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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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無印編
  第三十八話 別れ

 俺の魔術の話も終わり、一旦皆が喉を潤し、一息をつく。

「次はプレシア女史にお尋ねしたいのですけど」

 そして次にフェイトとプレシアの話になった。

「何かしら? あと女史はいらないわよ」
「ならプレシアさん、アルハザードがあるという確証は得たのかしら」

 リンディさんの質問だが、確かにこれは疑問である。
 これが魔術師なら根源、この世界でいうならアルハザードの存在を知っているのは当たり前だ。
 だが魔導師にとってはアルハザードという存在自体がお伽噺というのが常識なのだ。
 そのお伽噺に挑むというのだからそれなりの確証がないと無謀としかいえない。

「確証はあったわ。
 ただアルハザードの正確な座標などは観測出来なかった。
 あったのは次元の狭間の中にある魔力の集約された安定した個所が小さいながら存在しているという事だけ」

 次元の狭間の中で存在する安定した場所。

 確かにこの情報ならアルハザードまたはそれに近いものはありそうである。
 だが

「次元の狭間に飛びこんで一体どうやって其処に辿りつく気だったんだ?
 正確な座標もわからない。
 当然あの中でどれだけ自由に動けるかもわからなかったのだろう?」
「あなたの言う通りよ。次元の狭間の中なんて観測はまず不可能。
 次元の狭間を開くだけで途方もない力が必要よ。
 だからこの一回に賭けたというわけよ」

 ……つまりあれか?

「狭間の中にあるどこかに一か八かの賭けで辿りつこうとしたのか?」
「……まあ、端的にいえばね」

 さすがにこの返答はリンディさんもクロノも、その他の面々も予想外だったらしく固まってる。

 あまりにも無謀だろ。
 砂漠の中で一粒の塩を探すのに観測も準備もなく飛び込むようなものだ。
 だが

「それだけアリシアを愛していたという事でもあるのか」
「そうね。
 フェイトの事を気付かせられる前はアリシアしかいないとばかり思っていたから。
 今思えば本当に愚かね」

 自分の言葉に苦笑しながら優しくフェイトの頬に手を添え撫でるプレシア。
 くすぐったそうにでもうれしそうにプレシアの手を受け入れるフェイト。

 だいぶ遠回りしたようだがようやく辿り着いた二人。
 そして、二人を引き裂く事は絶対に許されない。
 もし二人を引き裂くというなら必要なら剣を執る事もあるだろう。

 そんな中

「とても申し訳ないんだが、プレシアとフェイトが一緒にいるのは難しいかもしれない」

 悔しそうに、でもはっきりとクロノがそんな言葉を紡いだ。

「どういうことだ?」
「フェイトとアルフはジュエルシードの使用用途を知らなかったのは証言が取れている。
 プレシア、彼女の命令というのも判明している。
 だがプレシア・テスタロッサの事になると話が変わるんだ」
「彼女、プレシアさんがアルハザードに至るためにジュエルシードを使い次元断層を起こそうとしたという事実。
 それにジュエルシードの危険性もわかっていた。
 その中で失敗したとはいえ中規模程度の次元震を起こした主犯なのは紛れもない事実よ」

 確かに結果的に管理局員にも死者もなかったし、次元断層は防がれた。
 だが管理局にとってのロストロギアを使用し次元震を起こした上、管理局員及び管理局艦船に対する攻撃も事実だ。

「プレシアさんぐらいの魔導師であれば技術協力すれば減刑には出来る。
 でも減刑されても数百年単位の幽閉はされるわ。
 もちろんフェイトさんと会う事なんて出来ない」
「そんなっ!」

 なのはが叫ぶがこの結果は仕方がないだろう。
 だがこの事は俺も予想していたから手もある。

 しかしこの手を使えば俺という存在を管理局に完全に明かすことを意味する。

 そして俺の予想は現実に変わった。
 なら俺がする事は手札をきる事だが、その前に一つ明確にしとかないと悪い事がある。

「リンディさん、俺達の世界は管理局にとってどういう扱いになるんですか?」
「ずいぶんといきなりね。
 士郎君やなのはさんの世界は管理局の中では正式には『第97管理外世界』
 ある一定以上の文化を持つけど、魔法技術がなく魔法の存在を表沙汰にすることは下手な混乱を招きかねないから基本的には不干渉世界よ。
 今回のようにロストロギアが発見、又は落ちたりしなければね。
 勿論この世界での魔法使用も基本的に禁止だし、使う場合は秘匿しないといけないわ」

