雪玉
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第二章
第二章
「あいつってな。あれで結構優しいしな」
「いい奴だよな」
「いい奴はいい奴よね」
「そうよね」
女の子達も彼等の言葉に頷いてそれを認める。
「けれどねえ」
「何でああなのかしら」
しかし悪いところも言うのだった。
「何やってもいい加減なところあるし」
「ちゃらんぽらんなのよ」
「その点はあれよね」
ここでさっき数馬にゴミ箱を渡したその少女に顔を向けて言う。
「恵理香とは全然違うわね」
「正反対ね」
「ああいう子って見ていて困るのよ」
その少女葉山恵理香は口を尖らせて一同に言ってきた。見れば制服の着こなしも完璧だ。何処も崩れてはいない。埃一つ付いてはいない。
「放っておけないのよ」
「放っておけないって何か」
「お姉さんみたいなこと言うわね」
「あっ」
周りからそう言われて恵理香は不意に声をあげた。
「どうしたの、急に声あげて」
「何かあったの?」
「いえ、別に」
しかしそれはすぐに引っ込めるのだった。顔を少し赤らめさせて。
「何でもないわ」
「そうなの。驚いたわよ」
「驚いたの。御免なさい」
「不意に声なんてあげるから」
「ねえ」
皆そう言い合う。
「けれど明日は本当に積もりそうね」
「そうね」
彼女達も雪の話をする。窓には相変わらず雪が降っている。廊下の窓から見える雪は静かでしんしんと降っている。その雪を見ての話だった。
「それはね」
「雪合戦かあ」
やはりその話もするのだった。その中でふと一人が言った。
「そういえばね」
「どうしたの?」
「私のお姉ちゃんから聞いた話だけれど」
そう前置きしてから話すのだった。
「お姉ちゃんのお友達で。好きな子がいてね」
「ええ」
「その子にどうしても告白できなくて悩んでいて」
「それでどうしたの?」
恋路のことになるとどうしても気になる年頃だ。皆それを聞かずにはいられなかった。それで必死に話を聞くのだった。彼女の周囲に集まる。その中には恵理香もいる。彼女はこっそりとといった感じで話の中に入っていたのだった。
「雪合戦の時にね。したらしいのよ」
「告白を?」
「そうなの」
そう話す。
「あれ、けれど」
「そうよね」
しかしここで皆気付いた。ある矛盾に。
「その人告白できなかったのよね」
「そうよね、どうしてもって」
今の話を思い出して話すのだった。
「それでどうして告白なんかしたの?」
「どうやって」
「それよ。雪合戦よ」
彼女は言う。
「だからね。雪玉の中に入れていたのよ」
「ラブレターを」
「そう、それをぶつけて告白したのよ」
「成程」
「そういう手段があったのね」
皆それを聞いて納得するのだった。それならば何の問題もない。方法は幾らでもあるのだった。そのことに気付いて納得することしきりだった。恵理香も。
「それならできるわね」
「中々いい方法よね」
「皆そう思うでしょ」
話した彼女もにこりと笑って皆に告げる。やはり恵理香もそれに加わっている。
「だからね。そうして」
「いい方法ね」
「それもかなり」
「だから明日はチャンスかもよ」
彼女はそのにこりとした笑顔のまままた答えた。
「告白したい人にはね」
「そうね、確かに」
「それなら」
「ええ、本当にね」
恵理香はその話を聞いて頷くことしきりだった。見れば彼女が一番強く頷いていた。
「それで行けば。確かに」
「確かにって葉山さん」
「どうしたの?」
「えっ、どうしたのって?」
恵理香は皆に話を振られてまた顔を赤らめさせた。
「急に頷いて」
「何か急に」
「あっ、何でもないわ」
またこう言って誤魔化す。やはりここでもそれは同じだった。
「ただ。そういうやり方があるんだって」
「そうよね。面白いやり方よね」
「確かにね。それだとまず」
「そうでしょ。それで見事成功したらしいわ」
話していたその彼女もここで笑顔で皆に語る。
「完璧にね」
「そうなの。成功したの」
「じゃあ私もやってみようかしら」
「ってあんたもう彼氏いるじゃない」
「その彼氏によ。もっとプッシュしてね」
女の子達も次第に掃除そっちのけで話すようになった。だが恵理香はそれを今度は静かに聞いていた。聞いているうちに彼女は。心の中であることを決意したのだった。
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