Sword Art Online 月に閃く魔剣士の刃
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2 黒の剣士と蒼の剣士
湖の上に浮かぶ美しい街並み。
街は生産系のプレイヤーで賑わっており、道には所狭しと露店が軒を連ねる。もう夜も更けきってきているにもかかわらず街が眠る気配は無い
しかし、つい一々月前までは迷宮区とフロアボスに護られ、固く閉ざされていた。
ここはアインクラッド攻略の最前線。第24層 《パナレーゼ》
そんな賑やかな大通りから外れた路地を歩いていた。人もまばらな路地だが、大通り程ではないが露店もある
特に有名な生産ギルドなどに埋もれた個人商店などがあり、掘り出し物もかなり多い。
そして人も少ないためソロで活動している者が質の高い装備などを求め、足を運ぶことも少なくない。
そう、そこの店先で剣とにらめっこしている真っ黒な剣士のように。
「よう、キリト。」
その剣士に後ろから声をかける。
しかし、反応はまるでない。どうやら剣の選定に夢中になっているようだ。
「やれやれ・・・おーいキリト?」
苦笑しながら肩を叩く。そこで剣士はやっと反応し、少しこわばらせた顔をこっちへと向けた。
「何か御用でしょうか・・・ってシュンか、ひさしぶり。」
声をかけてきたのが知り合いだった事に気づき安堵の表情を見せる。
整った中性的な顔立ちに全身黒の装備。ソロでありながら攻略組の中でもトップクラスに名を連ねる。人呼んでビーター。黒の剣士。
名前をキリト、俺の知り合いであり、たまにパーティを組んでいたため俺と対にされている。
一層でのいざこざでビーター、βテスターにチーターを混ぜた卑称をつけられ、それから一般的なプレイヤーからは目の敵にされている。
SAOがデスゲームになったことに関しては誰が悪いわけでもないが、捌け口を見つけるとそこに群がるのが人の性というものだ
そんなこともあって人付き合いが少々苦手な奴だが根は優しく、攻略に関してもゲーマーとしての経験と勘、尚且つそれを鵜呑みにせず臨機応変に立ち回れる判断力と実力は確かだ。
実際キリトを始めとした攻略組と呼ばれる実力者達がいなければ、攻略がここまで進んでいることもなかっただろう
「剣を新調するのか?その剣結構気に入ってたじゃないか。」
そんな友人が背中に帯びている片手用の直剣に視線を向けて尋ねる。確か性能も中々で本人曰く当分は使っていけると言っていた
「ああ、24層の攻略の時火力不足に感じてな。いい機会だし買い換えることにしたんだ。」
キリトはそう言うと剣とのにらめっこに戻った。
「んー、ちょっと軽いけど・・・でも最低ダメとクリティカル考えるとこっちのがいいんだよなぁ。」
ぶつぶつ言いながら熟考しているキリトの横から武器屋を覗いた。近くには直剣を収めていたであろう武器用のラック、地面に敷かれた青い布の上には短剣が3本にスローイングピックが20数本と中々の量だ。
どの武器も突出した性能は無いようだがそれでも中々の出来に見える。
しかし、その完成度にしては少し値段が安すぎる、そう思うほど破格の価格で売っていた・
ちょうど投擲用のピックの手持ちが心許なかったところだったのでここでまとめて買ってしまうことにした。
「ピックを30本程もらえる?足りなかったらあるだけでいいから。」
一本800コルのピックを合計26本買い、トレード画面で25000コルを入力しトレードを成立させる。
と店の主が慌てて、
「お、お代こんなに高くないですよ!?」
とトレード画面で余剰分のコルを返そうとしてくる。
武器に気を取られて気がつかなかったけどよく見ると女の子のようだ。茶髪に少し赤みがかった茶色の目だった。
「いや、出来もいいし流石に安すぎるだろ?気に入ったからこれからも買いに来たいし潰れてもらっちゃ困る。」
と拒否して見た。すると女店主はその言葉を聞くなり上機嫌で。
「常連になってくれるってことね、任せておいて!」
その言葉に今度は俺が驚いた。
「これ全部君が鍛えたのか?売り子とかじゃなくてか?」
すると得意げに、
「ええ、スキル熟練度はまだまだだから性能はイマイチだけどね」
と少し自嘲気味に笑みを見せた。
「そうか、いつもこの辺りで店広げてるの?」
「ううん、いつもはもう少し下の層でやってるわ。今回は結構いい出来の剣が出来たから最前線まで出てきたのよ」
そんな風に雑談に花が咲かせていると、
「うん、決めた。これ貰えるか?」
とキリトが剣を指してこう言った。
「はい!えっと・・・結構高いけど大丈夫?」
そう言うと店主はキリトにトレード画面を開いたようだ
「キリト、どのくらいだ?」
ウィンドウを可視化してもらい覗き込むと、
「5500コルか、まぁお買い得なんじゃないか?」
キリトも性能にしては安めの値段だと思ったらしい。迷うことなく代金を払うと、早速剣を装備していた。
「うん、良い剣だ。」
どうやら気に入ったようで、
「シュン、少し迷宮区潜らないか?試し斬りしてみたい。」
と珍しくキリトのほうからパーティに誘ってきた。
「そういやマッピング終わってないんだっけ?あと少しだろうし埋めてしまおうか。そろそろ情報収集の方もいい頃合だろうしな。」
こうして迷宮区へ行く事になった。パーティー申請をキリトに飛ばし、自分のステータスの下にキリトのHPバーが追加される。
「それじゃあ行こうか、朝にはマッピングデータを公開してしまいたいしポーションも買い足していきたい。」
そう言うとキリトは歩きだした。自分もキリトについて行こうとして、一つ忘れていたことを思い出す。
「そうだ、キミの名前は?それも分からなきゃ探しようもないよ。俺はシュンだ。」
露店の主に尋ねた
「え?ああ確かにそうね、うっかりしてたわ。私はリズベット、リズでいいわよ。」
と言うと向こうからフレンド申請を寄越してきた。承諾し、フレンドに追加する。
「リズか、これから宜しくな。」
それだけ言うと小走りでキリトを追いかけた。
「シュンにキリト、どこかで聞いたような気がするんだけどなぁ・・・」
リズは小さくなっていく二人の背中を眺めながらポツリと呟くと新しく短剣を見に来た客への対応を始めていた。
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