普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
050 スレイプニィルの武踏会 その2
SIDE 平賀 才人
「……ルイズ…?」
(落ち着け、〝こう云う時〟はとりあえず深呼吸だ)
地を揺るがす様な轟音も止み、どうしょうもないので目を開ける。するとそこにはルイズの姿は無かった。恐らくだがシェフィールドに拉致されたのだろう。……ちなみにホールで昏倒しついた皆は〝霧〟で異空間に丸ごと転移させてあるので命の問題は──〝人的〟被害はとりあえずだが無い。
「スゥ…ハァ…スゥ…ハァ…スゥ…ハァ…。とりあえずは今出来る事からだな。……“大嘘憑き(オールフィクション)”。シェフィールドによるホールの爆破を〝無かった事に〟した」
堂々巡りしそうになっていた思考をクリアにして、とりあえず物的被害を〝無かった事に〟した。……更には、異空間に待避させていた舞踏会の参列者達を元居た場所に再転移させる。ここまでの一連の動作にタバサとユーノが俺の事を胡乱気に見ているが今は気にしない事に。
「サイト…。後で聞かせて貰うからね」
「………今のは…?」
「ああ、後で説明する」
俺が使ったスキルについて聞きたげなユーノと、いきなり直った会場に困惑しているタバサを尻目に〝枷〟を外して、〝雷〟の力で範囲の広まった〝見聞色〟でシェフィールドの行方をサーチする。
「……見つけた。……ユーノは待っててくれ」
「うん!」
この学院からそれほど離れていない場所で、今尚離脱していく〝声〟が聞こえた。シェフィールドが単体なら〝雷〟の力で投擲槍みたいな物でも作り、割と離れているこの位置から攻撃出来るが、今のシェフィールドはルイズを抱えているので、その案は当たり前の如く却下する。
「行って来る」
――バリィッ
ユーノの返事も待たず、音速を超えるほどの速度にてその場を後にする。……もちろんの事ながら、それは〝今の〟俺に出来うる限りの最善の移動方法である。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
“答えを出すもの(アンサートーカー)”で〝シェフィールドが向かいそうな場所の中で、一番可能性が高い箇所〟を調べ、その場に雷速で先回りして、直ぐ様仙術で気配を希薄にする。……つまりは待ち伏せだ。
(……まさかタバサが、ね…)
内心タバサの裏切り(?)に嘆息するが、あまり落ち込んではいない。……タバサの出自を考えれば判らない事もないからだ。……言い方はアレだが、〝上司〟には逆らってはならない。そんな事はハルケギニアでも地球でも一緒だ。……命じられたらリークするしかないだろう。
……ちなみにタバサ──もとい、シャルロット・エレーヌ・オルレアンの事は軽くだが──その方法は割愛するが一応調べてある。……俺の事を監視しているのだから、逆に調べられても文句は言えないはず。……ユーノから、タバサはガリアからの留学生とは聞いていたが、よもやガリアの公爵家が令嬢とは思いもしなかった。
閑話休題。
(……やはり、罠だったか)
シェフィールドはルイズを敢えて〝拉致〟した。……少なくとも先程のあの場では、俺に敵愾心を向けるだけでルイズに手を掛ける様には思わなかった。……となると、〝これ〟は俺を嵌めるる為の罠であり、ルイズは俺を誘き寄せる為の〝エサ〟と云う事になる。
(……8…9…10…いや、11…12…? まぁ、まだまだ居そうだが間違いなく〝これ〟が罠という事は判った。……問題はこれからどうするか、だな。……タバサに仙術について教えたのは拙かったか?)
〝こんな時間〟に〝こんな場所〟で──夜に森の中で息を潜めている輩達を察知して考える。……〝気配〟の数と〝声〟の数が違うのは、恐らくこれもまた“スキルニル”の所為だろう。
(……いっちょ暴れるか)
一先ずは潜伏組を排除する事に。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
“腑罪証明”で潜伏組の背後に回りこみ、声が出ない様に口を抑え短刀で首を掻き斬る。“腑罪証明”で潜伏組の背後に回りこみ、声が出ない様に口を抑え短刀で首を掻き斬る。“腑罪証明”で潜伏組の背後に回りこみ、声が出ない様に口を抑え短刀で首を掻き斬る。“腑罪証明”で潜伏組の背後に回りこみ、声が出ない様に口を抑え短刀で首を掻き斬る。“腑罪証明”で潜伏組の背後に回りこみ、声が出ない様に口を抑え短刀で首を掻き斬る。……それを、潜伏組を全滅させるまで何度も繰り返す。
「うっぷ…ふぅ、終わったな。……それにしても未だに〝慣れ〟んな」
喉元まで逆流してきてている胃酸を堪えながら、誰に聞かせるでもなく呟く。……〝解呪〟の虚無魔法は“スキルニル”──〝魔法人形〟など、無力化する事などワケが無かったのだ。……良い手だったのだが、その辺りシェフィールドは選択肢を間違えたと云える。
(……来たか)
文字通り〝暗殺者〟の様に闇に紛れながら〝人形〟以外の──〝人間〟の潜伏組を排除し、その遺体を証拠隠滅と云わんばかりに隠し──埋葬した。そして一通り埋葬してやっとこさ一息吐いていると、ルイズの気配が探知範囲内に入って来るのを感じた。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
(ん…?)
