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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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二十四章 幕間劇
  烏と雀と三人での遠足

京討ち込みを控えた躑躅ヶ崎館内は、いつも以上の緊迫感で包まれていた。まあ最近は術式構築はもうそろそろ完了しているはずだけど、その構築は魔法使いであるルフェイやゲオルグとかにも手伝ってもらっている。俺は一真隊の事は詩乃達に任せて俺は俺でやる事に専念していた。まあ全てをお任せにするのも癪なんで、調達した武器の調整やそれらの割り振りから、ルートや補給地確認とかを足軽や組頭の話し合いながら裏での事を話し合っていたりする。

「組頭、例の件はどうなんだ?」

「へいお頭。ただいま順調に進んでおります、一真隊の方は順調ですが他の部隊からは侍大将や組頭との連携で順調に調書が集まっています」

「それならいいが、武将たちにはバレていないだろうな?」

「それも大丈夫かと、書かせているところも足軽や組頭達専用区画でやっていますぜ」

「今の所順調と、呼び止めて悪かったな。裏の計画始動までこちらも神殿やら術式がもうまもなく構築するから、情報が集まり次第決行すると皆に伝えておいてくれ」

そう言って一真隊の組頭を仕事場に戻らせてから、俺の仕事は終わったも同然である。で、タブレットに今の所順調という事で地上での確認終了の報告を入れてから俺は庭に向かった。疲れた程度ではないが、建物内にいるより庭にいた方が他の者と邪魔にならないためでもある。椅子はないから、中庭の石に腰を降ろして瞼を閉じた。

「お兄ちゃん」

そう呼ばれたので、俺は首を振るがどこにもいない。

「お兄ちゃん、ここだよ」

とんとん、と肩を叩かれても睡魔が襲ってきたのか瞼は開けてない。

「お兄ちゃーん!ここ、ここ!雀達はここだよー!」

耳元で大きな声を出されたので、瞼を開けると雀がいた。

「んー?雀か」

目を開けると雀のドアップに視界を覆われたが、気配で気付いていたので驚くよりも名前を呼んだのだった。

「やっと見つけた!お兄ちゃん、雀たちは、ここでーす!」

「お、おう。言われなくとも分かっている」

更に顔を近付いてくる雀を苦笑で制して、俺は立ち上がる。

「何か用か?」

「あのね、雀たち、これから遠足に行くの」

「遠足?」

「・・・・・」

「お兄ちゃんも誘おうと思って、ずっと探してたんだよ!たくさん、たーくさん、探してたの!」

「そうなのか、今結構バタバタしているが今は暇だからな。まあ息抜きはしたいよな」

そう言うと俺は俺で一生懸命やっている事は知っているし、大評定での事も知っているからなのか。息抜きをしたって誰も文句は言わないとな、あと全兵達を夜叉化するとは言ったが八咫烏隊の鉄砲部隊の兵達のみは、そのまま保護対象となっている。八咫烏隊は鉄砲集団だから、拠点に戻った後はブラック・シャーク大隊八咫烏部隊として国連軍の仲間入りにするつもりだ。狙撃班は一人でも多くいた方がいいからな、あとはウチは独立部隊なんで増えても問題はない。

「うん、それに遠足は楽しいの!山があって、川があって、空があって、動物がいて、お弁当があって、それからお姉ちゃんと雀もいるよ!山には宝物が埋まってるかもしれないし川からは桃が流れてくるかもしれないし、空から金が降ってくるかもしれないよ!楽しそうでしょ?」

「・・・・・・」

「お姉ちゃんは、遠足に行ってきつねに米俵を貰った事があるって!ほら、お兄ちゃんも行ってみたくなったでしょ?」

「(うんうん)」

「そこまで来るとホントに降ってくるかもな」

二人に誘われているからここに二人がいるのは当然だけど、俺は笑いを堪えていたので口をつぐんでいると更に言ってきた雀である。誤解を受けたかのように、まるであり得ない現象まで言ってくるとホントに何か起こりそうだな。桃が流れてくるって桃太郎かと思うくらいだけど、さすがに空から金は降って来ないだろう。微笑ましく笑っていると、雀はムキになっていたが鞄の中から竹皮の包みを取り出した。

