戦国異伝
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第百八十九話 その一手その三
羽柴に対してだ、あらためて言った。
「兵達も女房達も助けてくれるのじゃな」
「はい」
「飯も食わせてくれて」
「そうしてご領地まで帰って頂きます」
「そうか、そこまでしてくれるか」
「そして吉川殿も」
経家自身もだ、羽柴は彼にあらためて話した。
「お命を頂きませぬ」
「兵達と共に帰ってか」
「また戦の場でお会いしましょう」
笑みを浮かべての言葉だった。
「その時は武士として戦いましょう」
「そう言ってくれるか」
「それでどうされますか」
「返答は一つしかない」
そこまでの条件を出してもらってはとだ、経家は羽柴に返した。こうしてだった。
経家は鳥取城を開城し織田家に引き渡すことにした。そのことを決めてからすぐに城を後にするのだった。
飯も渡された、兵達はその飯を先を争う様に食ってだ、そうしてお互いにほっとした顔になって話すのだった。
「美味いのう」
「全くじゃ」
「こうして飯を食えばな」
「力が出てな」
「生きられるわ」
「毛利家の領地まで帰られるわ」
それが出来るというのだ。
「しかも飯は今日だけではない」
「毛利の領地に入るだけのものを貰った」
「足りなければ好きなだけやるとも言っておる」
「織田家は気前がいいのう」
「敵である我等にそこまでするとはな」
「全くじゃ」
こう笑顔で話すのだった。
そうして飯をたらふく食っていく、それを見てだった。
旗本達もだ、飯を食いながら経家に言うのだった。
「兵達には受けがよいですな」
「それもかなり」
「皆織田家のすることに感激さえしております」
「敵であるというのに」
「織田家はな」
経家も言う、やはり飯を食いつつ。
「元から人の心を掴むことが上手だというが」
「今回はですな」
「普段以上にですな」
「うむ、見事じゃ」
人の心を掴むことがというのだ。
「兵達の心は全て掴んでおる」
「ですな、敵であろうとも」
「それをするとは」
「だからじゃ」
それでだというのだ。
「羽柴秀吉、そしてあの者が仕える織田信長は」
「見事ですな」
「相当な人物ですな」
「このことは我等が口をつぐんでもな」
例えだ、そうしてもだというのだ。
「兵達、そして女房達からな」
「話がですな」
「伝わりますな」
「家中にな」
そうなるというのだ。
「毛利家にな」
「まさかそれも狙ってですか」
「織田家は我等を助けた」
「そうしたのですか」
「そうであろうな、今わかった」
それがだというのだ、経家もまた。
そうした話をしてだ、そのうえでだった。
彼は旗本達にだ、あらためてこう言ったのだった。
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