僕の周りには変わり種が多い
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入学編
第2話 魔法師?
七草生徒会長と風紀委員長が去って行ったあとには、僕たち1-Eの5人と、司波さんの1-Aの生徒が残っている形となった。その中で、先ほど特化型CADを抜いた森崎が、達也にむかって、
「借りだなんて思っていないからな」
「貸したとは思ってないから安心しろよ」
あとはかなり適当だが、森崎が言いたかったのは
「司波達也、僕はお前を認めない。司波さんはブルーム。ウィードの中ではいずれ枯れてしまう。彼女は僕らといるべきなんだ」
なのだろう。こう言って、去っていこうとする森崎に達也は
「いきなりフルネームで呼び捨てか」
普通は気分を害するよな。まあ、森崎に1-Aの大部分はついていったので、僕たち1-Eの5人と1-Aの司波さんと一緒に帰ろうとすると、光学系魔法、達也によると閃光魔法を放とうとしていた女子生徒が、達也の前にきて素直にあやまってきていた。
エリート意識満載のように見えていた彼女が、まさしく豹変といっていいこの態度に、僕たちはとまどったが、結局は受け入れて、名前の呼び方で、達也と呼ぶことになって、それで、魔法を放とうとしていた光井ほのかさんはほのか、その友人との紹介があった北山雫さんは特になかった。しかし、光井さんのことをほのかというようになったので、千葉さんはエリカに、柴田さんは美月へと、呼ばされるようになっていた。レオや僕もそれに巻き込まれた感じで、彼女らと下の名前で呼び合うことになったのだが、悪くはないといえた。
ただ、少々微妙なのは、達也の隣に司波さんがいるのは、兄妹だからあたりまえなんだろうが、ほのかさんが司波さんとは反対側に並んで、その横には北山さんがいるという構図だ。その後ろをレオ、エリカ、美月に僕というふうに並んで歩いていくという恰好だ。
話の流れは、司波さんのCADの調整を達也がおこなっていて、それに感心しているところだ。僕は自分のCADの調整だけで、他人のCADは調整をおこなったことは、まだ無いので、達也はたいしたものだと思う。さらに感心させられたのは、エリカの警棒と思われたものが、CADだったということだ。しかもサイオンのシールド処理をされているものだと。これだと僕の眼では、サイオンをほとんど観ることができないのでわからなかった。
さらにエリカの
「兜割りの原理と同じよ。……って、みんなどうしたの?」
それって、常時、剣の奥義をナチュラルにおこなっているのかと思ったら、まわりもなんら言葉を発していない中で司波さんが
「エリカ……兜割りって、それこそ秘伝とか奥義とかに分類される技術だと思うのだけど。単純にサイオン量が多いより、余程すごいわよ」
それを聞いて、僕の術式解体もどきは、主席入学の司波さんにとっては、サイオン量が馬鹿でかいっていうだけなのねって、ちょっといじけかけていたら、
「陸名さん。サイオン量といっても保有量のことを申していまして、サイオンを術式解体の対抗魔法と同じように、魔法でなくて発火念力でおこなえるのもすごいですわよ」
司波さんにそう言われて悪い気はしなかった。気分がなおったところで、美月が
「達也さんも深雪さんもすごいけど、翔さんもエリカちゃんもすごい人だったのね……うちの高校って、一般人の方が珍しいのかな?」
「魔法科高校に一般人はいないと思う」
北山さんの発言は魔法師の見習いとしては、しごくもっともだが、美月のまわりに魔法師と一般人の区別をする人は、いなかったんだろうなという気はしたが、そこでなんとなくうやむやになってしまい、そのままプラットホームでわかれることになった。
翌朝は昨日の朝より遅くくると、すでに達也、レオ、エリカ、美月がそろっていたが、朝からなんか雰囲気がちょっと重たい。
「4人とも、なんか暗くないかい?」
「いや、生徒会室で昼食をとることになってね」
「4人とも?」
「達也だけ」
達也の雰囲気が重たいというのは、なんとなくわかる気はするが、他の3人まで重たいのはよくわからないが、さわらない方が良い気がしたので、話題をかえることにした。
「そういえば、今日の午後は実習事業があるんだよな」
「そうだなぁ」
「やっぱり中学校で使っていたのよりは、良い教育用CADがつかわれているんだろうか。僕の行ってた中学校では5年前のモデルだったから、少しだけ楽しみなんだ」
「やっぱり毎年新しいのに代えるのかな」
「受験の時に使ったのと同じのじゃないのー」
「あっ、僕って、受験の時に風邪をひいていて、朝は40度の熱があったところで、魔法実技の受験を受けていたから、あまりよく覚えていないんだ」
「はっ?」
そこで、予鈴がなったので各自の席に戻っていくことになったけど、言わなかった方がよかったかな?
