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ソードアート・オンライン ~呪われた魔剣~

作者:白崎黒絵
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神風と流星
Chapter1:始まりの風
  Data.8 始まりの風

 突如現れたドラゴンがこっちに来るのを見ながら、俺はこの場から逃げる方法を全力で考えていた。HPバーが三本、本来48人で相手するべきフロアボス級のモンスターを、たった二人で倒せるはずが無いからだ。

 だが考えても考えても安全に100%逃走できる方法が思いつかない。

 理由は単純、敵の能力が圧倒的だからである。

 ほとんどのドラゴンたちが持つ『飛行』という移動手段に加えて、そのスピードが異常なのだ。自動車くらい速い。しかもあの巨体と恐らく持っているであろうブレス攻撃も脅威だ。とにかく移動速度と攻撃範囲がヤバい。逃げることはぶっちゃけ無理だろう。背中を向けた瞬間には死ぬ気がする。

 ではどうするか?あのドラゴンを倒す?それが無理だから逃げる方法を考えようとしたんじゃねえか。

 完全にパニックになっている俺を、隣でシズクが『どうする?』という顔で見てくる。どうにかできるならとっくにやってるわ。

 どうやら持ち前の読心術で俺が打開策を思いつけていないことに気付いたのか、シズクはやけにわざとらしく溜め息を吐いた後、何を思ったか剣を構えて走り出した。

「な!?お前何やってんだ!?」

「もちろん、あいつを倒すための行動(アクション)だよ!ルリくん、援護よろしく!」

「は!?倒すって……無理に決まってんだろ!あいつフロアボス級なんだぞ!?」

 48人で挑んでぎりぎり勝てるかどうかという相手に立った二人で挑むのは自殺行為。それは覆しようのない前提条件のはずだ。

 だがシズクは、さらに加速しながら言った。

「あたしの辞書に、不可能とか無理って文字は載ってても意味は載ってない!」

 ……意味わかんねえ。こいつ本当の本当にバカなんじゃないだろうか。

「やらないで死ぬよりやって死ぬ方が絶対に面白いよ!不可能を可能にする、何ともわくわくする課題(テーマ)じゃない!」

 ……だがそのバカさ加減を見てると、ついつい苦笑とともにある思いが込みあがってくる。

「ああ、そうだな。このバカをのフォローをするのが、今の俺の仕事だ!」

 俺は携帯していたナイフを一気に両手に四本づつ、計八本取り出す。

「手順はさっきと同じだ!俺が落とすからお前がトドメを刺せ!」

「了解!」

 それだけ言うと、俺はナイフを構え、シズクはさらに加速する。

 ――――いくぜ。俺の現状では最大最強の攻撃をくれてやる。

「っはあ!」

 両手を振りかぶり、一気に振り下ろす。ちょうど振り下ろした腕がクロスするように。

 俺の手から放たれた八本のナイフは目で追うのも困難な速度で、《赤黒の道化龍(ドラゴン・ジョーカー)》に向かって飛んでいく。

 投剣スキル同時攻撃技八閃《クロイツ・アハト》。名前の通り、八つの投擲武器が十字架状に敵に飛来する技だ。

 そしてこの技は連続技ではなく同時攻撃技。連続技なら一つづつ対処していけばいいが、同時攻撃ならすべて同じタイミングで対処しなければならない。しかもドラゴンJはサイズがデカいため、八本のナイフは全部直撃コースで飛んでいる。