びゅうびゅう、と風を切る様な音で意識を覚醒させて目を開ける。……するとそこは、よく見慣れた自室の天蓋──などではなく、よく判らないが布の様な感覚からして目隠しを──並びに布で口封じに、手足が拘束されている事が判った。
(えっと確か…。思い出したわ。……後でサイトに〝オハナシ〟しないといけないわね。……みっちりと)
舞踏会に襲撃があって──テラスに居たら襲撃犯が来て、そこで急に眠くなった──否、眠らされた事を思い出した。……それも、恐らくはサイトに。……喚いているだけの私はあの場では確かに邪魔だっただろう。……でも、理解は出来るけど納得はしてないので、〝後で〟みっちりとサイトを絞る事に。
(……ん?)
風を切る様な音が止まった。
――「やぁ、シェフィールド。ルイズは無事か?」
……よく聞き慣れた声──サイトの声。だが、その声音はいっそ慈愛に満ちていて、まるで私を怖がらせない様にも思えた。……有り体に云うならば、〝嵐の前の静けさ〟か。サイトの声音からして、その表現が一番しっくりくる。
――「サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ…ッ! どうしてここに居るっ!」
――「……先に質問したのは俺なんだが…。まぁその質問に答えるとするなら、〝シェフィールド──お前が一番通る可能性が高いルート〟を推測しただけだ」
先程の慈愛に満ちたサイトの声音とは反対に、誘拐犯──サイト曰くシェフィールドの、口の中一杯の苦虫を噛み潰した様な声で、これまた無理矢理捻り出した様な質問に、彼女と相対しているサイトは何でも無い様な声音で自分がしたことを言い放つ。
――「っ!? だがこちらはトライアングルメイジとスクエアメイジをここらに潜伏させてあるわ! 流石の貴方も20人を超える高位のメイジを相手出来ないでしょう?」
(なんてインチキ!)
私の中の〝スクエア〟の基準はお母様で、お母様が──≪烈風≫が20人も並んでいるのを想像した。それはもう〝圧巻〟の一言だった。……一方、そんなお母様からの〝オシオキ〟からも生還出来たサイトはと云うと──
――「……ああ、そいつらなら──噂に聞く≪白炎≫らしきやつとか居たけど、皆もう既に〝永~い〟眠りに就いているよ。……信じられないなら号令でも掛けてみれば?」
――「ハッタリね。……皆、今だわ! 手筈通りにお願い!」
……しん、と水を打った様に静まり返った。遅れて、ざわわ、と木々のざわめきがその静寂を支配した。……ここまでくれば、シェフィールドが滑稽にも思える。……同情はしないが…。
――「……何をしたのよ」
――「いくらメイジと云えど、ルーンを唱えなければ魔法を行使する事は出来ない。……それに──」
――「っ!?」
――バリィッ
何かが破れる様な音が聞こえたと思ったら、ごとり、と鈍い音が聞こえた。……その後には今まで続いていたシェフィールドの言葉は続かなかった。
――「……やっぱり〝魔法人形〟だったか…。……俺が長々と口上述べつつ挑発している理由を察するべきだったな。……ルイズ、縄を切るからちょっとジッとしててくれ」
サイトはそう言うと、宣言通り私の拘束をテキパキと外していく。
「お待たせ、ルイズ」
「ありがとう、サイ──」
……目にあてがわれていた布を外され、サイトの顔を見たら一気に緊張の糸が解れた。……どうやらついでと云わんばかりに腰も抜けてしまったらしくて、サイトに寄り掛かってしまった。
「っと。……大丈夫か?」
「……あっ──」
サイトに身を預けていると急に、包む様に抱き締められる。……そこで漸く自分の身体がカタカタ、と震えている事に気が付いた。……続けて目から涙が1つ2つと零れてきて、擦っても擦っても止まらなくなる。
「……あれ…? なんで、涙が止まらないの?」
「……ルイズ、もう大丈夫だ。……恐かったな」
サイトのその一言で私の堪えていた、恐怖と安堵がごちゃごちゃになっている名状しがたい感情が爆発した。……それから数分、みっともなくもサイトの胸の中で泣き続けるのだった。
SIDE END
後書き
明日もう一話投稿します。
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