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元虐められっ子の学園生活

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クッキーとは何ですか?

「はぁ……」

翌日の放課後、俺のクラスが解散を示すと同時に教室を出た。
言ってなかったが、俺は廊下側の一番後ろだ。
一番目立たず、教室全体を見渡せる良い席だ。

さて、そんな俺は何時もならば直ぐにでも帰るのだが、
昨日のこともありあの忌々しい部活動へと顔を出さなくてはならない。

「…どうも」

例の空き教室に到着し、入室。
やはりというのか、この部の部長が昨日と同じ場所で読書をしていた。

「……こんにちは」

「どうもこんにちは…」

「よく来たわね。もう来ないと思ってたわ」

「それは来てほしくなかったと取っても良いのか?」

「あら、誰もそんなことは言ってないわ。
今のは只の感想。勝手な発想で物事を決めつけないでくれるかしら」

帰りたい。
ただそれだけが俺の願いだ。

「それで、一つ聞きたいのだけれど…」

「ちーす…」

女生徒が話を切り出したところで比企谷が現れた。
やはりというか、比企谷も嫌々ながらの顔をしていた。

「…よう。
………それで、何だって?」

「…別に何でもないわ」

「そーですか」

何なんだこの女は…。

「…なぁ、何かあったのか?」

隣に座った比企谷が、小声で俺に問いかけた。

「入室早々に罵倒されたような物だ」

「…把握…」

その時、荒々しく扉が開いた音がして、
その方を見ると平塚女史が戸惑いの眼をしてたっていた。

「先生、ノックを…」

「すまない雪ノ下。
それよりも鳴滝、少し良いか?」

昨日の作文の件か?
これは所謂面を貸せって奴だろう。
この感じは久し振りだな…。









「で、何ですか?」

職員室。
そこでも敷居が敷かれ、小さな応接室の様にされた場所で
平塚女史と早退して座っている。

「君のいった通り、君の作文を何度か読み直した」

「…それで?」

「君は……親はどうしている」

「親なら居ませんよ。5歳の時には一人でしたから」

そもそもあの二人を親などと思っていたのは4歳序盤までだ。
それからなんて他人としか思えなくなっていたからな。

「では…今は一人暮らしと言うことか?」

「…何が言いたいんですか?」

「君は、虐めを受けていたのか?」

……調べたのか。

「それがなにか?」

「ならば普段からしているそのネックウォーマーは虐めの傷を隠す物と言うことか…」

「…見たいというのなら却下します。
この傷を見て感傷に浸られると気分を害します」

「…そうか。
確かに昨日、君がいった通り、私は教師の風上にも置けなかった。
教師である事を忘れ、只の人として君に八つ当たりをしていたのかもしれない。
だからこそ、私は君に歩み寄りたい。
君という人間を知りたいんだ」

……悲願と…不安…か。
同情と、自分の意思の進言ってところか。

「俺から話すことはまだありません。
俺をあの部活に放り込んだ事を利用して観察でもしたらいい」

まぁ観察したところで誰とも話したりしないから
精々分かることは常に1人と言うことくらいだろう。

「…わかった。
それと…雪ノ下を見てどう思った?」

「……誰ですか?」

「……は?
いやいや、待ちたまえ。
奉仕部の部長だよ。知らなかったのか?」

あの女か…名前初めて聞いた気がする。
(実際は何度か名前が上がっている)

「そうですね…下らない思想を抱いている下らない女ですね」

「…どう言うことか聞いても?」

「あの女は何かを追っている。
それが人であれ思い出であれ自分という者を理解していないのであれば無駄だというのに。
あの女は…そう、言ってみれば完璧を目指してるように見える」

「……そうか」

それから先は暫く無言だった。
体感的に5分程たった頃、漸く平塚女史は口を開く。

「…すまなかったな。時間をとらせた」

「…いえ、別に気にはしてません。
それではこれで」

「ああ…っと、部室に戻るんだぞ」

ちっ…帰れると思ったのに…。

「全く君は…」

額にてを当てる平塚女史だった。









「はぁ……………ん?」

部室前。
そこには比企谷が待っていた。

「よぉ」

「どうした?」

「いや、鳴滝と一緒に調理室に来いって雪ノ下が…」

調理室?
何か料理でもしたいのか?
となると俺と比企谷は毒味役…?

