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SWORD ART ONLINE ―穿つ浸食の双刀―

作者:黒翼
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13:暗闇を払う者

 
前書き

リズ編完結っ!!!······次はヒロイン(オウカ)編かな。全く関連性を感じませんが、ALO編から少し書き方を変えていこうと考えております。視点とかは基本ハリン視点ですが。
 

 


ギャリィン!!

落下する中で体勢を立て直し、右手に持った愛刀――――《フレイム・シン》を壁に突き刺す。

「くそっ······止まれよっ、止まってくれっ······!!」

そんな事など微動だにせず、スピードは上がるばかり。このままでは――――。

「うぁっ······!?」

愛刀が悲鳴を上げる中、僕の手は寒さからか感覚を無くし、柄を握っていた手がほどかれる。これは······まさかまさか――――

「ああぁぁぁぁぁぁっ!?」

そのまさか。先程よりも速い落下、Gがかかるとはこの事なのだろうか。

ズドンッ!!!!

仰向けの状態で着地――と言うよりは着弾の方が正しい気がする――し、空を仰ぐ。そのついでにHPバーも視野に入れてみるが、一秒毎に減っていく量が尋常ではない。

何とか残り四割程度の所で減少は止まる。途中で速度を落とさなければどうなっていた事かとひやひやした。

「よい······しょっと······!!」

そのまま埋もれておく訳にもいかないので、何とか自力で這い上がる。こればかりは惨めだとか言われるのは理不尽だろう。

「これ、飲んどけよ······一応」

「ん······ありがと」

漸く念願の地上に這い出たところで、キリトとリズベットを発見する。

キリトの残存体力は一割程度、リズベットは四割弱と言ったところだろうか。キリトの行動が項をなしたのは言うまでもない。

「しかし、ここからどう脱出しようか······救援が来そうでもないし······」

「結晶を使えばいいじゃない。······転移、リンダース!!」

真剣に考える僕を尻目に、普段通りの行動を取るリズベット。当然結晶は反応を見せない。それもその筈だ。態々(わざわざ)こんな大穴を作っておいて、「転移したら帰れます」などという楽な脱出方法は用意しないだろう。

「あ、じゃあ俺からも一個提案。壁を走って登る」

かなり真剣な顔でそう提案するキリトに対して、僕は失礼だと思いつつも脳内で《馬鹿》という単語が通り過ぎた。

「······馬鹿?」

リズベットはそう声を漏らす。まさか考えが一緒だとは。仲良くなれそうだ。まぁ、ここで「あなた僕と気が合いますね。仲良くしましょう」などと言える度胸は持ち合わせていないが。相手がリズベットでなければ言えたかもしれない。

「馬鹿かどうか試してみるか······ふっ······!!」

顎に指を当てる推理ポーズを無駄に繰り出してからそのポーズを解き、キリトは軽く助走をつける。

次いで大きく跳躍。そのままみるみる姿が遠くなる。

「うっそぉ······」

リズベットが驚くのも可笑しくはない。これにはさすがにキリトと同等以上の実力を持つ僕でさえ驚嘆の声を禁じ得ないのだから。

「うわあぁぁぁぁぁぁっ!?」

「あ、落ちた」

四分の一程度を登ったところで、キリトが足を滑らせて一瞬空中でし静止。当然だが直後に高速落下。等速直線運動の練習だろうか。いやいや有り得ない。

「······も、もう少し助走距離があれば行けたんだよ······」

「んな訳ねー······」

必死に言い訳をするキリトにリズベットが冷静なツッコミで対応する。やっぱり気が合うと思ったのは余談だ。


* * * * *


「何かさ、変だよね······初めて来た場所で、初めて会った人と、いきなり一夜を過ごす事になるなんて」

「そうか?」

キリトが何故か常備していた寝袋に身を包み、瞼を閉じて微睡みに落ちる寸前、キリトとリズベットの声が聞こえる。意識が覚醒してしまった。

(どうせ寝れないし、趣味が悪いけど盗み聞きでもさせてもらおうかな。起こした側にも非があるし)

自己解釈で無理矢理納得し、聞き耳を立てる。残念ながら聞き耳スキルは取っていないので、音量によっては聞き取れないが。

「ねぇキリト、訊いていい?」

「何だよ、改まって」

ゴソゴソ、という音を立ててリズベットが少し身を起こす。正確には身を起こしている気がする。

「何であの時、私を助けたの······?」

ごもっともな質問だ。通常、こんな悪趣味なデスゲームの中で、《自分が死ぬ危険》を侵してまで人を助ける善良な心の持ち主などいない。この世界では自分第一が基本なのだ。

「誰かを見殺しにするくらいなら、一緒に死んだ方がマシだ······!!」

一つ間を開ける。

「それがリズみたいな女の子なら尚更だ」

今僕の脳内では、ある一つの疑問が渦巻いている。それは別にキリトの優しさの理由でも何でもなく――――

――――「一緒に死んだ方がマシ」って、心中するつもりだったのかよ!?

