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美しき異形達

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第三十話 南海においてその九

「横浜なあ」
「何か薊ちゃんって」
「あたしって?」 
 裕香にも応える。
「スタープラチナの娘さんみたいなこと言うわね」
「あの娘も横浜ファンなんだよな」
「そう、カウンターいつもベイスターズグッズで一杯でしょ」
「本人さんもいつもチームの帽子被ってるしな」
 横浜ベイスターズのそれをだ。
「後ろにはスコアボードあって」
「試合の時は点数付けていってる位だから」
「負けると凄い不機嫌になるんだよな」
「もう有り得ない位ね」
「あたしもあの娘みたいにか」
「うん、横浜好きよな」
「あの娘程じゃないぜ、あたし」
 注文して届いたカレーをだ、薊は食べつつ裕香に答えた。他の面々も自分達の焼きそばを食べ終えカレーに移っている。
「正直言って」
「あの娘はまたなのね」
「ああ、横浜好き過ぎるだろ」
 薊よりも遥かにというのだ。
「もう愛してるっていい位にな」
「薊ちゃんはそこまでいかないのね」
「幾ら何でもな、好きなことは好きだけれどさ」
 それでもというのだ。
「あそこまではいかないよ」
「スコアボードいつも付けたりとかは」
「ないな、帽子は持ってるし今もさ」
 言いながらだ、薊は水着の胸のところからその横浜ベイスターズの帽子を出して来た、今の親会社になってからの帽子である。
「持ってるけれど」
「あの娘レベルじゃないのね」
「ああ、まあ本当にさ」
 心から望んでいる言葉だった、薊の今の言葉は。
「また優勝して欲しいよ、横浜」
「何時かきっとなのね」
「そうなって欲しいな、黄金時代とかさ」
「まあそれはね。私もね」
 裕香は少し苦笑いになってこう返した。
「阪神ファンだからどうかは言えないけれど」
「横浜勝ったらな」
「阪神が優勝出来ないからね」
「だよな、とりあえず最下位じゃないからいいか」
 最早巨人がその位置を占領して離れない、あのオーナーだか会長だかは連日連夜怒り狂い提灯持ちタレント共が血の涙を流している。実に素晴らしい状況である。やはり巨人には無様な負けがよく似合うのだ、
「それだけでも」
「阪神も最下位時代長かったけれど」
「最下位じゃないってだけで」
「嬉しいわよね」
「まあ巨人にはずっと最下位でいて欲しいよ」
「それ誰もが思うことね」
 それこそ良識ある日本国民ならばだ。巨人の敗れる姿は見ていて心地よい。あれだけ敗北が似合う組織もない。
「百年位あのままでいいわね」
「百年連続最下位か」
「親会社の発行部数も暴落してるし」
「A新聞に続いてな」
「いいことよ、まあとにかく大阪はね」
「黒と黄色だよ、あたし的には」
 またこう答えたのだった。
「そもそもお好み焼きもたこ焼きもさ」
「黒と黄色だしね」
 ソースと生地、この二色である。
「それよね」
「そうだよ、あと大阪の料理って大体味濃いしさ」
「そうそう、何でもね」
「あの濃さもいいんだよな」
「とにかく食べものは大阪っていうしね」
「濃いから余計に美味く感じるって訳じゃないにしても」
「いいのよね」
 こうした話をしながら海の家で昼を食べてだ、デザートのかき氷も楽しんだ後で。
 七人はまた海に出て泳いだり砂浜で遊んだりした。そうしている中で。
 ふとだった、裕香以外の六人がだった。
 気配を察した、そして。
 薊がだ、仲間達にその鋭くなった目のままで言った。 
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