「もしかして、誰かの頼みだったりするのか?」

俺達は歩きながら会話をする。

「あぁ、由比ヶ浜っていう女子が依頼に来た」

「由比ヶ浜……あぁ、グループぼっちの」

「グループぼっち?なんだそれ」

「グループぼっちってのはグループの中にいる筈なのに会話に参加できなかったり
着いていけない奴の事だ。
そういうやつに限って別の事を始めるのさ」

「あぁ…納得だ」

しかし、比企谷もただ会話が出来ない訳じゃ無いんだな。
要は誰とも話していないっていうだけだったわけか。

「なぁ、鳴滝」

「どした」

「聞きたいことがあるんだが…」

比企谷が立ち止まる。
俺も続いて立ち止まり、比企谷に視線を合わせる。

「ん、何が聞きたい?」

「(いいんだ……)…まず一つ、何であの時庇うような真似をしたんだ?」

あの時…庇う……いや、これはないか。
となると、作文の事だな。

「あの時言ったろ?
良い文だった。
周りに流されず、自分の思ったことを書きなぐる。
そして、自分の感性から物事を図った結論。
あれを良い作文と言わず何と言う?」

「……サンキュー…」

「……何だ、照れているのか?」

「ばっか、そんなんじゃねぇよ。
次だ、お前は友達とか親しいやつは「いない」……そうか」

何で嬉しそうなのかは聞かないことにしよう。

「じゃあ、最後…そのネックウォーマー…その………」

「…見たいのか?」

「っ!……嫌なら別に良い。
ただ、これから先絡んでいくと毎回気になると言うか…」

「そうか…なぁ比企谷、お前は虐めにあったことはあるか?」

「虐め?そりゃもう、あいまくってるね…。(主に女子に…)」

「それってどんなものか聞いても良いか?」

「え?……細菌だとか汚物だとかそんな扱いされたり…とかか」

成る程…。

「精神的な虐めか…。
俺はな、比企谷…」

そう言いながらネックウォーマーに手をかける。
そのまま顔を通して取り外し、目にかかる前髪をかきあげて横を向いた。

「っ!?…マジか…」

「肉体的な虐めにあいまくってきたのさ…。
因みにこれは中学3年の時の傷だ」

長い切り傷。
今でもハッキリと痕が残り、此を見たやつらは漏れ無くドン引きする。

「……すまないな…嫌なことさせて」

「…?引かないのか?」

俺は再びネックウォーマーを首に通して聞いてみる。

「…何で引かなきゃならないんだよ。
それを見たのなら普通同情だろ」

「お前の反応は初めてだったよ。
ありがとな、同情してくれて…」

「大方それを見たやつらはリア充街道まっしぐらなやつらだったんだろ。
ろくに虐めを受けなかった奴の反応だろうな」

成る程な。
そう言うことだったのか…。

「ところで、リア充って何だ?」

「知らないのか?リア充って言うのはだな…」















「遅い。
ここに来るまで何分かかっているの?
道草でもしていたのかしら。ヒキガエル君」

「まて、何で中学の時のアダ名をしっている」

あれから短い時間だったが比企谷と他愛のない会話をした。
調理室に到着し、会話が終わるのを残念に思った俺がいた。
あんなに充実した会話をしたのは何時振りだろうか。

「な……鳴滝…君…」

「…由比ヶ浜…だったな」

何でこう、会うやつ全員に怯えられなくてはならないのか…。
あぁ、あの噂のことか。

「由比ヶ浜、鳴滝の噂はでっち上げだ。
そこまで怯えなくて良いぞ」

「そ、そうなの!?」

「私はどちらかと言えば比企谷君に怯えたのだと思ったのだけど」

「俺のこの眼を言ってるの?
さっき由比ヶ浜が鳴滝の名前だしてたよね?」

「あら、聞こえなかったわ」

「このアマ……」

この二人は中々に会話が成り立っているな。
俺が言われたらキレるか不貞腐れるか殴るかする。
…最後は違うか……ちがうよ?