「これ、雀が作ったお弁当!早起きして頑張って作ったの!すごーく美味しいんだよ!お姉ちゃんのお墨付き!」

「(こくこく)」

お弁当と言えばもうこんな時刻か、腕時計を見たのでたまには外で食うのも悪くない。そう思ったら俺の腹が鳴ったので、二人は目を輝かせて身を乗り出してきた。

「お兄ちゃん、おなか空いてるの?」

「・・・・・」

「このお弁当は外で食べると何百倍も美味しいってお姉ちゃんも言ってるよ」

「それじゃ、ちょいと出かけようか」

「やったー!」

「・・・・・」

無表情な烏も、その場で軽くぴょんと飛び上がる。この子らの様子を見ていた桃香達もこの子達はかわいいねーと言っていたが、拠点に帰ると紫苑達狙撃班の後輩となるぞと俺は念話で言ったら紫苑もさすがに小さな後輩ができるのはちょっと嬉しそうにしていた。

「ただし、あまり遠くには行けないよ。精々裏山だな」

「うん、分かってるよ!」

中庭から一旦館内に入り、出口に向かって歩いている時に幽と一葉が向かい廊下を歩いている姿が見えた。声をかけるか迷ったが、一葉から俺達に気付き軽く手を上げながら近付いてきた。

「揃って、何をしておる」

「んー、裏山まで弁当を食いに行く」

「遠足なんです!」

「・・・・・」

「遠足とな?」

うーん、この忙しい時にそれを言うとやはり怒られるかな?俺は暇だったけど、今更変更はできない。

「あまり遅くならないようにはするさ、忙しいのは理解しているが少しくらい出かけても大丈夫だと思うがいいか?」

「構わぬ。主様はこのところ随分と急がしそうにしとったからの。地上と上空を行き来するところを最近はよく見るようになったから、たまには息抜きも必要じゃろう。なあ、幽」

「公方様がよろしいのでしたら、異存はございませぬ」

許可が下りたから、ホッとしたけど。ダメと言われたらどうしようと思っていたけど、俺の後ろで小さな息が重なったように聞こえた。

「では、参るとするか」

「は?」

「遠足に行くのじゃろう?ああ、弁当の数は気にせずともよい。もう昼飯は食べたからな」

「ふえっ?公方様も?」

「・・・・・」

一葉が一緒だと、せっかくこの二人がデートに誘ってくれたようなもんだからなのか。一葉がそう言うと俺達三人は複雑そうな顔をした、なぜに一葉も一緒について行くのやら?雀たちは俺と行きたいのにな。

「なんじゃその顔は。余が行ってはまずいのか?」

「まずいです」

ぴしゃりと言い切られたので、一葉はぷくっと頬を膨らませる。俺もそう思った、まずいとな。

「なんじゃ幽、余には息抜きをする資格もないとでも言うのか?」

「そうではございませぬ。ですがこれから久遠様の元へ参る約束をしていたではありませぬか。まさか、お忘れとは言いますまい」

「そうでなら尚更言うが、俺らの遠足よりも久遠のとこに行く方が重要なのではないのか?」

「うっ、お、覚えておった!もちろん、覚えておったぞ!」

あの顔は一瞬忘れかけていた表情だな、それと俺と幽が重なって言ったのか重要性はどっちだと言いたいくらいだ。

「そういう訳なので、今回は一真様の言う通り遠足より久遠様のとこに行くのが重要です。行きますよ、公方様」

「うーーーーーっ」

遠足に未練がある様子の一葉は、その場で悔しそうに地団駄を踏んでいたが早く行った方がいいのでは?

「・・・・仕方ない、今日のところは諦めるとしよう。ああ、そうじゃ、烏に雀」

「はい?」

「・・・・・」

緊張した面持ちの二人に向かい、一葉が着物の袂から巾着袋を取り出した。

「お干菓子じゃ。おやつに持って行くがよい」

「わー・・・・あ・・・・」

受け取って中身を覗いた雀の笑顔が、一瞬にして固まる。俺も覗いてみると入っているお干菓子の包みは一つだけだったので、俺の分はともかくとして烏と雀で取り合いになりそうなビジョンが浮かんでならない。

