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FOOLのアルカニスト

作者:刹那
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認識の差異


 「まだ、目を覚まさないのか?」

 「はい、一向に。怪我の方は魔法で完治させてありますが、余程、精神的消耗が酷かったのでしょう」

 「はっ、脱出の際に札だけ抜いて、盗ってくるような奴がそんな繊細なたまかよ?」

 情報源たる少年の面倒を任した鬼女の痛ましげな言葉に、卜部は不機嫌そうに毒づいた。

 眠ってしまった少年をセーフハウスに連れてきたのは3日前だ。いかに重要な情報源とはいえ、ここまでなしのつぶてだといい加減いらついてくる。愛する妻子の待つ自宅に帰れないのも、それを助長していた。
 自宅に裏の事情に深く関わった者を子供とはいえ、自宅に連れて行くような馬鹿な真似はできないからだ。まして、この少年は貴重な情報源であり、場合によっては少々強引な手段を用いなければならないかもしれないのだ。そんなところを妻や生まれたばかりの娘に見せるわけにはいかない。それに、追手が掛かる可能性も0ではないので、妻子を危険から遠ざける意味でもそれは当然の処置であった。

 「ああ、くそ!早くしねえとまずい。フィネガン辺りが来たら、本気で洒落にならねえぞ」

 卜部がいらついているのはそれだけが理由ではない。少年が起こした集団昏睡事件の詳細についての報告を、組織からせっつかれているからでもある。なにせ、卜部が当日桐条の当主ひいてはかの施設を監視していたのを組織は把握しているのだ。それは当然の要求であった。

 だが、肝心要の少年が一向に目覚める気配がないのだ。組織には、想定外のことが多く検証したいことがあるといって、待ってもらっているが、これ以上時間を費やせば、組織が痺れをきらしてもおかしくないのだ。さっさと目を覚まして欲しいものである。

 「それにこの餓鬼。本当にただの餓鬼か?普通、ただの子供が逃亡資金にまで頭が回るとは思えねえな」

 卜部とて3日間遊んでいたわけではない。少年の状態や所持品の調査、例の事件についての表裏の両面での情報収集を行なっていたのだ。

 「確かに、子供とは思えない堂々とした話しぶりでしたし、ウラベ様の銃に怯えたりした様子もありませんでしたね……。魂も常人とは違いますし、知能の高さも併せて考えますと、もしかすると転生体かもしれません」

 「神魔の転生体か?勘弁してくれよ、俺のところにそんな爆弾みたいなものを持ち込まないで欲しいね」

 「持ち込まれたのはウラベ様ご自身だと思いますが」

 心底嫌そうに言う主人をに、忠実なる仲魔たる鬼女リャナンシーは控えめにツッコミを入れた。
 そんな時だ。件の少年が目を覚ましたのは。

 「うん、ここは……」

 「ようやくお目覚めか小僧。早速だが、何があったのか説明してもらおうか。お前がしでかしたことも含めてな。言っとくが虚偽は許さねえぜ」

 寝ぼけ眼をこすり、周囲をキョロキョロと見回す少年に、卜部は間髪入れずに問い詰める。

 「ええと、貴方は……!ということはここはあの施設ではないということですよね?」

 確認するように言う少年に卜部は容赦しない。

 「ああ、そうだ。こちらはお前の出した要求をかなえてやったどころか、お前が3日間寝たきりなのを面倒みてやったんだ。きりきり話せ」

 「そうですね、お話します」

 少年は卜部の言うことをもっともだと思ったらしく、姿勢をただし話し始めた。




 「これがことの顛末となります」

 透真は目の前のおっさん&金髪の美女に会うまでのことを適度にぼかして語った。なにせ、隠さねばならないことのオンパレードなのだから。透夜のことといい、自分自身のことといい、手に入れたペルソナ能力といい、真実をそのままいうには色々問題がありすぎたのである。

 「なるほどな。一応嘘は言ってねえみてえだが、まだ隠していることがあるだろう?今の理路整然とした説明、俺に対して全く臆さぬ話しぶり、お前の知能の高さははっきり言って異常だ。その秘密について教えてもらおうか」

 隠し事といわれて、やばいと心中で動揺する透真だったが、見当違いの方向にいったので胸を撫で下ろす。

 「えーと、教えてもいいんですけど信じられないと思いますよ?」

 「真偽は俺が判断する。話せ」

 「俺には前世っていうんでしょうか?その記憶があるんです」

 「前世の記憶か……そこでお前は人間だったか?」

 「え、はい。人間でしたけど?」

 思いがけない問に困惑顔で答える透真。

 「(どう思う?)」

 「(嘘は言ってないと思います。神魔でなくとも、覚醒の際に前世の記憶を思い出すことはないわけではありませんし、ありえないことではありません)」

 「(ふむ、まあ神魔の転生体と言われるよりはましか)」

 覚醒前の透真というか透夜のことを知らない為、誤解してしまう卜部とリャナンシー。もし、彼らが実験体個々人を詳細に調べていたら、話は違ったのだろうが……。

 「ふむ、分かった。じゃあ、次はお前が何をどうやって、あの騒動を起こしたのか説明しろ」

 「え?そんな簡単に信じるんですか?!」

 流石に客観視すると胡散臭いことこの上ない話なので、あっさり受け入れられて驚愕を隠せない透真。

 「なんだ、嘘なのか?」

 「いえ、本当ですけど。まさか、こんなすんなり信じてもらえるとは思わなかったんで……」

 「お前が知らないだけで、この業界じゃありえないことじゃない。神魔の転生体に比べれば、可愛いもんだ。まあ、珍しいことには変わりはないがな」

 「そうなんですか……」

 (神魔の転生体?!ちょっと待て!悪魔とかいるのかよ!いや、確かに『PERSONA』『PERSONA2』にはでてきたけどさあ。ここは『PERSONA3』『PERSONA4』準拠の世界だろ。悪魔のあの字も出てこなかったぞ。いや、いないとも明言されてなかったし、単に主人公達が知らなかっただけかもしれないけどさあ!)
 
 言葉少なに頷きながらも、透真の内心は荒れ狂っていた。

 「ウラベ様、そんなに急がなくてもよろしいではありませんか。その子も色々困惑しているようですし、ここは一息いれたらどうでしょう?」

 透真の内心の困惑を見て取ったのか、おっさんの傍に侍っていた金髪の美女がそう提案する。

 「ふう、確かにな。そうだな、リャナンシー茶を入れてくれ」

 「かしこまりました」

 「…リャナンシー?」

 「ああ、そういや自己紹介すらしていなかったな。俺は卜部、デビルサマナーをやっている。こっちは俺の仲魔だ」

 「ウラベ様に仕える鬼女リャナンシーと申します。以後お見知りおきを」

 優雅に一礼するアイルランドの妖精に、透真は隠しきれぬ驚愕と動揺と共に頷いたのだった。 
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