| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Fate/Fantasy lord [Knight of wrought iron]

作者:花極四季
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

曇り鏡

 
前書き
前半と中盤からでは明らかに文章構成が異なります。最近文章に自分の癖が出てきたせいで、成長が感じられなくなったのでテコ入れみたいなことをしました。ぶっちゃけ序盤で力尽きたのがよくわかるね。
 

 

―――それは、まさに圧巻であった。
眼前には機械で構成された、まるで街並みを思わせる規模の空間が広がっていた。
先程までただの木造の一軒家に案内されていた筈の私達は、床下にあった隠し扉から、ここまで数分掛けてようやく辿り着いた矢先の光景である。
空間全体を視野に入れた状態では、私達は豆粒程度の大きさにしか見られない。それ程までの規模の未来の遺産が、地下深くで静かに胎動していた。
精巧に組み立てられた機械郡は解析の魔術を使うまでもなく、それを手がけた者の技術力が途轍もなく高いことを示している。
みずほらしい一軒家の地下に眠っていたとは考えづらい世界により、自分の置かれている状況が非現実的なものだという認識を再度確認させられる。
幻想郷という非現実的な世界に慣れていた筈の早苗でさえも、目の前の光景は驚かざるを得ないものだった。
そして、それを造り上げたであろう張本人―――河城にとりは、それらに一切目もくれずに奥地にひっそりと点在している小部屋へと足を運ぶ。
もっと観察していたいという気持ちを振り切り、にとりの後に続く。

「ご、ごめんな。こんな場所ぐらいしか座れる場所がないんだ」

小部屋の中は、先程の感動を拭い去る粗雑な空間だった。
作業部屋なのだろう、レンチのような小道具類は辺りに散らばり、鉄や油の臭気で耐性のない者には耐え難いものとなっている。
事実、隣に佇む早苗も僅かながら顔を歪めている。
表情に出さないように頑張っているようだが、それも敵わないぐらいに、目の前の惨状は度し難いものだということを暗に示している。

「いや、此方がお願いしている立場である以上、贅沢は言わないさ。それに、今まで誰かをここに招いたことはまともにないのだろう?ならばまともな客間があるとは思っていなかったさ」

「う………今後は気をつけます」

責めているように聞こえたのか、しゅんと項垂れる。
今後、という部分に含みを感じつつも、早苗の方へと語りかける。

「しかし、君は別にここにいる必要はないのだぞ。案内は済んだのだ、無理をしてまでここに残る道理はあるまい」

彼女の目的はあくまで私の道案内という役目でここにいる。
厳しい言い方になるが、これ以上彼女がここに居たところで時間の無駄でしかない。
もしここで語られる内容が気になるのであれば、帰ってきてから私に訊けばいいだけの話。
嘘を吐かれるかもしれない、という思惑ならばそれもそれでいいだろう。完全に信用されるよりも、それぐらいの警戒心を持ってくれた方が逆に気楽だ。

「―――いえ、私もここに残ります」

助け船として持ちかけた提案も、本人が否定してしまえば無意味となる。
そうか、と彼女の判断に納得できないまま、納得した風に答える。

「じゃあ、何が訊きたいんだい?ちょっとながら作業になっちゃうけど、何でも答えるよ」

そう言いながら換気作業を行うにとり。
本来の目的とは脱線した内容も尋ねたいが、まずは主題を済ませることにする。

「昨日、白狼天狗を名乗る者から領地進入の件で警告を受けた。しかし周囲を確認しても明確な線引きを確認できなかったものでな、この周辺の地理に造詣が深く人間に友好的である君達河童にその点を詳しく聞きに来たというわけだ」

「―――ああ、なるほどね。納得したよ」

どこか疲れた様子で、そう答える。
そのまま作業台の地図を広げ、此方へと歩いてくる。

「実はその線引きとやらは事実上存在しないんだよね」

「え、どういうことですか?」

早苗がにとりの答えに反応する。
それも当然だ。彼女が口に出していなければ私が同じ答えを返していただろう。

「………大きな声では言えないけど、今や妖怪の山は天狗が支配する場所だ。神様がいる場所には流石に無理だけど、それ以外の場所には着々と領地を広げつつある。だから明確な線引きが存在しないのさ、いちいち目に見える境界線を作っていれば、変化しているのが簡単にバレるからな」