 なるほど不干渉の世界か。
 これなら俺の手札をきる意味もあるし、無理押しは可能だ。
 息を吐き、意識を交渉用に切り替える。

「時空管理局艦船アースラ艦長、リンディ・ハラオウン提督に海鳴の管理者より要請があるのだが」
「……どのようなものでしょうか?」

 急に言葉を改めた俺に全員が目を丸くする中、リンディさんはゆっくりと口を開いた。

「我が管理地『海鳴』への魔法攻撃、およびジュエルシード捜索の上で海鳴の霊脈に被害が出ている。
 またフェイト・テスタロッサ、使い魔アルフは我が工房にて研究成果を見た可能性があり、その保護者プレシア・テスタロッサにもフェイト・テスタロッサより情報が漏れた可能性が高い。
 魔術師として管理地への攻撃および研究成果の漏洩を容認できない。
 よって両名と使い魔の引き渡しを求める」

 俺の言葉にアースラ中に俺とリンディさんを除く面々の叫び声が響き渡った。




side リンディ

 まさかの言葉だ。

 プレシアさんとフェイトさん、二人を引き離さないために何かしらの手を打ってくるとは思っていたけどこの要請は予想外。

「……霊脈というのが魔導師にとって理解できないのですが、説明を求めても?」
「極端な言い方を言えば大地を流れる自然の魔力の流れ。
 水脈のようなものと考えてもらえばいいだろう。
 もっとも魔術師が管理し、使用する土地は霊脈が豊富でなければ意味がないですが」

 自然に存在する魔力を利用するのは予想外ね。
 そして、士郎君は管理し使用すると言った。
 つまりは街を覆っている結界。
 アレを維持しているのも霊脈の魔力ということね。

「霊脈に被害が出たのなら他の地に移り住むというのは?」
「あの街に流れる霊脈はかなりのモノだ。他の地で同レベルの霊脈を探せるとは思えない。
 仮に移り住んだとしても我が研究を持ちだした可能性があるならば引き渡してもらうという要望は変わらない」

 これが魔法の事だったら管理局が手を貸す事も出来る。
 だけど霊脈を探すなんて完全にお門違い。
 探せるはずがない。
 それに魔術師にとって研究成果とは代々受け継いでいく貴重なモノだ。
 漏洩を容認するはずがない。

「霊脈の被害の修復のために局員を派遣するというのは?」
「断る。研究成果の漏洩の危険が広がるだけだ。
 そして、ジュエルシードの件が終わった今局員の立ち入りも認めない。
 前にも言ったはずだ。
 『魔術師の地に無関係の組織が我が物顔で動かれては面倒にしかならん』と」

 そして、結果としてここに辿りつくのよね。
 他の組織と関わる事が研究成果の漏洩に繋がるとしてあまり良しとしない魔術師側。
 対して私達が知らない魔術という術式と技術の情報がほしい管理局側。

 今現在、魔術師と管理局の繋がりはここ海鳴だけだ。
 もしここで完全に繋がりを断たれれば魔術の技術を知る機会はほぼ完全に失われる事になる。

 かといって力づくで聞き出そうとすれば間違いなく戦闘になる。
 もし戦闘にでもなれば物量では管理局が優位だけど、士郎君がどんな奥の手を持っているか分からないこの状況ではどれだけ被害が出るか予想もつかない。
 さらに魔術には非殺傷設定などないのだから、魔術師との戦闘は被害が魔力ダメージなどではなく人命に関わる。

 さらに海鳴、地球自体が管理外世界。
 そんな強硬な手段はとれない。

「もし引き渡しに同意しない場合は?」
「秘密の漏洩の防止のため口を封じることになる」

 口封じ、つまりは命を奪うという事。
 当然口封じをさせるわけにはいかない。

 つまり今現在私達、管理局が取ることが出来るのは士郎君との妥協点を見出す事。

「最終的に引き渡すにしても裁判後にしていただきたいのですが。
 それと引き渡し後も三人の管理は魔術師側と管理局側で行い、最低限ミッドと海鳴の行き来を許可していただけないでしょうか?」

