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美しき異形達

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第三十二話 伊勢神宮その十一

「鯉も見たわよ」
「あの鯉もなのね」
「そうしたわ、それはよね」
「ええ、私達もだったのよ」
「その時は会わなかったわね」
「お伊勢さんも広いですから」
 桜が菊に言う、何故同じ伊勢にいてここまで会わなかったかを。
「会わないこともあります」
「そういうことね、じゃあ会ったのは本当に縁ね」
「そうですね、ではこの縁に感謝して」
 桜は笑みを浮かべつつ話していく。
「九人で何処か行きましょうか」
「行くって何処になの?」
 菫は桜のその笑みでの提案に目を少し瞬かせてから問うた。
「お参りもしたしおかげ横丁も行ったけれど」
「ここを散策してもいいのでは」
「伊勢のこの道を」
「伊勢です、道でさえ」
 桜はその周りに緑豊かな場所を見回しながら言うのだった。
「神様のお心を感じますので」
「神秘をなのね」
「はい、ですから」
 それで、というのだ。
「ここを歩きませんか」
「散策、いいわね」 
 黒蘭は少し微笑んでそのうえで答えた。
「それもまた」
「そうですね、それでは」
「じゃあ行くか」
 薊達も話に乗りだ、他の面々もだった。
 足を進めそうしてだった、九人で道を歩いていった。伊勢は道にさえ独特の趣があった。その道の趣も楽しんでいた。
 だが暫く歩きだ、ふとだった。
 裕香以外の八人がふと動きを止めた、菖蒲がまた言った。
「神様のおられる場所でも出て来るのね」
「折角神秘的な雰囲気を味わってたのにね」
 菊もやれやれといった顔で言う。
「これがね」
「雰囲気が壊れるわ」
「全くよ、けれどね」
「出て来るのなら戦うしかないわ」
「それしかないのよね、私達は」
「そういうことよ、ではね」 
 菖蒲は心で身構えてだ、そのうえで。
 今度はその気配の先に対して、こう言った。
「出て来たらどうかしら」
「本当に察しがいいわね」
「見事な勘ね」
 女の声だった、それも二つだ。
 その二つの声がだ、菖蒲に応えて出て来た。
「もう少し後で仕掛けるつもりだったけれど」
「それは無理だったわね」
「奇襲をしようとしても無駄よ」 
 菖蒲は声に表情を消したまま怪人の声に答えた。
「それはね」
「奇襲は察せられると効果がない」
「そういうことね」
「そうよ、残念だったわね」
 にこりともせずだ、菖蒲はまた言った。
「そのことは」
「いえ、いいわ」
「こうしたことも考えられるわ」
 だからだと返す二人だった。
「それならね」
「戦うだけよ」
「私達のやり方でね」
「そうさせてもらうだけよ」
「では今からね」
 やはり冷静なままの菖蒲だった。 
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