「はて、おかしい。さっきまで山ほどあったというのに。どこに消えてしまったかの」

「・・・・それは、公方様が山ほど召し上がったからではございませぬか」

「・・・・余が食べたのか?うむ、そういえばそんな記憶がなきにしもあらずじゃ」

「公方様・・・・」

呆れたようにため息をついてから、幽が自分の着物のたもとに手を入れる。あと俺も一葉の一言で呆れてモノも言えない、一葉が食べた後なのはもう分かっていた。

「これをお持ちなさい。まだたくさん入っているはずです」

渡された巾着を雀が開けると、中から和紙に包まれた小さな干菓子がたくさん出てきた。やはり一葉よりも幽の方がたくさん持っていたようだ。

「うわあ!こんなにたくさん!」

「・・・・・」

二人の口からは今にもよだれが垂れそうなので、その巾着を俺が奪い取るようにして俺が持った。

「ありがとうございます!あとお兄ちゃんが持ってくれた方が、雀たちだとすぐ食べてしまうから持ってていいよお兄ちゃん」

「(ぺこり)」

「今更だけど、このお干菓子は結構高いのでは?」

「ふふ、良いのじゃ。それで皆が喜んでくれるのなら安いものじゃ」

「公方様は、ほぼご自分でお召し上がりになられましたが」

「うぐっ。相変わらず幽は厳しいのう・・・・」

バツの悪い顔をした一葉と幽が廊下の角に消えるのを見送った後に俺達は再び歩き出した。巾着は俺が預かる事にしたので、空間に入れておいた。

「あら、ハニー!」

次に会ったのは、梅と雫だった。

「烏さん、雀さん、無事に一真様と会えたんですね」

「うん!」

「・・・・・」

「遠足、楽しんで来て下さいね」

「もっちろん!」

「(こくん)」

「二人は烏と雀が遠足に行く事を知っていたのか」

「当たり前ですわ。烏さんと雀さんだって、こんな状況下で私と雫さんの許可無しに遠足なんて行きませんわよ」

「さすがに、忙しい時に抜けられたら困りますけど、少し落ち着いてきましたので」

ああやっぱりな、鉄砲隊を任されている梅の許可無しには行けないよな。でも最近になって落ち着いてきたのはホントのようだったけど、そしたら梅がさっきいい物を頂いたと言って渡すが遠足のおやつだったけど。そしたら雫の分も渡してきたけど、中身は何だろうな。烏と雀の手のひらに、それぞれべっこう飴の包みがのせらてる。

「うわあ、ありがとう!」

「(ぺこり)」

「気を付けて行ってらっしゃい」

「はーい」

「(こくん)」

そんで梅と雫の二人と別れた後に雀は俺に飴を預けた、まあ俺が管理した方がいいと烏からも言っているようなもんだし。そんで館の城門前に行くと、今度は鞠、綾那と歌夜に遭遇した。遠足に行くまで結構人に会うな。

「あら・・・・お揃いでお出かけですか?」

「一真!危険な場所に行くんだったら、鞠もお供するの!」

「危険な場所じゃないから大丈夫さ、ちょいと裏山に遠足行くだけなんだから」

「遠足・・・・?」

鞠の視線が俺の後ろにいる二人に注がれていた。一葉のような空気を読まないかと思ったけど、鞠はにっこりと笑って言った。

「分かったの、楽しんでき・・・・」

「遠足!もちろん一緒に行くのですー!」

一名空気読まない子がおったわ、それも鞠が楽しんで来てと言うのを遮るようにだった。裏山に登るの楽しみとか言っていたが、遠足は俺と烏と雀だけなんだから何とか断りの言葉を言わないと誘ってくれた二人に対してかわいそうだ。

「あーあーあー!綾那、今日は鞠と一緒にお部屋で書を読む約束をしていたの!だから遠足には行けないの!」

「そんな約束してないのですよ」

「してたの!綾那が忘れちゃっているだけなの。ねー」

「えっ・・・・?」

「ほら、約束覚えてるよね。だから、遠足は三人で行ってくるといいの」

さすが鞠だ、俺の後ろにいる烏と雀だけで行きたいとそう感じたのか悟ったのか察知したのかは分からないけど有難い事だ。鞠が歌夜と俺、後ろの二人の顔をちらちらと見比べる。それを見た歌夜はやっと察したようだった。

「一緒に行くのです・・・・むぐっ」

歌夜が咄嗟の行動で綾那の口を両手で押さえ、自由を奪った。

「そうでした。確かそんな約束してましたね」

「そうなの!だから邪魔しないの!」

「むむむーっ!(行くのですーっ!)」

「さあ、一真様、今の内です」

綾那が敵扱いのようにされているけど、俺達三人だけで行かせてくれるようなので助かった。

「鞠に歌夜、助かったからまた今度お礼するわ。そんじゃ行きますか」

「「・・・・ほっ」」

今まで黙って事の成り行きを見守っていた二人から、安堵のため息が漏れた。予想通り二人も俺と三人で行きたいらしいからか、俺も心の中で空気を読んでくれる人がいて助かったと思った。

