ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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DAO:ゾーネンリヒト・レギオン~神々の狂宴~
第二十二話
「ああ……どうして……どうして……!? 何で君が、あああ……」
しゃがみ込んで呟くシャノン。紅い着物を見にまとった、灰色の瞳の少女が姿を現してから、ほとんどこれしか言っていない。刹那が彼をおちつけようと何度もなだめているが、一向に症状は緩和されていなかった。
「おい、シャノン……どうしたんだ? あの人は誰だ?」
セモンは問う。シャノンの知人は大抵の場合セモンとハザードも知っている。何より、家族でありセモン達より前から彼と共に生きている刹那が、その存在を知らない、というのは少々不自然だ。刹那はシャノンのことなら何でも知っている。もしもの時に対処する為である。当然、交友関係も頭に入っているはずだ。
問いかけには答えないか、とセモンが諦めかけたそのとき、シャノンは震える声で、答えた。
「……『そう』。ソウ・トザワ。その名字は違うこともあったけれど、僕が『最後に会った彼女』はその名前だった」
「『最後に会った』……? それに、『だった』、だと……?」
その言葉に違和感を感じたのか、眉を潜めながらハザードが聞く。シャノンは、これ以上喋りたくない、とばかりに首を振りながらも、しかし答えた。
それは、信じがたい事実。
「死んだんだ……! 彼女は、僕が、この手で殺した……!!」
「なっ……」
「死んだ人間を……蘇らせた……?」
セモンとコハクの口から、驚愕の呟きが漏れる。
《白亜宮》が様々な場所に突然出現したり、行方不明になっていた六門神を召喚したり操ったりなどと、奇怪な術を無尽蔵に保有していることは当然知っていた。事実、これまで何度か見てきたからだ。
しかし、死者を蘇らせることが可能だとは――――それではまるで、真に『神の所業』ではないか。
セモン達は知らない。
《白亜宮》の王城よりはるか彼方、六門世界のとある荒野で、《白亜宮》に蘇えらされた一人の少女が、第二の命を散らしたことを。
この事態を引き起こした――――ひいては全ての元凶である白き少年神、《主》は、セモン達の驚愕を無視して、シャノンにだけ答えた。
「その通りだよシャノン。キミの知っている『そう』は死んだ。だが現に彼女はここに居る――――まぁ、この《彼女》は《ガラディーン》……《ガラディーン・イクス・アギオンス・ハーソロジー》って言うんだけどね。
言っておくけど、彼女はこの《白亜宮》で僕の次に強いよ。
――――さぁ、あいつらを切り飛ばしてよ、ガラディーン」
そう言って、《主》の右手がガラディーンに差し伸べられ――――パァン! といい音をさせて、振り払われた。
「いてっ」
「いやです。お断りします。結構です」
「ひどい。ガラディーンたんひどい。そこをなんとか……」
「だが断る」
まさかの拒否宣言。騒然とする場。
「……」
「えぇぇ――……」
「……」
「うわー……全く変わってない」
「……」
因みに上からセモン、コハク、ハザード、シャノン、刹那。
そこには、先程までのシリアスな雰囲気は綺麗さっぱり一切全く存在していなかった。
一気にギャグ風味へと変貌を遂げた空気の中で、しかしセモン達は一抹の驚愕を感じてもいた。
初めて――――初めて、《主》に逆らう《白亜宮》のメンバーが現れたのだ。今まで出現した《七眷王》も、《七剣王》も、グリーア達も、誰も彼も…女性しか見かけていないので『彼女ら』か……? …も《主》を『お兄様』ないしは『マスター』と呼んで、ほぼ崇拝に近い形で盲目的にしたがっているようだった。
だが今、このガラディーンという少女は、《主》に逆らった。これは、《白亜宮》の支配から逃れられる、ということの表れなのでは――――? 現に、セモンは《主》の呪縛から解放された。
「大体ですね、起きてきて何を最初にさせられるのかと思えば人斬りですか!? 確かに好きですけど……」
物騒なことを言いながら《主》に詰め寄るガラディーン。
シャノンがうめく。
「うん……こんな娘だった……本当にそっくりだ……ホンモノ、なのか……?」
それをガン無視して、玉座前では《主》とガラディーンの言い合いがエスカレートしていく。
「や、でもガラディーンたんならきっとやってくれると信じてたんだけどなぁ」
「私には私のやりたいことがあるんです! あなたに従ってばっかりは大っ嫌いです!」
「そこを何とか」
「い・や・で・すぅーっ!」
何というか――――
