ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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異なる物語との休日~クロスクエスト~
休日の①
前書き
今回からコラボ編:《お泊り編》です。
刹「参加してくださったRIGHT@さん、亀驤さん、絶炎さん、神崎弓奈さん、黒翼さん、村雲恭弥さん、侵蝕さん、りんまろさん、marinさん、減塩かずのこさん、そしてサプライズ参加してくださった黒神先生、ありがとうございました!」
「温泉旅館の無料チケット二枚組……? なんでこんなものくれるんだ……?」
「気まぐれだよ。僕は使わんからタダであげる」
栗原清文は、にやにや笑いながら正面に座る悪友、天宮陰斗に問うた。
「いいものやるから来なよ」、という彼の言葉に惹かれて、何年ぶりかになる天宮家にやって来たのが数分前。メロンパンとコーヒー(陰斗はリンゴジュース)片手に談笑している最中に、陰斗が手渡して来たのが、どこぞの温泉旅館の無料チケットだった、と言うわけだ。
「珍しいな、お前が何の見返りも要求しないなんて」
「たまにはそんなことがあっても良いだろ? 僕だっていつでもどこでも意地汚い訳じゃぁない」
ふぅん、と漏らしながらも、清文は心の中でこの状況を疑わずにはいられなかった。
天宮陰斗という人間は、あらゆる行動の根元に『自己満足』が来る存在だ。それは文字どおりの意味であり、『自己』が『満足』するための行動だ。
つまりは、彼がなにか行動を起こすとき、それはこちらの利益・不利益関係なしに彼の利益になるのだ。
そんな彼が、無償の善意で行動するなんてほぼあり得ない。
「いーんだよ。僕はこの『セモンに無料券を渡す』という行動に満足したんだから」
「まぁ……そこまで言うならありがたく貰っとくけど……本当に良いのか? お前自身がそうさんとか、刹那とかと一緒に行けば良いじゃないか」
清文が口にしたのは、彼の友人の星龍そうと、妹の天宮刹那の名前だ。二人とも陰斗の家族の様なものなので、家族旅行の要領で連れていけばいいと思ったのだが……。
その事を問うと、陰斗は苦笑としかめ面が混ざったような変な顔になって答えた。
「おいおい止めてくれ。刹那はともかくとして、そうにそんな事言ったら殴られるか手痛く断られてその後一ヶ月口を聞いてもらえなくなる。そうなったら僕はお仕舞いだ」
「……」
彼女そういうイベント嫌いだからね~、と、呑気に笑う陰斗。しかし目が笑っていない。
――――あぁ、こりゃ経験者の顔だ。
――――と言うか多分既に断られてるんだろうなぁ。
清文は内心で納得する。陰斗はそうの事になると異様な長さとテンションで語り始めて暫く止まらないので、その話題は避けることにした。
そんなこんなで話を続けていると、何時の間にやらお開きの時間になっていた。
「何はともあれ、無料券は有り難く頂戴するよ。琥珀と行ってくる」
立ち上がりながらそう言った清文に、陰斗が苦笑しながら答えて曰く、
「そこですんなり嫁の名前が出てくるキミは凄いな。ま、せいぜい頑張りたまえよ。まだ一回も抱いてないんだろ」
「ぶふぉっ!?」
随分と際どい発言に、なにも口に含んでいないというのに、清文は思わず吹き出してしまった。
「な……な……」
「あれ、違った? だとしたらおめでとうと言っておこう」
生娘の様に真っ赤になった清文に、意地悪く笑いかける陰斗。
「いや、違わないけど……な、何でわかって……」
「セモンの甲斐性無し具合からすればとーぜんだと思ってね」
――――余計なお世話だッ!!
思わず叫びかけた清文であった。
もう一度見た旅館の無料チケットには、『旅館チョークパレス』という、何とも言いがたい…しかし何処か聞き覚えがあるような…旅館の名前が書いてあった。
***
閑話休題。
「へぇ……ここがそうなの?」
「ああ。陰斗にもらった地図が間違ってなければな……あいつ地理音痴だからなぁ……大丈夫かなぁ……」
「周りに他の旅館は無いわけだし、大丈夫なんじゃないの?」
「う~ん……」
例の旅館へと、栗原清文とその恋人の杉浦琥珀はやって来ていた。
辺りは一面雪野原。その中に建つ、一軒の旅館。
和風な中にも洋風が混じった、ひどく巨大で、古いように見えて新しい、しかしやっぱり古いような……そんな奇妙な旅館である。
――――○○であって××でない……?
