戦国異伝
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第百八十五話 義昭の挙兵その二
「それで二条城に兵は残っているのか」
「いえ、殆ど」
「ほぼ捨てております」
「わかった、ではな」
それではと言ってだ、すぐにだった。
信行は殆ど空になっている二条城を囲んだ、すると僅かに残っていた幕府の兵達はすぐに降った、そのうえでこう言うのだった。
「天海殿と崇伝殿の御言葉を聞かれ」
「この二条城から室町第に移られました」
「そしてそのうえで」
「山城のあちこちで挙兵を呼びかけんとしておられます」
「左様か。ここでもあの二人か」
信行はその兵達の言葉を聞いて述べた。
「またしても」
「あの、それで」
「それがし達は」
「よい」
寛容にだ、信行はその兵達に返した。
「御主達に罪はない、むしろ城を明け渡してくれて礼を言う」
「それでは」
「それがし達は」
「織田家に入るなら入るがいい」
そうしろと言うのだった。
「そうして励むがいい」
「では今より」
「それがし達も」
二条城の兵達は残らず織田家に入った、城ごとだ。信行はその二条城に入ってそこを拠点にして室町第を囲んだ、しかし。
彼はそれ以上はしなかった、民達を安全な場所まで逃がしてそうしただけだった。そのうえで家臣達に言うのだった。
「では後はな」
「殿が来られてからですか」
「そのうえで」
「後は兄上じゃ」
信長が、というのだ。
「終わらせてくれるわ」
「都での戦も」
「それも」
「我等は帝と朝廷、民を護る」
このことは何としても、というのだ。だがそれ以上はだった。
「後はな」
「殿ですな」
「あの方が」
「そういうことじゃ。では暫しこのままじゃ」
室町第を囲んだ、それでだというのだ。
「鼠一匹通すでないぞ」
「はい、わかりました」
「それでは」
皆信行の言葉に応える、こうしてだった。
信行が率いる織田家の軍勢は義昭がいる室町第を囲んだまま今は動きを止めた。義昭はその彼等を見て今も傍らにいる天海と崇伝に問うた。義昭は具足に陣羽織に烏帽子という格好だが二人は僧侶の衣と袈裟のままだ、闇の色の。
「囲まれたのう」
「はい、ではです」
「時を見てです」
二人の僧達は義昭に何でもないといった顔で答える。
「攻めに移りましょう」
「我等が」
「それは今ではないのじゃな」
「はい、まだです」
「まだその時ではありません」
僧達は義昭に口を揃えて答えた。
「今はまだ敵の気が張っておるます」
「そこで攻めてはかえって危ういです」
「それに織田家に反発する国人や寺社はまだ山城にも大勢います」
「その者達にも文を送りましたので」
だからだというのだ。
「ここはです」
「その者達も挙兵しますので」
「我等が動くのはその時です」
「その時に攻めましょうぞ」
「わかった」
それならだとだ、義昭も二人に答えた。最早彼はこの二人の言葉なら何でも聞き他の誰の言葉も聞かなくなっていた。
だからだ、その言葉に頷いて言うのだった。
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