元虐められっ子の学園生活
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書類上の関係
妹とは、その家族間で自分より後に産まれた女の子を指す言葉である。
小説やライトノベル等では『妹こそ至高』と言った言葉が飛び交い、読んだものをその定石に立たせる。
そもそも
妹とは、何なのか。
兄と呼ぶ女の子がそうなのか、はたまたそれに準ずる何かなのか。
最近では妹属性と言う理解できない単語まで存在している。
ならば、義妹はどうだろうか。
何らかの事項により、書類上にて妹として分類される義妹。
妹と言う漢字がつけば、そこでもう至高の片割れに入ってしまうのだろうか。
こう言った言い方は好まれないだろうが、見ず知らずの者から『お兄様』、『お兄ちゃん』、『兄貴』と呼ばれて喜べるのかと親身になって問いたいところである。
結論を言おう。
俺の目の前にいるこの存在は理解できない。
「初めまして、お兄様」
「…………は?」
突然すまない。
いきなり家に押し掛けてきた女の子は開口一番にそう言った。
こうなった経緯は十分ほど前に遡る。
今日は俺以外のクラスメートは職場見学へ行く日である。
そんな中俺は、婆さんの御参りとして、学校を休んだ。
朝起きて直ぐに礼装に着替え、家中を掃除。
食器棚から何人来るか不確定な程の湯飲みを取りだし、お茶の準備。
そして寺の人が来てくれる奉納として、金一封を封筒へと入れておく。
更に『ご自由にお取りください』と座布団を二山作って邪魔にならないところへ設置して、お供え物を仏壇の前に置いておく。
「…毎年気が滅入るな」
俺は静かに呟き、手を合わせる。
正直に言えば俺は婆さんの関係性を知らない。
毎年数多くの参列者が訪れ、並んで御参りしていく。
中にはたまにテレビで見るような人もチラホラ見えたり、無関係だと思える人も来たりする。
「…何者だったんだよ…婆さんは…」
訳もわからずに苦笑いを浮かべる俺はふぅ、とため息をついた。
”ピンポーン”
感傷に浸って数分後。
不意にインターホンがなり、俺ははっとなって立ち上がる。
しかし、集まりの時間にはまだ一時間ほど早い。
こんなに早く来ると言うことはこの後に用事を持しているのだろうか?
「はい」
俺は玄関へと向かって扉を開く。
その先には黒い服でサングラスを掛けた体格の良い男二人と、その間に挟まれるようにして堂々とする少女の3人。
「…あの、何か?」
余りにも不釣り合いな、その3人の格好に俺は訝しげな視線を送りつつ訪ねた。
「初めまして、お兄様」
「…………は?」
――――と、こう言うことである。
俺をお兄様と呼んだ女の子は屈託の無い笑顔でニコニコし、その後ろでは男二人が石像のように立ち尽くす。
その少女の目には『不安』と『期待』が入り交じっていたのを俺は見逃さなかった。
「……信者勧誘なら他所でやってくれ。
妹属性等を振り撒きたいならそう言った人種が多くいる場所でのみ効果的だ」
俺はそう言って扉を閉めようとして――
「はいこれ」
―――― 一枚の紙を差し出された。
「……養子証明?………鳴滝…陽菜?」
鳴滝は婆さんの…そして俺の名字だ。
鳴滝など、探せば他にも居るだろうが、この地区では俺の所だけだ。
そしてこの女の子…陽菜と名乗った少女は養子証明の用紙を渡してくる。
「……つまり、義妹と言うことになるのか?」
「聞き及んでた通り、鮮明な方ですね」
女の子はそう言って上品に笑う。
このような素行を見せられれば嫌でもわかる。
上流階級の仕草に、庶民にはけして相容れない高そうな服装。
所謂、お嬢様と言う人種なのだろう。
と言うことは、婆さんもまた上流階級の人間で、処暑有名だったのだろう。
そうでなければ有名人がご参列する理由が見当たらない。
「今日来たのはお婆様の御参りと、お兄様をお迎えに来た次第です。
今日の御参りが滞りなく終わりを迎えた後、私とご同行お願いいたします」
……この言い方。
俺の存在が許しがたいとでも言うかの様な言葉…。
「一応、理由を聞こう」
「お父様が是非家に、と」
「はっ…そうじゃないだろう。
お前の家に連れていき、そこで尋問でもするつもりじゃないのか?
例えば…『お前が養子等とは不愉快だ』とかな?」
恐らくは俺が婆さんの養子になったことを知り、その事が何らかの汚名に繋がると踏んだこの娘の親が、俺を呼び出す為の口実にこの娘を寄越したのだろう。
後ろの男二人はその護衛。所謂SPというやつなのだろうと推測できる。
「っ……!
