エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-
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挿話 出会いと別れの街
/Alvin
クレインがナハティガルに反旗を翻した日から、ガンダラ要塞は王権に叛乱する軍の拠点になり、要塞の主はクレインとなった。
今、要塞にはカラハ・シャールの軍隊の一部と、元から要塞にいてかつ叛乱に賛同した国軍兵が駐留している。
他にも、シャール家謀反の報を受けて、あちこちから我も我もと兵隊が加わって、叛乱軍の規模は増している。
んで、俺は何をしてるかって?
国軍兵の中に目当ての女がいるんだ。要塞内を歩き回ってそいつを探してた。少し前に、そいつが外に出るのを見たって証言があったんで、今は砂塵渦巻く原野に出て探索中ってワケ。
「どこへ行くの?」
っとぉ、噂をすれば。ご当人と早くもエンカウントできた。
ラ・シュガル軍女兵卒用の制服を着て、飾り気のない仕込み杖を持った女。ヴィクトルとフェイとは違った意味で、俺と「同じ側」の人間。
「どこにも行かねーよ。強いて言うならおたくんとこに行こうとしてたけど。まさかまだいるとはネ」
「砦にはラ・シュガル国軍の兵士がウロウロしてる。ワタシ一人紛れていても、分からない。ましてや兵卒はマスク常備が義務化されてるんだから」
そいつが兵装のマスクを外した。露わになるのは、波打つ金茶のミディアムロングヘアと、鋭い蒼眸。
――メイス。本名を知るのは俺とジランドだけだ。主武装の杖がそのままコードネームになった。
「お袋の世話はどうした」
お袋に何かあったら、ジルニトラの仲間であってもぶっ殺すぞ。
「イスラに任せてきた。今はイスラ、改心したから、レティシャお母様の心配はしなくていい」
「――改心? あの悲劇のヒロインぶってたメンヘラ女が?」
自分が男とイチャつきたいがために何度も母さんを見捨てようとした女。母さんの看病には欠かせない医者だから、過去の弱み握って確保しといた。
「その悲劇のヒロインぶるのをやめさせた。ユルゲンスにイスラの過去、暴露してね」
……こいつ、とんでもねえ爆弾発言しなかったか?
「悲劇の幕を下ろしてあげたの。後は夫婦の問題よ。ワタシは、知らない」
「おい!」
「ダイジョウブ。言ったでしょ、改心したって。イスラは今もレティシャお母様の世話をしてる。今度は脅されたからじゃなく、自分の意思で」
メイスの手が俺の二の腕に添えられる。ちっこくてほっせえのに、俺と同じくらい硬ってえの。
ガキの頃からこいつも武器を握ってきた。父親に刷り込まれた目的のため、けど自分の意思で闘ってきた。
「ワタシはアナタにだけはウソをつかない。知ってるでしょう、アルフレド」
今や面と向かって俺をそう呼ぶのは、お前とジランドくらいだよ。
兵装のせいでよけいに細く見えるメイスの腰を抱き寄せる。だからって別に恋愛感情はねーぞ。欲情もしねえ。俺がリーゼ・マクシアでその手の気持ちにさせられたのはプレザだけだ。
子供時代に母親に甘えられなかったガキの代償行為。メイスと抱き合ってる間だけ、俺は幻の母親に甘えられる。
「それでもウソだと思うなら一度シャン・ドゥに戻ってくれば、いい。人間関係は結局、誠意と信頼で構築してくものだって、分かるから」
「……分かったよ。そろそろお袋の具合も気になってたし、いっぺん顔出すわ」
「レティシャお母様も喜ぶわ」
メイスはマスクを被り直すと、何事もなかったように巡回の兵士の中に紛れて消えた。
あいつはこのまま何食わぬ顔で砦を出て帰投する。行き先にいるのがガイアスかジランドかは、俺には関係ない話だ。
さて、俺も。あいつらにしばらく抜けるって言いに行かねえとな。
/Victor
〈クルスニクの槍〉を眼前で見た私の証言が欲しい。ローエンはそう言って、私をクレインが駐留に使っている部屋へ連れて行った。イバルも一緒だ。アルヴィンはどうしたって? 彼なら「実家に帰る用が出来た」と言って早々にここを発った。理由が理由で引き留めることもできなかった。
「お待ちしていました、ヴィクトルさん。イバルさんも。かけてください」
