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剣の世界で拳を振るう

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確認と確信、そして誤解

アインクラッド攻略の現在の最前線は、第二十五層である。
あれから迅速にとは行かなかったものの、デスゲーム開始宣言から半年の時間が流れた果てに、ようやくクォーターポイントに辿り着いたのだ。
そして現在、俺を含めた攻略組と呼ばれるトッププレイヤー達は、主街区の宿屋にある広めの部屋を利用して、恒例の攻略会議を開いていた。

「今回のフロアボスの情報ですが、名前は<ファフニール>。
ドラゴンタイプのモンスターで、偵察班からの情報によると毒を持つモンスターだそうです」

「毒…か」

ファフニールって有名なドラゴンの一体だったよな。
だったらそれなりに攻略方法とかもあるはずだけど……毒ときたか。

「そして、その体は強固だったそうで、ソードスキルを放ってもHPには余り変化がなかったと…。
この事からゴーレムタイプのモンスター並の防御だと考えても良いかと」

「となると…攻撃重視のプレイヤーを基準に構成を考えた方が良さそうだな」

ディアベルが顎にてを当てて呟く。

「翼はなかったとのことなので飛ばれる心配は無いようですが、
弱点は分からなかったとの事です」

「…ありがとう。
皆!聞いての通り、今回のボスはドラゴンだそうだ!
しかも毒持ちの上、堅牢な体を持つ!
今回のパーティーは攻撃重視にし、攻撃班と防御班、それと回復補助班に別れてくれ!
出撃の際は解毒薬を忘れるな!」

ドラゴン……ドラゴンか……。
モン○ンとかでは基本、喉とか腹が柔らかかった筈だが…このゲームではどうなっているか分からないし…ぶっつけ本番で試すしかないよな…。

「ケン君。ちょっと良いかな?」

「ん?なんだ?」

考え事をしていると、ディアベルが話しかけてきた。

「今回から攻略に参加したいと言うプレイヤーが十数人来てるんだが、
どうすれば良いと思う?」

今の時期に参加……?

「ソイツの……ソイツの代表の名前は……何だ?」

「え?確か<ヒースクリフ>だったかな」

……来た。
とうとう来た。

「…わかった。俺が行くよ」

「え?行くって…」

「参加者の実力とレベル、そして連携性能を見にだよ」

「あぁ、そう言うことか…。
何か怖い顔をしてたから追い返しに行くのかと思ったよ」

それは…強ち間違いではないが……。
流石に追い返しはしないぞ。









「あんたがヒースクリフか?」

「そうだが…君は?」

宿屋の出口。
そこで待機していた赤色の鎧を纏った長身の男に声をかけた。

「あんたが一番知っていると思うんだが、まぁ良い。
攻略に参加したいんだってな」

「む……あぁ、ここに来た全員はこの層を突破するに値するレベルと実力を持っていると自負している。
間違いなく尽力出来ると私は考えているよ」

そんなことは知っている。
俺がここに来たのはそんなことを確かめに来た訳じゃない。
アンタの招待を確信しに来たんだ。

「なら、俺と決闘(デュエル)しろよ。
攻略組で上位の実力を持つ俺に勝てば、速効で認めてやる」

「なっ!」

「…ほう」

後ろにいたディアベルは俺の言葉に驚きを示し、ヒースクリフは探るように見つめてくる。

「おいケン!何言ってんだよ!
今は戦力が必要な時期だろ!そんなことをしなくても…」

「弱い奴を戦力に加えたところで死ぬ奴を増やすだけだ。
ならば今此処で、戦力を見極めれば良い」

キリトが割って入ってきたのを俺は静める。
キリトが言うこともわかるし、俺のやることが表面からすれば意味のないことだと言うことも理解している。
だが内面では必要なことなのだ。
これから先の出来事において、どう立ち回るかが決まってくる重要なことが。

「…いいだろう。
私が勝てば、認めてくれるんだね?」

「ああ。全力で来いよ。(でなければこの八百長の試合に意味が無くなる)」

こうして俺とヒースクリフは外へと出て、広い場所で対峙した。
俺は右手を振り、メニューを開いて『決闘』のコマンドを選択する。
対象をヒースクリフに設定して丸ボタンを押した。

「ふむ、決着はどうするかね?」

「全損だよ…何言ってんだ」

その言葉に周りのギャラリーがざわめきだす。

この決闘システムには3つの決着モードが存在する。
初撃決着、半損決着、全損決着の3つだ。
初撃決着は一撃、詰まり最初に攻撃を当てた方の勝ちとなるルール。
半損決着はHPを半分削った方の勝ちとなるルール。
全損決着は相手を文字通りに殺すルールだ。
この場合、現実の死となることは明らかなので誰もやろうとはしない。

「しかしそれでは……」

「どちらかが死ぬことになる…か?」

俺はヒースクリフの言葉を継いで言ってやった。

「個人的には…さ。
もうクリアでも良いと思うわけだよ」

「何っ!?」

俺の言葉に目を見開いて驚くヒースクリフ。
俺の言葉の真意が伝わったようだ。

「この場での暴露はしない。
だが、報酬は貰っても良いと思うんだよ」

「…君は……」

「さぁ、どうする茅場(ヒースクリフ)
受けるか、逃げるか…」

「……良いだろう。
だが、私が勝った場合、恨むのはやめてくれたまえ?」

「はっ、上等だ」

俺は腰を落とし、構えをとる。
左足を前に半身になり、右手を引いて左手を腹辺りに下げる。

「………始めよう」

ヒースクリフは等身ほどの巨大な盾を取りだし、その柄から剣を抜いた。
カウントが始まり、俺は集中を開始する。

『おい、アイツは何で剣を抜かないんだ?』

『馬鹿お前、知らないのか?
アイツが攻略組の《殺劇舞荒のケン》だぜ?』

『あぁ、何でも剣よりも拳で突っ込んでくプレイヤーだよな。
たまに斬ったりもするらしいけど』

『でも団長に、しかも全損で挑むなんて……命知らずだよな』

ギャラリーが何か言っているのが聞こえる。
そのなかには20層辺りから付いた俺の二つ名が囁かれたが、今はどうでも良い。
この先ヒースクリフと決闘出来るチャンスは無いだろう。
千載一遇、この一勝負で見極める!
願わくばクリアを願って!

