普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
053 ≪雪風≫死す
SIDE 平賀 才人
一言に〝オルレアン公爵夫人を助ける〟と云っても、色々と手順を踏まなければならない。……ただ単にオルレアン公爵夫人を治しても〝面倒なコト〟になるのが目に見えている。……例挙するなら、オルレアン公爵の〝忘れ形見〟であるシャルロットを、かの≪無能王≫であるジョゼフの代わりに王に据えようとしている、所謂〝シャルル派〟と呼ばれる連中と、〝シャルル派の動向〟と云うのが最たる〝面倒なコト〟だろう。
……それがいくら、ジョゼフから〝許可〟を取っていると云っても、シャルル派がどう動くかが分からないのがもどかしい。
(……キュルケにゲルマニアの皇帝に取り次いで貰ってゲルマニアに土地でも買うか? ……却下だな)
俺はルイズ──ヴァリエール家と懇意にしている。〝ヴァリエール〟の犬猿の仲とも云える〝ツェルプストー〟を使うのは──と云うよりは、〝使ったのがバレたら〟色々と拙い。……かと云っても、キュルケ以外にゲルマニアの皇帝へのツテも思いつかない。なので、この案は当然の如く却下。
……ちなみに、オルレアン公爵夫人は治した後に移動させる事は決定事項だったりする。今でこそオルレアン公爵夫人は病んでいてどこからも手付かずの状態だが、オルレアン公爵夫人が治ったのがバレたら、その拍子にシャルル派の〝現・ガリアの転覆〟の御輿に、シャルロットと共に担ぎ上げられかねない。……そうなったら、あっと言う間にガリアの内乱の火種となり、やがてはガリアの地は戦火に焼かれ、その炎は他国にも飛び火するだろう。
「……考え過ぎなら良いんだが…」
「……どうしたの? ……あ、来たよ? 銅鑼やるね」
「オーライ。……ちょっとタバサの母親の事で悩んでてな」
「……どんな事で?」
俺のなんと無しに呟いていた譫言にユーノが反応する。
……ちなみに、今寮の自室にてやっているゲームは以前と同じである。……有り体に云わば【モンスターハンター】であり、狩っているターゲットは会話から察するかもしれないが、ジエンモーラン。
閑話休題。
「……多分だが、タバサの母親の病の原因がエルフの心神喪失薬なら、〝解呪〟の虚無魔法で治せるんだよな。ただ問題は──」
「〝オルレアン公爵夫人を治した後〟──って事?」
〝知識〟持ちは伊達じゃないのか、簡単に見抜かれた。
「……それならいっそのこと、オルレアン公爵夫人を治したら、〝転移〟か何かで雲隠れしたら? もぬけの殻となったオルレアン邸は証拠隠滅として燃やしてさ」
「……えげつなっ! ……でもそれならタバサを含めた、邸の人数分の焼死体が必要になるな。……それなら“魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)”で〝たんぱく質の塊〟を用意すれば良いな」
「……〝えげつない〟って…、ボクよりえげつない事を考えてるサイトには言われたくない件について」
ユーノは〝それ、天唾(天に唾する)だよ〟と、鼻で笑う。俺も釣られて頬が弛んでいた。
「ふっ、それもそうか。……とりあえず、ユーノの案を採用するか」
「あ、良いこと思い付いた。どうせなら“モシャス”とか“フェイス・チェンジ”でタバサに変身すると良いかも」
「何でまた…? いや、ちょっと考えてみる」
〝タバサの姿でタバサの母親であるオルレアン公爵夫人を殺す〟…。ユーノが、そんなよく判らない事を言い出したので、堪らず聞き返しつつも自分でその理由をシミュレートしてみる。
………。
……。
…。
思い付いた。それも悪魔な策を。どうやらユーノの方が〝えげつなさ〟が上だった様だ。……俺だけでは〝ここまで〟のあまりにもあんまりな案は出なかった可能性が高い。……この推論が正しかったらの話だったが。
「……もしかして〝タバサは自分の母親の介護で心が追い詰めらて、そのまま母親含むオルレアン邸の数人で焼身自殺を図った〟──ユーノが言いたい筋書きはこんなところか?」
「うん。凄いね、正解」
ユーノは鷹揚に頷く。どうやらユーノを真に怒らせてはダメらしい。……双月が煌々と煌めく夜そんな事を呑気にも悟った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……リトライ…チェック…フェイラー。……リトライ…チェック…フェイラー。……リトライ…チェック…フェイラー。……リトライ…チェック…フェイラー。……リトライ…チェック…フェイラー。……リトライ…チェック…フェイラー。……リトライ…チェック…フェイラー。……リトライ…チェック…フェイラー。……リトライ…チェック…フェイラー。……リトライ…チェック…フェイラー。……リトライ…チェック…フェイラー。……リトライ…チェック…フェイラー。リトライ…チェック…。……サクセス、成功」
