戦国異伝
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第百九十話 龍王山の戦いその十
「御主達はそれぞれの兵をまとめてじゃ」
「そうして、ですな」
「このまま」
「うむ、退く」
龍王山からというのだ。
「後は織田の出方次第じゃ」
「して父上」
ここで隆景が言って来た。
「下がるにしてもです」
「何処まで下がるか、じゃな」
「はい、おそらく織田は高松城を攻めるでしょう」
備中の要衝であるその城をというのだ、この城が陥ちればそれで備中は織田家のものとなると言っていい。
それがわかっているからだ、隆景も父に問うたのである。
「あの城が陥ちれば」
「あの城は大軍でもおいそれとは陥ちぬがな」
元春は高松城の攻め難さを言った。
「例え織田が二十万いてもな」
「はい、しかしです」
「織田家ならばか」
「どの城にも弱みがあります」
それ故にというのだ。
「例え高松城といえど」
「少なくとも囲まれることは避けられぬ」
隆元はこのことは、とここで言った。
「それだけでも大きい」
「そうじゃ、囲まれることは間違いない」
元就は嫡男のその言葉を入れた。
「そして囲まれればな」
「そこで、ですか」
「高松城といえど」
「陥ちる、しかしな」
「しかし、ですか」
「それでもですか」
「そうじゃ、そこでじゃ」
囲まれ陥ちようとするそこでだというのだ。
「どうするかじゃ」
「我等が、ですか」
「そしてそれもまた」
「毛利が生き残るかどうかじゃ」
そうした戦になるというのだ。
「次の戦もな」
「家を守ることは大変なことですな」
元春が難しい顔で言うのだった、父の言葉を聞いて。
「敵を倒し勢力を拡げることもでしたが」
「毛利は生き残る為に戦をしてきた」
元就は息子達が生まれる前からのことをここで話した、彼の若い頃はまだ毛利は安芸の小さな豪族に過ぎなかった。
だがそこで戦い生き抜いて今に至る、その頃からのことをここで言うのだった。
「そして今度もな」
「家を守る、ですか」
「そうした戦ですか」
「そうじゃ」
その通りだと言う元就だった。
「ここはな」
「断じて、ですか」
「高松城を攻め落とさせませぬか」
「何としようとも」
「そうしますか」
「そうじゃ」
その正念場の戦のことをだ、ここで言うのだった。
「そうするぞ」
「では高松城の兵達も」
「そして清水宗春も」
「殺させぬ」
それもまた当然だというのだ。
「必ずな」
「では、ですか」
「一旦退き」
「体勢を立て直し」
「傷付いた兵達は助けよ」
毛利のその兵達は、というのだ。
「一兵たりとも見捨てるな、よいな」
「畏まりました、それでは」
「誰一人として」
見捨てぬとだ、息子達も答えた。そうしてだった。
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