霹靂の錬金術師
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ここ二日ほどエドワード君の噂をよく耳にする。
曰く壊れた屋台をただで直してくれた。
曰く建設中の建物を一瞬で造ってくれた。
曰くベビーカーを悪趣味な形に作り変えてしまった。
などなどだ。
一体エドワード君は何がしたいのだろう。これらのおかげで彼の評判は鰻登りだ。しかし彼はそんな刹那的なものや評価には興味のない人だったはずだ。いや、どうだろう案外得意気になっているかもしれない。
しかし何にせよこれは何か裏がある。そうでないと突然起こしたエドワード君の行動に説明がつかないからだ。そう思ったが私は特に何もしなかった。警戒しなかったり妙なことをすると痛い目を見る。傷の男に襲われた際に学んだのだ。
しかしこれは結果として全くの無意味に終わる。つまり、結局私は何をしなくても何かに巻き込まれてしまうということらしい。
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食材がきれてしまったので市場で買い込んだその帰り。
喫茶店の野外席に座るエルリック兄弟がホークアイさんの運転する車に乗ったマスタングさんと話しているのを見つけてしまった。
ヒソヒソと話していていかにも大切なことを話してますといった風だ。
立ち止まって見ているとエルリック兄弟が一度車に乗るも直ぐに全員が降りてきてしまう。本当にどうしたんだろう?あぁ、アルフォンス君が大きいから手狭になる車中での会話を避けたのか。
特に無視する理由もないので近づきながら声をかける。
「みんな、こんにちは」
「あ!ソフィアさん」
「ソフィアか。君にも関係がある話だ。きたまえ」
「え?」
という訳でマスタングさんに強引に引きずられていく。
着いた先は人通りの少ない路地裏だった。秘密の話をするのには大変適していそうだ。
そこで情報交換をしていく。ドクターマルコーのことから人柱のことやイシュヴァールのことまで、交換事項は多岐にわたった。
イシュヴァールと言えば傷の男。彼はまだ中央を彷徨いているらしい。あのあと、三人の国家錬金術師が殺されている。生き残れた私は本当に運が良かった。
兄弟はその傷の男と会いたいそうだ。以前彼らも一度会い、コテンパンにやられたそうなのに。それなのに会って闘いたいという。ここ数日の行動は傷の男に見つけてもらうための布石なのだとか。
全く無茶をする子達だ。それに一度は負けた傷の男に挑めるなんてすごい。私はもう二度とゴメンだ。
そんな感じで情報交換をしていると不意にホークアイさんが銃を構える。銃口の先にいたのはあの男だった。
「傷の男……」
すかさずホークアイさんが撃とうとするがエドワード君が急いで止める。
何かと聞けば、傷の男と闘いピンチになるだろうから、『人柱』を死なせたくない人造人間が現れる。そしてそこを捕らえる。それが兄弟の目的とのこと。
そして憲兵などのあしらいをマスタングさんに押し付けて二人は傷の男に挑んでいった。
ソフィアも来い、とマスタングさんに言われ、ホークアイさんが何処かから調達したてきた高級車に乗り込む。とられた人、可哀想に。
そのままフェリー曹長の別宅に急ぐ。
フェリー曹長の別宅には様々な通信機器と憲兵司令部のチャンネルが書かれた紙束があった。
それを使って情報を錯綜させ、憲兵に混乱をもたらす。途中マスタングさんのテンションが変に上がってしまったことを除けば概ね成功だ。
その後も適当にウソの情報を流し続ける。その頃にはマスタングさんのテンションも元に戻り、今は憲兵司令部の通信を聞いている。
そして何を聞いたかはわからないが、私とホークアイさんにサン・ルイ通りのあたりに援護に行ってやれと言う。そして郊外にある空家の住所を書いた紙をあとでここに集合、とホークアイさんに渡した。
私たちは一応変装をしていくことになった。
ホークアイさんはレンズを外したフェリー曹長のスペア眼鏡を。私は多少視界は悪くなるが眼鏡を外した。
その時ホークアイさんに眼鏡外した方が可愛いわよ、と言われ照れてしまったのは仕方がないだろう。
私は人から容姿を褒められることがあまりなかったのだ。両親が私を箱入り娘として育てたためである。
出ていく間際にホークアイさんが現場に出てくるなとマスタングさんに釘をさす。マスタングさんもバツが悪そうに了承した。
高級車に乗り込み、憲兵たちの動向を横目にサン・ルイ通りを目指す。
憲兵たちの動きから鑑みるにエルリック兄弟は汽車庫のあたりで闘っているみたいだ。あの傷の男相手にここまで長引かせるなんて。素直に賞賛しか湧いてこない。それと同時に生きててよかったという安心も湧いてくる。
狭く入り組んだ道を抜け、激しい音が聞こえる方向を目指す。
抜けて開けた場所に出た。あ、傷の男がいる。と、横から発砲音がした。弾は傷の男の左太ももに命中する。横を見るとホークアイさんが銃を構えていた。
そこにワイヤーに縛られた肉玉を全身で抱えているリン君が近づいてきた。彼はいつも思いがけないところで会うのはなんでだろう。
リン君は肉玉を車に載せた。車のサスペンションが大きく軋む。よく見るとそれはいつかの樽男だった。それがワイヤーに肉が食いこむほど縛られている。
それを確認したホークアイさんは正体をバラしそうになったエドワード君に口止めをして車を発進させた。
途中リン君がランファンさんが瀕死でいる、と回収を求めた。一度は空き家に向けた車をリン君のいう場所に方向を変える。
その道すがら大総統とすれ違う。目が合うが、直ぐに逸らした。一瞬だったし眼鏡も外しているから大丈夫なはずだよね。
空き家は中央からかなり離れた森閑な場所にあった。人造人間はとりあえず納屋に転がしておいた。
そして、空き家の一室にあった硬そうなベッドに片腕を失ってしまったランファンさんを寝かせ、処置をする。私は医療の心得がある。しかしそれはかじった程度なのであくまで応急処置だ。早くに医者が必要だと伝えるとホークアイさんがマスタングさんに連絡してくる、と近くの公衆電話を探しに行った。
ホークアイさんが連絡を終え帰ってきてからしばらくしてマスタングさんが来た。兄弟とノックスさんも一緒だ。
「…ノックスさん、お久しぶりです」
「………雷の嬢ちゃんか。髪切ったんだな」
ノックスさんとはイシュヴァールの際、人間の感電について外道な人体実験をした共犯者だった。マスタングさんが彼を頼ったのは納得できる。
ついでにノックスさんの言う通り私はイシュヴァールの時はロングヘアーだった。
検死官になったと言うノックスさんは少し衰えた腕でランファンさんを治療していく。ランファンさんの呻き声が耳に痛い。
ランファンさんの治療が一段落して、みんなが集まったとき、リン君から驚きの報告がされる。ちなみにホークアイさんは外で番をしている。
それは大総統が人造人間の可能性があるということだった。
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