とあるハルケギニアとは違う異世界。そこで“魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)”でたんぱく質の塊を創造して組成を“ディティクト・マジック”で調べては破棄する事数十回。漸く人体の組成をしつつ人の形を象った〝魔獣〟を作成する事に成功した。
……これで焼死体を調べられてもオルレアン公爵夫人やタバサの死体のダミーが出来る。大きさ(サイズ)はイメージで調整するのみと云った進捗状況だ。
(後の細かい設定は、オルレアン公爵夫人に会ってからの後付けで良いな)
案は充分過ぎる程に煮詰まった。成功への道程も見えてきた。……オルレアン公爵夫人救済への作戦を進める為に、元の世界のタバサが居る場所に“腑罪証明”で転移した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
時間と場所は多少飛び、オルレアン領。目の前には轟轟と焔がうねりを挙げている元・オルレアン邸。そこにタバサの姿で入って行く(逝く)。映像を録画出来るマジック・アイテムでその場面を録画してあるので、これで公的に〝シャルロット・エレーヌ・オルレアン〟は母親と心中して死亡した事になる。
……ちなみにこれは蛇足だが、“アギトの証”にある〝全属性-50%〟による効果と、“咸卦法”による〝耐熱〟で、〝火〟は殆どと云っても良い程効いて無かったりするし、この様な火事場でも〝暖かい〟程度で済んでいたりする。
閑話休題。
(……それにしても大分ホクホクとした顔で辞めてったな)
……そしてこれも蛇足だが、オルレアン邸のペルスラン──執事以外の使用人は、前以て解雇してある。ちなみに退職金は邸を焼き払うので不要となった財宝を俺が即金で買い取り、その金を元にした。……オルレアン邸は、ガリアからしたら名家。それだからか、1人1人の分け前はとんでもない額となった様だ。
またもや閑話休題。
思った通り、〝解呪〟の虚無魔法でオルレアン公爵夫人は難なく治療出来た。……当然の事ながら館に居た使用人も、虚無魔法──“テレポート”による〝退避〟も既に出来ている。……つまり、人的被害はゼロと云っても差し支えがない。
(……治療する前に色々と暴言を吐かれたのはアレだったが…。……後は俺が──〝タバサ〟が焼身自殺をした映像をジョゼフに回せば終わりか。……いや──)
もう1つやらなけれならない事が有った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……本当にありがとうございました」
「………貴方には一生を懸けても返せない恩が出来た。……約束通り、私は貴方の部下となる」
「奥様を──ひいてはシャルロット様を現・王から救っていただき本当にありがとうございました! このペルスラン、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ殿──貴方様から受けた恩は一生忘れませぬ!」
一旦タバサ達を退避させた仮住まい。そこで俺はオルレアン公爵夫人、タバサ、オルレアン邸に居た執事のペルスランから三者三様に礼を言われた。
「……いや、そこまで大層に感謝しなくても…。とりあえずタバサ──シャルロット嬢を含めて、話したい事が有ったんですけど」
俺は3人に、シャルロットがすでに〝公的〟に死んでいて、〝シャルロット〟の名前を使うのが拙い事、3人には“フェイス・チェンジ”のマジック・アイテムで姿を偽ってもらう事、〝今回の事〟はジョゼフには話を通してある事を3人にも理解出来る様に説明した。
「………だったら、貴方に名前を付けて欲しい」
一気に説明し終えて、静寂が場を支配しようかという時。シャルロットがいきなりそんな事を宣った。……しかしシャルロットの言う事も、まるっきり判らない事でもないし、シャルロットの顔を確認してみても確固たるる意思を持っているようで、それを翻せる様には思えない。
「……判った。……そうだな、アリス。アリス・ファウストラル。そう名乗ると良い」
「………〝アリス・ファウストラル〟…。確かに拝命した。私はサイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガの騎士となる…っ!」
「……娘を宜しくお願いします」
「私めからも頼みます。シャルロット様──いえ、アリス様を宜しくお願いします」
そう言ってシャルロット──アリスは淀み無く俺へと傅いた。
「任されました。オルレアン公爵夫人やペルスラン殿はこの屋敷に〝時〟が来るまではいるとして、アリスはどうする?」
……ちなみにこの屋敷は、俺が初めてハルケギニアに転移してきた小屋を潰して建てたものであり、もちろんの事ながら〝彼女〟が永に眠っている墓もある。
(……今更、何をバカな事を…)
「………どうかした?」
「いや、何でもない──事はないが、気にしなくて良い」
感傷に浸っていたらアリスにバレたので、誤魔化す事にした。
SIDE END
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