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IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~

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number-23

 


「れんくん、この黒い子は私が抑えておくからそっちの奴だけに集中してよね」
「……悪いな」


 束がVTシステムによって暴走してしまったラウラの機体を抑えに向かう。彼女としては、VTシステムなんて不細工なものさっさと壊してしまいたかったが、一応研究対象として興味もなくはなかった。ただ、このまま自分が戦っても数分と持たずに壊れてしまうだろう。そうなってしまうと欲求が抑えられなくなってしまう。
 不意に一緒に連れて来ていた鈴音を見つけた。彼女は、実際の戦闘に腰を抜かしている様子も見られず、冷静であった。これはひとえに代表候補生だからなのかは分からないが、ちゃんと彼女が使える奴だと証明していた。
 ――――利用してしまおう。


 そうと決まれば、束の行動は早い。まずは鈴音に個人通信(プライベート・チャンネル)で連絡を取り、自分がいる方へと向かわせる。
 次は、こちらを敵だと認識している暴走体に少しダメージを与える。全盛期の千冬のコピーではあるが、所詮はものだ。しっかりと人が操縦しなければISに力なんて伝わらないことなんて分かりきっていることなのだ。


「……来たわよ」
「お。来たね、待ってたよ。じゃあ、さっそくだけどこいつを倒してみようか」
「…………どうせあたしに拒否権なんてないんでしょ。……いいわ、やってみせる」
「その意気、だよー。ちゃんと私が言った通りにISを人として接すれば力をちゃんと出してくれるよ。……それじゃあ、頑張ってね」


 そう言って束は鈴音と暴走体から離れた。残された鈴音は、心静かに暴走体を見据える。双天牙月を構えて龍砲もチャージを始めていた。
 格上の戦い。そんな戦いは最初から自分に勝率はほとんどないと相場は決まっている。でも、そんな戦いでも勝ちを引き寄せるのが鈴音だ。相手がシステムでも関係ない。


 細かい計算だっていらない。いつだってあたしは、自分の勘を信じて戦ってきた。それなら、自分とISを信じて戦うだけ。


 心に静かな闘志を燃やし、それでいて頭は冷静に。大丈夫。
 手のひらに滲んできた汗を握ったり開いたりすることで誤魔化す。手が震えている。大丈夫。これは怖いから震えているんじゃない。武者震いだ。
 大丈夫。あたしはできる子だってことを束さんに証明する。もう、自分の力の無さでつらい目に遭うのは嫌だ。あたしは、自分の道を自分で決めるためにここにいる。


「ぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!!」
「――――ッ!」


 鈴音が叫びと共に暴走体に向かって突撃していく。暴走体もそれに反応して鈴音に向かっていく。切り結ぶまでにかかった時間は一瞬だった。


 ◯


 ――ドガガガガガガガガガギギガギギガギン!!!


 一瞬の応酬。滅多に起こらないIS同士の近接格闘戦。蓮対スコールの戦いは熾烈を極めた。
 辺りに響き渡る不協和音がその先頭の凄まじさを物語っている。最初の方は、ウォーミングアップと言わんばかりにお互いにヒット&アウェイを繰り返していたが、特にきっかけもなくいつの間にかラッシュ戦になっている。


 まず間違いなく肉眼で捉えることは不可能な速度でアリーナ全体を十分に使い、ただ愚直に相手を倒すことだけを考えて二人はブレードを振るい続ける。二人の頭の中には遠距離武装を使うという選択肢は存在していなかった。なぜなら、遠距離武装、例えばアサルトライフルなりに持ち替えた瞬間に相手に押し切られると分かっているからだ。故に千日手にもなりかねない状況に置かれているのにも拘らず、ブレードだけを振るい続ける。


 光が瞬いたと思ったら今度は別の場所で瞬く。遠く離れているわけでもないのに音が遅れて聞こえてくる。音速を超えた戦闘に二人の体は悲鳴を上げ始めていた。いくらISが操縦者を守ってくれるからといって操縦者を襲う衝撃などからは守れないのである。となると、二人を襲うのはお互いだけではなく強烈なGも精神を確実にむしばんでいた。
 常人では、まずやろうともしない音速戦闘。二人はただ相手を倒すという単純な理由で音速戦闘を行っているのだ。いや、二人は別に意識もしていない。単純な目的を達成する過程でこうなってしまっただけにすぎないのだ。


 とはいえ、こんな常識を超えた戦闘を続けるなんて確実に間違っている。異常なまでに体に負担をかける音速戦闘を真耶は管制室で何とかやめさせようと考えを巡らせていた。一応先程から呼びかけているのだが、返事がない。拒否はされていない筈だから通じている筈なのに彼は通信に応答しようとしない。


「山田先生、無駄だ。彼には聞こえていない」
「でも、今すぐにあの戦いを止めさせないと見袰衣君は、最悪後遺症を残すかもしれないんですよ!?」
「そんなことはっ!! 分かっているんだ……そんなことは実際に体験したことがあるから私は知っているんだ。あの状態で連絡しても音速を超えているから音が届かないんだ。聞こえるのはノイズだけ。いや、御袰衣は戦いに集中しているからそれすらも聞こえてないのかもな」
「そんなっ……じゃあどうしたら」
「……決着を待つしかない。あの二人は止まらない」


