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Santa's Claws~サンタズ・クローズ~

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-第1話~武装サンタの住む村~

Santa's Claws~サンタズ・クローズ~

初めに光があった。
光は人と共にあった。
光は人と交わした絆を尊んだ。
しかし人はそれを拒んだ。
一部の光の使者は光の上に立とうとし、
後に影となったが、
それは光に打ち勝てなかった。
そこで影は別のものに目を向けた。
それは光がもっとも尊ぶものであった。

光の使者と影は「アウター」と呼ばれ、彼らは自らの力を地に宿した。
光の力は「ヒカ」、影の力は「ゲカ」と呼ばれ、アウターに遠く及ばないものの、
人にとっては驚異的な力だった。
この二つのアウターの力はあらゆるものを侵し、憑かれたものを、「アウタレス」と呼んだ。
ヒカは人の心の中にある聖を照らし、ゲカは闇を照らす。

アウターは殆ど干渉する事なく、ただ人の経緯を見てきた。
そして人はアウターの力を利用し、翻弄され、各々の生を歩んでいた。

-第1話-

北国の白い林の中を、月明かりに照らされた三人の賞金稼ぎが歩いていた。一人目は女性、名をアルクース・ヴァハオース。25歳。装備は軍用マッスルスーツ(パワードスーツ、強化服の一種)、ソードライフル、グレネード、ハンドガン。二人目は男型のサイボーグ、名をスーリ・フィンゴット。25歳。装備はスピアロケット、アサルトライフル。そして三人目は巨大な三輪バイクを連れ重装備したパワードアーマー(人型強化装甲。強化服を着た人間が乗る強化服といったもの)、名をユクサン。三人はアウター探知機や機材を手に、アウターの反応がないか確かめながら近くの村へ北上していった。
「ねぇ、本当にここらのアウター反応を確認するだけで報酬が入るの?」
「ああ、顔見知りの情報屋からの依頼だ、間違いない。」
ユクサンが低い声で念押ししても尚、アルクースは不信がっていた。
「まぁ俺達はあんたと出会って間もないからな。あんたの売る武器はいいもんだが、知らない相手の依頼となると気にもなるもんさ。ともかく俺達はこの先にあるムスタ・プキン村にお使いしなきゃならん。村に着ければそれでいい。」
スーリは相方のアルクース程依頼に関して気にはしていない様子だ。
「その村には武装したサンタが大勢いるんだって?」
アルクースの問いにユクサンが答える。
「そうだ。村の名前も『黒いサンタ』という意味があるように古くから武装サンタが村や村の周辺を守ってきた。先程通り過ぎた村とは違い、ムスタ・プキンは観光だけじゃなくビジネスで訪れる者も多い。そして近年その村にゲカ・プラントを建設する予定だったが、試作ゲカプラント建設後に村近くでゲカ・アウタレスの出没件数が増えているそうだ。ゲカ燃料に引き寄せられていると推測されるが、はっきりした事は分かっていない。」
ユクサンは足を止め、辺りを見渡した。それを見たアルクースは気になり声を掛けようとしたが、持っていた探知機が反応を示した。彼女は身に着けていたヘッドホン型の外付け端末に手を当て、目を瞑り情報処理速度を上げた。

キュイィィィン

「何かいるのか?」
スーリは何も捉える事ができなかった。
「距離約300に生体反応…人…?」
アルクースは首を傾げながら残りの二人と共に反応があった位置へと接近した。そこにはコートを着た少女がいた。名をペリ・ホペ。5歳。彼女は三人に気付くとユクサンを指差した。



「あ、ロボットのおっちゃんだ。」
ペリを見て三人の賞金稼ぎは口を揃えた。
「幼女だ…」

-第1話~武装サンタの住む村~

賞金稼ぎの三人は周囲を警戒、アルクースはペリが無害であると判断した。
「君はここで何をしているの?他に誰もいないの?」
「パパと怪獣から逃げてきたんだけど、パパとはぐれちゃった。」
「お父さん今どこにいるか分かる?」
「わかんない。」
「そっか…さっきロボットのおっちゃんって言ってたけど、君この人知ってるの?」
「うううん。でもさっきサンタのおばさんにここにいればロボットのおっちゃんに会えるからって。すぐ戻るから待っててって言ってた。」
「サンタのおばさん?」
ペリと話していたアルクースにユクサンが答える。
「先程話した知り合いの情報屋の事だろう。彼女も武装サンタの一人だ。すぐ戻るなら、しばらくここで待機するか?」
アルクースは答えずスーリの方を向いた。
「俺は構わないぜ。」

アルクースとペリが何気ない会話をしていると、アウター探知機が大きく反応し、賞金稼ぎ達は武器を構えた後、12ゲージショットガンを背負った女性武装サンタが跳んできた。彼女は着地するや否や自己紹介を始める。