その下らない理由に、思わず溜息が漏れる。
まさか此方の過失ではなく、彼方側の不条理によって襲われたとなっては、最早怒りすら沸いてこない。

「何とも小狡いな。子供騙しにも程がある」

「だけど、効果はある。規模だけなら幻想郷いちの組織だ、幾ら神様が妖怪の山の半分を仕切っているとはいえ、迂闊に手が出せないのが現状なんじゃないかな。戦いに於いて物量に勝る戦術はないからね」

「やはり神ともいえど、全能ではないということか」

図らずも弱点を知ることが出来たことは大きい。
弱点というよりも、付け入る隙があるというだけか。
そうだとしても、間違いなく何らかの対策は講じているのは間違いない。
重要だが、そこまで意味のない情報。
知っているのと知らないのとでは明確な差ができるが、その先を踏み出すのは容易ではない。
それに、敵対を前提としている訳ではない。あくまで知識の内に留めておくだけで充分なのに、どうしてこう物騒な方向に考えてしまうのだろうか。

「でも十年やそこらで大きな変化はしないだろうし、現在の大凡の目星なら付けられるよ」

小脇に抱えていた地図を広げ、惜しげもなくマーカーで線を引く。
線で囲まれた範囲は、山の右半分を示しており、守矢神社とは限りなく距離が近い配置となっている。
まるで挑発しているのではと思えるほどの距離。諏訪子達はこれについてどう認識しているのだろうか。

「広いな………。しかし、これではまるで冷戦ではないか」

「私も知りませんでした、まさかこんなに深刻な状況だったなんて」

関係者である早苗も、この事実に驚愕の色を見せる。
当然だ。これだけ近くで争いの火種が近付いているのであれば、驚かない方がどうかしている。

「流石に天狗達もこれを期と見て征服に掛かろうとはしないだろうけどね。仮にそれが成功しても、採算の取れる損害で済むとは思えない。すぐに社会崩壊するのがオチだね。それがあの方達がわかっていないとはとても思えないし、今は安心していいんじゃないかな」

「………だがもし、ここで争いが起こった時、君達河童はどうするんだ?」

「………私達も妖怪の山の歯車である以上、戦いに参加する義務が生まれる。地力が圧倒的に劣る私達は、武力による謀反という選択肢が存在しない。どんなに嫌でも、自分達が存続する為には、そうするしかないんだ」

にとりの身体が震える。
それは怒りか、悲しみか。
感情の奔流を臨界点ギリギリで必死に押し留めている姿は、とても痛々しい。
いつの時代も、争いは望まぬ者ばかりが蔓延る。
避けられたかもしれない戦争も、政治的な理由で浅慮に走る。
そんな丼勘定のせいで、財産である市民を平然と散財し、見返りで得られる財産ばかりに目を向ける。
ひとつの生命として、同一の存在として見ていないから、そんなことが簡単にできる。
私の考え方が全てではないにしても、そう考えさせる要因があるということだけに偽りはないと断言できる。

「君達には、機械の力があるじゃないか。戦力に関しては悲観するほどかね?」

「無理だよ。天狗は個人で竜巻を作り出せる能力を持っている。数でも質でも劣る時点で、最早抗うだけ無駄なんだよ。第一、私達は戦う為に機械を扱っているんじゃない。機械が素晴らしいものであるということを、証明したいだけなのに、どうしてこんな―――」

沈んだ表情で語る。
私は幻想郷の科学技術がどれ程まで発展しているかを知らない。
だが、もし外と同等、或いはそれ以上であるならば―――勝つ方法は幾らでも思い浮かぶ。
しかし、それをにとりに告げることはしない。
彼女は戦いそのものを嫌っている。そして、種族の異なる人間を盟友と呼び、分け隔て無く接する純粋さがある。
そんな優しい存在に、血の海を生み出す手段を与えて何になる?そんなもの、彼女を苦しめる楔になるだけだ。
中立で在りたいという願いは、決して被害者になりたくないからという排他的な理由ではない。
争いという行為そのものに嫌悪感を抱いているから、それに干渉することを由としないのだろう。
それは、弱さではない。
どんな境遇に陥ろうと意思を貫き通そうとすることは、決して簡単なことではない。
社会の歯車となる以上、状況に流されるのはごく当たり前のこと。生きるための処世術を否定はできない。
だからこそ、彼女は理想と現実の板挟みで苦悩をしている。
誰とも争いたくないという願い。その高尚さ故に、いつまでも辿り着けない。それどころか、兆しすら見えているかすら怪しい。
高すぎる理想は、いずれ現実に浸食される。
そしてその果てに待つのは、自己の崩壊に他ならない。
………いや、彼女は私とは違い、仲間に頼るという選択肢に躊躇いを持つことはない筈。
自分と同じだと一瞬でも考えてしまったが、勘違いも甚だしい。