 ミッドと海鳴の行き来が出来ないと特にプレシアさんの管理局への協力という減刑が受けることが出来ない。

「承知した。
 たが三人に魔術や私の研究とそれにに関する質問は一切禁じる」
「はい。
 ですが、この場合裁判の証言台に立っていただく事があるかもしれませんが、それは同意していただけますか?」

 魔術の質問が禁止された今、私達が海鳴に到着するまでの間の報告と上層部が聞きたいであろう魔術に関する質問を受けてもらう必要がある。

「同意しよう」

 士郎君の言葉を最後に続く沈黙。

 そして

「……こんなものですかね?」
「そうね。この交渉なら十分だわ」
「「「「「「「……はい?」」」」」」」

 お互い頷き合う士郎君と私に目を丸くするクロノ達。
 あら? 気が付いてなかったみたいね。

「艦長、もしかして今のって?」
「簡単な演技だけど事実よ。
 エイミィ、徹夜明けで悪いんだけど眠る前に今の交渉内容と結果まとめておいてね」
「う、了解です」

 エイミィには申し訳ないけどもう少し頑張ってもらいましょう。
 形だけでも交渉をしたという事実とこちらが妥協点を探すしかないという現状をアピールするためにも、こういうやり取りは必要なのよね。

 クロノはこの流れは予想してなかったのか机に突っ伏している。
 この子もまだまだね。

「でも士郎、いいの?」
「なにがだ?」

 心配そうな表情で士郎君を見つめるフェイトさん。

「だって私と母さんが一緒にいるために士郎の魔術がばれちゃうかもしれないんだよ」
「どうせ、協力者として大なり小なり存在はばれるんだ。
 魔術に関してはクロノ達がうまくごまかしてくれるさ。
 なあ、クロノ」
「あ~、もう好きにしてくれ」

 完全にダウンしたわね。

「本当に感謝しきれないわね」
「二人が共にいられるように協力はするさ」
「私も出来る事なら何でもするよ」
「ありがとう。士郎、なのは」

 うれしそうに士郎君に頭を下げるプレシアさんに、笑い合う士郎君となのはさんとフェイトさん

 とりあえずのプレシアさんとフェイトさんの裁判に関する心配事はなくなったわね。
 あとは裁判本番で私達がうまく立ち回ればいい。
 それと士郎君の魔術についても多少情報を整理しとかないと。
 真実のまま報告すれば下手をすれば士郎君自身がロストロギアになりかねないもの。

 そのためにデータまとめとかいろいろ忙しいけど、私ももうひと頑張りね。




side 士郎

 午後に裁判に使うための証言資料をまとめるために個別に少し質問をしたいという事で一旦解散になった。
 そして、食堂を後にした時にプレシアに呼びとめられた。

 俺と二人だけと要望なのでなのは達と別れ、プレシアと二人で俺の部屋に戻る。

「貴方にお願いがあるの?」
「なんだ? 出来る事なら協力するが」
「リンディ提督にもこれから話すつもりなのだけどアリシアの葬儀を行いたいの。
 あの子の葬儀は行っていなかったから」

 だがそれが俺に対するお願いと関係あるとは思えない。
 プレシアもアリシアもミッドの出身のはずだ。
 普通に考えれば葬儀を行うのもミッドになる。
 俺が手伝えるとは思えない。

 そんな疑問を感じながら先を促す。

「葬儀をあの街、海鳴で行いたいのよ」
「それには異論はないが、理由を聞いても」
「私の人造魔導師研究に関する事よ。
 もしこの研究の内容が漏れた時、フェイト程の高い魔力資質を持つ魔導師を造れるアリシアが研究材料にされる可能性があるわ」

