何かな」
「ええ、湖にいるにはね」
「しかも日本のな」
裕香に応えて言うのだった。
「違うよな」
「鮫は湖にはいないし」
「鰐は日本にいないしな」
「お水の中にいてもね」
「そうともばかり言えないわ」
菖蒲がいぶかしむ二人に答えた。
「鮫も時々淡水に入ったりするわ」
「あっ、そうなんだな」
「淡水性の鮫もいるしね」
「鮫っていっても色々なんだな」
「そうよ、それに鰐もね」
この生物もというのだ。
「有史以前はいたわ」
「それってそれこそ大昔の話だな」
「そうよ、大昔よ」
まさにというのだ、菖蒲にしても。
「ナウマンゾウがいた頃、それかね」
「もっと前か」
「そう、だからね」
それでというのだ。
「鰐も日本にいたのよ」
「だから別にか」
「ここで出て来てもおかしくはないわ」
琵琶湖に鮫や鰐の怪人達が出て来てもというのだ。
「特にね」
「そうなんだな」
「そっちの女は特にだな」
鮫の怪人が菖蒲に顔を向けて言った。
「頭がいいな」
「そう思うのね」
「俺達のことを知ってるからな」
それで、というのだ。
「それもよくな」
「それでなのね」
「ああ、ただな」
「知っていてもというのね」
「俺達に勝てるかどうかは別だろ」
こう言うのだった、自信に満ちた声で。
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