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Fate/Fantasy lord [Knight of wrought iron]

作者:花極四季
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河童の川流れ

 
前書き
ヤンデレだろうがメンヘラだろうが、愛してくれる人がいるだけ幸せだと思うんだ(何  

 
守矢神社へと戻り、独り思考に没頭する。
これからの立ち回り方について、真面目に考える必要がでてきた。
何者かによる圧力のせいで、組織として成り立っている妖怪の山お抱えの斥候と対峙する羽目になってしまった。
………そうだ、あの圧力は一体何だったんだ。
偶然にしてはあまりにもタイミングが良すぎる。明らかに私とあの白狼天狗を敵対させたかった者が仕向けたものだろう。
私と彼女が敵対して得をする者―――私をここへ連れてきた者か、洩矢諏訪子のどちらかだろう。
前者であれば私を試したいが為だろう。
どうにも奴は私を深く知っている節がある。
いや、知らなければここに導くような真似はしないと思うが………そうではなく、あの何でもお見通しだと言わんばかりの言動を鑑みれば疑惑を持つのは当然といえる。
後者の場合、諏訪子への疑念ばかり先行してばかりで、真意を測りかねている。
外面が厚く二面性を上手く利用しているお陰か、はたまた本当は私が考えているような疑念は全て杞憂でしかないのか。
どちらにしても本心が掴めない以上、安心する訳にはいかない。
本人に聞いても素直に答えてくれる保証もないし、本当に何か打算あって私を動かそうとしているのならば、疑う素振りを見せることは余計に我が身を危険に晒すこととなる。
神奈子は諏訪子に比べて大人しいが、共犯である可能性が拭えない為、困った時の相談役としても不適切といえる。
早苗はシロの可能性が高いが、諏訪子達に私達が話していたことに関して質問された場合、素直に答えてしまうだろう。
脱線してしまったが、これからも似たような干渉が襲ってくると考えると、この選択が重要になってくる。
謎の声の主が私に干渉していたのならば、下手に一人になるよりも諏訪子達のいるここに居た方が安全だろう。
しかし、これは諏訪子が犯人だった場合、まったく逆の結果になってしまう。
妖怪の山にある天狗の領地付近に同時に居座ることになるというリスクを背負う羽目になってしまう。

「―――いや待て、そもそもどうして私がこんなに臆病にならないといけないんだ」

今までの消極的な思考を振り払うように、必死に首を横に振る。
確かに私は幻想郷にとっての法を犯した。だが、法は赤子を罰することはできない。
幻想郷の常識を知らない私が間違いを犯すのは決しておかしなことではない。そんなことにいちいち目くじらを立てて部下を動かしていれば、いらぬ上層部への不審を買う可能性は少なくはない。
何よりも〝無知な外来人が天狗の領地に入っただけで誅罰した〟だなんて噂が流れればあちら側だって困る筈だ。
パワーバランスの一角を担っているならば、風評や噂によって簡単に傾く現状を崩すような愚行は犯さない筈。
正統な免罪符を渡すような行動さえ取らなければ、これ以上の追撃はないと判断してもいいだろう。
だからこそ堂々として、自分にやましいことはないことを表現しなければならない。こそこそしていれば余計に怪しまれるだけ。
それに先の二人とて、いきなり大がかりな事件を引き起こすようなことはしないと踏んでいいだろう。
あの白狼天狗では邪魔者を始末する為の刺客としてはあまりにもお粗末だった。
力量を測り間違えただけかもしれないが、それよりも小手調べとしてけしかけたのだと考えた方がよりそれらしい。
だからこそ、これからもしばらくはちょっとしたいざこざに巻き込まれることになろうとも、長い目で見れば安全であると判断した。
それよりも下手に相手を刺激しないように過ごし、ついでに気付いていないフリもしておけばある程度の平穏は約束されていると言ってもいい。
だが、完全に楽観するのはマズイ。自然にいざという時の逃げ口を把握しておくことも大切だ。