 なるほど管理局に属さない犯罪者にとっては確かに研究材料になる。
 俺としてはそれは構わないのだが

「海鳴で葬儀となると火葬になるがそれはいいのか?」

 ミッドがどうかは知らないが、文化によって埋葬の仕方が違う事はよくある。

「構わないわ。あとお墓もこちらに置いてほしいの。
 私達が戻ってくるという誓いのためにも」
「了解した。こちらの知り合いに連絡しておこう」
「ありがとう」

 椅子から立ち上がり部屋を後にするプレシア。
 その直前に

「私もフェイトもアリシアも貴方に救われたわ。
 何かあったら言ってちょうだい。
 例え管理局の敵になっても貴方の味方になるわ」

 そう言い残し部屋を後にした。

「ああ、もしものときにはお願いするよ」

 俺は聞こえるはずのない返事をした。



 そこからは早かった。
 プレシアから頼まれて二日後、アリシアの葬儀が執り行われることになった。

 そして葬儀当日までの二日の間に用意されたものは棺と花とテスタロッサ家と俺となのはの喪服。
 そして、墓を安置することになった俺の家の敷地の裏に墓石を置くスペースを確保し、墓石も用意された。
 ちなみこれらは月村家に要請し至急揃えてもらった。

 で最後にアリシアの服。

 アリシアの洋服の類は時の庭園の崩壊で回収は無理という事でアリシアとプレシアの写真に写っている水色のワンピースを俺が作る事になった。

 エイミィさん曰く
「士郎君ってもしかして本職の人?」
 らしいが断じて違う。



 そして執り行われたアリシアの葬儀

 プレシアの
「私なりのけじめよ。参列してくれるのはアリシアを本当に偲んでくれる人だけでいい」
 との言葉もあり、参列者はテスタロッサ家、ハラオウン家、なのは、エイミィさん、俺と前々日に話をした面々のみ。

 アリシアはフェイトの部屋にあった写真と同じように水色のワンピースとリボンを身につけ、棺の中に横たわっていた。

 それぞれが棺に花を手向け、俺は守り刀と宝石を花と共に棺に納める。

 宝石は魔力は籠っていないし、守り刀も大した概念もない。
 だが彼女が誰かの手によってその眠りを妨げられないように祈りを捧げる。

 そして、プレシアが花を手向け、アリシアの額に口づけをする。
 フェイトも同じように花を手向け、額に口づけをした。

 フェイトにとって言葉をかわすことがなかった姉妹。
 そして、俺達にとっては友達になれたかもしれない存在。

 それぞれが静かに涙を流す。

 何度経験しても誰かのとの別れというのだけは慣れることがない。

 棺の蓋は静かに閉められる。
 そして

「―――同調、開始(トレース・オン)

 棺の下に魔法陣が浮かび上がる。
 円の中に六角形の星がありその角にほそれぞれ円がある。
 そして俺の手に握られる六本の火葬式典の黒鍵

 火葬式典を使えばアリシアの灰すら残らない。
 だがそれがプレシアの願いだった。

 俺はその円に黒鍵を突き立てていく。
 黒鍵が最後の一本になった時

「待って。
 私が…………するわ」

 プレシアが静かに一歩踏み出した。
 俺は黙ってプレシアに黒鍵を渡す。

 黒鍵を持ち魔法陣の前に立つプレシア。
 だがその黒鍵を持つ手は震えている。

 そんなプレシアを支えるように

「母さん」

 フェイトがプレシアの傍に立ち手を重ねる。
 そしてフェイトと共に

「プレシア、あんたがフェイトにしてきた事は許せない。
 でもあんたの気持ち、少しはわかるから」

 アルフが手を重ねた。

「……ありがとう。フェイト、アルフ」

 プレシアは瞳を閉じ、ゆっくりと深呼吸をして

「……おやすみなさい、アリシア」

 黒鍵は突き立てられた。
 三人の手がゆっくりと黒鍵から離れ、一歩下がる。

 黒鍵の刀身が輝き炎が溢れ、魔法陣の中を埋め尽くす。

 魔法陣の中で燃え上がる赤い炎。

 ここにアリシアは本当の眠りについた。 
 

 
後書き
とりあえずは体調ある程度復活。

まだ本調子とはいかないですが、無事更新です。

何事もなければ次回も来週更新します。

ではでは 
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