「じゃ、本殿に戻るの!」

「置いてけぼりなんてずるいのですーっ!」

騒ぐ綾那を強引に引きずって、鞠が本殿へと歩いて行った。

「お引き止めしちゃってすみませんでした」

「いやこちらこそ助かった、鞠や歌夜がいなかったらせっかくの三人での遠足が台無しになりそうだった」

「お詫びと言っては何ですが、これをお持ち下さい。黒蜜黄な粉です。さっきの二人には内緒ですよ」

歌夜が悪戯っぽく笑い、竹皮の包みをまず雀に渡した。

「ありがとう!」

「(ぺこり)」

「いえいえ。気を付けて行ってきて下さいね」

「はーい!」

「(ぺこり)」

「では、失礼します。綾那についてはお任せを」

そしたらおやつが一杯になったので、雀は一気にテンションが上がった。そんでおやつを俺に手渡す雀に、烏は裏山でのおやつまで我慢なと言っといてから空間にしまったけどな。それにしても二人は皆に可愛がられているんだな、黒鮫八咫烏部隊にするのは次の戦を終わってからだな。俺も嬉しくなったが、足取りも軽くなり裏山へと向かう俺と烏と雀だった。裏山と言っても、館の真裏に隣接している訳ではないから歩けば一時間はかかるところだ。躑躅ヶ崎館から歩いてきたからなのか、だんだん大きな建物が遠くのように見えた。

「らんらんらーん♪らんらんらーん♪遠足、遠足、楽しいなー♪」

「・・・・・」

「二人とも楽しそうだな」

「すっごく楽しいよ!今からこんなに楽しかったら、お弁当の時間には気絶しちゃうかも」

「それは勘弁してくれよ」

「・・・・・」

「お姉ちゃんは、絶叫しちゃうかもしれないって」

「・・・・それはそれで凄く見てみたいかも」

「あのね、実はこの遠足、お姉ちゃんが行こうって言い出したんだよ」

へえーそうなのか。烏曰く俺がきっと疲れているから、息抜きさせてあげようとしてくれたそうだ。まあ最近はますます地上と上空を滑空していたような気がする、それをたぶん久遠達や一真隊の者たちも見ていたのだろう。

「そう言う事なら嬉しいもんだ、こっちは最近は忙しい限りだったからか。息抜きがなかったからな」

「よかったねお姉ちゃん!お姉ちゃんの提案で、お兄ちゃんとっても喜んでくれてるよ!」

「・・・・・・・・・」

何かさっきから烏の様子がおかしいぞ?身体を揺らして顔を青くして否定しているかのような感じだった。

「・・・・あ、れ?これって、お兄ちゃんには内緒って言われてたんだっけ?」

「(こくん)」

なるほど、俺に秘密なはずが雀の軽い口で喋っちゃったから様子がおかしかったのか。そう思うと烏は背中にあった狙撃銃を構えていた、烏を怒らせると背中にある銃を抜くとは。乙女心を持っている烏だったけど。

「あ、あ、お姉ちゃん、銃は無し!たんま!」

そう言うとホントに撃ってきた烏だった。雀は烏にマジで謝っていたけど、それにしても追いかけ回して気が済んだのか銃を収めた烏。俺は腰のホルスターに入れているから大丈夫だけど、敵が来たら早撃ちは得意だな。

「烏、怒る気持ちは分かるけど雀に向けて銃を向けてはダメだろう?」

「・・・・・」

「そりゃさっきのは雀が悪いけど、烏が俺に気を遣う事は凄く嬉しい事なんだから。ありがとうな」

「・・・・・(ぽ)」

あ、烏の顔が赤くなった。雀は烏の顔が真っ赤になったので口に出した、そんでまた銃を構えた。で、結局撃ったけどね。道中色々あったが、俺達は裏山に辿り着いた。弁当はどこで食べようかと提案を出そうとしたが、あそきにある木の下はどうだ?と俺が提案する。

「・・・・・」

「お姉ちゃんが、川のせせらぎの音が聞こえるって!近くに川があるのかも」

「じゃ、そこに行ってみようか」

「うん!」

烏の後をついて行くとそこには小さな川があり、自然がいっぱいなところだった。川があったので喜ぶ雀、持っていた鞄を置くと高下駄を脱いで川へと一直線に走っていくから転ぶなよと注意をする。俺は靴と靴下を脱いだ状態にして、ズボンの裾もめくりながら行った。ここまで来たら汗をかいてはいなくとも、一時だけ水からお湯にする事も可能なのでそうしようと準備をする。

「・・・・・」

「烏はいいのか?」

「・・・・・」

「もしかして水が怖いのかな?」

「(ふるふる)」

「そんじゃ一緒に行こうよ」

「・・・・・」

今日の天気予報だと晴れだと聞いているし、今水遊びしても風邪などは引かないはずだけど山の天気は変わりやすいのは知っている。烏は少しの間考えていたが、銃を置くと高下駄を脱いだ。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、早く早くー!」