「念のために訊くが、そもそも独立することは無理なのか?」

「出来なくはないよ。だけど、社会に身を寄せる間に、良くも悪くも河童の機械技術というのは広く伝わってしまった。もし河童が天狗という抑止力を捨てたという事実が広まれば、結局争いの種は広がってしまう可能性があるんだ」

「それを理解した上で、天狗は河童が反抗できない理由を盾にし、支配しているという訳か」

やはり社会の裏側というものは、いつだって狡猾なやり口で蔓延っている。
それが常套手段であり、最も効率の良いやり方だというのだから質が悪い。

「暗黙の了解って奴さ。………一応、両方解決する方法として、私達が機械技術を捨てるという決断もある。妖怪として―――いや、河童としての優位性ははっきり言ってそれだけである以上、それを捨ててまで私達に興味を持つ存在は確実に減るだろうね。それでも結局、身を守る手段を失った私達の末路なんて、想像に難くないんだけど」


「………ひとつ訊くが、妖怪の山に住む妖怪の総てが社会に身を寄せているという訳ではないのか?価値の無くなった存在に干渉する手合いがいるかのように聞こえるぞ」

「違うよ。天狗社会の中に入る条件は、確固たる優位性を持つ種族であり、それが役に立つかどうか。悪く言えば、エリートだけをかき集めてそれ以外を排斥した集団がそれだ」

「成る程な、つまり君達河童がエリート集団であったという事実から、もしそこからあぶれてしまった時、外部の妖怪の妬みや僻みによる暴力が蔓延すると」

「物分かりが良くて助かるよ」

にとりの話を訊いて、妖怪の山の社会とやらの真実が少しだけだが見えてきた。
社会という言葉からあたかも近寄りがたい雰囲気を出し、凄そうなように見せかけてはいるが、結局のところ弱肉強食の延長でしかない。
強くなければ眼鏡に掛けられず、弱者はその他大勢と認識され、自分達は上位存在だとふんぞり返る。
律する手段が姑息で狡猾なのはどこでも代わらないが、唯一違うところは圧倒的暴力による強制も選択肢に入っているということ。
自らの力を見せつけ、裏切りや抵抗の意思を根こそぎ奪い取る。目的こそ類例があるが、手段があまりにも単純で分かり易い。
なまじ力を持つ国は、戦争による領土拡大に躊躇いを持たない。そして、調子に乗り滅びる。
それが何時になるかまでは定かではないが、妖怪の山浸食問題もいずれ同じ末路を辿るのは目に見えていた。

「―――大丈夫です。私がなんとかしてみせます!」

暗雲立ちこめる雰囲気の中、今まで口を閉ざしていた早苗が奮起して叫ぶ。

「知らなかったかもしれませんが、私は八坂神奈子と洩矢諏訪子の下で風祝をしています。私がお二人に掛け合って、争いにならないようにしてみせます!」

「え、でも………そんなこと出来るのかい?」

にとりの不安を尻目に、早苗は決意した目でにとりを見据える。

「出来るかどうかを考えるよりも、まずはやらないと始まりません。誰だって不必要な争いは避けたいと思っている筈です。だったら、戦いを避ける方法を考えて平和的に解決させるのが一番では?」

―――やはり、早苗は優しい。
だが、その優しさは甘美な毒だ。
快楽の海に身を委ねている間に、知らず自らを破滅へと導く毒。
正しすぎるが故に、高尚すぎるが故に、それは実現しない。
かつて私が夢見た理想と酷似したそれは、結末を身を以て体験した私にとって、決して無視できないものだった。
しかし、否定して理屈を唱えて世界の成り立ちを説明しても、かつての衛宮士郎がそうであったように、納得するとは思えない。

「………まぁ、無駄な争いは避けるに超したことはないのは事実。だが、諏訪子達がそれを良しとしたところで、相手側がそれに応じなければ弱気な姿勢を見せる此方側は迫害されるだけだぞ。それを神という地位に落ち着いているあの二人が甘んじて受け入れる訳がない。それを理解しているのか?」