なる、確実に場違いな物であった。

「······馬鹿だね、ホント。そんな奴他にいないわよ」

「はは、かもな」

掠れた笑いを漏らすキリトだが、裏ではもっと真剣なのだろう。過去にキリトと僕は、小規模のギルド――名を《月夜の黒猫団》という――を破滅に導き、メンバー全員を殺してしまっている。······この過去については、おいおい話そう。

《大切な人が死ぬ》事に非常にデリケートになってしまったキリトだからこそ、身を(てい)して人を助ける何て事が出来たのだろう。

(キリト、君は強い。死の恐怖に怯える僕では、そこまで出来ないよ。嗚呼、なさけないな······)

ハリンとキリト。

対象を比較して見えてくるのは、言うまでもなく異常に異なる人物像。僕とキリトでは、当然と言って良い程キリトが勝っている。改めて自分の弱さを痛感する。嫌と言う程に。

「ねぇ、キリト······手、握って······?」

「······ああ」

リズベットの差し出した手に重ねるようにキリトも手を差し出す。それはさながら恋人のようだ。

「キリトの手、あったかいね······仮想世界だから、温度なんて感じない筈なのに······」

「リズ······」

――――仮想世界であっても、人の温かみは感じられる。

おそらくキリトはそう思ったのだと憶測を立てる。それでもキリトは、リズベットの言葉に返事をする事が出来なかった――――


* * * * *


「んんーっ······!!」

翌朝、設定していたアラームが鳴り響く少し前に起床し、大きく伸びをする。直後に鳴ったアラーム一瞬で止め、昨夜の仮説の基行動を開始する。

「おはようハリン。随分と早いな」

「キリトこそ、僕の中では寝坊助で昼頃まで起きてこないイメージがあったんだけど」

「どんなイメージだよ」

他愛のない会話。これが平和な日常、とは言い難いだろう。何しろデスゲームの中なのだから。

「で、キリトは何か目的でも?」

「ん、ああ、ちょっとここら辺でも掘ろうかなって」

なるほど、つまり僕と同じ仮説を立てたと。

《ドラゴンは水晶を生きる糧とし、お腹の中で金属を生成する》か······。つまり、金属とはドラゴンの中から外に出されたもの。簡単に言えば排泄物だ。汚いが。

「んん······んー、よく寝たぁ······」

数分後にリズベットも起床。「何をしている」と質問されたので、キリトが見付けた金属を差し出す。本当は触りたくなかった。

「あ、これ、金属······!!けど、どうして?」

「ドラゴンは水晶をかじり、腹の中で金属を生成する、って言ってただろ?つまりそれは、ドラゴンの排泄物だ。ンコだ。ついで言うと、ここはドラゴンの巣。夜帰って来なかったのは、たぶん夜行性だったんだろうな」

リズベットはキリトと金属を数回交互に見た後に、悲鳴を上げて金属をキリト投げる。

「ま、何はともあれ目的は達成だな」

キリトはそれを微動だにせずキャッチし、ストレージに収納。リズベットは自身の手を苦い顔をしながら見ていたのは言うまでもない。

「······ねぇ、あんた今、ここはドラゴンの巣とも、夜行性とも言ったわよね?······って事は······」

意図せずしてリズベットの言わんとする言葉を悟った僕は、遥か頭上を見上げて青ざめる。

身体中を覆うのは神秘的な色の水晶。こちらを覗く瞳は(あか)。立派に伸びた羽根。間違いない、あれは《クリスタライト・ドラゴン》だ。

「来たぁ!?」

真っ先に声を上げたのはリズベットだった。気圧されるように後退し、様子を伺うリズベットの行動は懸命だ。

「はぁっ!!」

キリトは剣を抜刀し、地に向けて振り回す。それだけで雪の煙が巻き起こり、僕達の姿を隠す。

「なるほど、そういう事かっ······よし!」

リズベットを抱えて壁を登るキリトを捉え、僕も続くように反対側の壁を駆け上がる。次いで《フレイム・シン》を抜刀。

(だいぶガタが来てる······帰ったら研磨を依頼するから、もう少しだけ耐えてくれっ······!!)