「・・・・・」

雀に呼ばれて走り出してから、少し行ったところで烏は一瞬俺を振り返る。いったい烏はどうしてこっちを見るんだろう?と推測みたいに考えながら、俺も川まで走って行く。

「凄く気持ちいいよ!ほら、お魚も泳いでいる!」

雀が水面を蹴り、水飛沫が舞い上がるけど俺には一切水飛沫が身体にかからないようにしている。烏も水に足をつけると、雀の横に立っていた。

「お兄ちゃん、どうしたの?おいでよ!」

「はいはい、今行きますよー」

川に入り、二人の前に立っていたら違和感を感じていた原因が分かった。

「烏は高下駄を履いているから分からなかったけど、雀より烏の方が背低いんだな」

「!」

「それは仕方ないと思うよ。だってお姉ちゃん、雀よりも歯の高い高下駄履いてるんだもん」

「!!」

「お姉ちゃん、雀より背が高く見られたいの。ね、お姉ちゃん?」

「・・・・・・」

そう言うと何だか様子がおかしい烏、背が小さいのを気にしているのかな?姉より妹の方が背が高いからというのは、あまりないケースだな。

「・・・・あ、れ?これって、お兄ちゃんには内緒って言われてたんだっけ?」

「・・・・・」

ばっしゃん!!と音を立てたと同時に烏は雀に水をぶっかけていた。さっきまでは銃を持っていたからもしれんが、今はそこに置いてあるからなのか水をぶっかけ合っていた様子をビデオモードでちゃっかりと録画していた俺だった。

「おいおい、あまり水ぶっかけると風邪引くぞ?」

「・・・・・」

「・・・・・」

「どした?黙ったりして」

「せーのっ」

ばっしゃん!!と水をぶっかけられたので、俺は咄嗟に水の壁でガードしてから指鉄砲の形を作ってから攻撃態勢に入った。烏と雀はそれはいくら何でもズルいと言いながらだったが、川の中で追いかけっこをしていたのだった。途中から水の壁無しで水鉄砲をしてかけたり、烏と雀と俺で水をかけあっていたらいつの間にやらお腹が鳴っていたので、時間を見ると昼食の時間よりも過ぎていた。

「そろそろご飯にしないか?」

「あ、そうだね!それが目的で来たんだった!」

「・・・・・」

川縁に並んで腰掛けてから、雀が持ってきたお弁当に期待込めて注目していた。じゃじゃーんと音を立てながらだったが、雀の得意料理のおにぎりとたくあんだった。

「とても美味そうだな」

形はどうでもいいが、見た目はふっくらしていて美味しそうなおにぎりだ。

「これ全部一人で作ったのか?俺も料理好きで作るがこれぐらい作れるけど、やるな雀」

「(うんうん)」

「へへー!」

「ん?こっちの包みは・・・・」

「ああっ!それは、えっと・・・・」

雀は開けずにいたもう一つの包みを、どこか情けない声を上げていたが開けた俺。それはお魚の干物らしいが、焦げた面積が大きかったのか取り除いた結果イワシの干物だと察した。で、聞くとじーっと見てたら焦げていたらしいので、俺はしょうがないなーと思いながら空間から取りだしたイワシの干物を焼いた状態のを取り出した。

「これは俺の船にいる者が作ったのだから、こっちで我慢してくれ。今回は得意料理ばかりだったけど、まあその魚は俺が食べるよ」

「わあーい!とても美味しそうなお魚だ、じゃあお兄ちゃんは雀が焼いたのを食べてお兄ちゃんの部下が焼いたのはお姉ちゃんと雀が食べる!」

そんで俺は雀が焼いたのを食べているとじーっと見てくるが美味いと言うと途端に笑顔になる雀だった。そんで俺の部下が焼いたのは、烏と雀が食べていた。まあ同じもので俺が料理好きだと言うのは知っているからなのか、たまに妾同士で料理の研究とかをしていたのを見るようになった。おにぎりも食べるとちょうどいいサイズだったので食べていると雀は思い出したかのように言った。

「そうだ!さっきもらったお菓子、皆で分けようよ。お兄ちゃん」

「・・・・・!」

「分かっているよ、空間から出してと。でも烏は甘い物好きなのだから、三人分で分けないといけないぞ?全部食べちゃうかもしれないのだから」

「・・・・・」

空間から出したおやつを並べると、烏はよだれを出していたのでそれを注意した。並んだおやつを三人で分けるから、いくつずつになるのか計算をしようとしていた雀。

「今出したおやつは二人で食べちゃいな」

「ふえ?」

「俺の分はいいよ。二人で食べている姿を見るだけでも十分なんだから」

「いいの・・・・?」

「構わんさ」

「わー!ありがとう!お姉ちゃん、甘い物たくさん食べられるね!」

「(ぺこり)」

「いただきまーす!」

そうは言ったが、皆がくれたおやつは美味しそうだったけど一度言ったもんだからまあいいやと思いながら見ていた。雀は美味しく食べていたが、烏は頬張りすぎるくらいに口の中がパンパンだった。親指たてていたけど、二人の幸せな顔を見ていると俺や船にいる皆も心に癒される笑みであった。母性本能がくすぐられると言っていたから、紫苑が璃々に早めに会いたいと言っていた。俺はルシファー達が相手しているし、オーフィスとかも璃々と遊ぶの好きだったしな。楽しい昼食の時間が過ぎた頃だった。

