騎士の想い
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第三章
第三章
しかしであった。彼は果敢に奏でていた。そしてそこには心があった。誰もがその心を確かに感じ取ることができたのである。
「これは」
「そうですな」
「竪琴の腕自体がたどたどしいが」
それでもなのだった。
「心を感じます」
「確かに」
「見事なまでに」
それを感じ取って誰もが言い合うのだった。
「こうした竪琴もまた」
「いいものですね」
「まことに」
貴婦人のそれには聴き惚れるものがあった。それに対してイークリッドのそれは心に訴えるものがあった。確かに拙い技術だが皆それを聴くのだった。
そして終わってから。聴いていた者達は静かに拍手をした。そのうえで彼に対して優しい微笑を向けて言うのであった。
「貴方の御心は伝わりました」
「勝負とは関係がなく」
「私は勝ったのではないのですか?」
イークリッドは彼等の言葉を聴いてまず言った。
「それでは姫の名誉は」
「いえ、そうではありません」
「それは守られました」
彼等はこう告げるのであった。
「それは確かです」
「御安心下さい」
「そうですか」
それを聞いてまずは安心した顔になるのであった。
「それではいいのですが」
「その通りです」
ここで貴婦人も彼に対して言ってきた。
「イークリッド殿」
「はい」
「お見事でした」
これまでの意地の悪そうな笑みは消えていた。そのかわりに毅然とした、正しい意味で貴婦人に相応しい顔で彼の前にいるのであった。
「貴方の御心を聴かせてもらいました」
「左様でした」
「そして」
彼女はさらに彼に対して言ってきた。
「貴方程の方が忠誠を捧げるエヴァゼリン様のことも」
「わかって頂けましたか」
「はい、わかりました」
そのことも確かに応えた。
「よく」
「それは何よりです」
「真の騎士はおのずと己が忠誠を捧げるに相応しい相手の下に来るものです」
「おのずとですか」
「それが神の御導きです」
まさにそれだというのである。
「だからこそ」
「では姫は」
「今申し上げた通りです」
ここで微笑みになった。しかしその微笑みは静かで優雅なものであった。その微笑みもまた貴婦人に相応しいものであったのである。
「これでおわかりですね」
「はい、それでは」
「その忠誠を最後まで貫かれることを祈ります」
今度は彼への言葉であった。
「この度はいいものを見せて聴かせて頂きました」
彼はエヴァゼリンの名誉を守っただけでなく己の名声もあげた。しかし彼にとって自分の名声はどうでもいいことであった。それよりも忠誠を捧げるその姫の名誉が守られたことを何よりも素晴らしいこととしてそれを喜んでいるのであった。ただそれだけであった。
そしてある日のことだ。エヴァゼリンの領地が敵に襲われた。隣国が彼女の領地に兵を進めてきたのである。
「何っ、それはまことか!?」
「はい、そうです」
イークリッドに対して家臣の一人が狼狽する声で報告してきた。今彼は自分の領地にいた。そこで丁度政治を見ていたのである。
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