イリス ~罪火に朽ちる花と虹~
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Interview12 オトギノヒブン -Historia of “Tales”-
「偶然じゃなく必然なら」
インタビューを終えてクランスピア社を出てから、ルドガーはレイアと共に、イリスを呼び出した。リドウが語った「魂の橋」の真実を確かめるために。
レイアに陰侍していたイリスは、紫の立体球形陣を結んで現れて、告げた。
「本当よ。『カナンの地』に渡るためには、我らクルスニクの中でも特に強い血統者の死が必要。ミラさまがそうお定めになったらしいわ。詳しい経緯はイリスも知らないけれど」
この時になってルドガーはようやく、ヴェリウスとシャドウに観せられた夢の内容を思い出した。
忙しさに紛れて忘れた己を殴りたかった。ルドガーはとっくに知っていたのに。
「ルドガー、探そ!」
「レイア?」
「『魂の橋』以外のやり方。リドウさんはルドガーの骸殻を偶然の産物じゃないみたいに言った。偶然じゃなくて、ルドガーの存在が歴史の必然なら。何かあるはずだよ。見つけられるはずだよ。クルスニクの人たちを犠牲にしないで『橋』を架けるやり方!」
揺れるパロットグリーンの瞳は、それでも希望を探すんだ、と強い決意を宿して。
「――そうだな。当事者の俺がうかうかしてちゃいけないよな。やろう」
「それでこそルドガーだよ」
レイアがルドガーの両手を持ち上げて握った。他でもないレイアの手の感触に少しは動揺したルドガーだが、そう浸ってもいられない。
「イリスも……手伝ってくれるか?」
「イリスが教えてあげられるのは、審判開始から番犬に封印されるまでの1000年間だけ。それでもいいなら、いくらでも、起きたこと経験したことを話してあげる」
「ありがとう。――じゃあ一端、マンションに戻ろう。作戦会議だ」
残念ながらイリスの昔語りからは、「魂の橋」以外の方法を探した先祖が失敗した話しか聞けなかった。
なので、ルドガーとレイアは、イリスが封印されていた1000年間に有効打がないかを探すため、トリグラフにあるエレンピオス国立図書館に通い始めた。
(何でもいい。イリス視点じゃ分からなかったこと。何かないのか!)
閲覧室でルドガーが読んでいるのは『クルスニク年代記』。一年前までは、精霊信仰のための偽書というのが世間の認識だった。しかし、リーゼ・マクシアの出現と精霊の実在により、内容の再検証が始まった。
書体が詩であるのが厄介だが、紐解けば2000年前の様子が垣間見える。
今のルドガーには五体投地して拝みたい書である。
「魂の橋」についてはジュードたちにも話した。彼らは当然のように、別の方法探しに協力してくれた。
ジュードはヘリオボーグ研究所職員の立場を使って、過去の精霊学実験のデータを閲覧検索。
ローエンとエリーゼは六家の、ガイアスは部族の伝承をそれぞれ洗っている。
アルヴィンは実家のネームバリューを利用して、エレンピオスで有名な歴史学者巡りを敢行中だ。いずれリーゼ・マクシアの古い語り部なども、ユルゲンス経由で訪問する予定だとか。
――ページを繰っていると、マナーモードにしていたGHSが鳴動した。
着信の相手は、ノヴァ。
ルドガーはレイアに断り、閲覧室を出てから電話に出た。
『うう……助けて、ルドガー、ヘルプミー』
「また借金関係か?」
『それが……差し押さえの相手が、すっっっごい怖い人なんだよ~! 水が5秒でお湯になる勢いで睨んでくるしっ!』
「それでも取り立てるのが銀行員の仕事だろ。俺にしてるみたいに強気で行けよ」
『ムリムリムリ! 今度だけだから! 助けて~』
ルドガーは長く溜息をついた。こういうところで「お人好し」を発揮してしまう自分自身に対して。
「――場所、どこだ」
『ディールだけど。来てくれるの!? マジ!?』
「今から行く。駅で待ってろ」
『やったー!』
電話を切って、閲覧室に戻った。
いまだ文献とにらめっこしているレイアの隣の席に座り直す。
「電話、ノヴァさん? 取り立て?」
「正解。今回に限り、俺じゃなく別件。相手が怖いから助けてくれって」
「行くの?」
「まあ……」
そこで二度、GHSが鳴動した。着信の相手は、ヴェル。
ルドガーは、今度は断りを入れず、閲覧室を出てから電話に出た。
『分史対策室です。「道標」存在確率:高の分史世界を探知しました。捜索をお願いします。場所はディールです』
「ディール?」
『? 何か』
「いや、さすが双子。さっきノヴァからディールに来いって要請受けたとこだったからさ」
『言っておきますがルドガー様、クルスニクに関係することは』
「他言無用、だろ。分かってるよ。今から向かう」
電話を切る。
(『道標』があるならエルも呼ばないと。エルが来るならエリーゼも来るな。レイアには残って、イリスと一緒に調査続けてもらおうかと思ったけど。この分だと結局、全員集合になりそうだな)
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