私はそうは思いません。
恐らくお父様はお兄様の人柄を確かめるべく呼び出すのだと、そう思います」
「悪いな。初対面の人間はまず疑うところから入るのが俺なんだ。
気を悪くしないでもらいたい。
…それで、同行だったか?別に良いぞ」
この後は特に予定もないから行く分には問題はないだろう。
最悪、飛び出して徒歩で戻ってこれるしな。
「本当ですか!」
……何故か喜び出す女の子。
全くもって意味がわからない。
午後4時。
婆さんの御参りは終わりを迎え、俺は後片付けを終了させた。
この後は義妹と共にお父様とやらにお目通りしなくてはならない。
「それではお兄様、参りましょう!」
何故か先程から嬉々としてそわそわする義妹。
何がそんなに嬉しいのか良く分からない。
目を見ても『喜び』しか浮かんでいないのだから分かりようがない。
俺は用意されていたリムジンへと乗り込み、隣でチョコンと座る義妹を尻目に目的地へと向かうのだった。
「初めまして、九十九と言います。
この度はお招きいただき、光栄に思います」
豪邸。
表すのならそんな場所だった。
義妹の家とやらに到着して早々に目に入った立派な敷地。
その中央に位置するこれまた立派な屋敷。
出迎えるかのように入り口に立っていた義妹の親と思われる男性と女性に一礼して、俺はそう言った。
「こちらこそ初めまして。
私は鳴滝 隆秀。こちらは妻の香と言います」
掌で指された女性は静かに頭を下げる。
こう言った仕草からも、やはり上流階級の嗜みを感じさせる。
「どうぞ中へ」
そう言って通されたのは…客間……だろうか?
広すぎて感覚が狂いそうだ。
「早速ですが…本題に入らせていただきたい」
無駄にデカイソファに腰を下ろした直後、隆秀さんは話を切り出した。
「私が聞きたいのはただ一つ。
母さんの…鳴滝 陽愛の最後を聞かせていただきたい」
……婆さんの最後……。
俺は酷い疑いを掛けていたのだと、恥ずかしさで一杯になるのを感じた。
「…婆さんは…無くなる直前に、俺の名前をくれました。
『大切な物に命が宿るように…大切になってくれた俺にこの名前をあげるよ』と。
そう言って逝きました」
「……そうか。
母さんから、私達については何も聞いていないのかね?」
「はい。
今日その子が来るまで全く知りませんでした」
「その子じゃありません!陽菜ですわ!」
義妹は胸に手を当ててそう言った。
俺は目線を隆秀さんに戻して話を切り出す。
「俺も、一つ聞きたいことがあります」
「…なんだね?」
「何故…どうして今日だったのか、と。
今まで来なかったのには…まぁ訳は何となく分かります。
だからこそ、何故今日なのかと、そう思いました」
「何故…か。
特に理由は無いんだ。ただ、今日でなくてはならない…そんな気がしたんだ。
気に触ったのなら謝罪する。今まで行かなくてすまなかった」
「いえ、来ないことには特に思うところはありません。
ですが、また後日、仏壇の前で手を合わせて頂ければ、と」
「そうだな…そうしよう。
その時はまた、お邪魔させてもらうよ」
それっきり誰も何も話さず、時間だけが過ぎていった。
振り子時計の秒針の音が、気まずさに拍車をかけて、何故なのか心臓がドクドクと早くなるのを感じる。
俺は、緊張しているのだろうか?
初対面で、それでいて養子の立場にある俺がどうすれば正解なのかと、不安になっているのだろうか?
「お兄様」
ビクッ!と、義妹の突然の声にその場の全員が体を譲る。
「お兄様。…もし宜しければ、お顔を拝見したいと思うのですが…いけませんか?」
俺の顔……そうか。未だにネックウォーマーをしたままだったのか。
俺は無言でネックウォーマーを取り外し、ポケットへと入れる。
長く延びた横髪を耳にかけ、義妹の方へと顔を向けた。
「っ………なんてこと…!」
義妹はショックを受けたようで口許を押さえて目を潤ませた。
「この傷のことなら気にする必要はありません」
「しかしだね!そんな傷を負うなど…余程の事がない限りあり得ないのだよ!?」
「確かに俺のこの傷には、周囲の人間を遠ざけるものがあるでしょう。
しかし、だからと言って俺はそれが嫌だとは思ったこともありません」
別に分かってくれる人が数人いるだけで十分だし。
それに将来に困るような物はあまりないのだから気にしていても始まらないのが本音だ。
「……お父様!」
「……分かった。陽菜の言う通りだ。
直ぐに手続きを済ませよう」
え?何今の会話。
家族間の阿吽の呼吸?わかりません。
その後、会話の事が気がかりだったのだが、
義妹も秀隆さんも教えてくれず、なし崩し的に夕食をご馳走になり、帰宅した。
「それでは、ごきげんよう。お兄様」
別れ際の義妹の言葉が妙に気になったその日の夜だった。
――――翌日。
「お兄様!ふつつかものですが、これから宜しくお願いしますね!」
「ホントにどうしてこうなった…」
翌朝に起きてきたら何故か居た義妹、陽菜に「今日からここに住むことになりました!」と言われて朝から騒がしかったのは言うまでもない。
後書き
オリジナルとして書いてみましたが、どうでしょう?
個人的にはいい線行ってると思いますが、感想等を頂けると幸いです。
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