後悔するかどうかは、あとになってからしかわからないよなと、端末にむかって課題をおこなっていくことにした。
昼休みは、達也は妹の司波さんと一緒に生徒会室へ向かうなか、僕はレオ、エリカ、美月と昼食をとるが、生徒会の話題にふれたくないのか、達也の話は無しで僕の受験の時の話になった。
「実は、受験日の3日前に顔を見せたら、アルバイトがあるって気晴らしに、行ったんだけどさ」
「受験日前の気晴らしだって?」
「まあ、それぐらい簡単なアルバイトのはずだったんだ」
「そうなのか。それで」
「アルバイトは、地縛霊の除霊だったんだけど」
「除霊? 初めて聞くなぁ。それ」
「もしかして、翔さんて、それでサイオンの塊を放てるんですね」
「さすがにメガネをかけているだけは、あるね」
「除霊とサイオンとメガネって? 俺には何のことかわからないんだけど?」
「除霊といっても、地縛霊を徐くものなんだ。まず地縛霊というのは、特定の空間に濃密度のサイオンがあるところに、プシオン情報体が結びついて残留する思念のことなんだ。地縛霊とサイオンの関係はまずわかったかな?」
「なんとなくだけど」
「続けるとして、その地縛霊をサイオンの塊で、その場所から離れさせたり、あるいはサイオンを壊したりして、プシオン情報体を隔離する結界を張るのは、僕のアルバイト先の師匠とかがおこなうんだ」
「それと、メガネの関係は?」
「プシオンというのは、オーラとして見えることもあって、そのオーラが見えすぎる人は、オーラ・カット・コーティング・レンズをつけたメガネをかけるんだよ。それでいいよね? 美月さん」
「はい。入学式に、達也さんにも眼がいいんだねって、言われたので、他にもわかる人がいるかなと覚悟はしてたんですけど、翔さんもレンズに度が入っていないことから、気がついたのですか?」
「いや、プシオンは僕も意識すれば見えるよ。たとえば、メガネをかけた人が身近にいる場合には、一度は見てみるよ」
「それって、どうしてですか?」
「オーラって、負の感情ほど見やすいって、美月さんならわかるよね?」
「ええ」
「負の感情が見えやすいというのは、こちらが負の感情をむけると、それに反発して相手は負の感情を増加させることもある。だから、昨日の美月さんの感情的な発言って、1科生の負の感情を、無意識に読みとってしまったんじゃないかな?」
「もしかしたら、そうかもしれません」
「まあ、そういうのもあって、負の感情を発しそうな場面では、そういう人のそばは、一時的に避けたりすることがあるんだ」
「それは、いいけどよ。結局、簡単なアルバイトだったのに風邪になったのって、なんでなんだ?」
レオが最初に話をふっていたのに、いつのまにか美月さんとの話になってしまていたな。
「そういえば、脱線しちゃったね。えーと、続きがあって、実はそこの近くに、旧い封印があって、プシオンとサイオンに対する二重の封印だったんだけど、プシオンの封印をこわしちゃって、旧い封印の中の良くない霊があばれだして、それを対処するのにサイオンを使い果たしてしまってね。その時に雨がふっていて、風邪をひいてしまったんだ」
「その封印は?」
「簡易型の結界を師匠がはって、翌日には、本格的な結界をはったそうだよ」
それで、まわりは納得した。
けど、本当のところは、師匠が来て強引につれていかれたからだ。なんであんな場所に、いまどき妖魔としては高位である八尾の妖狐なんて、どうしているんだよ。本当に死ぬかと思ったぞ。そう考えていたら、エリカから
「翔くーん。師匠っていっていたけれど、それって、もしかして古流の武術の系統なのかな?」
「よくわかってね。合気術だよ」
「合気術って、古流でなくて新しいんじゃないの?」
