美しき異形達
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第三十二話 伊勢神宮その三
「そうなるかも知れないわね」
「そうなんだな」
「そうなるわね、じゃあ」
「入るか、中に」
「これからね」
こう話してだった、そのうえで。
一同は神社の中に入った、そうして中を見てだった。
薊は唸ってだ、こう言った。
「すげえな」
「うん、何かね」
「本当に神様の世界にいるみたいだな」
「この世にないみたいよね」
「木と木の中にな」
しかもただの木ではない、何百年も生きている様な大きな木ばかりだ。
その木の中に自然のままの世界がある、自然のままだが。
草木は少ない、そこがまた不思議だった。薊はその自然のままでありながら草木の少ない、遠くに木の社達が見える場を歩きながら言った。
「冗談抜きであたし達な」
「神様の世界に来たのかもね」
裕香がその薊に応える。
「そう思えてきたわね」
「だよな、天照大神がな」
「出て来てもね」
「おかしくないよな」
「神様のいる世界ってね」
「こんなのかな」
「神話の世界にいるみたい」
日本神話のそこにだ。
「本当に不思議な世界ね」
「だよな、ここをだよな」
薊はこうも言った。
「歴代の天皇陛下も参拝されてるんだよな」
「今上陛下もね」
「それだけではないわ」
菖蒲もだ、その神の世界を見つつ言う。
「ここは源氏物語にも出ているし」
「あの作品にもか」
「そう、それに織田信長も参拝しているし」
「あの人もかよ」
「江戸時代にはお伊勢参りで賑わっていたわ」
「じゃあ色々な人がここに来ているんだな」
「東海道中膝栗毛の目的地でもあるわ」
江戸時代の代表的な文学作品だ、尚ジャンルは娯楽作品と言っていい。当時の江戸の庶民の旅行を扱った作品だ。
「ここはね」
「何か色々ある場所なんだな」
「ええ、日本の神道の中心地の一つだから」
「中心地の一つ、そうね」
向日葵が菖蒲の今の話を聞いて頷いてこう言った。
「他にもあるからね、中心地は」
「出雲大社もね」
「あそこもよね」
「天津神と国津神の違いよ」
「神様の系統ね」
「そう、この伊勢は天津神よ」
「出雲は国津神ね」
この二つに分かれているのだ、日本の神々の系統は。
「そうだったわね」
「そう、神様の中心地は一つではないの」
「日本独特ね、その辺り」
「他にも大きな神社あるけれど」
菊は自分のすぐ右手のその大木、やはり数百年は普通に生きてきていると思われるその木を見つつ言った。
「住吉大社とか厳島神社とか」
「ここはまた違いますね」
「ええ、本当に神話の世界にいるみたいな気持ちになるわ」
こう桜にも返すのだった。
「ここにいるとね」
「神秘的ですね」
「幻想的とも言っていいわね」
こうも言う菊だった。
「ここは」
「そうですね、ただ」
「ただ?」
「社が多いですね」
桜が言うのはこのことだった。
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