「リズっ、掴まってろよっ!!」

「おぉぉっ!!」

キリトと僕は一秒の狂いもなく同時にバク宙をし、クリスタライト・ドラゴンの背に剣を突き立てる。

「ゴォアァァァァァッ!?」

悲鳴を上げ、再び跳躍を開始するクリスタライト・ドラゴン。風圧でミシミシと軋む《フレイム・シン》を見て顔をしかめる。

「出口だっ!!」

微妙に楽しそうな表情を浮かべるキリトに若干の呆れを覚えつつ、先を見据える。後少し――――

「――――あぁぁぁぁぁぁっ!?」

クリスタライト・ドラゴンが反転し、その勢いで剣が背中から抜ける。《フレイム・シン》の美しかった刀身には若干亀裂が走っているため、かなり痛々しく見える。

(······戻ったら、すぐ研磨するよ)

そう語りかけるが、当然返事はない。求めてもいない。

「キリトーっ、私ねぇーっ、キリトの事ーっ、好きーっ!!」

「何だってっ!?聞こえないよーっ!!」

「何でもなーいっ!!」

隣で繰り広げられるリア充的光景から目を背けるように、もう一度剣に語りかけたのは言うまでもない。


* * * * *


「じゃあ、片手長剣でいいのよね?」

「ああ、頼む」

僕達はあの後結晶を使用してリンダースに帰還し、リズベット武具店まで徒歩で来ていた。戻って直ぐに工房内に招かれ、入手した金属を差し出す。

「いよいよかぁ······金属入手にこんなにかかるなんて、結構鬼畜だよね、茅場さんも」

流石にそう呟かずにはいられなかった。しかし、この経験は滅多に出来ないだろう。

(······今度から僕も寝具を常備しておこう)

そう思う。まぁ、どうでもいいのだが。

――――キン、キン。

金属を叩く音が響く。一回。二回。三回。

それぞれに確かな思いを乗せて、懸命に叩く。回数は一桁に止まらず、二桁を越える。

四八回、四九回、五十回――――

「――――おぉぉ······」

ジャスト五十回のところで、ひしゃげた金属が真紅のエフェクトを放ち始める。武器製作を初めて見た僕とキリトは感嘆の声を漏らす。

形は段々と片手長剣のそれに姿を変えていき、やがて一振りの片手長剣が姿を現れる。純白に近く、しかしそれは薄い(みどり)を足したかのような鮮やかな色。途方もなく美しいフォルムだ。

「名前は《ダークリパルサー》。······《暗闇を払う者》ってところかしら。私が初耳って事は、情報屋のメーカーには載ってない筈よ。試してみて。」

リズベットからキリトに純白の(つるぎ)が手渡される。重みを確かめるかのように数回上下させ、スキルを発動。

「······重いな、いい剣だ」

「ホント!?やった······!!」

キリトの一言に、渾身の笑みすら浮かべるリズベット。ああ、もしかしたら彼女もキリトの事が――――

「――――ねぇ、キリト。代金はいいから、これから私をあんたの専属スミスにして?これから毎日ここに来て、剣のメンテナンスをさせて······?」

「それって······」

リズベットが思いを伝えようと「私······」と言い始めたところで、バンッ、と勢いよく扉が開かれる。

「リズッ!!」

飛び込んできたのは、栗色のロングヘア。赤と白が縁取る服は、ギルド《血盟騎士団》の団服。間違いなく《閃光》のアスナだ。

当然その介入に驚きを隠せないリズベットであるが、次いで驚きの声を上げたのはアスナだった。キリトがいるから。

「······ああ、俺とアスナ、それにハリンは攻略組なんだ」

そしてこのネタばらしである。長い間引っ掛かっていた物の謎が解けた時のような表情を浮かべるリズベットに軽く同情の視線を送る。並んで立つキリトとアスナはまるで夫婦のようで――――

「ごめん、仕入れの約束思い出しちゃった!!三人で留守番宜しくっ!!」

リズベットが店を出る。一瞬涙が溢れたのを見逃さなかった。

「キリト、リズベットの所に行け。たぶんこの階層の何処かだ」

「······分かった」

僕の真剣な眼差しから何かを感じ取ったキリトは店を後にし、リズベットを追い掛ける。

――――後に聞いた話しによると、リズベットは小さな川の近くで泣いていたらしい。それは失恋の涙だと悟った僕だが、キリトには分からなかったらしい。その後で、リズベットは今までの中で最大級の笑みを浮かべたそうな。

 
 

 
後書き

今思ったけど《心中》って本来の意味は「相思相愛の仲にある男女が双方の一致した意思により一緒に自殺する事」なんだよなぁ······これしか思い付かなかったとは言え、選択ミスったか?(汗)

ともあれ、リズベット編はこれで幕降ろしとなります。次回からはうちのメインヒロインである《オウカ》のエピソードに入ります。こちらは四話構成予定。では、次回もお楽しみに。
 
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