「・・・・・」

ふと、何かに気付いた様子の烏が立ち上がり、空を仰いだ。

「何かあったのか?」

「・・・・・」

「ちょっと待っててって」

烏の視線は、黒い塊に注がれているがあれはカラスかな?鳥たちは一本の大きな木に群れると、一斉に大きな声で鳴き始めた。烏を呼んでいるようだなと俺は思ったけど、動物の言葉も大抵分かるからなのかもしれんけど。鳥は木の下に立ち、烏と言葉を交わすような仕草をした後にこちらに戻ってきた。役目を終えたのか、鳥たちは一斉に飛び立ち、再び群れを作り空へ舞い上がった。

「・・・・・」

「お兄ちゃん、大変!もうすぐ雨が降るって!それもたくさん!」

「俺も天空神に確認したら大雨降るらしいな、それも嵐みたいなのが」

一見空は晴天に見えるが、烏は鳥たちから得た情報で俺は天空神からの情報が合致した事で俺達は早めに戻った方が良さそうだな。烏と雀は俺が神だと知っているから天空神から聞いたと言うと二人とも頷いていた。そして俺達は荷物を纏めてから、来た道を小走りで引き返す事にした。十分も経たない内に空は黒い雲に覆われてから、一粒の雨が降った。

「こりゃまずいな、急げ!」

雨はそれから数分後には豪雨へと変わっていくので、ゲリラ豪雨ぐらいの雨であり泥水を舞い上げて足元をすくう。このまま走ると道に迷うか怪我するかなので、道の外れにある小屋を発見してくれたゼロの案内で入った。

「あそこの小屋に入るぞ!」

二人の手を掴んで小屋内に滑り込ませた。

「凄い豪雨だな」

「ふわー、ずぶ濡れだよぅ」

「・・・・・」

「ところでここは何の小屋だ?」

見渡す限り小さな囲炉裏と、床の隅には積み上げられた薪や木箱に入った炭が置かれていて、壁には斧や縄になめし皮で作られた袋があるので狩りの時期にだけ猟師が使う狩小屋だった。

「ここを借りて雨宿りするか」

「うん」

「・・・・・」

「うん、そうだな。雀もだよ」

どうやら雀と烏は寒いと言っていたからか、雨の所為で気温が下がったのか初夏とはいえ濡れた服を着ているといずれ風邪を引いてしまうだろう。

「ちょっと待ってろ、炎で囲炉裏をつけるから」

そう言うと俺は灰の中に炭をくべ、火を手元にありつつ炭の薪を上に乗せてから小さな炎が上がった。囲炉裏の周辺にほのかな温もりであったけど、濡れた服で冷えた体を暖めるには足りないようだ。外の様子を見るにゲリラ豪雨の強化版みたいで、さっきより雨足が強くなっていた。トレミー情報だとしばらく豪雨になりそうだと教えてくれるからか、しばらくは動けないようだなと思った。

「お兄ちゃん、寒いよぅ」

「・・・・・」

烏と雀はぴたりと寄り添い、互いの体を温め合っている。唇はうっすら紫になっているから、このままでは三人とも風邪をひいてしまいそうだ。

「ふむ、どうしようか?俺の翼が布団代わりになるけど・・・・」

「あ!そうだ!お姉ちゃん、あの方法があるよ」

「?」

「ほら、前に教えてくれた、体を温め合う方法!」

「!!!」

「あれ、とっても体がぽかぽかするよね」

「(ぶんぶん)」

「烏は嫌がっているように見えるけど、方法はあるのか?」

「皆で裸になって、ぴたってくっつくの!あとお兄ちゃんの翼を出してくれるなら何倍も温かくなるね!」

ああなるほどな、体をぴたっとくっついて暖を取る。いい方法だと思うけど烏は、更に首を横に振った後に顔を赤くして拒否理由は何となく分かったけど。雪山の遭難とかにはよく使われる方法だけど、まあいいのかな。俺は全然構わないけど、それに二人とも妾候補だし。そんでその方法を教えたのは烏らしいし、いつもはいいけど俺という異性がいるからダメらしい。