「そうなんだけど、合気術っていろいろな武術を取り入れているから、僕が通っている道場の流派では古流の系統も色濃くのこっているんだね」
「へー、どうりで、すり足気味なのね」
「見ただけでよくわかるね。一応円明流合気術っていうんだけど、特に隠す必要もないからね。千葉さん」
「なんのことかしら」
眼が泳いでいるな。昨日、吉田家の話でもにごしていたから、もしかしたら剣術で有名な千葉家かとも思ったんだけど、隠したいんだろうな。
そうすると、今度は美月から、
「受験日に風邪だったということは、風邪じゃなかったら1科……」
「ストップ。一発勝負に、『たられば』は無いよ」
そんなところで昼食は終えることになった。
僕が通っているのは円明流合気術という道場だが、古式魔法も扱っている。とはいっても、合気術固有といったらいいのか、現代魔法もとりこんだりしているのだが、『伝統にとらわれない古式魔法師』と、古式魔法の『伝統派』に似ているので、勘違いされることもあるが、実際には異なる。
魔法師としての表向きの仕事は除霊を行なうことだ。裏としては、除霊する場所の2割ぐらいの確率で、過去に封印された妖魔……現代ではパラサイトといわれている……が封じられている。その封印が弱ってきていると地縛霊として集まることが多いので、今ではわからなくなっている封印された場所は、それを目印に再封印をすることが、裏の魔法師としての仕事だ。しかし、魂さえも視えなくなる、失伝した封印が残っていたとは、あんまりだ。
午後の最初の授業は教育用の据え置き型CADを使った実習だ。CADは両手を置くタイプで、各種の教育実習や、入学試験もこのタイプだったが、この部屋にあるのは4台だ。1教室25人なんだから、5台にすれば、ちょうどキリが良いのにと思った。
これは、学校側が用意できる予算を考えていない、高校生だったからであろう。
それでも、授業には教師がつかないので、適当に列ができあがり、その中でここのところ一緒にいる皆と一緒にいたのは、必然だったのかもしれない。
僕がレオの後ろにならんでいると、達也の背中をつついているのが見えた。
「達也。生徒会室の居心地はどうだった?」
「奇妙な話になった……」
エリカが口をはさんできて
「奇妙、って?」
「風紀委員になれ、だと。いきなり何なんだろうな」
話をきいてみると、風紀委員というのは、魔法が使われた時にそれを止めるのが役割だって?
あらためて達也の霊気、普通だとプシオンか。眼をこらして視てみると、達也の身体にそって、クッキリとまとっていて、一滴たりとも漏れがないのに、なぜだか、外部にのびている霊気のライン。たぶん、司波さんにまでつながっているんだろうが、師匠にきいてみないと、こんな現象はわからない。
ただし、他人と異なる特殊な霊気は、たいていは特殊な能力をもっているらしい。他にも、レオとエリカ。まだ不確定だが、オーラ・カット・コーティング・レンズをしている美月、それに話してはいないが、吉田幹比古って、この1-Eは、1年生の中でも特殊な霊気をもっている。ここのクラスは、そういう者が固まっている感じだ。
他には1-Aの3人、1-Bの1人と特殊な霊気を感じるが、1年生の中で特殊な霊気、自分を含めてだが、それを持つ者の半分がこのクラスって、霊気と霊気が呼び合うことがあるって言う、師匠の言葉の通りなんだろうか。
CADの方は、中学校よりほんの2年ばかり新しいという以外は特徴もなく、起動式のノイズが多いのを我慢をしないといけないな、というのを感じさせられながら、1回目より、2回目、3回目と加速や減速の魔法の発動が、速くなってきたのを感じて、満足することにした。
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