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ソードアート・オンライン~赤き皇が征く~

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str0『プロローグ』

 『神童』。

 そう呼ばれて、生きてきた。

 幼いころから何でもできた。三歳年上の姉のやることは全て自分の方が上手だった。近所の武術道場で優秀な成績を収めたこともあったし、試験があれば大抵はトップだった。
 周囲の大人たちは、自分をもてはやした。将来はきっと大物になるに違いない。政治家か、学者か、何をやっても大成するだろう、と。
 
 つまらなかった。
 子どもだてらに、そう思っていたのを覚えている。親も、教師も、近所の住民も、皆自分をもてはやす。けれどもその中心にいる自分には、『何も解らない』のだ。

 彼らが騒いでいる理由が。
 彼らが期待していることが。

 いや、分かることには分かる。彼らは自分が優秀だから讃えているのであり、彼らは自分に歴史に名を刻む大成功を収めて、自分たちの知名度を上げたいと思っているのだろう。
 
 だが――その裏にあるはずの、『心』が、理解できない。
 なぜだ。なぜそれを望む。どうして自分にそれを願う? これからさきどうなるかもわからない幼子に何を望む? なぜ望む?
 それが理解できない。

 そう――――自分には、『人の心』が理解できなかった。
 それは幼稚園児から小学生、中学生となっても変わらなかった。他人たちの抱いているであろう感情を察することができない。何一つ理解ができないのだ。

 何を望む? なぜ望む?
 何がやりたい? なぜやりたい?
 
 大人たちは、それでもいい、と言った。否、彼らは自分という人間がどんな存在か、ということなどどうでもよかったのだ。自分が将来成し遂げるだろうことに対する期待だけしか、彼らは抱いていなかったのだから。

 同時に、『自己』も薄かった。
 自分が何がやりたいのか――――それすらも、理解ができなかったのだ。もうここまでくれば、一種の精神疾患である、と言っても過言ではない。感情が、知覚できない。

 それでも、中学生になるころには、なんとなくだが人並みの感性を得ることには成功していたと思う。相変わらず他人の感情には疎かったが、やっと自分の感情をどうにか把握することができるようになってきていた。

 このころから、他人からむけられる目の種類が少々変わってきた気がする。何というか……熱い視線、とでもいうのだろうか。どうやら実力や名声の方ではなく、外見の方に惹かれた者達が現れ始めたようだった。
 だが、自分にはそれがなぜむけられるのかが理解できない。

 『何』なのかは分かる。生命の種族維持本能に乗っ取った錯覚。俗に『恋愛感情』と呼ばれるそれだろう。しかし、なぜそれが自分を対象にしてむけられるのかが分からなかった。

 そして――――ちょうどこのころだった。自分の理解できないことだらけの世界を、大きく動かすことになる存在と出会ったのは。

 
 とある男がいた。学生時代から莫大な資産を得、世界の技術開発の躍進に大きく貢献した稀代の天才科学者。名前は、茅場晶彦。
 この男が、あらゆる五感をシャットアウトすると同時に、仮想の五感を脳に与えることで、仮想現実世界へと使用者を誘うシステム――――《NERDLES》を開発したのだ。完全なる仮想世界への参入……人々が《フルダイブ》と呼ぶことになる技術の誕生である。

 これによって、人類は仮想世界への進出を果たした。 アミューズメントパークにフルダイブ用ゲーム機第一世代機が置かれ、様々な反響を呼ぶ。

 初めてその機械で仮想世界に入ったその時――――自分は、何かがカチリとはまるのを感じた。

「これだ」

 仮想世界(ここ)では、『解らなくたって構わない』のだ。虚構の世界。錯覚の世界。ならば、相手の心が解らなくたって大丈夫――――

 だから初のフルダイブ対応ゲームハード《ナーヴギア》が発売されたときも当然の様に買ったし、世界初の《VRMMO》なるジャンルのゲーム、《ソードアート・オンライン》も購入した。とくにSAOに関しては、たった千人しか選ばれないβテスターにも選ばれたのだ。

 人生で初めて自覚した、『疑問』以外の感情、『興奮』。それは心地よいものだった。βテストが終了し、アバターが消滅した際の感情、『喪失感』は、同時に『悲しい』『寂しい』をもたらした。

 ――――どうやら仮想世界は、予想以上に自分に良い影響を与えた様だ。

 最初は『人の心』から逃げるために足を踏み入れた仮想世界は、いつの間にか『人の心』を知るための物に変わっていった。

 そして。

 2022年、11月6日。ソードアート・オンライン、正式サービス開始日。

 運命の幕は、切って落とされた。 
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