僕の周りには変わり種が多い
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入学編
第3話 事件と秘匿技術
翌日は、達也が風紀委員になったというので、僕らだけでなくてクラスのまわりからも少しは注目が集まった。まあ、それぐらいだったのだが、授業後のクラブの見学は、レオは山岳部で、美月は美術部だし、達也は風紀委員室にむかったので、エリカと一緒にクラブ活動の勧誘へとまわることになった。
エリカと一緒に、クラブ活動の見学をしてみたが、一緒にまわるのは失敗したかなと思われた。
なんせ思ったよりも勧誘活動にでている人数が多い上に、エリカとはクラブの興味の方向性が違うので、こちらがみたいのは素通りだし、エリカが立ち止まるのは、こちらが熱心に見れるものでないというところだった。それにエリカが立ち止まると、2科生だというのに勧誘が長引く。どうも、エリカが美少女であることが、マスコットのかわりにしようとしている感じを受ける。
男子のクラブ活動に関してはガードも可能だが、女子が勧誘してくるクラブからは、下手な手がだせない。なんせセクハラ行為の疑いをもたれてしまうから。
それでも、最初はよかったのだが、時間がたつにつれて、エリカの周りに勧誘活動に熱心な上級生の女子生徒が多くなって、ついに手をだせなくなってしまった。非魔法系で非挌闘系クラブだと思って油断していたというのはあるが、エリカが強引にことを運ばなかったというところもあるのだろう。
困ってしまったところで、
「チョッ、どこ触ってるのっ? やっ、やめ……!」
エリカが悲鳴を上げ始めたところで、魔法行使の兆候となるサイオンを感じたので、そちらの方向を見ると、振動系のパターンをもった魔法式まで構築した達也がいた。
達也が行ったのは、足を踏み出す時の振動に、魔法式が増幅したところだ。サイオンとして視覚で感じ取るには、指向性をもった振動系の魔法で、エリカのほうにその振動が向かっている。しかも達也は、その方向へかけだしていた。振動の先では、地面のゆれで、エリカのまわりで勧誘していた女子生徒は倒れていたが、エリカのブラジャーが目に焼きついて、動くのを忘れてしまっていた。そんなエリカを達也が手をひっぱりながら、つれていったから、その先はどうなるかはわからないが、僕は変なことに巻き込まれそうな予感がしたので、それをさけるために後をおいかけるのは、やめることにした。
しかし、振動系統の魔法としては、面白い技術だといわざるをえないだろう。少なくとも、通っている合気術の道場では、使った人間がいなかった方法だ。
そんなことは、いったん頭の隅においやって、気楽にみたかったクラブ活動の1つであるSSボード・バイアスロン部で、実際に練習をさせてもらって、ちょっとした事故があったり、ここのOGがほのかと北山さんをつれてきたり、それを風紀委員長がおいかけてきたりしていた。この時点で僕は退散することになって、今日の目的の一つである剣道部のデモンストレーションを見に行くことにした。合気術でも、刀から身を守るための体術はあるが、その方法が通じそうかどうかを見るためだ。とうぜんのことながら、そのあとの剣術部のデモンストレーションも見る予定だった。
会場である第二小体育館。通称では「闘技場」と言われている。各種の室内で行われる武術に通じるものが、この体育館でおこなわれるらしい。
会場へ到着したときには、観戦エリアから見下ろしたところで、防具をつけていない男子生徒と、防具はつけているが面だけは外している美少女が、向かいあっているところだった。何がきっかけかはわからないが、
「心配するな、壬生。剣道部のデモだ。魔法は使わないでおいてやるよ」
「剣技だけであたしに適うと思っているの? 魔法に頼り切りの剣術部の桐原君が、ただ剣技のみに磨きをかける剣道部の、このあたしに」
「大きく出たな、壬生。だったら見せてやるよ。身体能力の限界を超えた次元で競い合う、剣術の剣技をな!」