何処かで感じたような雰囲気だ。旅館の名前と合わせて、どうにも既知を感じずにはいられない。
何だったか――――と、清文が考えていると、
「とにかく、入りましょ! 私、ずっと楽しみだったんだから!」
琥珀が満面の笑みで振り向いた。
「お、おう」
それを見て、自然と熱くなる頬。
――――これだけでも、来た甲斐があったな。
そう思いつつ、清文は琥珀の後を追い、旅館の入口を潜った。
応接間は、片田舎の旅館に良くありそうなオーソドックスなつくりをしていた。
外見と同じように年期の入ったようにみえて新しくも思える板張りの床。
掛け軸には『ちょーくぱれす』という、旅館の名前が、如何んともし難く妙な達筆で書かれている。
それよりも何よりも、清文が驚愕したのは――――
「へいらっしゃーい……ってまた二人連れかよ。なんともsweetでcrazyな展開だなおい?」
突然、チャラチャラした口調と共に現れた、栗色の髪の青年従業員だった。赤と黒を基調とした、奇妙な法被を身に付けている。
その顔が、何となく誰かににている気がして。
「……アスナ?」
琥珀が、その人物の名を口にした。
「おおっ、お前らもウチの妹知ってんのか? ってことはSAOサバイバーか!」
「「い、妹……!?」」
アスナこと結城明日奈に兄がいるのは知っていた。だがキリトから聞くかぎり、彼――結城浩一郎氏はもっと厳格な性格だったような気が……。
「えーっと……浩一郎さんで合ってます?」
一応確認をしてみる清文。するとアスナの兄を名乗る青年は、驚くべき答えを口にした。
「いんや。皆その反応するから飽きてきたな……俺は兄貴じゃないぜ? 俺は結城修也。SAO時代はシュウって名乗ってた」
少なくとも――――清文が知っている限りでは、アスナには兄は一人しかいない。つまり彼は、『清文達の世界』には存在しなかった人間。
つまり、パラレルワールドの人間ということなのだ。
困惑冷めやらぬ清文と琥珀。それにさらに追い討ちをかけるように、次なる驚愕が姿を現した。
「ここで合?」
「多分その筈だと思うんだけど……あ、そうだよ。書いてあるし」
聞き覚えのない声と、聞き覚えのある声。からからからと背後の入り口の引き戸をあけて、発声者とおぼしき二人の人間が入ってきた。
「へいらっしゃーい……ってキリトじゃねえか!」
シュウが叫ぶ。振り返って彼らの顔を確認すると、たしかに片方は黒髪の少年。清文達もよく知っている、《黒の剣士》キリトこと桐ケ谷和人だ。清文が知っている彼よりも少々大人っぽく見えるが……。
だが、彼は困惑した表情をとり、呟く。
「え、誰? なんで俺のこと知って……? SAOサバイバー、なんだろうけど」
「……Oh,MyGod……仮にも親友だとおもってたんだがな……ってそれよりも誰だよそっちのお嬢さんは」
シュウが話の論点をずらす。そこで清文達も、キリトが連れてきているのがアスナでは無いことに気がついた。
それは、ひどく美しい少女だった。ガラスで出来た剣の様に、美しさと儚さが両立した、金髪翡翠目の少女。
さきほど一度だけ聞いた、語尾がぶつ切りのセリフと合間って、アスナとは似ても似つかぬ人物であることを感じさせた。
シュウの問いかけを聞いたキリトは、うん? と首をかしげつつ答える。
「SAO時代の俺を知ってるならあんたも知ってるだろ? ミヤビ……俺の恋人だよ」
「和人……その紹介の仕方止。恥ずかしいよ……」
「良いじゃん。事実なんだし」
――――アスナ以外の人間とキリトがくっついてる!?
――――しかもSっ気増しだと……!?
内心で叫ぶ清文。
――――誰だコイツは。俺の知ってるキリトじゃない!