「痴話喧嘩……?」
「やー、どうだろ……単に《主》が嫌われてるだけなんじゃ……」
女が怒って、男がひたすら下手に出るという、恋人同士の喧嘩に見えなくもないが、ガラディーンからは《主》に対する嫌悪感しかにじみ出ていないような気がする。
だが事態は、そういつまでもギャグ方面に走ってはいない。
「うへぇ……できれば穏便にしたかったんだけどなぁ……まぁいいや。結局従ってもらうわけだし」
がっくりと肩を落とした《主》が、次に顔を上げた時――――その瞳は、紅蓮色から、この世のそれとは思えない壮麗な緑色へと変貌していた。
《主》の瞳が光を放つ。
「『服従しろ、《ガラディーン》』」
「……っ!? ……くあぁぁっ!?」
緑色の光が、ガラディーンの眼にも転移していく。それは途中で紅蓮色に色を変えていく。
「くぅぅ……ぁぁあっ……あ、う、うぅぅ……」
段々灰色の瞳が紅蓮色に変わっていくにつれて、ガラディーンの苦しげなうめき声も収まっていく。
それを見て、セモンは悟った。なぜ、ガラディーンが《主》に服従していないのか、その理由を。
目の色だ。紅蓮色の瞳を持っている存在は、全て《主》に対して絶対服従の感情を抱くようになるのだ。
ガラディーンの瞳は灰色だった。つまり彼女は、あの時点では《主》に服従を強制していなかったわけだ。
だが今、その瞳は紅蓮色へと強制的に変貌させられていく。
「やめろ……やめてくれ!! そうが痛がっている……苦しんでいる……!!」
「キミに止める権利はないはずだけどなぁ、シャノン。彼女は僕のモノだよ?」
くつくつと笑ってシャノンを見る《主》。それを受けて、うずくまっていたシャノンが立ち上がる。
その顔に浮かんでいるのは、憤怒。目を見開いて、《主》を睨み付け、漆黒の波動を纏った双巨剣を振りかざし、
「否違う!! そうは……僕のモノだぁぁぁぁっ!!」
絶叫して、《主》に切りかかった。
セモンの眼が捉えきれないほどの凄まじいスピード。ハザードすらも瞠目しているところを見れば、彼にも見えなかったのだろう。
今間違いなく、シャノンは過去最速の、人類種すら超越したスピードで、《主》へと斬りかかっていったのだ。
だがそれを、《主》は興味のなさそうな顔で見つめて、小さくつぶやいた。
「悪いね、効かないんだ」
ガァァン!! という激しい音が鳴り響く。《主》の周辺を取り囲むように出現した、半透明の紅蓮色のドームが、シャノンの双巨剣を抑えているのだ。
「馬鹿、な……」
「まあ実際のところ、所有権なんて宣言したら彼女に怒られてしまう。僕は怒られるのが嫌いでね。さっさと終了させて土下座しよう。
『アクセス、ユニットID【サタナイル】
――――《惟神》――――
《憤怒》』」
《主》が右手を突き出すと、そこを中心に、一瞬だけ空間が歪んだ。衝撃波が発生したのだ。
何の変哲もない、ただの衝撃波攻撃。だが、それがもたらした効果は絶大だった。
突如、ズガァァン!! という凄まじい音が背後から聞こえた。あわてて振り返れば、なんといつの間にかシャノンがそこまで吹き飛ばされ、地面に落下しているではないか。恐らく先ほどの音は、彼が壁に叩き付けられた音だったのだろう。だが、その壁には傷一つない。
「なんてこった……」
ハザードの口から、かすれた驚愕が漏れる。
「がぁ、は……」
口からおびただしい量の血を吐き出しながら、シャノンは起き上がる。
「キミの《破壊》の『世界願望』から来た《心意系自在式》が僕に通用しなかった理由を教えてあげよう。
キミのその自在式はね、本来ならば《心意系》ではなく《精霊系》なんだ。それも、『被使用型』のね。キミのその力は、『使う』のではなく『使われる』ことによって効果を発揮する。
なぜならば、キミは僕の《代替》であると同時に――――《惟神》だからだ」
それを眺めながら《主》が口にしたのは、耳を疑うような真実。
《惟神》が何なのか、今一想像がつかないが、恐らくは異能の類。先ほど《主》が衝撃波を打つ際に呟いていたのも同じ言葉だったため、術の名前なのだろう。
だとしたら――――シャノンは……陰斗は、そもそも人間や人外などではなく、『技能』に分類されることになってしまう。
「ふ、ざ、けるなぁぁぁぁぁっ!!」
彼がそれを良しとするわけがない。ボロボロの体を擦切らせながら、双巨剣を振るって突撃する。
「お兄様! 駄目です! やめてぇぇぇぇぇっ!!!!!」
刹那が悲鳴を上げる。が、シャノンには全く聞こえていない。
そして――――事態は結局、《主》が思うがままに動いてしまった。完成してしまった。