客用のテーブルスペースを勧められたので座った。クレインは私の正面だ。ローエンがクレインの後ろに立った。
「ご存じとは思いますが、どれだけ軍の規模が膨れ上がっても覆せない差、それが〈クルスニクの槍〉です。あなたは間近でその威力を見たと聞きます。詳しいお話をお伺いしてもいいですか?」
ああ。君たちになら、喜んで。
「まず前提の話からしよう。これが何か分かるか?」
テーブルに銃をホルスターごと外して置く。
「銃、ですね。初めて見た時から、アルヴィンさんも貴方も珍しい武器を持っておいでだと思っていましたが」
「そう。リーゼ・マクシアでは火薬技術が発達していないから、銃は希少品だと聞く。そもそもこの手の兵器は精霊術とは根本から異なっていてな。炉心になる精霊の化石に空気中のマナを集めて使用する。この技術を算譜法、算譜法を起動する装置を黒匣と呼ぶ」
「黒匣――」
「私とアルヴィンの故郷では一般的な技術で、生活に欠かせない物だ。だが、黒匣は世界のマナを消費して使う物。マナが減ればその分、精霊の糧も減る」
「つまり黒匣を使えば使うほど精霊が死んでいくんだ。精霊が死ねば当然自然は荒廃する。こいつらは自分で自分の首を絞めているわけだ」
イバル、僧侶憎くば何とやらか? ミラが殲滅した人々は兵器でなく生活用品として黒匣を使っていた人間のほうが多いと教えてやろうか。
「もしや近頃の生活精霊術の失敗はその黒匣が原因ですか」
「勘がいいな、ローエン。その通りだ。精霊と共生するリーゼ・マクシアにおいて『精霊を殺す』異端の技術――が、ふんだんに盛り込まれているのが、〈クルスニクの槍〉だ」
「精霊を殺す……兵器」
一気に深刻さを呈するクレインとローエン。霊力野があり精霊を肌で感じられるリーゼ・マクシア人だ。理屈抜きに恐怖しているかもしれない。
「兵器版〈クルスニクの槍〉は発動すると周囲のマナを搾取、略奪する。幸いにして、ある人物が〈カギ〉を外して隠してくれたから本格始動まで猶予はあるが」
ある人物、にイバルが反応したが、騒がなかった。大いに助かるが、心配にもなる。私が知る〈イバル〉とギャップが開きすぎて。
「バーミア峡谷や各地での人体実験は、それに関連していますか」
肯く。フェイリオによると、バーミア峡谷での実験は新しい起動キーの生成のためだったらしい。起動キーを奪ったアドバンテージがなくなった今、こちらもうかうかできない。
「――――」
「旦那様。どうか、逸らず」
「……ああ。僕がいくら憂慮しようが実験に使われる人々が救われるわけじゃない。分かってる。それでも、」
拳の甲を口元に当てて握りしめる。クレインが大きな決断をする前のクセだ。
「――。ナハティガルは〈槍〉の性質を承知の上で造らせていると見ていい。兵器の厄介な所は、製造法さえ残っていれば、技術者を抹殺してもまた造れるという点にある。現に私は一度、転用開発された携帯版の〈槍〉と戦っている」
過去にあの兵器でミュゼの術が消されるのをこの目で見た。小型版で精霊の主の姉を無力化できたんだ。本家がお出ましになればどれほどの悪夢か。
「もし〈槍〉を完全破棄するなら、ナハティガル王から〈槍〉を使う意思をなくさせた上で、製造法を闇に葬る必要があるという事ですね」
分かりやすいまとめ、助かるよ、ローエン。
「単純な破壊よりよほど難しいですな……」
「だがそれを超えた先にしか、謀反を起こした我々に真の勝利はない。――そうおっしゃるのですね、ヴィクトルさん」
気負いを感じさせない、クレインの確認。自分たちが超えるべき壁の高さを分かっていてなお、やるのだと。
ミラに通ずる所があるよ。それが君の軸なんだな。できる、できないではない。やるか、やらないか。
正史では生きていない青年。正史では起きなかった展開。
偏差が生じないようにと今日まで監視してきたが、お構いなしに大きな変化は訪れた。
まるで歴史の必然のように。
もう止まらないのかもしれない。時代は動き出してしまった。
後書き
クレインが生きていたことで起きた大きな変化――謀反。
これにヴィクトルたちはどう絡んでいくのでしょうか?
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