【スタート】

その文字が表示された瞬間に俺は飛び出した。

「てぇりゃっ!」

俺は飛び回し蹴りを叩き込んだ。

「くっ!」

ヒースクリフは盾でガードをし、空いた手、詰まり剣を持った方で反撃してくる。

「ふっ!はあっ!」

俺は蹴りの衝撃を利用して距離をとって回避。
そしてもう一度肉薄する。

「はあっ!は!は!」

そんな俺を迎撃しようと剣を振るうヒースクリフ。
俺はそれを避けながら再度飛び上がる。

「剛天!」

前宙しながら右足を振り上げ、踵落としを仕掛ける。

「ぬぅっ!」

またもや盾でガードされ、反撃に移るヒースクリフ。
俺は飛び上がって後退し、距離をとって一息つく。

「どうしたよ。まだ始まったばっかりだぜ?」

「流石だなケン君…防ぐのが厳しい」

「はっ、よく言うぜ…おらぁ!」

システムアシストを使わせるには対応できない攻撃を行うしかない。
ならば今度は連撃で!

「牙連猛襲撃!」

下からの突き上げ。
追撃に飛び膝蹴り、回転回し蹴り、踵落とし、抜刀斬りを繰り出す。

バンバンッと盾で防ぐヒースクリフ。
しかしその顔は落ち着きを示し、未だにオーバーアシストを使う気配はない。

「ちぃっ!」

突き立てられたヒースクリフの剣が俺の頬を掠め、俺のHPが数ミリ減少した。

「……これでもダメか…」

俺は肩で息をしながらヒースクリフを見る。
その表情は読めない。
言うなればポーカーフェイスだ。

「…私の実力は分かっただろう。
ここらで納めようじゃないか」

「言っただろ。ここらでクリアでも良いんじゃないかってな!」

俺はもう一度ヒースクリフに肉薄する。

「うおぉぉぉ!これで決める!」

俺は連打でヒースクリフが防ぐ盾を殴り、一瞬だけ止めて腰を落とす。
そして――

「舞い踊れ!桜花絢爛の花吹雪!
彼岸!霞!八重!枝垂れぇ!」

参考にした獲物はバトンだったが、この場合は剣で補う。
斬り上げ、斬り下ろし、後ろ回し、横凪ぎ、回転蹴り。
後ろ回し蹴りが盾をはね除け、ヒースクリフの胴体ががら空きになる。

「これがぁ!殺劇舞荒剣・琥珀ぅ!」

止めの一撃にライ○ーキックをお見舞いし、ヒースクリフを吹き飛ばす。

”ガィンッ”

―――――筈だった。

「なっ!?くっそ!」

一瞬で元の位置に戻ってきた盾に、俺の蹴りは防がれ、反射的に飛び退こうとした。

「はあっ!」

「ぐぁっ!」

ヒースクリフが突き出した剣が俺の肩を捕らえ、小さくはないダメージを負わせる。
しかし覚えているだろうか。
俺のステータスの振り方は攻撃と速さ。防御には降っていない。
それはどう言うことなのか。


HP 83/1267



既にレットゾーンに突入しているのだ。


「ケン!もうやめろ!」

「そうだよケン君!このままだと死んじゃう!」

キリトとアスナが俺を止めようと声を張り上げる。
なぜ駆けつけないのかと言えば、この決闘システムにはフィールド保護が採用されており、
邪魔が入らないよう、関係のないプレイヤーは近寄ることができない使用なのだ。

「……もうやめにしないかね?」

「アホ言うな……どちらかが死ぬまでだ」

「君の真意は分かった!だが勘違いをしている!」

「勘違いだぁ!?アンタのオーバーアシストで疑念は確信に変わった!」

「君の確信は正しい!だが、根本から間違いであると言っているのだ!」

「聞く耳持つかぁ!!」

俺は尚も止めようとするヒースクリフの言葉を無視し、突貫する。

「グッ……ぬぅ!!」

「花紅の一ぃ!」

「その技は!」

「紅桜ぁ!」

紅桜。
正拳突きに全体重をのせ、対象をえぐるように打ち込む技だ。

ヒースクリフは盾で防ぐも弾き飛ばされ、再度がら空きの体制となる。

「花紅の二ぃ!「私ではない!」昇………何?」

追撃で技を繰り出そうとしたところでヒースクリフの言葉に制止した。

「私では…ないのだ」

何を言っているんだこの男は。
ヒースクリフが茅場であることは間違いではない。
なら何が『私ではない』のか?

「………後で説明してもらえるんだよな」

「勿論だとも…」

そう答えたヒースクリフの眼は疲れが浮き出ており、それでいてしっかりとしていた。

俺は無言で右手を振り、リザインを押しす。
そして無言でその場を後にし、宿へと戻るのだった。
 
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