「くしゅんっ!」

「!」

「ふえっ・・・・・ふあっ・・・・ごめん、くしゃみ・・・・くちゅんっ!」

「・・・・・」

「ふえ・・・・?温めあいっこ、してくれるの?」

「・・・・・」

「そうだな、京討ち込みも近いのに雀が風邪を引いちゃったら、皆に迷惑かけちゃうもんね」

「(こくん)」

「そうと決まったら・・・・・」

雀が鞄の中に手を入れて、もぞもぞと何かを探っていた。出てきたのはだるま落としだったけど、再び鞄に手を突っ込んだけど、今度は水筒だった。この場に関係ないような様々な物を取り出した後に最後に取り出したのは大判で厚手の布だったけど、俺は空間から更に毛布を取り出したけどね。

「野営の時はこれをお布団にしてるの。これなら三人で包まれるよ!」

そう言いながら、二人は服を脱ぎ始めたので服を乾かす機械で俺と二人の服を乾燥機に放り込んだ後に、雀が持っていた布と空間から出した毛布で重ねてから6対12枚の翼を展開して二人を包みながら毛布に包まった。そんで前に太陽光を吸収しといたから、それで金色の翼に火傷しないように微調整をする。

「へへっ、お兄ちゃんの翼もだけど暖かいね」

雀が小さな体をぴたりと寄せて来るけど、俺は慣れた様子で肌の感触が伝わってくる。雀は烏にもっとくっつかないと毛布が落ちちゃうと言い、烏は恥らった様子で雀の背中にぴたりとくっついた。目の前には小さなつむじが二つ並んでいるけど、改めて観察すると二人とも小さくて華奢だけどはわわ軍師を思い出してしまうかのようだった。こんな体で戦場を駆け抜けているのは、鈴々くらいだとこの世界に来る前はそう思っていたけどね。6対12枚の翼を布団代わりとして二人を包み込んだ。

「お兄ちゃんの翼はまるでお日様の匂いがするねー」

「ははは。まあそうだな、よく言われる。この前太陽の光を吸収したからな、それに布団みたいだろう?」

「・・・・・」

「うん!お姉ちゃんもだけど、まるで羽毛布団みたいに包み込まれた感じだってお姉ちゃんも言っている」

「(こくんこくん)」

そう言うと更に強く抱き締めるようにしたが、俺の腕を枕に使っているので抱き締められないが翼のお陰で何とかなっている。それに雨が降った所為で、遠足に誘ってごめんなさいと言ってきたが俺は気にしてないと言った。烏は悪くないし、俺を見つけるのに時間がかかったのか烏も諦めようとしていたらしいが雀が粘って俺を探してくれたのだから。

「二人の責任ではないぞ?二人が誘ってくれなければ、息抜きもできなかったしこうする事もなかなか出来ないだろうに。俺の翼で布団として活躍するのは久々だけど、暖かいならそれでいいんだ」

「・・・・・」

「ほんと?雀たち、お兄ちゃんの迷惑になってない?」

「迷惑なんかないさ、それにだ。一緒に戦ってくれる戦友と一緒にいられるのは、俺にとっては嬉しい事なんだぞ?」

「・・・・へへっ」

「・・・・・」

烏は俺の事を絶対守ると言ってくれたが、雀もそうだった。有難いが俺も前線に立つ司令官だから、そうであったら一緒に戦おうと改めて誓った。黒鮫隊と八咫烏隊は似ている部分もあるからな、俺達の銃は今の所触らせないが俺らの拠点に戻ったら触らせてあげようと思った。そしてブラック・シャーク隊のメンバー入りとしてしてもらう為にだけど、俺の部下達も八咫烏隊が俺らと一緒に狙撃班となってくれるなら有難いと言ってた。

「そう言ってくれると有難いが、俺も二人を守って見せるよ。それに二人とも好きだ」

「・・・・好き?お兄ちゃん、雀たちの事好き?」

「うむ」

「やったー!雀もお兄ちゃんの事、だーい好き!お姉ちゃんも、お兄ちゃんの事、大好きだよね?」

「・・・・・」

「・・・・あれ?お姉ちゃん?お兄ちゃんの事好きじゃないの?」

「(ふるふる)」

烏は金色の翼からの温もりくらいに、顔を紅潮させていて自分の胸を押さえて俯いた。すると雀が、誰の音だと言うから何だと思ったら誰かの胸のドキドキした音だった。ぴたりと俺の胸に雀が耳を当ててから顔を上げて、大きな瞳で覗きこむ。俺では無さそうなのでもっと大きい音なので今度は烏の胸元に近づいた。どうやら烏のだったらしく、凄くドキドキしているそうだ。

