一部だけのもの
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第一章
一部だけのもの
キリスト教では絶対のタブーの一つとして同性愛がある、しかし。
国王アンリ三世は教会のその主張にだ、常に眉を顰めさせてこう言っていた。
「そんなことは知ったことではない」
「しかし陛下、教会の言っていることです」
「ですから」
貴族達はその王を諌める、しかし王はそれでも言うのだった。
「教会が言っているから絶対だというのだな」
「はい、左様です」
「その通りです」
まさに教会の主張だからだと返す貴族達だった。
「ですから同性愛はです」
「決してあってはなりません」
「それに興味を持つことすらです」
「許されないことなのです」
「余はそんなことは知らぬ」
王は憮然として貴族達に答えた。
「教会が何と言おうともな」
「だからですか」
「今もですか」
「同性愛を、ですか」
「止められませぬか」
「ギリシアの神々を見よ」
既に信仰されていないが芸術として生き残っている彼等を話に出すのだった。
「あの世界の英雄達を」
「男が男を愛していると」
「そのことを仰るのですか」
「神々がそうしている、何故人が出来ないのだ」
「ですから教会が言っていますので」
「聖書にも書かれています」
絶対、まさに無謬とされているその書にもというのだ。
「だからです」
「それは決してなりません」
「教会に逆らえば」
「何かと厄介ですが」
「それで余を破門にでもするのか」
王はあくまで止めようとする貴族達に憮然として問うた。
「それで」
「いや、そこまでは」
「別に教皇領、教会の領地のことではありませんし」
「それに教会の権益を阻害してもいません」
「ですから」
教会も王を破門まではしないというのだ。
「そこまではしません」
「教会も到底、です」
「それはないでしょう」
「まずは」
「ならよいではないか」
流石に破門されては王としても困った、教会の敵とされては統治に深刻な影響が出てしまうからである。
しかしだ、破門されないならだった。
「破門されぬのならな」
「では、ですか」
「まだ同性愛を続けられますか」
「彼等を傍に置くのですか」
「余はあの者達が好きだ」
王の言葉は揺るがない。
「教会が何を言ってもな」
「しかし陛下」
貴族の一人がその揺るがない言葉を出す王に彼もまただ、揺るがない強い声で言った。
「そうは仰いましても」
「教会が言って来るというか」
「教会だけではありませんので」
ここに難しい問題があった、ことはフランス王室即ちヴァロワ家と教会だけの問題では済まないのだ。それで貴族も言うのだ。
「教会の後ろにはハプスブルク家もいます」
「神聖ローマ帝国のだな」
「はい、あの家がいます」
神聖ローマ皇帝家である、ヴァロワ家のそれこそカペー家からの宿敵だ。
「あの家は神聖ローマ帝国だけでなくです」
「スペインやナポリも牛耳っているな」
「その他にも色々と」
「ハプスブルクに付け込まれるな」
「イングランドもいます」
この国もだ、フランスの宿敵なのだ。神聖ローマもイギリスもどちらもなのだ。フランスの宿敵として無視出来ないのだ。
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