信仰心を糧とする存在が、自らの地位を貶める行為を認めてしまえば、存在価値が無くなってしまう。
あの二人の行動理念は与り知らぬところだが、存在意義を見失っているということはないと信じたい。

「――――――」

「―――だが、君の考えは決して卑下されるべきものでもない。現実ばかりを見据え理想を語らぬ者は、そこで一生停止したままだ。人間は知能面で進化して初めて人間と呼べる。今の君は、誰よりも人間らしいと言えよう」

「私が人間かどうかなんて、些細な問題です。私ひとりが人間辞めて誰もが笑って暮らせるようになるなら、安いものだと思いますが」

「………効率だけで語るなら、そうだろうな。だが、それは有り得ない|幻想〈ゆめ〉だ。君は人間だ、今までも、そしてこれからもな」

―――なんて白々しい。
事実を知るものからすれば、鼻で笑われること請け合いだ。
何せ、その人間を辞めた存在が目の前にいるばかりか、本人がそれを否定しているのだからな。これ以上の矛盾はそうあるまい。
だが、早苗が守護者という概念を知ることで、それに縋る可能性が少なからず出てくることを思えば、嘘を吐くのも仕方ないだろう?
二度と私と同じ存在を生み出してはならない。例え理想そのものが間違いではないとしても、犠牲による平和が肯定される訳ではない。
だいたい、恒久的平和を条件に英霊になるなど、人間として持ち得るポテンシャルの全てと数え切れない功績を挙げたとしても不可能だ。
それこそまさに全能と呼ぶに相応しい、ヒトが物語の中で創り上げた全能の神でもなければな。

「と、とにかく。その申し出は有り難いけど無理だけはしないで欲しい。私のせいで君に何かあったとしたら………」

「大丈夫、これは私の意思であって強要されてのものではありません。貴方が気に病む必要はどこにもありません」

にとりの真意を測りかねた早苗の的外れな言葉が、ひどく哀しく響く。
気遣いのつもりだった筈が逆に傷つけてしまうとは、皮肉にも程がある。

「―――そうだにとり、あの機械のことなんだが」

「―――あ、うん。なんだい?」

無理矢理とも思える話題変換に、にとりが反応する。
彼女の視線は、私が何が言いたいかを察した様子だった。
今ここで早苗に物を説いたところで、弁論による熱が冷めていない状況では暖簾に腕押しとなるのは確実。
ひとまず時間をおいて、忘れられるなら忘れてもらう。
帰ってすぐに直談判しないよう、帰路でアフターケアをしなければな。
 
 

 
後書き

今回の変化~

というか完全に新規みたいなもんだから、まとめになるかな。

天狗の領地って実は曖昧なんだぜ→それはアイツらが自分達には抑止力たり得る軍事力を保持しているから迂闊に手出しできないということをいいことに、好き勝手やっているからなんだぜ→そうなったらにとりは天狗達に諸々の理由で逆らえないから、戦いを強いられているんだ!状態になるんだぜ→早苗がそんなことはさせないと奮起する→シロウはその姿を自分の過去と重ねる→そうはさせまいと新たな決意を宿し、次回に続く。

サブタイトルの曇り鏡というのは、早苗の姿を自己と重ね合わせたシロウだが、彼女が彼のように何かしらの脅迫症状を患っているのではなく、純粋なる善意からきている可能性がある―――その事実から、姿を完全に写しきれず曖昧な像を写し、不確定なものとしていることを表している。なんて無駄に考えた結果です。ていうか文章がおかしい。ヘッダが足りない。

んだば単語・用語コーナー

たいどう
胎動

意味:1 母胎内で胎児が動くこと。妊娠5か月過ぎから感じるようになる。
   2 新しい物事が、内部で動き始めること。また、内部の動きが表面化し始めること。「独立の気運が―する」

小説では大抵2が用いられるね。何かの兆しを表現する際によく使われる。
今回の話での使い方は、いわゆる比喩表現という奴です。機械を赤ちゃんに例えています。結構使い道あるね振り返ると。

造詣が深い(ぞうけいがふかい)
意味:特定の分野に深い知識や技量を持ち、非常に精通していること。「造詣」は、特定の分野に関する深い知識や見識などのこと。特に、学問や芸術などについて詳しいこと形容するのに使われる言い回し。

言うなれば、その道のプロってことかな。特に、知識方面で優れている場合に造詣と表現されてるっぽいね。知らなかった(ぉぃ 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