美しき異形達
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三十二話 伊勢神宮その四
「それもかなり」
「多いからなのね」
「はい、ですから」
それで、というのだ。
「何処にどういった社があるのか少しわかりにくいです」
「ううん、そういえばそうね」
言われてみればとだ、菊も桜の言葉に頷く。
「広いしね」
「山一つが神社とかそうした規模では」
「さらに上いってるしね、ここは」
「この場所自体が霊地ですし」
「その沢山ある社の一つ一つもね」
「神聖に思えますが」
それでもだというのだ。
「沢山あるので何処に何があるのか少しわかりにくいですね」
「ええ、本当に」
「歩いているだけで」
桜は実際に足を進めつつ言った。
「下から感じるものがあります」
「霊地ね。まさに」
菫も言った。
「ここは」
「そうですね、そしてこれから」
「ええ、神楽殿に行ってね」
菖蒲がその菫に話す。
「それからね」
「そこで手を合わせてね」
「それからも回りましょう」
「そういうことね、それにしても本当に」
菫もしみじみとして言うのだった。
「ここは違うわ」
「来てよかったな」
薊もまたしみじみとして言う。
「明治神宮も凄いけれどさ」
「ここはまた、ね」
「別格だよな」
「そう言うしかないわね」
「ずっとここにいたいとさえ思えてきたぜ」
笑ってこうも言う薊だった。
「あたしにしてもな」
「けれどね」
「ああ、それでもなんだよな」
「ここにはずっといられないわ」
「他の場所にも行かないといけないしな」
「ええ、それでなのよ」
「伊勢の後は滋賀か」
「今度は琵琶湖で泳ぐわよ」
「琵琶湖なあ、あそこもな」
日本最大のその湖も、と言う薊だった。
「はじめてなんだよな、あたし」
「ずっと関東にいたから」
「それでなんだよ」
琵琶湖もというのだ。
「観たこともないよ」
「じゃあいい機会ね」
「だよな、ただ琵琶湖だから」
それでとだ、薊はこんなことも言った。
「海水じゃないからな」
「ええ、だからね」
菫もその薊に応えて言う。
「後が楽よ」
「海の水って塩水だからな」
薊は少し苦笑いになってこうも言った。
「後がちょっとな」
「泳いでる時はいいけれどね」
「べたついたりするんだよな」
「けれど琵琶湖は淡水だから」
「そういう心配はいらないか」
「その分が楽よ」
「それっていいな、あたし海で泳ぐの大好きだけれどさ」
横須賀で育ってきて神戸にいる訳ではない、だから薊は海も海で泳ぐことも好きなのだ。だがそれでもだった。
ページ上へ戻る