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空の騎士達

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第五章


第五章

 ハイトゥングの予想は当たった。その日から二日後彼等は基地司令から作戦の報告を受けていた。
「そうですか、遂に」
「そうだ」
 基地司令であるノッヘンバック中将はアルトマンの言葉に応えていた。見ればそこには七人のパイロットが集まっていた。クルーデンとホイゼナッハも二日前の酒を抜いてそこにいた。
「おそらくこれが最後の出撃になる」
「はい」
 七人のパイロットはその言葉に頷いた。
「出撃して帰る場所はここではない」
「じゃあ何処ですか?」
 ホイゼナッハがそれに問うた。
「ここじゃないっていうと」
「西だ」
 司令はこう答えた。
「西ですか」
「そうだ。諸君等も戦闘が終わったら西に向かえ。いいな」
「それで西の基地に入れってことですか」
 今度はクルーデンが問うた。
「基地は放棄ですか?」
「うむ。諸君等が出撃した後はな。我々も西へ向けて後退する」
 司令は硬い顔と声で言う。そこから感情を窺い知ることはできない。
「わかったな。それでは」
「はい」
 アルトマンがそれに応える。
「わかりました。ではそういうことで」
「うむ、頼むぞ」
「それで司令」 
 今度はブラウベルグが尋ねた。
「俺達の攻撃目標は何ですか?戦闘機ですか?攻撃機ですか?」
「戦闘機だ」
 それに対する司令の返事はこうであった。
「ヤクですか」
「そうだ。今のところ連合軍の機体は来てはいない」
「それが救いですかね」
 シュトラウスは連合軍の機体がいないということを聞いてまずは安心したようであった。
「イワンの機体とパイロットならね。まだ楽ですよ」
「数を聞いてそれが言えるかな」
 だが司令はそんな彼に対してこう述べた。
「何機なんですか?」
「百機だ」
 司令は言った。
「数で十三倍、どうだ」
「まあ大した数じゃないですね」
 だがそれには誰も驚かなかった。ブラウベルグなぞはわざと軽い調子でそう述べた。
「レシプロでしょう?相手は」
「まあな」
「それにイワンのパイロットなんて下手糞揃いじゃないですか。怖くとも何ともないですよ」
「そう思うのか?」
「だから生きてきたんですよ、今まで」
 今のブラウベルグの言葉にはシニカルの他に自信もあった。むしろそちらの方が強いとさえ言えた。それが言葉から見て取れた。
「違いますか?」
「では数は問題ないのか」
「そういうことです。イワンが相手なら何機でもね」
「そうか。では多くは言わん」
 司令はそれを聞いてここは彼等に任せることにした。そしてまた述べた。
「では出撃だ。それでいいな」
「了解」
 ホイザナッハがそれに応えた。
「じゃあ後は任せて下さい」
「ここはドイツですからね」
 グルーデンも言った。
「イワンの好きにはさせませんよ」
「そうでありたかったな、最後まで」
 だがそれに対する司令の言葉は寂しいものであった。
「全く。こんなことになってしまうとは」
「言っても仕方ありませんよ」
 今度はヘンドリックが言う。
「今更何を言ってもね」
「そうか」
 その言葉は司令を落胆させるには充分であった。だが彼はそれでも述べた。
「しかしだ」
「ええ」
 七人はそれに応える。
「最後の最後まで戦うのがな。ドイツ人だ」
「そういうことですね」
 シュトラウスの目が光った。
「じゃあ行って来ます。最後の一弾までね」
「頼むぞ。ただしだ」
「ただし!?」
「誰も死ぬな」
 これが司令の最後の願いであった。
「いいな、最後まで生き残るんだ」
「これでルフトバッフェは終わりなんじゃ」
 ハイトゥングがそれに問う。
「もうこれで」
「それでもだ」
 だが司令はそれでも彼等に対して言う。
「生きろ。また戦う時が来るかも知れない」
「わかりました」
 七人はそれに頷く。そしてアルトマンは言った。
「けれど司令」
「何だ?」
「今度戦争する時は」
「ああ」
 司令は彼の話に耳を傾ける。アルトマンも話を続ける。
「イワンにもヤンキーにも。誰にもドイツの空は自由に飛ばせませんよ」
「そうだな」
 司令は彼のその言葉に頷いた。
「きっとそうしよう。では」
「ええ」
 七人は一斉に立ち上がり敬礼を司令に送る。
「出撃します」
「健闘を祈る」
 彼等は互いに敬礼した。ドイツ式の敬礼であった。それは確かにナチスの敬礼である。だがそこにあるのは。紛れもないドイツの心であった。
 そのドイツの心を持つ七人の騎士が大空に旅立った。基地の者達はそれを見届けるとすぐに慌しく撤退の準備に取り掛かった。
「おい、急げ」
「アルトマン少佐達が戦っている間に退くぞ」
「ああ」
 彼等は口々に言い合い車に乗っていく。機器は破壊し滑走路はダイナマイトで壊し使えなくした。そうしてから撤退していくのであった。

 
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