そしてキリトの言葉にもっとも強く反応したのは、他ならぬシュウだった。
口から謎の煙を吐き出し、絶叫する。
「恋人だぁ……? テメエ……ウチの妹と二股かけてやがるってのか!!」
「ぇぇえぇ!? 何でそうなるのさ! 何か勘違いしてるって!」
「問答無用!!」
鬼の形相で叫ぶシュウの肩に、いつの間にやら髑髏型の肩鎧が出現する。そこから射出された真紅に輝く短剣抜きはらい、彼はキリトへと斬りかかった。
さすがにあわてたのか両手をわたわたと振って、キリトが必死に弁明した。
「うわぁぁぁっ! 待て、待てって! アスナはアスカと付き合ってるんだろ!? 俺は関係ないよ! 確かに友達だけど!」
「……Why……?」
しゅぅぅぅぅ、と音を立てて、煙が沈黙する。シュウの肩当ても消滅し、さっきまでの従業員姿に戻った。
「ちょっと待てお前……そりゃぁどういう……? つまりあれか? お前は俺が知っているキリトじゃなくて、そのー……あれだ、《パラレルワールド》ってやつのキリトってことか?」
「あー……まぁ、多分、そうなる。そう言うのはミヤビの方が詳しいけど」
ちらり、と隣の金髪少女を伺うキリト。ミステリアスな雰囲気といい、彼女ももしかしたら並行世界の運営自体と関係を持っている存在なのかもしれないな――――などとぼんやりと考えていた清文は、そんな事よりももっと重要な事象を見ていたことを思い出して咄嗟に叫んだ。
「ちょっと待ってくれ! シュウさん、だっけ? さっきのあの武器……どうやって出したんだ……?」
「おう? ああ、《ルシフェル》のことか? えーっと……ってちょっと待て。何で出せたんだ俺? ここSAOじゃねぇんだぞ?」
――――どうやら本人にも分からなかったらしい。
此処は現実世界だ。仮想世界で使えた武器や技能がフィードバックしてきているというなら、なんとなくだが問題になる気がする。唯でさえ清文は《白亜宮》事件以降、《自在式》制御に気を配らなくてはいけないのに、SAO時代のステータスに今更合わせるなどとは少々難しい……いや、ALOで毎日やっているのだから大丈夫か……? 等々と悶々としていると。
「……和人。ここ、世界の改変が入」
「え、本当か……?」
ミヤビと呼ばれた少女が答えらしきものを出した。彼女はキリトの問いに頷くと、
「本当。空間が侵食されてる。《自我結界》じゃないと思うんだけど……」
「そうか……なぁ、あんたら心あたりは?」
ふいっ、と、キリトがこちらを向いてくる。どうやら清文と琥珀に問うているようだ。
「うーん……ある、と言えばあるけど……あ……いや……あるわ。大ありだ」
清文の思考の中で、奇妙な既知感の正体が判明した。
○○であって××でない。矛盾しつつも完成しており、なおかつ捉えられないままでそれを一面に取り込んでいる世界。それとよく似た事象は、『プラスチックでも、大理石でもない、何か得体のしれないものであって、その全てにも思える白』。
極めつけは、この旅館の名前。《チョークパレス》は、直訳すれば――――
――――《白亜宮》に、なる。
「あの、シュウさん」
「ん? 何だ青年?」
「あのさ……」
問いかける。
この旅館の何処かで、くせ毛の少年を見なかったか、と。
だがそれを口に出す前に――――
「あ、お客様ですか? ようこそいらっしゃいました。お部屋に案内いたしますねー」
生き証人が姿を現した。
白を基調とした、先端にいくほど紅蓮色になっていくロングヘアは、今は簪を使ってまとめられている。同色の着物は、西洋でも東洋でもない顔立ちをしているにも関わらずやけに似合っていた。
紅蓮色の瞳を嬉しそうに細めて笑うその女性は――――
「ぐ、グリーヴィネスシャドウ……!」
《白亜宮》の王妃、グリーヴィネスシャドウ・イクス・アギオンス・アンリマユだった。
後書き
どうもお久しぶりです、Askaでーす。コラボ編第一話でしたー。
刹「やけに間抜けに伸びてますね作者」
まぁね。冬休みが終わってしまうが故に。あと相棒と連絡が取りづらくなるからネタの整理ができなくなって脳内が破裂しそう。ああ、あれもこれもそれもどれもこっちもあっちも……。
刹「……取り合えず黙っていてください。
それでは次回もお楽しみに!」
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