「シロウさん、ご飯できましたよー」

遠くから聞こえる早苗の声に誘われ、立ち上がる。
そういえば、朝に早苗はいつでも頼っていいと言ってくれていたな。
ならば、その厚意に甘えるとしよう。




「案内―――ですか?」

食事を終えた後、片付けを手伝うという名目で早苗と接近し、話題を振る。

「ああ、君は幻想郷に来てしばらく経つのだろう?今日知らず天狗の領地に入ってしまい、お咎めを受けてしまってな。だが気をつけるにも目印のようなものは見あたらなかったし、そこで妖怪の山に住んで長い君から、そういったテリトリーやその他諸々の事情について学びたいと思ったんだ」

「お咎めって、大丈夫だったんですか?」

「―――まぁ、なんとかな」

正直に言うべきか迷ったが、敵対されているのかも確定していないのに、いらぬ不安を煽る真似はするべきではないと、結果曖昧な返事で濁らせることにした。

「わかりました。確かにシロウさんはまだ右も左もわからない状況ですしね、全力で事に当たらせていただきます」

「そう肩肘張らなくていい。お願いしているのは此方なのだから」

「いいえ、私は以前シロウさんに借りを作って、それを未だに返せていません。だから、折角頼られたんですし、頑張らない訳にはいきませんよ」

借り―――もしかして、屋根から落ちたときのアレか?
咄嗟のことだったので記憶から薄れていたが、どうやら彼女にとっては大きな問題だったらしい。

「ふむ、君がそれでいいというのなら、私は何も言うまい」

私の言葉ひとつで諦めるような安い信念ではないのは、目を見ればわかる。
律儀と言うべきか、早苗は最近の若者らしからぬ誠実さを持ち合わせている。
育った環境が良かったのだろう。―――そう考えると、諏訪子への不審も少しは緩和してくる。
あの邪悪な雰囲気を早苗の前で見せていたならば、こうはいかない。
早苗への間者疑惑は完全に晴れたといってもいいだろう。

「では、明日お洗濯ものを干してからいきましょう。雨とか降っても、お二人に回収してもらいますし、離れていても問題ありません」

「………神である二人を顎で使うとは、意外としたたかなんだな」

「参拝客がいないときのお二人はただの暇人ですからね。働かざる者食うべからず、です。甘やかすといつまでもダラダラしてばかりで………ほんと、諏訪子様にも呆れたものです」

そうやって笑顔を向けてくる早苗の背後に、黒いオーラを幻視する。
その姿は、英霊エミヤの記録に残留した聖杯に侵された間桐桜を彷彿とさせた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


次の日の正午。
私は早苗の案内の下妖怪の山を歩き回っていた。
半分遠足気分なのか、飲み物を用意したりして楽しそうにしていたのを私は知っている。
此方から頼んだ以上、彼女のやることに水を差すのは無粋と思って口にはしていないが、些か緊張味に欠ける。

「えーっと、案内役を仰せつかったのはいいのですが、実は私も天狗さんの領地の範囲に関して完全に理解している訳ではないんです。元々は自由な気質の妖怪が作る社会だからかわかりませんが、そもそも明確な線引きはないのではないかと」

「………それであんな態度を取られたというのは、解せないな」

早苗に聞こえない程度の呟きで愚痴をこぼす。
それが本当に彼女の言うとおりならば、あれは上司の指示というよりも、あの白狼天狗の暴走のせいという可能性が挙がってくる。
所謂威嚇行為だとしても、そんなやり方を取っていれば自然と領土範囲を広げてしまい、彼方側にも不利益が働いてしまう。やっていることは侵略行為に他ならないのだから、当然のことだが。
真偽は関係者に訊くのが一番だが、機密に触れそうな内容を話すとは思えないし、結局は此方が妥協するしかない。
だが、そんなことを続けていれば天狗社会崩壊も時間の問題だろうな。
そんな自分勝手がまかり通るのも、度が過ぎていない範囲に留まっているからに過ぎない。出る杭は打たれる、それは均衡を保つという意味合いで、最も適切な表現と言える。