「それで、なにしてんの?」

「見てわからないかしら。
これからクッキーを作るのよ」

クッキー?

「なぁ…クッキーって何だ?」

「は?」

「え?」

「マジ…か…」

何でそんなに引くの?
クッキーって生きていく中で常識的な何かなの?

「あーそうだったな…。
いいか鳴滝。クッキーっつーのはだな……」

こうして比企谷のクッキー講座が始まった。












「出来たー……けど…」

……おかしい。
比企谷から聞いた物とは違う気がする。
あれ?いや待てよ…確か色んな物も存在するとも言っていた。
ならこれもその一つなのか?

「何故あれだけミスを重ねることが出来るのかしら…」

あれはミスだったのか?
テッキリ調理作法の一種かと思ったんだけど…。

「ホムセンで売ってる木炭見たいになってんぞ…。
最早毒だ…」

「どこが毒だし!……やっぱり毒…かな?」

「どれどれ……アム……」

「「なっ!」」「ええっ!?」

俺はネックウォーマーのしたから偲ばせるように口に入れた。

「んー…ちょっと硬い気がするけど…食べられなくは無いな」

「なん……だと!?」

「……味覚が無いのかしら…」

オイコラどう言う意味だ。

「我慢しなくていいんだよ?不味いなら不味いって…」

「とある男の話をしよう。
その男は家がなく、道行く先でごみ捨て場を発見しては食べられそうなゴミを漁り、
食べていたそうだ。
そんな生活を続けるうち、その男はちょっとした毒物なら効果のない身体となったのだ」

誤解を解こうと思ったら俺の過去暴露しちゃったよ。
でも何でだろう。皆の視線が痛い。

「…貴方の実話はこの際置いておくとして、由比ヶ浜さんはどうするの?」

「え、…もう、いいよ。ほら、才能って言うの?私には無いから…」

「解決方法は努力あるのみよ。
由比ヶ浜さん、貴女は今才能が無いって言ったわね」

「え、…うん」

「その認識を改めなさい。
最低限の努力もしない人が才能ある人を羨む資格なんてないわ。
成功できない原因は成功者が積み上げてきた努力を想像できないから成功しないのよ」

「でもさ、最近皆こういうのやらないって言うし…
やっぱりあってないんだよ…そう言うの」

カタンッ と、粉降りの器具を強めに置いて、
雪ノ下は由比ヶ浜に睨みを聞かせる。

「その周囲に合わせようとするの、止めてくれないかしら。
酷く不愉快だわ。
自分の無様さ不器用さ愚かさの理由を他人に求めるなんて、恥ずかしくないの?」

うわぁ…容赦ないなぁ。
ほら、由比ヶ浜もうつむいてるじゃねえか。
登校拒否になったりしないだろな…。

「………カッコいい…」

「「「はぁっ!?」」」

まてまて、何処がカッコいいの?
寧ろ相手の精神バキバキに折るようなセリフばっかじゃねえか!

「建前とか…そう言うの全然言わないんだ。
何て言うか、そう言うのカッコいい!」

「は、話を聞いてたのかしら。
自分でも結構キツいこと言ったつもりだったのだけど…」

あ、自覚あったのか。
寧ろ雪ノ下の90%は饒舌であると確信。

「確かに言葉は酷かった。
でも…本音って感じがするの…。
私…人に合わせてばっかだったから…ごめん!
次はちゃんとやる!」

次はってことは最初は手抜き?
つまりこれは失敗作だと言うことか…。

「さっきからそう言うの話の流れだったろ…。
で、雪ノ下。正しいやり方教えてやれよ」

「はぁ…私が作るからそれを見てやってみて…」

「うん!」






「ーーーーー成る程、これが本物か…」

最初よりも形が確りしているし、雪ノ下の作ったやつと比べると色合いが対照的だ。

「なぁ、これはどっちが正しいんだ?」

「いや、明らかに雪ノ下だろ…」

そうなのか…でも…ムグッ…美味いな。

「どうして上手く行かないのかしら…」

「うぅ…」

「あ、比企谷!それ最後の一個だったのに!」

「まだ由比ヶ浜のが残ってるだろ」

「俺の胃袋はお前ほど小さくないんだ!」

「ばっか、お菓子は別バラって言うだろ」

「聞いたことない…こともないな。
確かクラスの女子がそんな台詞を言っていた気が…ってああ!」

最後の一個が…おのれ比企谷ぁ…!
婆さん曰く『食い物の恨みは恐ろしい』って言う素晴らしい名言を物理的に教えてやろうか!

