バニーガール
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第三章
第三章
お店自体は真面目であった。彼女は安心してお金を稼いでいた。そうして数日経った。バイト料はかなりのものになっており彼女もそれに満足していた。
「上手くいってるみたいね」
「ええ」
真理奈は和歌子の言葉ににこりと笑って答える。
「もう少しでね。軍資金が貯まるわ」
「どう?ここかなり実入りがいいでしょ」
「ええ。この格好にも慣れてきたし」
自分のバニーガールの格好を見て笑う。苦笑いではなく本当の笑みであった。
「慣れればそれ程でもないのね」
「慣れればね」
それは和歌子も言う。
「何でもないでしょ」
「そうね。お客さんの視点は気になるけれど」
「それは見ないことにするのよ」
和歌子はそれは気にするなと言ってきた。
「いいわね」
「見ないことね」
「そんなのいちいち気にしていたらやっていられないから」
それはいいというのであった。
「わかったわね」
「わかったわ。それじゃあ」
「今日も頑張って稼ぎなさい」
にこりと笑って真理奈に告げる。
「それでデートのお金をね。ゲットするのよ」
「わかったわ。それじゃあ」
「ええ。それじゃあね」
こうして今日も稼ぐのであった。しかしここで思わぬ出来事が彼女を襲うのであった。それもとびきりの奇襲であった。
いつものようにコーヒーを出す。それであるお客さんにそれを出そうとすると。
「何かな、この店」
「いい感じだろ」
そのテーブルの客は二人だった。見れば高校生か大学生であった。未成年かどうかは微妙な感じの外見である。
「たまにはな。こうした店に入るのもいいさ」
「御前の趣味がわからねえよ」
一方の男が相手に対して言っていた。
「メイド喫茶みたいなものだって聞いたからついて来たんだけれどよ」
「同じだよ」
相手の男は言う。
「受けるサービスは同じさ」
「同じなのか」
「メイドじゃなくてバニーガールなだけさ」
相手の男の言葉はかなり醒めたものではあった。
「だからそんなに気にすることはないさ」
「俺メイド喫茶にも入ったことないんだけれどな」
彼は首を傾げて相手に答えていた。
「それでこんなのか」
「何だ、はじめてか」
「普通学生でこんなとこに入るか」
声を顰めさせて抗議していた。
「御前の趣味が大体わかったよ」
「本能に忠実なだけさ」
それでも彼の態度は平然としたものであった。
「別に変なことをするわけじゃないしな」
「それでも。全く」
彼は呆れている感じであった。
「何で女の子にこんな格好させるんだか」
「需要と供給だよ」
ここでも相手の声はクールなものであった。
「結局のところはな」
「その二つか」
「メイド喫茶だってそうだろ?」
ここでメイド喫茶も出してきた。それを言うと反論のしようがなかった。
「ああいう店があったらいいって思うからあるんだろ?」
「そうなるな」
「そういうことだ。それでわかるな」
「わかったよ。じゃあバニーガールもか」
「そういうことだ。これでわかったな」
「わかったよ。じゃあ皆バニーガールが好きなんだな」
「嫌いな奴がいるか?」
全く以って身も蓋もない言葉であった。
「バニーガールが」
「いないと思うな」
これには彼も反論のしようがなかった。
「男のロマンだしな」
「体操服にセーラー、スクール水着、メイド、ナース、スチュワーデス、そしてこのバニー」
相手の男は実にマニアックであった。
「巫女もか。とにかくそれ等は全部男のロマンだ」
「ロマンになるんだな」
「そうさ。バニーガールに御主人様って言われるのは最高だぞ」
「御前もかなりえらい趣味しているな」
彼は思わず相手に突っ込みを入れた。
「マニアだろ」
「男は全員マニアだ。御前もだからここに来たんだろう?」
「御前に誘われたからだ」
彼は憮然とした声で言葉を返す。
「それにしても。ここの店の客は」
「どうかしたか?」
「どいつもこいつも鼻の下を伸ばしているな」
周りの客達を見て言う。それは言っても仕方ないことであるが。
「そんなにバニーガールがいいのか」
「メイド喫茶でもそうだぞ」
相手の男はここでも容赦のない言葉であった。
「デレデレとした顔をしているだろ」
「そういえばそうか。どうなっているんだ」
「だから男だからだ」
一言だがそれが実に哲学的な響きを持った言葉になっていた。
「それで充分じゃないか。ほら」
ここでバニーガールの姿を見たので彼に声をかけた。
「来たぞ、お目当てが」
「お目当てって何なんだ」
「何だって言われてもな。一つしかないだろ」
相手の男の言葉は感情の響きすら乏しいものであった。
「バニーガールだ」
「だな。じゃあ見てみるか」
「ただ。一つだけ注意しておけよ」
また一つだけという言葉が出た。しかし今度は意味が違っていた。
「何だよ」
「絶対にセクハラはするなよ」
今までとはうって変わって真剣な顔で彼に対して言うのであった。
「したらすぐに袋にされて警察に突き出されるぞ」
「そこは厳しいんだな」
「当然だろ、風俗じゃないんだこの店は」
風俗であればそういうことはある程度以上は許されるということであった。しかしあくまで風俗ではない。ここが非常に重要なのであった。
「そこだけは違うからな」
「そんなことするか」
彼は口を尖らせてその言葉には抗議する。
「何処ぞの変態親父じゃあるまいしな」
「しかしそれも男のロマンでもある」
相手は不敵に笑ってそれも肯定するのであった。
「バニーガールなりテニスウェアなり競泳水着なりレオタードなりエプロンなり浴衣なりな。それを少しずつそうしていくのもな」
「バニーガール以外はさっきと違うな」
「気にするな」
ここまで来ると殆ど変態にしか見えない。というよりかは全然変態であった。しかし相手のこの男はそれを全然平気なのであった。
「それはな」
「御前他に店ではそうしているのか?」
「そういう店ではな」
しているのであった。正真正銘の変態であった。
「しているぞ」
「しているのか」
「イメクラは駄目だ」
しかしそれは駄目だと言うのであった。
「あれは面白くはない。本番がないからな」
「おい待て」
今の言葉には彼はまた突っ込まずにはいられなかった。
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