「ですけど、河童さんなら教えてくれるかもしれません」

「河童?―――ああ、天狗ばかりに意識が向いていたが、彼らも同じ社会の住人だったな」

「ええ。天狗さんは規律を重んじている傾向が強いですけれど、河童さんはどちらかといえば中立のようです。あの中での社会的地位が低いからという理由もあるでしょうけど、恐らく一番の理由は人間を盟友と呼び親しみ、種族間による壁を作ろうとしない、そんな懐の深さによるものではないかと」

つまり、妖怪同士ですら社会の一部ではない者を寄せ付けない天狗と、種族の枠を超えて絆を育もうとする河童では、当然後者の方が接触するには都合が良いということだ。

「ならば早速河童の下へ向かおうか。本当に友好的ならばいきなり押しかけても追い返されたりはしないだろう。元々自由な性質な妖怪ならば尚更な」

「そうですね、では―――確かこっちの筈です。川のほとりに居を構えているケースが殆どですので、川を目指せば自然と会えるでしょう」

早苗の案により、川を目指すことになる。
水の中で生活していると思っていたが、一応地上住まいがあるのか。
おかしな話だが、水の中で談話なんて無茶が起こることはなさそうだ。

「天狗さんと河童さんの領地は完全に独立しています。同じ社会の中で成り立っているとしても、互いに住める理想の環境が異なる以上当然ですけれど、更には相互干渉もそこまで行われていないらしいです。そのお陰でこういう抜け道を利用できるんですけど」

「その情報はどこから?情報漏洩なんて馬鹿な話はないとは思うが」

「それは諏訪子様のお力によるものです。曰く、大地を通して伝わる音の振動をキャッチしているとか。―――あ、見えてきましたよ」

何ともない風に語られたそれは、私にとってはとても重要な問題だった。
もしそれが本当ならば、今私達がしている会話も筒抜け―――ひいては私が発する言葉全てが諏訪子の耳に届いてしまうことを意味している。
その辺りのことを詳しく聞こうと口を開こうとしたが、代わりに視界に入った光景に息を呑むことになる。
木漏れ日から乱反射する川の水は、特別なものではない筈なのにひどく目を奪われる。
環境汚染が行われていない自然とは、かくも美しいものなのか。
初めて幻想郷を上から見渡した時以上の感動が、胸に去来した。

「あ、あれ―――」

感動に打ちひしがれていると、早苗が一点に指を指す。
それを目で追うと、それは上流に向けられていた。
そして、そこから流れてくるヒトガタに向けられていることも続いて理解した。
一瞬水死体かと思ったが、すぐにそれは否定される。いや、それよりも―――

「―――キュウリを食べているな」

「―――はい。仰向けで、凄く嬉しそうに」

流れてきたのは、笑顔でキュウリを食べている少女だった。
直感的に、あれが河童なのだと理解する。
同時に、私の中のイメージである河童が音を立てて崩れていく。
あれでは人間と何も変わらないではないか。大凡河童と呼べる要素が見あたらず、困惑するばかりだ。

―――ふと、河童少女と目が合う。
数秒の視線の交差。時間が止まったかのような瞬間は、少女の奇怪な行動によって崩される。

「――――――ッ!!」

バシャバシャと音を立てて暴れている様に、二人して疑問符を浮かべる。
気のせいか、喉元を押さえている、ような―――

「暴れていますね」

「ああ、暴れているな」

そして沈んでいく少女の身体。

「………沈みましたね」

「………ああ」

水泡が小さく浮かんでいき、やがて消えたかと思うと、少女がうつぶせの態勢で浮かび、そのまま流れていく。
その様子を数秒見守り、早苗が叫ぶ。

「いやああああああ、お、溺れ、河童さんが、溺れ」

「落ち着け」

早苗もあの少ない状況証拠から把握したらしく、混乱したように虚空で手を無造作に動かす。
彼女の両肩を押さえ、それだけ呟いてすぐに河童少女の下へと向かう。
幸いにも流れは穏やかで、簡単に追いつくことができた。
躊躇うことなく川へ飛び込み、動かない少女の身体を抱え、脱出する。
地面に前屈で座らせ、背中を叩く。