 何とかしようとしても叩きつけられる無情な現実。教師であるのに生徒一人すら守れない未熟さにいらだった。それと同時にこんな緊急事態なのに何も出来ていない自分の無力さを呪った。ただ歯を食いしばって無事を祈ることしかできない自分の無力さに腹が立った。


 そして教師二人の話を同じ管制室にいた楯無は聞いていた。聞きたくなかった事実。自分の身を削ってまで戦う意味が分からなかった。何もわからない。でも、分かることが一つだけある。
 自分は無力だということだ。


『暗いね、ちーちゃん』
「その声はっ……! 束……?」
『ハロハロ~。久しぶり、私は別に会いたくなかったけど、なんか変な空気を感じちゃったからしょうがなく繋いであげたよ』
「たっ、束っ! あの戦いはいつ終わるんだ!?」


 急に管制室に響いた束の声。先程から連絡を取ろうとしていたがなかなか応答せず、話す気がないのかと半ば落胆していたが、急につながったことに千冬は珍しく束に感謝した。そして束に問う。でも、束はそんな千冬を見て寂しそうな笑みを浮かべるだけだった。すぐにいつもの何を考えているか分からないニコニコとした表情に戻った。しかし、千冬は束の小さな表情の変化を見逃してしまった。これが後々どう影響するかは分からないが、束にとって一つの楔が取れた瞬間でもあった。
 幼いころからの親友。そんな関係にある千冬なら自分のことにも気づいてくれるはずだと束は、かすかな希望にすべてをかけてた。――――結果は、すべてを裏切られた。こんな時でも気づいてくれると思っていたのに。


 ……どうあれ、束を縛っていた鎖の一つが砕け散った。
 この自分にしか分からない結果に喜ぶ自分と悲しむ自分がいる。でも、もう関係ない。親友だった織斑千冬はいないのだ。一方的なのは束自身でもわかっている。それでも、彼女のことを試してみたかったのだ。


『大丈夫だよ、ちーちゃん。もうすぐ終わるから。それじゃ、また近いうちに話そうねちーちゃん』
「束っ!? 束っ!!」


 一方的に切られた。友人からも見捨てられたような気がした千冬は、力なく肩を落とす。そんな嘗ての世界最強の姿に真耶と楯無はかける言葉が見つからなかった。
 モニターに目を移すと、束の言った通りに音速戦闘が終わりを迎えようとしていた。


 ◯


「流石に、これ以上の、戦闘は、きついものが、ありますね」
「はっ、ここで仕留めるつもりだったんだけどなあ。まあ、俺も限界だ。どうだ、ここら辺で打ち切らねえか?」
「もっと続けたいところですが、戻る分を考えるとここで終わらせた方が聡明ですね。Mとオータムを連れ帰るからもう手を出さないでもらえるかしら?」


 スコールの言葉に沈黙で答えた蓮。強がってはいるが、体が限界だ。これ以上は戦うこともままらないだろう。体力の消耗も激しい。蓮とスコール共にここら辺が引き際と見た。大人しくMとオータムを抱えていまだに張り直されないアリーナを覆うシールドの穴から抜けて飛んでいく。
 それを見届けた蓮はあと一頑張りだと暴走体の方を見ると、鈴音が壁際に追い込んで龍砲を一当てし、双天牙月で一閃するとエネルギーが尽きたのか黒い塊がが瓦解し、ラウラが開放されて鈴音がラウラをキャッチしていた。


 とりあえず終わった。ISの損傷も激しいが、何よりも自分の体中が痛い。しばらくは安静だなとこれからの行動を自重することに決める。問題は山積しているが、今は誰も死ぬことなく終わったことに喜ぼう。


 今更教師部隊が出てきた。それを横目に見つつ、ISを解除して束のもとへ向かう。束のISは弾薬消費のみで本体ダメージ零と来ているものだからさすがだと感心する。
 鈴音もラウラも教師たちに保護されて医務室へ向かっていく。鈴音に至ってはまた医務室に送り返されるのだから溜まったものではないだろう。
 中破した新星黒天を束に預けてアリーナから束と出ようとすると、二人は教師部隊に囲まれた。しかもご丁寧に銃までむけられて。


「何の真似? ちーちゃん」
『悪いが、お前たちが亡国機業と知ってはいそうですかと言っていられるほど私たちは暢気じゃないんだ。話を聞かせてもらう。大人しくついてきてほしい』
「そんなこと――――れん、くん?」


 激昂しそうな束を制止した蓮は、大人しくついていく旨を千冬に伝える。束は納得がいかないようだが、ここは大人しく従っておく方が得策だ。IS学園は国の干渉を受けないから束がここにいることも口止めできる。そう束に言うと、不承不承だが分かってくれたようである。
 連れて行かれる際に新星黒天と新星白天を回収されてまた束が切れそうだったが、何とかおさめる。


 ようやく終わったのだ。高々三十分程度だが、途方もなく疲れた。とりあえず寝たい。今の蓮はそれだけが頭を埋め尽くしていた。





 
 

 
後書き


年末。皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
今年一年は、政治やら自然やらが世間を騒がせましたが、私はこれといって特に何もなく平凡な一年を過ごしました。……平和ですね。
ではでは、このあたりで。よいお年をお過ごしいただけますように。

 
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