そういって始まった2人の剣技をみていたが、両者とも僕の通っている道場で言えば、2~3段っていったところか。技量はきっこうしているが、面を打つのを避けている男子生徒の方が分は悪そうだ。ここで仕掛けたのは男子生徒だったが、面から小手へと剣先をかえた小手がきまった。対して、女子生徒は肩へと突きが放たれている。剣道の突きって、せいぜい防具のある範囲までだから、剣道としては、男子生徒の方が勝ちだな。
そう判断したのだがまわりの反応は反対だった。剣道部は先に竹刀があたったことに安堵し、剣術部らしいメンバーの一団は先にあてられたことにたいして、苦虫をかみつぶしているようだ。剣術なら先にあてた方が勝ちになるのが当たり前だろうが、これって剣道部のデモンストレーションだったよな? っと頭の中で「?」マークがとびかっていると、女子生徒の方が
「真剣なら致命傷よ。あたしの方は骨に届いていない。素直に負けを認めなさい」
おいおい、剣道部員が防具外を打って、言う言葉かよ、と思っていると、男子生徒の方はうつろに笑いだして
「真剣なら? 俺の身体は、斬れてないぜ? 壬生、お前、真剣勝負が望みか? だったら……お望み通り、真剣で相手をしてやるよ!」
男子生徒がCADを操作して見えた起動式のパターンは振動系だが、それ以上細かくは読み取れない。結論は1秒とまたずに高周波ブレードという、これにともなう不快な超音波でわかったのだが、下手をすれば、人を殺せる魔法だ。CAD無しの振動系魔法で竹刀を手から離させることならたわいもないが、入学式早々に、魔法の使用制限で注意という名の警告が発せられているからな。
誰も止めに入らないのかと思っているうちに、壬生と呼ばれた女子生徒の防具が切られた。
まずいな、魔法をつかわなければ問題なかろうと思ったところで、魔法がふたつ発せられるのを感じとったところをみると、プシオンの感じからあれは達也だろう。弱いと思った2つの魔法だが、無系統魔法の複雑なパターンをもったサイオン波となって、男子生徒の高周波ブレードをとめていた。
予想もつかない魔法をみせつけられたが、竹刀を握っていた男子生徒を取り押さえたのも、自然な流れに見える。CADをつかっているからなんともいえないが、気功をつかっているようだから、体術だけで、僕の通っている道場で5段以上はありそうだ。
感心するのはそこでとまらなかった。
男子生徒を風紀委員としてとりしまった達也を、剣術部らしき部員たちが、次々と襲っているのだ。しかし、それらをどの古流でも共通の基本的な動きのみで、あしらってみせている。しかも、そばでみていたらきっとわからないだろうが、相手の動きをコントロールして、互いと互いをぶつけあっている。複数人の動きをコントロールするなんて、演武では可能でも、こういう場で実際にできるとは、っと驚かされる。
さらに、直接的にさわりにいかなかった剣術部の生徒が、起動式を展開中に、達也が同じ系統のパターンを持つ2つの起動式を使って、なぜか無系統の複雑なパターンをもったサイオン波として放った。それが剣術部の生徒の起動式を失敗させていることが不思議だ。これだけ大勢がみているから、あとで聞けば教えてくれるだろうと思って、その場をみていた。
タンカがきたときには、さすがの剣術部にも、達也へ攻撃しようとする者はいなかった。体力がないクラブだなぁというところだが、あてられないという神経的な疲れか。
男子生徒がのって、達也がそれにつきそっていく。それをみて、このあとどうしようかと、思ったが、達也の使った方法に興味があったので、多分、達也は司波さんと合流するだろうから、それまでは各クラブを見て歩くことにした。
各クラブの勧誘活動も終わりの時間になろうとしたので、帰りの鞄もあるし、生徒会室のある本校舎へ向かうと、司波さんが真っ先に眼とついたが、他にもレオ、エリカ、美月がいた。
「やあ、達也と待ち合わせかい?」
「いえ、ここにいれば、お兄様と会えると思いましたので、お待ちしておりました」
相変わらず、この達也の妹である司波さんの言動は、普通の兄弟と違うなと思って、ここで一緒にまたせてもらうことにした。
それから1分するかしないうちに、達也もきたので、ここ数日ですっかりならされた兄妹愛の確認の儀式をあきれながらみていたが、達也が気をまわしたのであろう「おごり」にそのまま便乗することにした。
初めて入るカフェで今日の色々なことを話していたが、話としてもりあがったのは、達也の剣術部への風紀委員としての介入の話だった。その中で司波さんの