「うぇっ、げほっ、げほっ!」

器官に詰まっていたであろうキュウリの破片と共に、呼吸が再開される。
そしてタイミング良く早苗とも合流を果たす。

「だ、大丈夫なんですか?」

「そのようだな」

それを聞いた早苗は、よかったと胸を撫で下ろす。
心の底から心配していたらしく、大げさだなと思いつつもその優しさには感心する。
呼吸が落ち着いたらしく、弱々しくも声を発する。

「あ、ありがとう。助かったよ」

「どういたしまして、と言いたいが………そもそも私達のせいでこんなことになってしまったらしいし、感謝されることじゃないさ」

「え、どういうことですか?」

「つまり、彼女は私達の姿を見て驚いたせいで、喉を詰まらせたのだよ」

早苗の疑問に、簡潔に答える。
そうでなければ、あの奇怪な動きと一連の流れに説明がつかない。

「う、うん。そうなんだけど、それでもありがとうだよ」

はにかんで答えるその様子からは、社交辞令を感じさせない純粋な感謝の思いを感じる。

「しかし驚いたのはわかったが、何故驚いたんだ?」

「そ、それは………。私が単に小心者ってだけだよ、うん」

どこか含みのある返答だったが、追求するのも野暮だと思い、これ以上話題に触れることはなかった。

「それより、君達人間だよね。どうしてこんなところに来たんだい?」

今、少女は私を人間と呼んだ。
その事実は、あらゆる疑問を瞬時に浮上させていく。

「はい、私は人間です。けど、彼は―――モガッ」

訂正しようとする早苗の口を手で塞ぐ。
抗議の視線を向ける早苗を無視し、間髪入れずに答える。

「私も人間だな。ここに来たのは―――とその前に問うが、君は妖怪の河童で合っているだろうか」

早苗には悪いが、このまま人間だと勘違いさせておく。
確かめたいことができた。もし、私の推測が正しければ―――

「うん、そだよ。河城にとりって言うんだ」

「私はエミヤシロウという者だ。そして彼女が―――」

ふと、未だに早苗の口を塞いだままだったことを思い出し、慌てて離す。

「………東風谷早苗と言います」

不機嫌そうに答える早苗。
帰ったら好きな料理でも作ってやるから勘弁して欲しい。

「実は、君達に訊きたいことがあってな。忙しいようなら―――いや、すまない」

言い掛けて、口を紡ぐ。
にとりは顔を真っ赤にしている。先程までの自分の姿を思い返しているのだろう。
あの状況で忙しいという言い訳は流石に無理がある。
だからこそ羞恥で身体を震わせつつも、恥の上乗りになると理解している故にそこで留まっていられる。

「と、とにかく訊きたいことがあるなら何でも訪ねておくれよ。大抵の事なら何でも答えちゃうよ」

乾いた笑いと共に、理想の解答が返ってくる。
半分は照れ隠しのようなものだろうが、早苗の言う通り人間に好意的だからこそという部分も少なからずはあるのだろう。

「あ、でもそれなら立ち話もなんだし、私の工房に招待するよ」

「工房………?」

「うん。とにかくついてきてよ」

促されるまま、私達はにとりの後に続いた。 
 

 
後書き

今回の変化

まさかの名前変化なし。というか今回初めてその名の通りに使えた訳だが。

出会いのタイミングがシロウと早苗が一緒になりました。同時に友好度アップできていいね!

恐竜なんてなかった。戦闘による出会いではなかった為、にとりは投影を知らないまま。

今回はギャグテイストを意識してみました。寒かったかな?


んでは、今回の厨二単語用語コーナー(ぇ

かいこう
邂逅

意味:思いがけなく出あうこと。偶然の出あい。めぐりあい。

文字通りですね。多分なんとなく見たことあっても、読み方知らなくて使えなかった人も多いのではないでしょうか。はい、私です。

立つ瀬がない(たつせがない)
意味:面目を失う。立場を失い、苦境におちいる。

衛宮士郎も、他人の為に尽くしてきたのにそれが偽善だと一蹴された時は立つ瀬がなかったでしょうね。 
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