空の騎士達
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第六章
第六章
「さあ司令」
最後の車に司令が乗り込む。幕僚達もその周りにいる。
「我々ももう」
「わかった。それでは頼むぞ」
「はい」
運転手がそれに応える。彼等は今トラックに乗り込んでいく。所々で爆発が起こり廃墟になっていく基地を後にして。
「西に入ったらな」
「ええ」
司令はトラックの後ろに乗りながら幕僚達に話をしている。彼等はそれを聞いている。
「降伏するぞ、いいな」
「降伏ですか」
「そうだ、それでいいな」
「わかりました」
幕僚達は力ない声でそれに頷いた。
「今は生きるんだ、いいな」
「何があってもですか」
「彼等にも言った」
あの七人に言ったことを今伝えた。
「生きろとな」
「命あっての物種ってことですか」
幕僚の一人が硬い表情で尋ねてきた。その顔には疲れと諦めの色が濃く現われていた。
「まずはそれで生き延びて」
「そうだ、それしかない」
彼はその幕僚にもあえて言い聞かす。
「まずはな。生きるんだ、いいな」
「了解」
「生き残ったらどうしますか?」
「話はそれからだな」
彼は沈んではいるがはっきrとした声でこう述べた。
「何もかも」
「そうですか」
「とにかく生きろと」
「いいな、絶対に死ぬな」
またその言葉を繰り返す。
「この有様が悔しいのならな。余計に」
「そうですね。それじゃあ何があっても生きてやりますよ」
幕僚の中で最も若い者がこう述べた。
「イワンもヤンキーも見返す時が何時か来ますから」
「俺達が駄目なら俺達の子供や孫がね」
別の幕僚がそれに合わせて言った。
「やってくれますからね。だから」
「そうだ、わかったな」
「了解」
「生きてやりますよ」
「うん、頼むぞ。私の最後の命令だ」
そう言ったところで車が発進した。今彼等は生き残り、次の戦いの為に撤退をはじめたのであった。
七人は空を駆っていた。アルトマンを軸としてブーメラン形の陣を組んでいる。それは本来のドイツ軍の飛行陣形であるダイアモンドとは違っていたが彼等は意には介していなかった。
「なあ」
その中でシュトラウスが口を開いてきた。
「そろそろだよな、イワンが出て来るのは」
「ああ、そうだな」
それにブラウベルグが応える。
「下にいるな、多分」
「そうか、じゃあ」
「ああ、発見次第急降下を仕掛ける。後は」
「いつも通りだな」
「そういうことだ」
アルトマンは仲間達にそう述べた。
「司令は生きて帰れって言ってるがな」
「百機だろ?楽勝だろ」
ハイトゥングにホイゼナッハが声をかけてきた。
「そんなのイワンとの戦争だったらざらだったじゃねえか。スターリングラードでもそうだったろ」
「まあな」
ホイザナッハに言われてそれに頷いた。
「じゃあ腹括ったな」
「よし」
ハイトゥングはあらためて応えてきた。
「来たぜ」
そしてクルーデンが皆に言ってきた。
「下だ、丁度真下だ」
「あれか」
皆それを聞いて下を見る。そこにはソ連軍の戦闘機達がいた。
「確かにな。あれだ」
「へっ、もう敵がいないと思って我が物顔だぜ」
ヘンドリックはそれを見て口の端を歪めて述べた。
「調子に乗ってくれてるな」
「いいじゃねえか。今のうちだぜ」
クルーデンがそれに言う。
「今すぐドイツの空から叩き落してやるからよ」
「しかもこっちはジェット機だ。やれる」
ホイザナッハも言う。
「じゃあいいな。おい」
ブラウベルグがアルトマンに声をかけてきた。
「仕掛けるな」
「ああ、皆このまま急降下だ」
アルトマンは他の六人に対してそう言った。
「それでいいな」
「異論はないさ」
「それが一番だからな」
「じゃあな」
彼は仲間達の声を聞き頷いた。そして彼がまず機首を下げてきた。
「行くぞ!」
「ああ!」
それに続いて六機のメッサーシュミットが続く。
「これで最後だ!」
「イワン共、勝ち戦だからって調子に乗るんじゃねえぞ!」
七人の騎士が今空から襲い掛かる。ソ連軍が彼等に気付いた時にはもう手遅れであった。
「上空に敵機!」
「何っ、まだいたのか!」
指揮官はそれを聞いて驚きの声をあげた。
「何処だ!」
「上です、真上!」
「クッ、散開しろ!」
彼はとりあえずはそれを命じた。
「そして一撃目をやり過ごせ!いいな!」
「だ、駄目です!」
だがその命令に対する返答は絶望的なものであった。
「ま、間に合わな・・・・・・うわあっ!」
「コルチャコワ!」
だが返事はなかった。コルチャコワと呼ばれたパイロットの乗ったヤクは炎に包まれ大地へ落ちていく。それと同時に七機のメッサーシュミットがその槍で敵を屠りながら姿を現わした。
「ジェット機!」
「よりによって262か!」
「イワン共、地獄に送ってやるぜ!」
七人はドイツ語でこう彼等に言った。
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