「私はサン・タナ・ローズ。ムスタ・プキンの武装サンタだ。待たせて悪かった。早速で悪いのだが、ペリを安全な所まで連れて行く。ここは危険だ。」
スーリがタナに声を掛ける。
「危険?アウタレスか?」
「そうだ。詳しい事はまだ分からないが近くにいるのは間違いない。」
ペリは不安そうにタナをずっと見つめている。
「パパは?」
「私の友達が探しているよ。ペリを送ったら、私も探しにいくから。」
「うん。」
タナはペリを抱え、三人に忠告する。
「安全に村に行きたいのなら東の国道まで迂回しろ。報酬は村で渡す。手を貸してくれて感謝する。」
タナに抱えられたペリは小さく手を振り、タナは闇の中に跳んでいった。アルクースも小さく手を振り返す。
「二人は大丈夫なの?」
「タナはヒカのアウタレスだ。彼女は強い。」
答えたユクサンの横でスーリはアウター探知機を見つめる。
「成る程。それで。しかしアウター反応がもう一つあるぞ。距離約200、濃度約10、ゲカだ。この安もんじゃあ、これ以上は分からん。とりあえずここらでいっちょ稼いでくか。」
スーリを先頭に、賞金稼ぎ三人はアウター反応がある場所へと向かった。

スーリは正面に何かを捉え、彼は足を止めた。人が横たわっている。近づいてみると、中年の男性が雪の上で苦しみもがいている。スーリは男にゆっくりと近づき、残りの二人は周囲を警戒した。
「おい。大丈夫か?…はっ!」
スーリは男の左半身がアウタレス化している事に気が付いた。男の半身は黒く蠢き、男に苦痛を与えながら全身を呑み込もうとしている。
「はや…くっ…にぃ…げろ…」
酷い光景を前に、スーリは一度自身を落ち着かせ、手にしたスピアロケットの刃でアウタレス化した半身の一部を切り離そうとした。が、武器を上に構えたその時、スーリの目の前に巨大な爪が飛んできた。スーリは爪を防ぐも、後ろに吹き飛ばされた。彼の目の前には完全体となった人型ゲカアウタレスが立っていた。不気味で全身が黒く、長い腕に大きな爪を持っていた。
「おい…俺の言葉が…」
アウタレスに意識があるか確認しようとスーリは声を掛けるが、アウタレスが彼に襲い掛かってきた。

タタタタタッ

ソードライフルを構えていたアルクースが銃を放ち、アウタレスは後ろへ距離を取った。スーリもすかさずアサルトライフルを撃ち、ロケットスピアのロケット弾を放った。

爆音と共に辺り一帯が雪煙で覆われた。賞金稼ぎ三人がじっと警戒する中、横から傷を負ったアウタレスがアルクース目掛けて襲い掛かった。気付いたアルクースは力を込め、着ていたマッスルスーツが伸縮し、アウタレスの振り下ろされた右腕をソードライフルで受け流し、そのまま斬撃を繰り出す。アウタレスは回った拍子にその斬撃を左腕で打ち止め、再び右腕をアルクース目掛けて振り下ろした。アルクースはソードライフルの引き金を引き、アウタレスの右腕を弾き、後退するアウタレスを撃ち続けた。ユクサンも銃撃したが、アウタレスは林の中に消え、少しの沈黙が流れた。

傷の癒えたアウタレスは雪煙を作りながら賞金稼ぎの周囲を縦横無尽に走り、三人を撹乱した。アウタレスは素早い動きですれ違いざまに一人一人を攻撃し、三人は防戦一方となった。嵐の様な攻撃でアルクースは体制を崩し、アウタレスは狙いを定めた。ところがそこへユクサンが突っ込み左肩をアウタレスにぶつけ、ユクサンは右肩に背負ったウェポンコンテナに手を伸ばした、その時。

チリン

ジングルベルが辺りに響いている。アウタレスは動きを止め、三人も動きを止めた。導かれるように、アウタレスはジングルベルの鳴る方角へと姿を消した。安全を確認したアルクースとスーリは地に座り一息ついた。ユクサンは武器をしまい、アウタレスの向かった方角を見つめていた。

アウタレスが辿り着いた先には、一人のサンタがいた。サンタに向かってアウタレスが走り出すと、サンタは40mmリボルビンググレネードランチャーを取り出し、アウタレスが近付けないように連射した。更に9mmサブマシンガンを取り出し、アウタレスの動きを牽制した。隙を見てアウタレスはサンタに近付き、サンタはグレネードを投げた。アウタレスは小さく跳び、グレネードを避け、更にグレネードの爆風を利用し加速した。空中からサンタに急接近したアウタレスは右腕を振り下ろし、間に合わないサンタは咄嗟に左腕を前にかざす。