「なあ、何でお前ら美味いクッキー作ろうとしてんの?」

「へ?」

「……どう言うこと?
何が言いたいのかしら」

急に言葉を発した比企谷に、雪ノ下と由比ヶ浜は訝しげな視線を比企谷に送った。

「10分後、ここに来てください。
俺が本当の手作りクッキーを見せてやりますよ」

「へぇ…大した自信ね。
由比ヶ浜さん、外へ出ましょう。
このヒキコモリ君が手本を見せてくれるそうだから」

「おい、人の名前を変な風に呼ぶな」

そんな比企谷の言葉を危機もせずに、二人は家庭科室から出ていってしまった。




「ーーーーーで、作らないのか?」

「ばっか、これでいいんだよ」

家庭科室に残った俺は何故か由比ヶ浜の作ったクッキーを綺麗に並べるだけで動かない。

「すまん、全くわからんのだが」

「まぁ、アイツ等が来たらわかるからな。
それまで待っとけ」

「ふーん…」

何をしようとしてるんだ?




ーーーーー10分後。

「これの何処が手作りクッキーなのかしら…」

「むー、あんま美味しくない」

二人が帰ってきて早々の感想がこれだ。
正直何がしたいのかさっぱりだ。

「そっか…悪い捨てるわ…」

「ま、まって!」

感想を聞いてすぐ、比企谷はクッキーを廃棄しようとする。
それを止めたのは由比ヶ浜だった。

「別に捨てるなんて…ハグッ
言うほど不味くないし」

「ま、お前の作ったクッキーなんだけどな」

「へ?」

「どう言うことかしら」

駄目だ。さっぱりわからん。

「これは俺の友達の友達の話なんだが…」

そう言って比企谷は語り出す。






ーーー何かある度に話しかけてくる女子が居たそうだ。
もうこれ絶対俺のこと好きだよ!と、おr…じゃなかったそいつは思った。
で、意を決して聞いてみることにしたんだ。

『好きなやつ教えてよ!頭文字(イニシャル)でいいから!』

『え、えぇー……H……』

『H…それって、俺!?』

『は?何言ってんの…マジキモい…止めてくんない?』





「………はっ?!何だ今のは…」

又聞きの筈なのにそのシーンが想像(トレース)出来てしまった!

「ちょっと待って。貴方のその経験談から…」

「ちょっ!友達の友達だ!」

「…で、そこから何を導けばいいのかしら?」

え!?体験談だったのか!?
不運過ぎるだろ比企谷…。

「まぁあれだ。
男ってのは単純なんだよ。
話しかけられたら勘違いするし、手作りクッキーなら尚更だ。
だから美味しくなくたって良いんだよ」

ああ、そう言う事だったのか。
成る程、勉強になるな。

「…美味しくない?……うっさい!」

このっ!このっ!と、そこらにあるゴミを比企谷に投げつける由比ヶ浜。
…誰が片付けするんだよ。

「まぁ、お前が頑張ったんだって姿勢が伝わりゃ、男心が揺れるんじゃねえの?」

「そう言うものかしら…」

「…ヒッキーも揺れるの?」

「あ?あーもー超揺れるね。
て言うかヒッキーって呼ぶな」

ヒッキー…あだ名か。
思えば俺、あだ名で呼ばれたことないなぁ…。

「で、どうするの?由比ヶ浜さん」

「あ、うん。私自分のやり方でやってみるよ!
ありがとね、雪ノ下さん!」

こうして家庭科室でのクッキー作りは終わりを迎えたのだった。
因みに残ったクッキー(失敗作も含む)は俺が美味しく頂いた。











「本当に良かったのかしらね?先週の由比ヶ浜さんの依頼」

「何だよ急に」

あれから週明けの月曜。
放課後となり、俺は部活のためにこの3人の空間にいた。

静寂を破った雪ノ下はそんな疑問を口にする。

「私は、自分を高めるなら限界まで挑戦するべきだと思うの。
それが最終的には由比ヶ浜さんのためになるんじゃないかと…」

まぁ、そう言った考えも間違いではないのだろうけど。
結果的に由比ヶ浜が納得したのならそれでいいんじゃないだろうか?