 案の定、ドラゴンJはいくつかのナイフは弾けたが残りはモロに喰らった。

 それでも皮膚の硬度的に大体は大したダメージを与えられないが、一本だけ運よく片方の翼の根元を貫いた。

 片翼をもがれたドラゴンJはきりもみ回転しながら落下していく。そしてそのタイミングに会わせて、音速で飛び上がるシズク。

「やあっ!」

 片手剣スキル突進技《ソニック・リープ》は敵の柔らかな腹を切り裂き、鮮血をほとばしらせた。

 地面に落下した後、ドラゴンJはしばらく翼と腹のダメージにもがいていたが、その間も俺の投擲攻撃とシズクの高速剣技を受け続けていた。

 だが一本目のHPバーを何とか削りきったところで再び体勢を立て直し、空にへと飛びあがる。

 そして大きく口を開けて、ブレスの予備動作(プレモーション)を取り始める。

「マズイっ!」

 俺が投剣で暴発させる間もなく、龍の口から火属性である赤と闇属性である黒の混ざったブレスを吐き出す。

 幸いぎりぎりのところで避けられたので直撃は避けられたが、それでも範囲(スプラッシュ)ダメージで結構な量のHPを持っていかれた。流石フロアボス級のブレス、威力が桁違いだ。

 しかも闇属性ブレスの付加効果である弱体化(デバフ)で、一時的にとはいえステータスも大幅ダウン。いわゆる絶体絶命の危機ってやつだ。

 けれど、ここで諦めるわけにもいかない。まだ、終われない。

 シズクは俺よりダメージと弱体化が少なかったのか、先に動き始めている。

 あいつが動いているなら、俺が止まる訳にはいかないのだ。

「ふっ!」

 ナイフの数的にもう一度《クロイツ・アハト》を使うのは自重しなければならないので、俺はナイフを三本だけ取出し、一本づつ《シングル・シュート》で投擲した。

 ――――三本のナイフが、ちょうどぴったり一直線上に並ぶように。

 一本目。右目を狙った一撃は右前脚によって防がれる。次に一本目とあまり間隔を置かずに二本目。今度はぎりぎりのところで左前脚に防がれる。そして最後の三本目。右前脚も左前脚も使い、翼は飛ぶために展開中。後ろの二本の脚では届かないし、尻尾で防ごうとすれば視界が塞がれる上にバランスを崩して墜落する。そんな、絶対に防げない三撃目が右目を突き刺す。

「ぎゃおおおおおおおおおおおおああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 ドラゴンJは絶叫しながら暴れ、バランスを崩して再び落下する。

 そしてここからは先ほどと同様。シズクが《ソニック・リープ》で腹を切り裂き、その後も攻撃を加え続ける。

 攻撃を加え続けて遂にHPバーが三本目に突入した途端、ドラゴンJは一度大きく尻尾を振り(もちろん余裕で避けた)、飛び上がった。

 再びブレスくるのかと身構えたが、ドラゴンJはブレスの予備動作を起こすこともなく、元来た方角に帰って行った。

 どういうことだこれ?と思ったが、よく考えてみるとクエスト進行の条件は『赤黒の道化龍(ドラゴン・ジョーカー)を撃退せよ!』だったので、恐らくHPバーが三本目に突入したら逃げるように設定されていたのだろう。

 その場で約十分くらい待ってみたが、どうやら本当に帰ってったらしいので、俺とシズクは戦闘態勢を解き、思わずその場でしゃがみこんでしまう。

「勝った……んだよね?あたしたち」

「ああ、勝った……ま、倒してないから経験値とアイテムはもらえないが」

「命があるだけマシだと思おうよ。それに、クエスト報酬でもらえるんだからいいじゃない」

「それもそうか……」

「そうだよ……」

「……」

「……」

「くくっ……ははは!」

「ふうっ……ははは!」

 地面にへたり込んだまま俺たちはどちらからともなく笑い、パチン、とハイタッチを交わした。

「初の協力戦闘。色々文句はあるが、及第点だ」

「まったくだね。予期せぬ敵にぼろぼろのあたしたち。Sランクはあげられないけど、Bランクくらいならいいんじゃないかな」

「これにてミッションコンプリートてとこか」

「まだ報告が済んでないでしょ。最後まで気を抜いちゃダメだよ~?慢心いくない」

「それもそうだな。じゃあ、ちょっと休憩したら小屋まで戻る方向で」

「ラジャー!」

 こうして俺とシズクによる龍狩りは終わりを告げたのであった。 
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