シャノンの首を、《主》の小さな手が締め上げる。十五歳程度の彼の小さな体のどこにあれだけの力が眠っているのか分からないが、凄まじい力だ。
「ぐ、がはぁ……」
「戻っておいで、僕の代替。もう君に用はない」
ああ、そうだ、と、《主》は振り返る。
そこには、完全に瞳が紅蓮くなり、表情から感情が抜け落ちたガラディーンが立っていた。
「ガラディーン、あいつら潰しといて」
「はい」
あれほど嫌っていた《主》の命令に、素直にしたがうガラディーン。しずしずと彼の横を通って、セモン達の元へと歩んでくる彼女をしり目に、《主》は最後のトリガーを引いた。
「さぁこれで、もう誰も君を愛さない。君は一人だ」
「あぁ、あ……嘘だ……違う……! いや……僕は一人でも……!」
「いいや違う。そして不可能だ。 戻っておいで、僕の代替。僕の元でだけ、キミの意思は解き放たれる――――さぁ、おいで。
『――――《惟神》――――
《自我の太陽》』
その祝詞が紡がれた瞬間――――
「ぁ、ぁ、あ、うわぁぁああああああアアアアッッッ!!!」
シャノンの体が、溶けて消える。悲痛な悲鳴を響かせて、《主》の背後に立ち上り始めた何かへと、吸収されていく。
「シャノン!」
「そんな、馬鹿な……ッ!」
セモンとハザードが口々に叫ぶモノの、しかし彼は戻ってこなかった。
代わりに――――陽炎が、完成した。
眩い光と共に、そこに巨神が降臨した。太陽の肌の如く輝くオレンジ色の髪、金色の肌、そのそれぞれに真紅の巨剣を握った、四本の腕。
ぎ、ぎ、ぎ、とゆっくり開けられた口から、その存在は悲鳴にも似た方向を響かせた。
『ルルル……ルロォォォオオオオオ――――――――――……ン!!!』
その声は、慣れ親しんだ天宮陰斗のモノだった。
「そんな……お兄、様……お兄様ぁ!!」
刹那が崩れるようにその場に倒れ込む。それを抱き起そうとしたセモンは、不意に戦慄を感じて、想いきり後に飛ぶ。
直後、つい先ほどまでセモンが立っていた場所にシャリィィィン!! という斬撃音。
「……そのままでいれば、一刀のもとに叩ききっていたのに……」
心底残念そうにつぶやいたのは、ガラディーンだった。その事実に、セモンは瞠目する。彼女は、一切武器を持っていなかった。空中に斬撃を出現させる能力なのか……!?
不可視の斬撃と、怪物化したシャノン。両者を同時に相手取り、果たしてどのようにして勝利すればいいのか――――
「セモン」
その時だった。
コハクが、真剣な表情でセモンの袖を引っ張ったのは。
「……どうした?」
「あのガラディーンって人……私に、戦わせて」
「なっ……」
危険すぎる。《主》は言っていたではないか。彼女は、自分の次に強いと――――
「お願い!」
だが、コハクはいたって真剣な表情で、セモンに懇願を続ける。
「でも……」
「私……私、あなたの役に立ちたいの」
「コハクは十分俺の役に立って……」
「私にも、戦わせて。その間にあなた達は、シャノンの正気を取り戻してあげて。大丈夫。否定してばっかりの女になんか、負けてやらないから!」
最後は笑顔でうなずいた彼女に――――セモンも、笑顔でうなずいた。
「分かった。負けるなよ」
「ええ。大丈夫、上手くいくわ!」
それは――――セモンの口癖だった。踵を返してガラディーンへと近づいていくコハク。
「あんたの相手は私よ」
「……はぁ……」
まさか一人で挑んでくるとは思わなかったのだろうか。気の抜けた様な返事をするガラディーン。
「おいセモン、正気か……!?」
「大丈夫だ。俺は……俺はコハクを信じる! 行くぞハザード、シャノンを取り戻すんだ!!」
《冥刀・雪牙律双》を構えるセモン。それを見て、ハザードもまた、
「……分かった!」
頷いた。
「さぁさぁ、悪夢の祭りの開演だ。踊れ、小さきニンゲンたちよ」
後書き
はいどーも、Askaでっす!
刹「前回に引き続き……超デウスエクスマキナ的展開……」
うん。地の文が少なすぎてワロタ。
刹「反省してるなら改善してくださいよ……」
無理だ! 俺の能力が足りない! Askaの執筆スキルは20/1000よ! だって学校でやった文章書くテストの結果『D(下から二番目)』だよ? 『中身が足りない』だってさ。
刹「恥さらし……」
さてさて、ガラディーンも本格的に登場しました今回。序盤のギャグシーンのセリフは実際に作者と相棒の間にあった会話がモデルです。本当に彼女には感謝してもしきれないね。
刹「出ました狂人発言……もうこれが平常運転だとしてあきらめるしか無いのでしょうか……とにかく、次回もお楽しみに!」
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