「大丈夫よ。美月。お兄様なら、心配いらないわ」
「ずいぶん余裕ね。深雪?」
エリカがさらにつっこんでいたが、
「ええ。お兄様に勝てる者などいるはずがないもの」
ここで、エリカも絶句してた。しかし、それでとまるエリカじゃなくて、レオも参戦していたが、司波さんが
「魔法式の無効化は、お兄様の十八番なの」
「魔法式の無効化? 情報強化でも領域干渉でもなくて?」
「対抗魔法でもないのかい?」
「そういえば、陸名さんって術式解体つかっていましたわね」
「うん」
「魔法式の無効化というのは概念で、対抗魔法というのは具体的な魔法を指し示しますの。高校の授業では教えないのに、使えるのならば、知っていてもおかしくありませんね」
「それじゃ、あの、複雑なパターンのサイオン波って、なんていう名称の対抗魔法なのかな?」
「ああ、やっぱり。お兄様の得意技で、キャスト・ジャミングをお使いになられたようですわ」
達也と司波さんの甘ったるい兄妹愛の寸劇をみるのは、つっこむ気もなくなったのだが、まわりがたちなおってきている中で、レオが
「……そういや、キャスト・ジャミングとか言ってなかったか?」
ここから、軍用物資であるアンティナイトあたりの話になりだして、達也が
「あー、この話はオフレコで頼みたいんだけど?」
興味があったのと、相手の起動式をきちんと読めないとできそうにない技術なので、だまってうなずいた。
「正確には、キャスト・ジャミングじゃないんだ。俺が使ったのは、キャスト・ジャミングの理論を応用した『特定魔法のジャミング』なんだよ」
そこから、偶然発見したと言っているが、後付けの理由に思える。実際に理論を応用するというのは、高校生のレベルでできるものではないというのは、ある意味、身にしみているからな。
オフレコについても、レオがまっさきに話を聞いたが、お手軽に魔法を停止できるというところで、多少なりとも違和感はあった。そもそも複数のCADを同時使用するのは、マルチキャストを行うよりも、難しい技能だからだが。
「けど、実際にみていたんだけど、起動式を読み取ってから、そういう対抗魔法を放つのって、1科生のしかも上級生の魔法より遅いタイミングでなのに、それより早く対抗魔法を放つということだろう?」
「それっ、1科生よりすごいってことじゃんか!」
僕がちょこっと言ってみて、レオは追従したが、
「現在の魔法実技では、評価されない項目だからね」
「魔法式じゃないし、事象改変がともわないからか」
その日は、そこでうやむやのうちに終わることになった。
週末の日曜日は、円明流合気術の道場へ行って、奥の部屋で同義を着てはいるが、横になりながら、ネットチェイスをしている、年齢不詳の師匠に会うが
「工藤師匠。あいもかわらず、誰とネットチェイスをおこなっているんですか」
「エレクトロン・ソーサリス(電子の魔女)」
「いくら師匠でも相手が悪すぎです!」
あまりの大物にとっさに叫んでしまった。
「もちろん、冗談だよ。藤林くんに、ちょっかいをかけると、あとあとが面倒だからねぇ」
師匠の冗談はいつものことだが、たちが悪い。
藤林というと十師族の九島家に近い、古式魔法の藤林家のあの女性ね。道場にとっては関係するが、僕には関係ないよな。
「ところで、翔君。君はドアを開ける前にノックをするということは、しないのかね?」
「存在を事前に感じている人には、必要ないと思いまして」
「君ねぇ。私のことを師匠と思っているのかねぇ」
「ええ。思っていますよ。ただし、アルバイトで、八尾の妖孤を相手にできたというのに、バイト料のアップが無いですからねぇ」
「あれは、偶然だよ。次回の時は、アルバイト代はアップするからさぁ」
「その次回って、妖孤の話ですか?」
「うーんとあれの封印は、10年は持つと思うのだけど」
「10年後には、ここでアルバイトしているつもりはありませんよ」
「ところで、師匠とアルバイト代金とは、関係ないと思うのだが」
「僕にとって、尊敬する度合いは変わりますよ」
最近の師匠への尊敬する度合いは降下中だ。
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