「…努力は自分を裏切らない。夢を裏切ることはあるけどな」

「っ!?」

「……どうしたの?食中(しょくあた)り?」

「……何でもない」

「そう…で、どう言うことかしら」

「努力しても夢が叶うとは限らない。
むしろ叶わない方が多いだろ。
でも、頑張った事実があれば慰めにもなる」

「只の自己満足よ。甘いのね、気持ち悪い」

「自己満足で何が悪い」

「…え?」

「お前はあの時に言ったな。
『努力をしない者が才能ある人間を羨む資格はない』って」

「ええ、言ったわ」

「それさ別の言い方でも適応される。
頑張った者の努力を知らないやつに、その努力を否定する権利はない」

もしもその回答が間違っているのだとしたら、俺は生きる術を間違えてきた事になる。
だからこそ俺は努力の否定は許さない。
例え俺に言っているのではないとしても、ハッキリさせておきたい。

「…比企谷くんをかばっているのかしら?
もしかしてそう言った趣味があるの?気持ち悪い」

「…答えろ。俺の意見は間違っているか…」

雪ノ下の返答にキレ筋を浮かべ、声にドスを効かせて再度問う。

「……そうね。
私が間違っていたわ。ごめんなさい」

「…………そうか」

「「「…………」」」

沈黙。
どうやら空気を悪くしてしまったようだ。
頭に血がのぼって、冷静を欠いてしまった。

"ガラッ"

「やっはろー!」

「「……」」「…何か?」

空気を読まない女子が来た。
と言うか由比ヶ浜が来た。

「あれ…もしかして私、余り歓迎されてない…?
雪ノ下さん、私のこと…嫌い?」

「別に嫌いではないわ。
…ちょっと苦手かしら」

「それ女子言葉じゃ同じことだからね!?」

「で、何か用かしら」

「あ、この間のお礼っての?
クッキー作ってきたから」

そう言って由比ヶ浜はバッグをあさり、小綺麗に包装された包みを取り出す。
それを雪ノ下に手渡した。

「あの、私あまり食欲が…」

「それでさーゆきのん。
私も放課後暇だから部活手伝うね!
いやぁこれもお礼だからー!」

「あの話を…」

居たたまれない。
何故こんなにもハイテンションなのか理解できない。

俺は立ち上がり、鞄を片手に部室を出る。
どうやら比企谷も同じのようで部室を出てきた。

「ヒッキー!…と、えーっと…」

少し行ったところで後ろから由比ヶ浜が呼び止める。
え?何?名前覚えてないの?
うーわー……俺明日には遺書書いてるかも。

「あのさ、鳴滝君…ツクモンって呼んでもいーい?」

「ツクモン……?」

「おい、それだと所謂デジタルな世界の怪物になるぞ」

「な、なぁ…それってもしかして俺の…?」

「そう!あだ名!」

あだ名…あだ名だと!
ついに来た!生まれて約17年…ついにあだ名で呼ばれる時が!

「ああ、勿論だ」

「は!?」

「やった!
じゃあヒッキー、ツクモン!これ!」

そう言って渡されたのは、先ほど雪ノ下に渡していた包みと似たようなもの。
但し、俺の場合はそれの2倍はある。

「一応お礼…二人も手伝ってくれたし」

そう言ってまた部室へ入っていった由比ヶ浜。

「…まぁ、お礼と言うのなら、ありがたく受け取っておこう」

「初めて人から食べ物貰ったぞ…。
これだけあれば夜飯は無しで大丈夫そうだ…」

「一応言っておくが、クッキーはお菓子に分類される。
間違ってもご飯ではないぞ」

「そうなのか?」

そんな放課後の一コマ。

ならば俺もクッキーを作ってみようかな、と考えたその日の出来事であった。 
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