SWORD ART ONLINE ―穿つ浸食の双刀―
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12:水晶の龍
「くしっ!······」
少女――――リズベットの小さなくしゃみがその場に響く。
降り止まない大雪の轟音と夥しい程の冷気を纏った風邪が耳を支配する。それだけでも回れ右して帰りたくなる衝動を抑え、第五十五層の西にある山を進む。
「予備の服とか持ってきてないのか?」
「五十五層が氷雪地帯とか知らなかったのよ······さむ······」
両手で肩を揺するリズベットを見ると僕も寒くなってくる、という訳でもない。潜ってきた修羅場の数を考えれば、どうって事もないだろう。
(これよりもっと酷い場所に軽装で丸二日潜ってた事もあるし······寒さを感じないなぁ······)
あの時の経験を思い出すと今でも身震いしてしまうのは否めない。······いけない、つい無駄な話をしてしまった。
「これでも羽織っとけよ」
そう言い、キリトは昔使用していたらしいコートをリズベットに投げ渡す。相変わらず無愛想だが、優しさはある。その優しさが仇となる日が来ない事を祈ろう。
「温かい······」
リズベットは投げ渡されたコートに素早く身を包むと、そう呟く。それは一体、どんな意味を持っているのだろうか――――僕はそれを知る止しもない。
* * * * *
「わぁっ······!!」
驚き半分、喜び半分程度の割合と思われる声を漏らし、リズベットは目の前に広がる光景を目に焼き付ける。
山の頂上に、無数の水晶が連なるように立つ。
それ等は降り積もった雪や僅かに差し込む光によってより一層神秘的美しさを増している。
「ストップ」
水晶目掛けて走り出さんとするリズベットの二の腕を、僕の腕で掴んで止める。
「ちょ、何すんのよ······!?」
若干の苛立ちを隠さずに振り向くリズベットに対し、冷静かつ険しい表情でキリトが口を開く。
「いいか、ここから先は何が起こるか分からない。ボスが出てきたら、俺が良いって言うまであそこの影に隠れててくれ」
「はぁ?私だってマスタースミスなんだから戦え「駄目だッ!」っ······!?」
キリトの真剣さが伝わったか、はたまた説得が項を成したのかは不明だが、リズベットは気圧されたように頷く。
キリトは説得を受け入れてくれたリズベットの頭にぽんぽん、と手を置くと歩き出す。
――――嗚呼、あの動作が女性を惚れさせるんだな。
一瞬関係のない事を考えてしまうが、雪降る山の強風と共に遠くに流す。
「ゴアァァァァッ!!!」
数分経ったところで、目的のドラゴンとおぼしき竜がこちらに向かって飛翔してくる。名は《クリスタライト・ドラゴン》。
「キリト、来たぞッ!!」
「ああ······行くぞ、ハリン!!」
クリスタライト・ドラゴンが一際高い水晶の塊の頂点に着地したのを合図に、僕とキリトはそれぞれの愛刀を抜刀する。
「おぉぉぉっ!!!」
僕は連なる水晶を足場に次々とジャンプ、クリスタライト・ドラゴンに最も近い水晶で大きく跳躍する。
「《鳳凰斬翔》ッ!!!」
刀スキル六連撃技、《鳳凰斬翔》。飛翔する鳳凰の如く華麗に、かつ力強い深紅の斬撃がクリスタライト・ドラゴンを襲う。
「ゴアァァァッ!?」
「せあぁぁぁっ!!」
それに続くかの如くキリトがソードスキルを発動し、クリスタライト・ドラゴンの腕を切断する。
「よしよし、この調子で行けばっ······!!」
空中でガッツポーズを浮かべつつ振り返った瞬間、僕は驚愕に見舞われる。
(······何で物陰から出てきているんだっ、隠れておいてくれと言った筈だぞ、リズベットっ······!!!)
メイスを両手で握り締め、呆然と立ち尽くすリズベット。それを見逃す程相手も落ちぶれてはいないだろう。
「ガアァァァァァァッ!!!!」
「うあわっ、嘘っ······きゃあぁぁぁぁっ!!!」
クリスタライト・ドラゴンのブレス攻撃が放たれ、リズベットはなすすべもなく後方に位置する大きな穴に落とされる。
「リズッ!!!」
それに光の速さで追い付き、リズベットを抱き締めるキリト。体勢を自分が下に来るようにし、そのまま落下する。
「くそっ、結局こうなるのかっ······キリト、リズベットッ!!!」
それに続いて僕も穴に飛び降りる。
(頼むっ、二人共無事でいてくれっ······!!!)
恐ろしい程に冷えた空気と恐怖感が僕を支配するなか、僕は微かな希望を捨てずにそう願った。
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