アウタレスの爪をもろに食らったサンタの左腕が千切れた布を撒き散らす。するとアウタレスの爪にひびが入り、根元から折れた。驚いたアウタレスの目線の先にはサンタの左腕に装着されたクローがあった。サンタの左腕には黒いローラが身に纏っていた。彼もまた、ゲカのアウタレスだったのである。ゲカの力と着ていたマッスルスーツの力でアウタレスを殴り飛ばし、サンタは腰から巨大な12ゲージリボルバーを抜いた。このリボルバーはショットガン用の弾を用い、更に銃口が上下に二つある為2発同時撃ちが可能だった。



飛び掛るアウタレスにサンタはリボルバーを向け、横に倒し、銃をぶっ放した。弾丸はアウタレスの両足を吹き飛ばし、銃の反動でサンタは横に回転した。勢いが残っていたアウタレスは左腕でサンタに突っ込んできたが、サンタは回転力を用いアウタレスを地面に叩き付けた。暴れるアウタレスにサンタはすぐさま注射器を取り出し、アウタレスの首元の傷口に挿した。アウタレスは更に暴れたが、次第に大人しくなっていた。注射器の中には白く光る液体が入っていた。ヒカだ。ヒカが体中に回ったのか、アウタレスの体はみるみる人の姿へ戻っていった。ゲカにより回復中だった両足は不完全な状態で止まった。膝より下は欠損していたものの、アウタレスは中年男性の姿に戻っていた。かなり衰弱している男は目を覚ました。
「すまんな、タズ…貴重なヒカまで使わせてしまって…」
「気にするな。」
小声で話す男にサンタが答えた。名をサン・タズ・クローズ。年は30代。タズと呼ばれる事が多い。
「娘は?」
「無事だ。」
男は優しく微笑んだ。

~半日後~

アウタレス化していた男は村の病院で7時間に及ぶ緊急手術を受けた。名をラケンナ・ホペ。48歳。ペリ・ホペの父親だ。ラケンナのいる病室の外では疲れ果てたペリがタナの膝の上で眠っていた。ラケンナは衰弱していたがタズと話をしていた。



「私達を襲ったゲカアウタレスは?」
「すまんがまだ見つかっていない…しかし驚いたよ。アウタレス化から人に戻って意識まで戻るとは。これもあんたがゲカ燃料の研究者だからか?」
「だが見ての通りぼろぼろだ。それにあなた達もアウタレスなのだろう?よければどうやってアウタレスになったのか聞かせてくれないか?」
ラケンナの問いに、タズは語り始めた。
「俺達の事か?そうだな…俺がまだ軍にいた頃、親父は武装サンタだった。俺は休暇でここに帰郷した際、俺と親父はゲカアウタレスと対峙した。親父は俺を庇ってアウタレスに刺されたが、そのまま俺も刺されてゲカに取り憑かれた。親父は死に、何とかゲカを封じ込めた俺はアウタレスになった。」
タズは話を続ける。
「タナは父親がヒカのアウタレスだったからな。彼女は非常に珍しい生まれた時からのアウタレスだ。因みに今この地を離れているティアナもヒカのアウタレスだ。彼女は以前アウタレスに襲われた時瀕死に陥った。その時タナは身を削る程ヒカを彼女の体に送ったが結局駄目だった。それが原因で衰弱していたタナに別のアウタレスが襲い掛かってきたんだが、その時タナを守ろうとティアナはアウタレスに覚醒したらしい…」
「この村だけでアウターの力を制御できる人間がこんなにいるとはな…」
「だが強力なアウターの力にはいつだってリスクが付き纏う。」
「そうだな…ああ、思い出した事がある。」
ラケンナは顔色を変え、タズが彼の方を向いた。
「何をだ?」
「アウタレスになって感じ取ったのだが、アウタレス増加の原因はゲカ燃料ではない。」
「何?」
「何か…何かがアウタレスを誘き寄せて…いる…」
ラケンナの呂律が悪くなった。
「分かった。今はゆっくり休め。」
タズを無視し、ラケンナは話を続けた。
「娘に…これからも元気で…と伝えてくれ…」
急な台詞にタズが駆け寄った。
「おい、しっかりしろ。あんたはゲカに打ち勝ったじゃないか。」
病室の外にいたタナは状況を察し、ペリの額をそっと撫で、ラケンナは目を閉じる。
「そうだな…リスクは付き物だ…」
雪止まぬ冬の夜、ラケンナ・ホペは命を引き取った。



「やはりゲカが脳にまで達していると、どうにもならんな…」
ラケンナ・ホペの遺体が病院から運び出される光景を前に、タズが呟いた。
「医療が発達しても尚、アウターの脅威は相変わらずね。」
タズの隣でタナが煙草を取り出したが、彼女はペリに気付き煙草をそっと仕舞った。ペリも二人に気付き、二人の方へ歩いてきた。

「あたし、決めたよ!あたしもお父さんみたいな立派な研究者になる!」

朝日を背に、少女の真っ直ぐな瞳は輝いていた。



-第1話~武装サンタの住む村~ ~完~

ラケンナの残した言葉
狙われた村
紅き死神

次回-第2話~タナと村に忍び寄る影~ 
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