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雨宿り

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第十二章


第十二章

「そっちも」
「っていうと加藤君も?」
「ジャンルにはそんなにこだわらない」
 これが加藤の漫画の読み方だった。
「別にな。こだわらない」
「そうなの。そういえば私もかしら」
「そういうことだな。だったら」
 ここでふと思う加藤だった。そしてそのことを実際に口に出してもみせる。
「俺も少女漫画。読めるかな」
「じゃあ私もそうなるのね」
 御木本も御木本で同じことを思った。
「男の子の漫画読んでもいいのね」
「そうなるな。まあ面白ければそれでいいな」
「そうね。漫画だけじゃなくて小説も」
 話は小説にも及ぶ。そちらにもであった。
「そうなるわね」
「そうだな。それで面白そうな漫画は?」
「これとかいいわよ」
 出してきたのは今ドラマになっている少女漫画だった。とんでもない姉とその姉に振り回される妹のコメディー漫画である。主演の女の子の演技力が抜群にいいことで知られている。
「笑えて」
「俺はこれだな」
 加藤が出して来たのは長い間続いている少年探偵ものだ。この作品はアニメになって随分と立つ。単行本の数も途方もないものになっている。
「この漫画がいい」
「あっ、それなの」
「他にも面白いものはあるけれどな」
 言いながらちらりと自分の右手にある漫画の棚を見る。
「とりあえずはこれだな」
「その漫画有名よね」
「有名といえば有名だな。アニメにもなっているしな」
「そうね。確かにね」
「買ってみるか」
 加藤は御木本が今手に持っているそのコメディー漫画を見て言った。
「その漫画な」
「じゃあ私はそっちを」
 御木本も御木本で加藤が手に持っている少年探偵漫画を見て微笑む。
「読ませてもらうわ」
「それじゃあ」
「ええ」
 互いにそれぞれの漫画を差し出し合う。動きは丁度同時だった。
 こうして漫画を交換し合ってそのうえでレジに向かってそれぞれ買う。買い終えたら店を出ようとするが外ではまだ雨だった。御木本はその雨を見て眉を曇らせてしまった。
「まだ降ってるのね」
「傘は?」
「ないわ」
 その曇ってしまった眉のまま加藤に答える。
「そんなの。とても」
「それじゃあどうするんだ?」
「雨宿りの継続ね」
 こう答える御木本だった。
「仕方ないけれど」
「継続か」
「延長って言ってもいいわ」
 どちらにしろ同じ意味ではあった。
「仕方ないわね。それはね」
「雨宿りか」
 加藤は御木本のその言葉を受けて目線を少し上にやった。そこには銀色の雨がしとしとと降り続いている。雨の強さはそれ程でもないが降り続いている。
 その雨を見てあの時もそうだと思った。はじめて御木本をこの本屋で見た時のことを。あの時も雨だったし今もそうであったことを。
 あの時からはじまって今がある。しかし同じではなかった。何故なら。
「なあ」
 彼は考えをまとめたうえで御木本に顔を向けて声をかけた。
「雨宿りするつもりだったよな」
「仕方ないから」
 眉はまだ曇ったままである。
「今はね。雨が止まないと」
「何なら入るか?」
 彼はこう提案したのだった。
「傘に」
「傘?」
「折り畳みだが持っているんだ」
 御木本は少しばかり驚いたような顔になって彼に顔を向けてきていた。二人は丁度店の出口のところで顔だけそれぞれに向けて話をしているのだった。
 
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