「ねえ、お姉ちゃんの心臓の音、お兄ちゃんも確かめてみて?」

「おういいぞ」

ぐいっと俺の腕を掴み、烏の胸元まで持ってくるが拒絶感はなかった。烏は黙ったまま俺の手を受け入れているけど、掌から烏の鼓動と体の熱が伝わってくる。時々吐息の音がやけに艶かしい。

「・・・・ね、ドキドキしてる・・・・でしょ?」

「そうだな」

一言だけ言ってから、しばらく無言になるけど俺の吐息からも熱いのが零れた。その熱に当てられたかのように、雀が頬を紅潮させる。

「・・・・なんだか、雀もドキドキしてきちゃったよ・・・・。お兄ちゃん、雀のも触って・・・・?」

雀の手に導かるようにして、烏の胸元にから雀の胸元にいく。烏と同じように雀の鼓動も早く体は熱かった。恋心がそうなっているのか、それとも翼の排出で熱くなっているかは分からない。二人ともどうしてこんなにドキドキするのか分からない様子だった。ドキドキの意味を知っているかと聞かれて俺は知っていると答える。

「じゃあ、それを・・・・雀たちに教えてくれる・・・・?」

「このドキドキの意味は・・・・」

そう言いながら二人相手をしてしまった俺であったが、まあ良いだろうと思ってしまう。朱里や雛里のように小さい子でさえもシてしまった事はあるのだから。そしていつの間にか寝てしまったようで、体の上には乾燥機で乾かした服が置かれていた。恐らく乾燥完了後に見えない神々が畳んでいたのだろうな、そんで乾燥機はなかったので空間切断で回収したようだ。

「あれ・・・・烏はどこに行ったんだ?」

部屋に烏の姿が無い事に気付いた俺は、翼をしまい雀が起きない様にして毛布と布から出ようとしたら小屋の扉が開いた。

「・・・・・」

「烏、どこに行ってたんだ?心配したぞ」

「・・・・・」

すっと指差された扉の外を見ると雨の気配もないし、天空神からも雨は上がったと聞いた。ま、雨がなかったらこういう展開もなかったから恐らく天空神がワザと降らせたのだろうな。

「どうやら雨は上がったようだな」

「・・・・・」

「雀を起こさないとな、皆心配してるぞ。・・・・雀、起きろ。帰るぞ」

「・・・・ふえ?」

「雨、上がったそうだ」

「・・・・ほんと?」

まだ眠そうな顔をしていたのか、雀は体を起こした。

「皆、きっと心配しているからさ。早めに帰らないとな」

「うん、そうだね・・・・」

そう言って服を着た後に外に出ると、もう真っ暗な夜にとなっていた。二人のお陰でいい息抜きとなったが、最後はサプライズハプニングでもあるが俺にとっては良い事だと感じた。俺の妾達は全員女性へとなっているが、まさかここでとは思わなかった。二人を盗み見るが、何事もなかったのようにすまし顔で真っ直ぐ前を見て無言で歩いている。横顔はあまりにも素っ気なく見えて、あれが夢なんじゃないかと錯覚をしてしまうがあれは事実。目が合うと烏ははにかみ、雀はにっこりと微笑んだ。二人で目を合わせると照れたように小さく笑う。明日から京討ち込みだから、そろそろ全兵達を夜叉化にしないといけないけど八咫烏隊だけはしないけどね。

「・・・・もうすぐ、京へ出発だ。大きな戦だが、俺や黒鮫隊も頑張るからお互い頑張ろうな」

「・・・・・」

「お兄ちゃんが雀たちを守るように、お姉ちゃんと雀がお兄ちゃんの事守るから」

「・・・・・」

「皆の大切な人だからじゃなくて・・・・お姉ちゃんと雀のかけがえのない大切な人だから。絶対に失いたくないから守るの」

「・・・・・」

「だから、お兄ちゃんは安心して前を見て戦って大丈夫だよ。・・・・お姉ちゃんと雀のこと、信じて任せてくれていいの」

「おう、俺も黒鮫隊が守るから安心して戦ってもいいんだぞ。二人は俺達も信じているからな」

二人の頭を撫でた後に、両手に小さな体を抱き寄せた。頭上にはまるで流星群のような満天の星だから、天空神からのプレゼントなのかなと思うくらいだ。この戦いで俺達がこの世界に来た意味を分からせるために、妾たちの命を守護するようにするために俺達は犠牲は最小でという約束を果たしてやると改めて確認した。 
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